礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

時枝が自身の業績全体をまとめた『現代の国語学』

2020-10-29 03:34:41 | コラムと名言

◎時枝が自身の業績全体をまとめた『現代の国語学』

 根来司著『時枝誠記 言語過程説』(明治書院、一九八五)の紹介を続ける。
 本日以降は、「第二十一 現代の国語学」を紹介してみたい。

  第二十一 現 代 の 国 語 学

     一
 私は本書で時枝誠記博士が東京大学に大正の末〔一九二四〕に、「日本ニ於ル言語観念ノ発達及言語研究ノ目的ト其ノ方法(明治以前)」という卒業論文を提出され、それ以来四十年を越える博士の多彩な活躍について詳細に述べて来た。ただその場合時枝博士の業績を言語本質論とか文法・文章論とか言語生活論とかいったふうに分けてそれについて論じていくことをしないで、おおよそそれが発表された年代順に述べていく方法をとった。それはたとえば『池田亀鑑選集』は昭和四十三年〔一九六八〕に全五冊が刊行されたが、古典文学研究の基礎と方法、物語文学ⅠⅡ、日記・和歌文学、随筆文学というふうにジャンル別に再構成している。そういえば『吉川幸次郎全集』も昭和四十三年から全二十冊(最近刊行されている決定版は全二十八冊である)が刊行されたが、中国通説篇上下、先秦篇、論語・孔子篇上下、漢篇、三国六朝篇、 唐篇ⅠⅡⅢⅣ、杜甫篇、宋篇、元篇上下・明篇、清・現代篇、日本篇上下、外国篇、雑篇・詩篇というふうにジャンル別というか、時代別に再構成してあるのである。しかし、私は池田博士の著者論文も吉川博士の著者論文もやはり発表されていった順に読んで来たので、このような選集、全集を読んでもいま一つ明確に池田亀鑑像、吉川幸次郎像が浮かんで来ない。したがって、時枝博士のこの場合もそうした区別をしそれに即して述べていたのでは、時枝誠記像が生き生きと再現できないと考えたからである。
 そこでここでは時枝博士が自分自身の業績全体を見渡してまとめたような著述『現代の国語学』について考察してみようと思う。この書は昭和三十一年〔一九五六〕十二月に有精堂から刊行されたもので、その構成は、はしがき、第一部近代言語学と国語学、第一章総説、第二章近代ヨーロッパ言語学の性格と国語学の課題、第三章国語の歴史的研究、第四章文法研究、第五章方言問題と方言の調査研究、方言区画論と方言周圏論、第六章国語問題と国語学、第二部言語過程説に基づく国語学、第一章総説、第二章言語成立の外部的条件と言語の過程的構造、第三章伝達、第四章言語生活の実態、第五章言語の機能、第六章国語の歴史、あとがき、索引というふうになっている。時枝博士がこの書の構想について考えられるようになったのは、昭和二十七年〔一九五二〕の秋頃とおぼしい。【以下、次回】

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