礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

美濃部達吉博士、新憲法の解説で復活

2015-09-04 09:08:53 | コラムと名言

◎美濃部達吉博士、新憲法の解説で復活

 昨日の続きである。東京大学学生文化指導会が編集発行した『法学研究の栞 上』(一九五〇)を紹介している。本日は、その二回目。昨日は、「憲法」の部から「一 明治憲法」を紹介した。本日は、同じ部から「二 新憲法」を紹介する。

 二 新憲法 終戦による国内政治情勢の変革は立憲主義的憲法学説を覚醒せしめることとなつた。特に新憲法が成立するや、多くの学者はいち早くその一般的概説書をものしたのであつたが、それらの諸学者中、最も目ざましい活動に入られたのは美濃部〔達吉〕博士であり、その親しき薫陶を受けた河村〔又介〕、宮沢〔俊義〕、田中〔二郎〕、田上〔穣治〕の諸教授であつた。中でも美濃部博士の所説は新憲法学界における通説的地位を占めたものの如き観があるが、之と異る立場にあられるものとして佐々木〔惣一〕博士、その学風に従われる大石〔義雄〕、田畑〔忍〕両教授があり、夫々〈ソレゾレ〉著しい業績を挙げておられる。勿論この対立は、曽ての上杉〔慎吉〕対美濃部のそれの如き世界観的基礎にもとずくというより学問的方法論の相異に基ずくものであつて、概ね、前者は法を生ずる基盤としての政治をも考察の対象とするに対し、後者は厳格に法規内在的な意味を求めんとし、純粋な法解釈学的立場を遵守せられると特徴ずけることが出来よう。更に之らの両学派の外に渡辺〔宗太郎〕、浅井〔清〕の諸博士、社会主義的な鈴木〔安蔵〕氏の如き諸学者が夫々特色を持つ業績をものせられたのであるが、之ら全体を通じてみられるのは、もはや曽ての島国的な殻より離れ、日本憲法を近代憲法の一として普遍的比較的な立場より見ようとする傾向であること言う迄もない。
 概説的なものとして美濃部・日本国憲法原論(昭二三)、新憲法概論(昭二二)、新憲法の基本原理(昭二二)、宮沢・憲法(昭二四)、憲法入門(昭二五)、新憲法の概観(六〇国家一〇昭二一)、佐々木・日本国憲法論(昭三二)、田上穣治・新憲法概論(昭三二)、河村又介・新憲法と民主主義(昭二二)、田中二郎・新憲法の特色(一八警研四・五-九昭二二)、柳瀬良幹・新憲法の概観(二二時報一昭二二)、田畑忍・憲法学(昭二四)、大石義雄・日本国憲法概説(昭二三)、憲法(昭二五)、浅井清・憲法精義(昭二二)、渡辺宗太郎・日本国憲法要論(昭二四)、鈴木安蔵・日本の憲法(昭二一)、明治憲法と新憲法(昭二二)、安沢喜一郎・日本国憲法論(昭二三)、入江俊郎・日本国憲法読本(昭二二)、牧野英一・新憲法と法律の社会化(昭二三)、中村哲・新憲法ノート(昭二二)、梶田年・新憲法釈義(昭二一)、田中耕太郎・新憲法に於ける普遍人類的原理(三季刊一昭二三)、林信雄・新しい憲法(昭二五)、共同研究には国家学会編・新憲法の研究(昭二二)、-以下「研究」と略称-)、蠟山編・新憲法講座(昭二二、-「講座」と略称-)、憲法普及会編・新憲法十講(昭二二)。逐条的解説としては法学協会編・註解日本国憲法(昭二三-二五)、美濃部・新憲法逐条解説(昭二二)、俵静夫・逐条憲法要義(昭二三)、柳沢義男・逐条日本国憲法(昭二二)、水木惣太郎・川西誠等・逐条憲法要説(日本法学特集号昭二一)、鈴木義男・新憲法逐条解説(二社会思潮二-七昭二三)、憲法制定議会に於ける討議を逐条的に輯録したものとして岡田亥之三朗・日本国憲法審議要録(昭二二)、憲法全体の立法論的批判として六七法協一。制定史には佐藤功・憲法改正の経過(昭二二)、憲法改正紀念刊行会・日本国憲法制定誌(昭二二)、専ら比較憲法史的に把えたものとしては藤田・新憲法論(昭二三)。【以下、次回】

 文献リストを見ると、多数の憲法学者が、その立場を示している。これらのなかには、戦前・戦中、「ナチス系」憲法論の立場から、論陣を張った学者は見られない。その理由の多くは、公職を追放されていたというものであろう。

*このブログの人気記事 2015・9・4

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 昭和25年(1950)段階... | トップ | 国民主権を宣言しながらも天... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

コラムと名言」カテゴリの最新記事