礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

甄別は区別ヲ立テル、淑慝は心のヨシアシである

2021-03-10 02:35:06 | コラムと名言

◎甄別は区別ヲ立テル、淑慝は心のヨシアシである

 昨日の続きである。
 白文の漢文を読みこなすというのは、かなり困難な作業である。しかし、適切なアドバイスに従いながら段階を踏みながら読んでゆけば、初心者であっても、白文の漢文を読むことは可能である。
 まず、昨日の漢文(白文)を、再度、示してみる。

【例五】正之嘗与侍臣語問其所楽小櫃素伯対曰臣有二楽家貧而不知奢侈楽天安貧是一楽也正之問其一素伯曰言之恐触忌諱正之曰第言之素伯曰臣幸不生而為諸侯是二楽也正之問其故曰臣視今之所謂諸侯者左右群臣率皆阿諛迎合務順適其意莫復一人献逆耳之諫者於是驕益驕而愚益愚雖有聡明之資不学無術其何以得甄別淑慝哉独至於卑賤之士則異此良師規之其前益友誨之其後日得聞其過失此臣所以幸不生於諸侯為楽也

 最初に、おこなうべき作業は、これに句読点を施すことである。また、この文章には会話が含まれているので、その会話の部分を、カギカッコで括っておいたほうがよいだろう。これらの作業の結果、次のような文章が得られる。

 正之嘗与侍臣語、問其所楽。小櫃素伯対曰、「臣有二楽。家貧而不知奢侈、楽天安貧。是一楽也」。正之問其一。素伯曰、「言之、恐触忌諱」。正之曰、「第言之」。素伯曰、「臣幸、不生而為諸侯。是二楽也」。正之問其故。曰、「臣視今之所謂諸侯者、左右群臣、率皆阿諛迎合、務順適其意。莫復一人献逆耳之諫者。於是驕益驕、而愚益愚。雖有聡明之資、不学無術。其何以得甄別淑慝哉。独至於卑賤之士、則異此。良師規之其前、益友誨之其後、日得聞其過失。此臣所以幸不生於諸侯為楽也」。

 こんな感じだろうか。実は、ここまでの作業を正確におこなうためには、ある程度、漢文についての基礎知識が求められる、しかし、その基礎知識が不足していたとしても、まずトライしてみる気持ちが重要であろう。
 次に、これを読んでゆくわけだが、「考へ方」のところに示されている、次の諸情報が参考になる。

○第は唯と考へる。
○不 生而為諸侯=生ニレナガラニ諸侯トナリハ シナイ
○莫復は不復の類で、モウナイ、丸デナイである。
○甄別【ケンベツ】は見ワケル、区別ヲ立テルで、淑慝【シユクトク】は善悪――心のヨシアシである。
○誨は教と見ていゝ。
○此臣所以幸不生於諸侯為楽也 は、 此〔臣 所以{幸(不生於諸侯)}為楽〕也

「考へ方」のところにはなかったが、正之が保科正之のことであること、小櫃素伯の読みが「おひつ・そはく」であること(他の読みもあるらしい)などの情報も、あれば親切だったと思う。
 その他、気になる点は、漢和辞典を引くなどして調べておくとよいだろう、ちなみに私は、「率」に、「おおむね」の意味(読み)があることを、今回、初めて知った。
 さて、こうした情報を踏まえた上で、いよいよ、漢文を読んでみる。
 この『漢文初歩学び方考へ方と解き方講義』という本は、書き下し文(訓読文)を示さない方針を取っており、「解」の前半に、句読点、返り点、送り仮名の施された漢文があり、後半には、その現代語訳がある。
 後半の現代語訳は、昨日、紹介した。前半の返り点などのついた漢文は、ブログ上では表記しにくいので、書き下し文を以て、これに代える。

 正之嘗テ侍臣ト語リ、其ノ楽シム所ヲ問フ。小櫃素伯対ヘテ曰ク、「臣二楽有リ。家貧シクシテ奢侈ヲ知ラズ、天ヲ楽シミ貧ニ安ンズ。是レ一楽ナリ」ト。正之其ノ一ヲ問フ。素伯曰ク、「之ヲ言ハバ、恐クハ忌諱ニ触レン」ト。正之曰ク、「第ダ之ヲ言ヘ」ト。素伯曰ク、「臣幸ニシテ、生レテ諸侯ト為ラズ。是レ二楽ナリ」ト。正之其ノ故ヲ問フ。曰ク、「臣今ノ謂ハユル諸侯ナル者ヲ視ルニ、左右群臣、率ネ皆ナ阿諛迎合シ、務メテ其ノ意ニ順適ス。復タ一人ノ逆耳ノ諫ヲ献ズル者ナシ。是ニ於テ、驕ハ益マス驕ニシテ、愚ハ益マス愚ナリ。聡明ノ資有リト雖モ、不学無術ナリ。其レ何ヲ以テ淑慝ヲ甄別スルヲ得ンヤ。独リ卑賤ノ士ニ至リテハ、則チ此レニ異ナリ。良師ハ之ヲ其ノ前ニ規シ、益友ハ之ヲ其ノ後ニ誨ヘ、日ニ其ノ過失ヲ聞クヲ得。此レ臣ノ諸侯ニ生レザルヲ幸ヒトシテ、楽シミト為ス所以ナリ」ト。

 この書き下し文(訓読文)を作るにあたって、返り点などは、おおむね、著者が施したものに従った。「於是」は、「ここにおいて」と読むのであろう(意味は、「そこで」)。「復タ一人ノ逆耳ノ諫ヲ献ズル者ナシ」は、著者が施した返り点に従ったが、読み方としては、「一人ノ逆耳ノ諫ヲ献ズル者、復タナシ」のほうが、原文のニュアンスに近いような気がする。
 明日は、二・二六事件関係の話に戻る。

*このブログの人気記事 2021・3・10(9位になぜか非常号砲)

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