礫川全次のコラムと名言

◎テレビ映画『逃亡者』の第一作（１９６３）

　新年になって最初に観た映画は、テレビ映画『逃亡者』の第一作（シーズン１の１）、「愛と憎しみの果て」であった。ＫＥＥＰのＤＶＤで鑑賞した。これまでも何度か鑑賞したが、改めて観て、やはり名作だと思った。
　この第一作が、アメリカで放映されたのは、一九六三年九月一七日だったという。そのタイトルは、日本では、「愛と憎しみの果て」となっているが、原題は、〝Fear in a Desert City〟つまり、「砂漠の町での恐怖」である。「愛と憎しみの果て」というタイトルは、この話に登場するウェルズ夫妻の間に生じた愛憎に着目したものであろう。しかし、「逃亡者」リチャード・キンブルは、この「砂漠の町」（アリゾナ州ツーソン）で、あやうく殺されかける恐怖を味わう。逃亡者の立場に立った場合には、原題の「砂漠の町での恐怖」がふさわしい。
　一台の長距離バスが、ツーソン（Tucson）のバスターミナルに到着する。ツーソンは、アメリカ南西部アリゾナ州の観光都市。降りてきた乗客のひとりに、リチャード・キンブル（デビット・ジャンセン）がいる。職業、医師。彼は、死刑執行のために護送される途中、思わぬ列車事故が起き、事故現場から逃走したのであった。
　その後、どういう逃走生活を送っていたかは不明だが、バスから降りたキンブルの姿は、ごく普通の旅行者である。彼は今、ジェイムズ・リンカーンと名乗っている。
　市街にあるホテルにチェックインし、地方紙の求人欄で、バーのバーテンの仕事を見つける。早速、そこで働きはじめる。ちなみに、このバーの名前は、「焼き印」（The Branding Iron）。ツーソンに実在するバーで、今でも営業中である。
　このバーでは、モニカ・ウェルズ（ヴェラ・マイルズ）という美人が、ピアニストとして働いていた。彼女は、アリゾナ州フェニックスに住む人妻だったが、夫の暴力に耐えかね、幼い息子を連れて家出してきたのであった。
　仕事初日のキンブルに対して、カウンター越しに、ひとりの客が、やたらに絡んでくる。エドワード・ウェルズ（ブライアン・キース）という男で、アリゾナ州で一二を争う富豪。実は、モニカの夫である。家出したモニカの行方を追い求め、ついに、このバーまでやってきたのだ。
　閉店後、モニカは、キンブルに自分の不幸な身の上について話す。キンブルはモニカに同情し、また好意を寄せる。しかし、それに気づいたエドワードは、ツーソン警察に働きかけ、キンブルを町から追放しようとする。
　逃亡者という負い目もあって、キンブルは、ツーソンから去ることを決断する。町を出る前に、彼はモニカに会い、自分が逃亡中の死刑囚であることを打ちあける。同時に、絶対に自分は無実だと強調した。キンブルの無実を信じたモニカは、キンブルとともに、ツーソンを去ることになる。
　キンブル、モニカ、その息子の三人が、タクシーに乗って、バスターミナルまでやってくる。サンディエゴ（カリフォルニア州）行きの長距離バスに乗りこもうとする三人。そこに、エドワードが車で駆けつける。彼は手に、拳銃を構えている。……
　嫉妬深く凶暴なエドワード・ウェルズという役柄を、ブライアン・キースが巧みに演じている。モニカの話すところによれば、夫のエドワードは、朝鮮戦争に従軍した結果、人が変ってしまったという。キンブルも、医師として、エドワードの狂気に気づいていた。直接、本人に向かって、精神科を受診するよう勧める場面もある。
　なお、ヴェラ・マイルズ、ブライアン・キースは、この記念すべき第一回のスペシャル・ゲストだが、もうひとり、ハリー・タウンズというスペシャル・ゲストが登場する。彼は、ツーソン警察のバーデン部長刑事を演じている。
　エドワードの要請を受けたバーデン部長刑事は、部下とともにキンブルの部屋を訪れ、保守的な偏見に満ちた陰湿な口調で、この町から出てゆくように迫る。このブライアン・キースの演技が、何ともリアルである。インターネット情報によれば、彼はアリゾナ州の出身だという。舞台が、アリゾナ州ということで、製作者は、わざわざ、ハリー・タウンズを起用したのであろう。

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