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四生の盲者日記

妄想による愉快な国際時事ネタ解釈

第六話「単車男の最後(完結編)」(ほとんど外伝)

2002-08-14 22:03:48 | 単車仮面シリーズ
 フィリピン奪回部隊司令部では、独自の美意識に基づいたスタイルのダグラスマッカーサー元帥が、スタッフを集め会議を開いていた。
 参謀達が、きびきびを現状を報告していく。
「制空権、制海権ともにこちらが握っております。特に敵航空戦力は海軍、陸軍ともに例の自殺攻撃で飛べる機体はほとんどありません」
「陸上は一部敵の頑強な抵抗はあるものの、ほぼ予定通り侵攻しております」
「敵は戦意が低く、装備も開戦時と変わりありません」
「フクバラハップの報告では、敵の司令官はゼネラル ヤマシタだそうです」
 情報担当の参謀の報告で、それまで上機嫌だったマッカーサー元帥の顔色が変わった。
「ヤマシタ、まさか…」
「イエス サー。トモユキ ヤマシタ、あの"タイガー オブ マレー"です。昨年の10月に満州からマニラに着任したようです」
 マッカーサー元帥は、不機嫌に黙り込んだ。
 彼の神経は、レイテ上陸戦から開始されていた日本軍の自殺攻撃に痛めつけられていた。「マレーの虎」この言葉は、マッカーサー元帥に不気味な怪人の姿となって重くのしかかっていたのである。
「休憩にしよう」
 マッカーサー元帥は、そういって司令部を出た。もちろん、独自の審美眼で選択したコーンパイプを咥え、自分の目で選択したレイバンを掛け、自分でデザインした帽子を被っている。
 外は南国の陽光が降り注いでいた。前線から遠く離れたこの司令部は、同じ島で今この瞬間もアメリカの若者が血を流しているとは信じられない程静かだ。
「…「マレーの虎」といってもただの人間だ、今の私に恐れる必要はない」
コーンパイプ、レイバン、軍帽という仮面を身につけ、自分にそう言い聞かせると、いくらか気が鎮まる気がした。
 しかし

キィィィィィ

 耳慣れない高周波の金属音が空から響き、マッカーサー元帥は空を見、口をだらりと大きく開け、従兵に聞いた。
「おい、あれはなんだ」
 コーンパイプが、下唇に貼りつきぶらぶらする。
 マッカーサーが指差す先には、銀色をした人型の飛行物体が飛んでいく。下に人らしきものを抱えているようだ。
「ジャップの新兵器では?」
「あぁ…」
 その頃、試製陸戦強化衣『暁天』の日本光学製のレンズも、マッカーサー元帥の姿を捕らえて、大西中将に伝達していた。虎仮面は、相変わらずもがいている。
「大西おろせ!いや大西中将殿、ください」
「ほう、よくわからんが、死ぬのはいやかな富永中将」
「あたりまえだ!いや自分にはまだ、とにかくおろせ!」
「よかろう、丁度いい、ここでおろしてやる。
『暁天』爆撃照準!目標、敵司令!」
「え?」
 混乱する虎仮面をよそに、試製陸戦強化衣『暁天』内蔵の電探が、情報を大西中将眼前の色ガラスに表示した。大西中将は情報を素早く確認すると、試製陸戦強化衣『暁天』をマッカーサー元帥への爆撃針路に乗せた。
「こっちに向かってきます!」
 従兵の警告を、マッカーサー元帥は下唇にコーンパイプをぶら下げたまま聞いた。
「なにをする気だ!大西!やめろ!おい!やめろください中将殿」
「ヨーソロー。今おろしてやるからそう暴れるな」
 大西中将は冷静に針路を維持し。
「テーッ」
虎仮面を放した。
 マッカーサー元帥は、恐怖に目を見開き謎の飛行物体が放り出した、虎の仮面を被り、下にタイツ、裸の上半身の右肩に参謀肩章をつけた怪人を見つめた。彼にとって不幸なことに、それはつい先程まで彼の神経を痛めつけていた「マレーの虎」のイメージそのものだった。マッカーサー元帥は泣きながら叫んだ。
「タイガー?ジーザス!オゥ ノゥッ!ヤマシータ カミカーゼ バンザーイ ノゥッ ノォッッッッ!」
 コーンパイプは、まだ下唇に貼り付いている。
 虎仮面も叫んでいる。
「どけぇぇ、アメ公ぉぉ、いやプリーズ ドウカ ドイテクダサーイ プリー…」

ゴイーン

 大西中将の照準違わず、虎仮面はマッカーサー元帥に命中し、間髪いれず虎仮面が爆発した。爆風でコーンパイプが、レイバンが、マッカーサー元帥オリジナルデザインの軍帽が、天幕が吹き飛び、ルソン島の空に火球が立ち上った。
「ぶへっっっくしょいぃ。誰か噂しちゅうき」
 その頃、第十四方面軍(尚武)司令官 山下奉文大将は、かなたにのぼる煙をみながら、故郷言葉でつぶやいていた。
 戦果を確認した大西中将は静かに呟いた。
「『暁天』針路、リンガエン湾、目標、敵侵攻船団」
 体にかかる遠心力を感じながら、大西中将は満ち足りた気持ちで思った。
「…今行くからな、席を開けておいてくれ」
 
 筆者も思わず力が入り、前、中、完結の三編になってしまった。しかも完結編には単車仮面が全く出てこない。
 単車仮面より、試製陸戦強化衣『暁天』の方が魅力的なような気がしてきた。
 いずれにせよ、亡くなられた多くの方々に合掌。