【社説①】:米国の竜巻被害 日本も脅威と無縁ではない
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①】:米国の竜巻被害 日本も脅威と無縁ではない
米国で多数の竜巻が相次いで発生し、大きな被害が出た。これほどの規模ではないが、日本でも竜巻は起きている。身を守るための行動を日頃から考えておきたい。
今回、被害に遭った米国の南部や中西部は、竜巻の頻発地帯として知られる。メキシコ湾からの暖かく湿った空気と、北方の寒気が大平原の上空でぶつかり合い、5、6月を中心に巨大な積乱雲が生まれて竜巻ができやすい。
テネシーやアーカンソーなど8州で、数十個が次々と発生した可能性があるという。地上の建物をなぎ倒しながら、数百キロ・メートルにわたって移動したとみられる巨大な竜巻もあり、その破壊力をまざまざと見せつけた。
テネシー州では季節外れの記録的な暖かさだったという。一般的には、気温が上がれば積乱雲が発達し、竜巻が起こりやすい環境が整う。地球温暖化が今回の竜巻の発生に影響した可能性も考えられるのではないか。
地元住民の間では普段から、いざという時には地下室に避難するなどの対策が浸透している。にもかかわらず、町の中心部や大規模物流倉庫などが襲われ、多くの死者が出た。予期せぬ時期の竜巻に油断した面もあったのだろう。
年間1000個以上が発生する米国に対し、日本では年20個程度にとどまる。しかし、面積当たりの発生数は少ないとは言えず、人口密度が高い日本では、その脅威は無視できない。2006年には北海道で9人が死亡している。
日本での発生は台風シーズンの9月が最も多いが、季節を問わず、寒冷前線や低気圧の接近に伴って、各地で発生している。誰もが竜巻についての基礎的な知識を持つ必要があるだろう。
竜巻は極めて局所的な現象のため予測が難しい。「竜巻注意情報」が発表された場合には、空振りに終わることも多いが、雨戸やシャッターを閉める、窓から離れる、安全性の高い1階に移動する、といった対策を心がけたい。
竜巻が発生する直前には、周囲が急に暗くなったり、大粒の雨や 雹 が降り出したりすることが多い。こうした予兆を捉え、屋外に人が集まるイベントの開催時や、高所での作業時などでは、早めの避難を検討することも重要だ。
竜巻は、時に時速数十キロ・メートルというスピードで移動し、あっという間に住宅を吹き飛ばし、車を横転させてしまう。米国での大きな被害から教訓を学びとり、命を守るための一歩としてほしい。
元稿:讀賣新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2021年12月16日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。