礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

小沢さんは柄笊を持って、お布施を集めてまわりました

2022-12-25 02:51:08 | コラムと名言

小沢さんは柄笊を持って、お布施を集めてまわりました

 昨日の「説教の会」という文章には示されていないが、関山和夫さんは、一九七一年三月の岩波ホールに始まる「説教の会」に、深く関与している。そうは書かなかったところに、この方の奥ゆかしさがある。
 関山和夫さんは、二〇一三年五月に亡くなられたが(一九二九~二〇一三)、亡くなる四年前に『にちぎん』という雑誌の第17号(2009年春号)のインタビュー記事「情念で人は解放される」に登場された(この記事は、インターネットで読める)。その中で関山さんは、次のように語っておられる。聞き手は、日本銀行情報サービス局長(当時)の恵谷(えたに)英雄さん。

日本の芸能の底流を流れている仏教
――三〇年以上前ですか、先生は、俳優の小沢昭一さんとご一緒に、「節談説教〈フシダンセッキョウ〉」を上演して回られました。これはどういうことだったのでしょう。
関山 それは小沢さんの慧眼【けいがん】なんです。「節談説教」に目を付けるところがあの人のすごさで、ほかの役者さんとの違いでしょうね。彼は放浪の芸能者に非常に興味を持って、廃れていく芸能を取材し、録音する仕事にも関わっていました。どんどん社会が近代化するにつれて衰退していく庶民の芸能が本当に大切なものをはらんでいたことに、ちゃんと気付いていたのだと思います。
 小沢さんは私が発表した節談説教に関する研究に興味を持ってくださって、のちに小沢さんや東京の真宗寺院生まれの永六輔さんらと、東京の岩波ホールで最初の「節談説教の会」を開きました。まず私が講演したのち、私が光栄にして台本を書かせていただいた親鸞聖人一代記「説教板敷山【いたじきやま】」を小沢さんがちゃんと袈裟【けさ】をつけて実演、次に真宗大谷派の布教師だった故・祖父江省念【そぶえしょうねん】さんが「忠臣蔵・寺岡平右衛門」を実演、永さん司会の座談会で終わるというプログラム。岩波ホールはそれほど収容人数が多くはありませんが、お客さんでいっぱいになってくれるかどうかとても心配したものです。ところがふたを開けてみたら超満員(笑)。
 続いて名古屋、大阪、福岡、岐阜、沼津などでも開催し、どこも大変な好評をいただきました。ずいぶん有名な作家や俳優さんも来てくださったんです。
 小沢さんがこっそり客席の方をのぞいて、「いやあ偉い人が来ている。震えちゃうよ」なんて言ってましたが、舞台に上がっちゃったらやるしかしようがない。終わった後では袈裟を脱いで、柄笊【えざる】(柄の先に笊がついているもの)を持って客席を歩きまして、お布施を集めてまわりました(笑)。
――節談説教はただの芸能ではなく、あくまでも「布教」だからですね(笑)。芸能ということで咄家【はなしか】さんなどもいらっしゃったのではないでしょうか。
関山 たくさん来てくれました。亡くなった先代の林家正蔵師匠が「昔はこういう話芸からも学んだものだったが」というようなことを言ってくれましたね。

 これを読むと、小沢昭一さんが、「節談説教」に興味を持つようになったキッカケは、関山和夫さんが発表した節談説教に関する研究にあったことがわかる。
 また、「説教の会」の冒頭には、関山さんによる講演があったこと、小沢さんが演じた「説教板敷山」の台本は、関山さんを書いたこともわかる。
 このインタビュー記事を読んで、いちばん興味深かったのは、小沢さんが、出番のあと、袈裟を脱いで、柄笊を持って客席をまわったというところだった。これを私は、小沢さんがみずから「賽銭方」を引き受けたと解釈した。文脈からして、小沢さんは、最初の岩波ホールのときから、この役割を引き受けられてきたようだ。
 これについて、聞き手の恵谷英雄さんは、〝節談説教はただの芸能ではなく、あくまでも「布教」だからですね(笑)〟と受けているが、少し違うと思う。
 節談説教が「布教」であるから「布施」を集めたのではなく、節談説教は、もとは放浪芸であったために「銭」にこだわるところがあったのだと思う。地方巡回の大衆演劇などの世界では、今でも「投げ銭」がツキモノだと聞く。小沢昭一さんは、そうしたことを、よく知っておられ、あえて「賽銭方」を演じたのではないだろうか。
 ちなみに、小沢昭一さんが亡くなられたのは、二〇一二年一二月のことであった(一九二九~二〇一二)。
 節談説教と「銭」との関わりについては、当ブログ、今月二〇日および二一日の記事を再読いただければ幸いである。

*このブログの人気記事 2022・12・25(8・9・10位に珍しいものが入っています)

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