◎植草圭之助の『わが青春の黒沢明』を読んだ
当ブログでは、黒澤明監督の東宝映画『虎の尾を踏む男達』のことを、何度か話題にした。この映画は、1945年(昭和20)に製作されながら、GHQの検閲に引っかかり、1952年(昭和27)4月まで公開が許されなかったという。
この映画が製作された時期については、「戦争末期に製作され、敗戦直後に完成した」というのが通説になっているらしい。ウィキペディア「虎の尾を踏む男達」の項も、この通説に従っている。
一方で、この映画は「敗戦直後に着想され、敗戦直後に作られた」とする中村秀之氏(社会学者)の説がある。当ブログの記事(2015・2・26)において私は、この中村説を紹介した上で、これを支持した。
しかし、その後、映画評論家・青木茂雄氏が、当ブログに向けて書かれた論考「『虎の尾を踏む男達』(1945年・東宝、1952年公開)について」を読み、同映画の製作開始は、やはり戦争末期だったのだろう、と考え直した(青木氏の論考は、2015・3・5のブログで紹介)。
ところで私は、最近になって、植草圭之助の『わが青春の黒沢明』(文春文庫、1985年5月)という本を読んだ。植草圭之助は脚本家で、黒澤明と親しくしていた(ふたりは、小学校の同級生)。
同書の中で植草は、戦争末期における黒澤明の言動についても、細かく回想している。それによれば、『虎の尾を踏む男達』の製作が開始されたのは、戦争末期だったが、その製作は、一時、中止されたという。これは、かなり重要な証言だと思う。
なお、植草圭之助『わが青春の黒沢明』の元版は、『けれど夜明けに』(文藝春秋、1978年1月)だという。【この話、続く】