【社説①】:衆院予算委員会 拙速な給付策が混乱を招いた
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①】:衆院予算委員会 拙速な給付策が混乱を招いた
政策目的をあいまいにしたまま、拙速に給付を決めたことが、迷走の背景にあろう。岸田首相は責任を重く受け止め、さらなる混乱の回避に努めてもらいたい。
衆院予算委員会で、今年度補正予算案の質疑が行われた。立憲民主党の小川政調会長は、18歳以下への10万円相当の給付について、「クーポンにこだわったことで、少なからず自治体の混乱をもたらした」と批判した。
首相は「様々な声を受け止め、より良い制度設計を行った結果だ」と説明した。自治体が希望した場合、現金で一括給付することを認める考えを表明した。
政府は、年内に現金5万円を給付し、確実に消費に回る効果を期待して来春に5万円分のクーポンを配布する方針だった。
だが、クーポン印刷などの事務費に967億円がかかることがわかったうえ、自治体からも「事務が複雑になる」と反発が相次ぎ、方針撤回に追い込まれた。政府は、自治体に丁寧に説明し、円滑に手続きを進めることが大切だ。
そもそも今回の給付は、困窮世帯支援なのか、子育て支援なのか、政策の必要性や目的がわかりにくい。親の収入に所得制限を設けたが、全体の9割が対象となり、バラマキ政策に等しい。
2兆円の巨費を投じる施策としては、制度設計が甘かったといわざるを得ない。政府・与党が衆院選公約の実現を急いだために、拙速に陥ったのであれば残念だ。
しかし、競って現金給付を公約とした野党の見識も問われる。
支援を要する世帯に速やかに給付金を届けるには、行政が所得を把握し、適切に支給する仕組みが必要になる。与野党は、今後の施策に役立てるためにも、効果的な方法を建設的に議論していかなければならない。
国民民主党の玉木代表は、憲法について「コロナを経て様々な課題が顕在化した」と述べ、緊急事態に関する議論を呼びかけた。
現行憲法は緊急事態を想定した規定が乏しい。国会は、危機対応を含めて、国の最高法規のあり方を不断に論じる責任がある。
野党は、石原伸晃・元自民党幹事長が代表を務める政党支部が、雇用調整助成金を受け取っていた問題を追及した。首相は「国民の理解は得られない」と述べた。
コロナ禍で売り上げが減少した企業を想定した制度を、国費から交付金を受け取る政党の支部が利用するのは疑問だ。国会議員には高い倫理が求められる。
元稿:讀賣新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2021年12月15日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。