礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

東條など何をしているのか(大佛次郎)

2024-07-28 00:33:29 | コラムと名言

◎東條など何をしているのか(大佛次郎)

 大佛次郎『終戦日記』(文春文庫、2007)を紹介している。本日は、八月十六日の日記の後半部分を紹介する。このあと、二十日までの日記を紹介する予定である。表記は、文春文庫版のとおり。

○鶴見の在〈ザイ〉で茄子〈ナス〉一個十銭、茅ヶ崎でトウナス〔かぼちゃ〕の小さいのが五円、大きいのだと二十円と云う。
○原子爆弾の効力を朝刊がくわしく書き立てている。先の赤塚〔一雄〕参謀の視察報告とは正反対である。やはりウランで六粁〈キロメートル〉平方が破壊せられ、白熱した火の柱が天に沖する〈チュウスル〉と外国の電報。参謀は国民を詐【あざむ】いたのである。
○驚いてよいことは軍人が一番作戦の失敗について責任を感ぜず、不臣の罪を知らざるが如く見えることである。軍隊の組織と云うのが責任の帰するところを暖昧にしているその本来の性質に依るものであろう。戦争に敗けたのは自分たちのせいだということは誰れも考えない。悲憤慷概して自分はまだ闘う気でいるだけのことである。電車の中で見たところでも軍人は悄然としているのと、反って人をへい睨しているのと二色あるそうである。阿南陸相の自刃は詰腹で、少壮に強要せられたのだという説が行われている。逸【はや】まった最期が無責任のように見えるのも同じ軍人的性格であろう。不臣の罪を自覚し死を以て謝罪すべきものは数知れぬわけだがその連中はただ沈黙している。東條など何をしているのかと思う。レイテ、ルソン、硫黄島、沖縄の失策を現地軍の玉砕で申訳が立つように考えているのなら死者に申訳ない話である。人間中最も卑怯なのが彼らなの だ。
○金鵄〈キンシ〉十三円、光一個十八円が普通の相場だそうである。豆腐や篠崎の話、一日三十円稼ぐのには闇で買った米を五合喰って了う〈シマウ〉、煙草なんてそんな値で買えない。○現在の専売局の煙草には大分前から紫陽花〈アジサイ〉の葉が入っていると出所確かな話。
○伊江島〈イエジマ〉には休戦協定に行くのは梅津と豊田だそうである。そこから敵機でマニラに赴く。
○敵は既に攻撃中止命令を下した。今朝高射砲が鳴ったのは命令が行きとどかなかったせいであろう。
○防空壕の中に封じ入れてあった林さんの衣類ぼろぼろとなる。東京ではもう埴を埋めているところありと。(田島談)

「先の赤塚参謀の視察報告」とは、8月10日の朝日新聞に載った「新型爆弾怖るるに足らず」という談話を指す。大佛次郎は、八月十日の日記で、この談話に言及している。
「金鵄」、「光」は、ともにタバコの銘柄。「金鵄」は、1940年(昭和15)に「ゴールデンバット」から改称されたものである。
「休戦協定」とは、敗戦直後の8月19日、20日の両日、マニラでおこなわれた降伏協定のことである。降伏軍使の全権は、河辺虎四郎(かわべ・とらしろう)中将。降伏軍使一行は、木更津飛行場から伊江島飛行場まで、白色の機体に緑の十字をつけた陸軍機(緑十字機)で飛行した。なお、この一行には、梅津美治郎、豊田副武は加わっていない(豊田貞次郎も加わっていない)。

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