「上州三山」の一、赤城山遠望。大沼はこの山のてっぺんにある。
すでに忍び寄っている恐怖、見ないふりはやめねば!
身近な楽しみさえ、とっくに“パー”になってたんだ!
いっときポピュラーな釣りにこっていて、海(アジ、サバ、メバルほか)、川(ハゼ、カレイなど)、湖(ニジマス、ワカサギ)などにけっこう出かけていた。
2012年の不調な年明けから立ち上がる転機として、久しぶりにカレイのポート釣りに行ってみようかと、東京・葛飾の知人に電話してみた。
江戸川のカレイ釣りは強風に見舞われる3月以前の今ごろが例年ならシーズンのまっさかり。江戸川区篠崎あたりの河川敷から貸しボートに乗り、親船に数珠つなぎに曳かれて東京湾河口近くのポイントまで下げ上げしてもらう。そして、川底の泥や砂にいわば埋まり、目だけ出してひそんでいるカレイを、ゴカイでちょんちょんと誘い出して釣り上げるのだ。
電話でクンちゃんの話を聞いた知人は7、8秒、黙っていた。そして、大きなため息のあとに、あきれるよという口調で、
「あのなあ、とてもじゃないけどカレイなんか釣れんのよ、おれは秋のハゼもやらんかった。もうずっとだめかもしれんという話だ。おみゃあ、知らなかったんかい? 放射能だよ、セシウムなんたらいう!」と、この座布団ガレイも釣り上げたことがある男は吐き捨てるように言った。
まったく自分の不明を恥じた。
実は、すでに白状しているように、なんとなく原発関係は心底恐ろしくなっていて、自然自然と遠ざかるようになっているのだ。明治粉ミルクの乾燥処理過程で使われた、埼玉県春日部エリアの大気が、事故直後にただちに汚染されていたことが判明したあたりから、「なんだい、やっぱ、関東もだめなんや」と身にしみて、内心で見ぬふりをする傾向が強まってしまったのだ。
そう言えば、ということで、以前ミッフィブログ(「NHKスペシャルを今のうちに見てくれ!」ことし1月19日アップ)に引用されていたNHKテレビ放映の海の放射能汚染リポート(1月15日放映)
http://blog.livedoor.jp/ajishirabe/archives/3249301.html)をいま見終わった。NHKが各分野の学者と共同で調査したリポートらしいが、よくぞ放映してくれたという内容である。その深刻さからさすがにボツることは出来なかったのだろうか? まったく恐るべき報告である。この番組に限っては視聴料を支払う価値がある。
まず、福島の原発近くから千葉県銚子までの太平洋沿岸の調査リポートが報告された。
原発近くは予想どおり海底の泥に高濃度のセシウムが検出され、漁業者の協力で水揚げされた立派なヒラメやメバルなどからは、「いまはもう単なるゴミにすぎなかっぺ!」(協力漁民のひとり)というほどの高濃度の測定値が出た。沿岸を南下して調査は続けられるが、地域によって汚染度が異なり、海底の地盤によっても異なること、海底の形による特別に高濃度のスポットもあることがわかった。やわらかい地盤、とくに泥の海底は汚染が集積される。漁業への影響は深刻で、時間とともに軽減されるのではなく、どの地域でも深刻になる可能性が大きいことが報告された。漁港でインタビューに答える漁民は静かな怒りに満ち満ちていた。(もし、また大きな津波が来ると、これらの汚染された海底の泥がみんなのところにドバッともろにぶちまけられるわけだよな!)
それから、原発からずいぶん離れてんだけど…という印象の群馬県。赤城山にある大沼。同じ県内の榛名湖とともにワカサギ釣りの名所である。ここも驚くようなセシウム汚染が計測された。この湖は15、6メートルの浅い水深だが、湖底は泥。汚染されたプラクトンをワカサギなどが食べ、それが死んで底にたまり、またプラクトンが汚染されるという繰り返しがつづいて、湖水の出口となる川が一本しかないこととあいまって、深刻な汚染が観測されたというリポートだ。まさに背筋が凍る思いである。奥日光湯の湖や中禅寺湖も同じコンディションに置かれたが、どんなもんだべか?
で、大沼の今はどうなっているのか?
