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たんぽぽの心の旅のアルバム

旅日記・観劇日記・美術館めぐり・日々の想いなどを綴るブログでしたが、最近の投稿は長引くコロナ騒動からの気づきが中心です。

ミュージカル『モーツァルト』より_モーツァルトゆかりの地をたずねて(3)

2020年04月07日 18時59分25秒 | ミュージカル・舞台・映画
(2014年10‐11月帝国劇場公演プログラムより)

「モーツァルトゆかりの地を訪ねて~井上芳雄 in ザルツブルク&ウィーン~

♬ウィーンで感じるモーツァルトの息吹

『エリザベート』日本初演に出演後、井上はこの劇場で『モーツァルト』を観劇しているという。その時は、「『エリザベート』と同じ作家の作品だから観てみよう」くらいの気持ちで、まさか自身がヴォルフガングを演じることになるとは思ってもみなかったそうだ。久しぶりにこの劇場を訪れた井上は「コンパクトな濃密さに圧倒される。劇場という空間はただでさえ濃密だけど、中でもスペシャルな劇場」と思い入れが強い様子。

 ここでは、2000~2001年のウィーン公演でレオポルト役を演じたアンドレ・バウアー氏と会う。『エリザベート』のフランツ・ヨーゼフ役も演じた彼は、とても紳士的で穏やかな佇まいで、初対面で少し緊張の面持ちだった井上も次第に笑顔で話し始める。お互いの役への取組み方、モーツァルトの人物像の捉え方、そして音楽談義など、国は違えど同じ作品を愛する者同士、話は尽きない。バウアー氏が初めてレオポルトを演じたのは今の井上よりも年下の時だったそうで、それに井上が驚く場面も。限られた時間ではあったがしっかりと親交を温め、固い握手を交わして二人は別れた。


♬リーヴァイ氏との再会

 続いて向かったのは、シェーンブルン宮殿。ハプスブルク家の夏の離宮として建てられたこの宮殿は、クンツェ&リーヴァイ作品ファンには聖地とも言える場所ではないだろうか。ここで井上は、シルヴェスター・リーヴァイ氏と数年ぶりに再会した。宮殿の展示品、数々の名画を案内してもらい、そして氏の部屋にお邪魔した。

 実は宮殿の一部の部屋は、賃貸住宅として一般市民に貸し出されている。ここに別宅を持つリーヴァイ氏に会うことが今回の旅の大きな目的でもある。氏の部屋は、なんとエリザベートの寝室だった部屋の真上に位置しているという。洗練された調度品が揃い(キャビネットの中には日本公演で進呈された大入り袋も!)、部屋の窓からはシェーンブルン宮殿の見事な庭園が一望できる。

 リーヴァイ夫人のモニカさんはエリザベートの世界的な遺品コレクターであり、美術館級の品々が飾ってあるのだが、その中にはなんとエリザベートの名刺もあった。リビングの一角にはベーゼンドルファー社のグランドピアノがあり、そこにはリーヴァイ氏の名前が刻まれている。世界に一つだけの貴重なピアノで、なんと「僕こそ音楽ミュージック」を井上の歌に合わせて演奏してくれるという。ヴォルフガング役のファイナルを迎える井上にとって、このうえない機会だ。

 リーヴァイ氏の優美な演奏で紡がれる音楽に乗った井上の歌声には、広大な宮殿中をその想いで満たすかのような力強さと情感が溢れていた。「リーヴァイさんの演奏で歌うことができて、本当に良かった!」。声を弾ませる井上に、音楽への喜びに溢れたヴォルフガングの姿が重なる。リーヴァイ氏からは「“ヨシさん&リーヴァイさん”でツアーをしましょうか?(笑)」との提案まで飛び出し、久々の再会とは思えないほど和気あいあいと盛り上がる二人だった。

 その夜、井上はリーヴァイ夫妻と小熊氏とでディナーへ。美味しい食事とオーストリアのワインとともに、『モーツァルト』の話はもちろんのこと、他のミュージカル作品やウィーンの街の歴史、果てはリーヴァイ夫妻の仲の良さの秘訣まで、次から次に話が溢れてくる。日本公演初日での再会をしっかりと約束し合ったリーヴァイ氏との時間は、井上が「濃い時間だった!」というほど。この再会が、きっと新たな“ヴォルフガング”役へのアプローチに繋がるに違いない。