【社説②】:私学の組織統治 改革と自治 両立必要だ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説②】:私学の組織統治 改革と自治 両立必要だ
私立大で相次ぐ不祥事を受け、文部科学省の専門家会議は学校法人の最高議決機関を理事会から評議員会に移す改革案を提言した。評議員会は全て学外者で構成し、予算や事業計画を決めるという。
背任事件で混乱する日大をはじめ、私立大の自浄能力への疑念が拭えない。組織統治の改革を求める声が強まるのも当然だろう。
だが大学運営の原則は自治を重視することだ。とりわけ私学は建学の精神や歴史を重んじ、それぞれの役割を果たしてきた。
今回の改革案は大学の独立性や個性をないがしろにしかねない。
私学側の反発もあり、具体的な制度設計は年明けに持ち越した。文科省は結論ありきで作業を急ぐのではなく、私学の自主性を尊重して丁寧に議論するべきだ。
私学側も国の補助金や税制優遇を受ける立場を自覚し、健全な組織運営に努めてもらいたい。
現行制度では、評議員会は理事長の諮問機関として意見を述べる役割にとどまり、最高議決機関は理事会となっている。
だが理事と評議員は兼任可能で学内関係者が就くことも多い。前理事長が長年君臨した日大や不正入試があった東京医科大では評議員会の監視機能が働かなかった。
とはいえ評議員会に権限を移しさえすれば、監視が強まり組織統治が健全化するというのは単純化がすぎよう。そもそも外部人材のみの議決機関で実情に則した意思決定が可能なのだろうか。
専門家会議のメンバー構成も見過ごせない。弁護士や公認会計士が中心で、教育研究機関としての大学の役割に知見のある識者が乏しい。議論は企業統治をモデルとする傾向があったという。
文科省は新たに会議を設置し、検討を継続する異例の対応を取る。混乱を招いたことを重く受け止め、議論を尽くしてもらいたい。
大学の組織統治を巡っては、2015年施行の改正学校教育法で学長権限を強め、教授会が持つ意思決定の役割を制限した。
トップへの権限集中が私立、国公立を問わず問題が続発する遠因であろう。学長の専横が続いた旭川医大のケースは記憶に新しい。
組織運営に学生や教職員ら利害関係者の声をくみ取る学内民主主義に加え、理事会、評議員会、教授会など学内機関が相互にチェックする仕組みが必要ではないか。
大切なのは学問の自由を守り、実りある教育や研究を実現することだ。各大学は不祥事を他山の石とし自浄を進める必要がある。
元稿:北海道新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2021年12月29日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。