湖岸の釣り宿に電話してみたら、「ついこの間の計測では、割合低い検査結果が出た。あと2回の検査で続けて基準をクリアできればワカサギ氷上釣りも解禁となるかもしれんが、どうなるかわからんねえ。榛名湖はこの冬は解禁見送りを決めたんだよ」と元気のない声であった。
赤城山の周辺には、沼田、渋川、前橋、桐生といった群馬県の主要都市が点在する。この地域もまた赤城山と同じく、原発事故に際してまったく何も知らされないままに放射能汚染にさらされたということになる。もちろん、栃木県も埼玉県も、東京都をふくめ関東一円は原発事故直後に相当量の放射能汚染にさらされたことが、いまさらながら厳然たる事実として目の前にある。
長くなるので、さらに詳しくは前掲のミッフィブログに行って、録画をご覧ください。
もうひとつだけ書いておきたいが、関東一円を汚染したセシウムは、結局、各河川を一定の時間を経て流れ下り、東京湾に徐々に堆積するというのだ。
東京湾のこの汚染は時間の経過とともにどんどん悪化していき、2年2か月後には最悪の状態になると見通されている。江戸前の豊富な鮮魚類も「単なるゴミ(前掲漁師のコメント)」になってしまうのだろうか。
目をむいたのは、東京湾に流れ込む川の底について汚染を調査した結果だ。川の流れの形、川底のコンディションによって、とんでもないセシウムの堆積スポットがあらわれてしまうのだ。江戸川(示された地図では、旧江戸川だった)では、河口から8キロ上流に、原発近くの2倍もの計測値が出たエリアがあった。
地図で河口から8キロを測ってみたら、なんとクンちゃんたちが貸しボートに乗り込む江戸川区篠崎地区だった。
もはや、とぼけて知らんぷりをしてても、あっちのほうから攻め立てられるだけだ。
人びとの生活のあらゆるところが危なくなっている。
表面だけの平穏にひたっているわけにはいくまい。
前に書いたが、てめえの国でこれだけ手に負えない、ほんとうに手に負えないものを、さらに外国でつくることに手を貸そうとしている政府、商売にしようとしている日立製作所には、なにをかいわんや、あきれ果てるばかりである。もし事故ったらどうするか、何か手があるのか、のノウハウを含めて“協力”するってことなら、いま現に起きているこの日本の深刻な事態にこそ貢献すべきではないか。打つ手がないから、こんな事態になってんだんべよ! ばかなまねは、即刻、中止するべきだ。
http://www.asyura2.com/11/genpatu19/msg/606.html
最後になるが、原発事故後の事態推移を正視している鬼蜘蛛ねえさんとこのブログが、きょう2月4日アップ
http://onigumo.kitaguni.tv/e2513863.htmlの記事で引用している「セシウムと心臓疾患の相関関係・ユーリー&ガリーナ・バンダジェフスキーへのインタビュー」と題する邦訳(“Tomoさん”のブログ)を是非読んでいただきたいと思う。決して、甲状腺がんだけではないのだ。
http://vogelgarten.blogspot.com/2012/01/blog-post_25.html
真実や正しい見解を表明して、逆に権力側から弾圧されるだけでなく、場合によっては抹殺されてしまうという時代がかつてこの国にもあった。
そんな暗い時代がふたたび来ないことを切に願う。
原発の害だけでもうたくさんじゃないか!
【追記】 次のコメントが入りましたが、本日2012年3月6日現在、別件文芸社退職勧奨問題の流れとの関係で、ここに移しました。
遅いコメントですみません。 (みのを)
2012-03-06 02:17:15 初めまして。
文芸社関連からこのブログを知る所となり、何度か訪問させて頂いております。
原発問題に関しては、私も「脱原発」の思いであることを先に述べておきます。
また、今回の記事にもありますように、海底とそこに居着きの魚への影響については事故当初、汚染水が海へ放出される時と前後して専門家の間でも懸念されていたことでしたから、とうとう現実として現れたことを心底恐ろしくも感じました。
が、区別の必要もある、と私は考えております。
例えば居着きではなく、回遊魚の場合はどうか。
また、少し話が飛びますが、原発に近い地域ではなく宮城や岩手の瓦礫に人体に影響を与えるほどの放射性物質が本当に付着しているのかどうか。
全てを同じラインでお考えになられる方が多いように感じています。特に瓦礫=放射性物質と思い込んでしまっている方が。
物には量の概念がありますから(放射性物質とて例外ではありません)、尽きることなく放射線を出し続けることは不可能ですし、その絶対量が微量であれば、リスクは限りなく低いと言っても問題の無い場合もあります。
専門家の方々のお話を聞きながら(決して危険性だけを煽るアジテーターではなく、しかし原発の危険性を指摘出来るだけの客観性を持つ専門家は案外多いものです)、何が問題で、何が問題でないのか、その辺りをしっかりと見極め、考えて行きたいと思っています。
そして長い時間がかかるでしょうけれど、人類がまだ制御できない原子力に頼らないでエネルギーを生み出せる日が来ることを願っています。
初めてのコメントで大変な長文、失礼いたしました。
クンちゃんのお返事
「何が問題で、何が問題でないのか」―この点が、明確にされていればこの度の原発問題による混乱は、もっと軽減されたものと思います。情報を操作することは権力を持つサイドの“特権”とでもいうのでしょうか、大昔からおこなわれてきたことでしょうが、パニックを避けるためというような、一見(一聞?)もっともらしい根拠において、いわば虚偽の情報を平然と流しつづけ、結果的におさまりどころのない混乱を招き、いまなお続いていると思っています。がれきの処理と放射能の問題も、ほとんど情報が開示されないままに、「こまったときはお互い様」「絆」といったかたちで強行されるのは、ホント困ります。「何が問題で、何が問題でないのか」―そこをきちっと国民に知らせるべきですね。