◎不良部品製造業者は、理屈なしに抹殺せよ
最近、必要があって、戦時体制について調べている。数年前に、『図書設計』という雑誌のN0.82(二〇一二年八月)に、戦時体制に関わる雑文を書いたことを思い出し、引っぱり出してみた。
非常に専門的な雑誌なので、あまり広くは読まれなかったことと思う。以下に、紹介させていただく。文章のタイトルは、「戦中の自動車雑誌『汎自動車』から」である。
『汎自動車』(自動車資料社)という雑誌がある。戦中の一九四〇年に、『自動車界』、『自動車と機械』、『自動車文化』、『自動車雑誌』、『乗合と貨物』の五誌が統合されてできた雑誌で、一九四四年に終刊している。月二回、五日と二〇日に発行され、五日に発行される『汎自動車・技術資料』と、二〇日に発行される『汎自動車・経営資料』とがあった。
次頁の図版〔略〕で紹介したのは、一九四四年二月五日発行の『汎自動車・技術資料』の表紙である。そこに見える自動車は、トヨタ大型B乗用自動車。戦争末期に試作された高級乗用車で、直列六気筒、排気量三三八九ccのエンジンを登載し、定員は七名。内装には、帝国美術院会員の和田三造画伯も関わったとされる。
同誌同号の巻頭に「自動車の整備問題を繞つて」という文章がある。執筆は自動車資料社の山口安之助。その一部を引用してみよう。
《今日、整備員は、不良部品の配給に驚くと共に、それさえ入手困難と云ふ二重の悲鳴を挙げてゐる現状である。だが幸ひ、部品配給の円滑化と重点処置に就ては運輸省が目下折角立案中であると云ふから、専横なる配給、無責任なる不良部品の製造業者等はこの際徹底的に粛清されるものと思はれるが、不良部品製造業者などは時局下理屈なしに完全に抹殺すべきであると大声したい。》
火を吐くような告発である。当時の自動車業界の危機的状況、いや、戦時体制そのものの危機的状況を髣髴とさせる文章である。こうした中で、なぜか政府中枢は、トヨタ、ニッサン、ヂーゼル自工(いすず)の各社に対し、「高級自動車」の試作を命じていたのである。ちなみに、ヂーゼル自工は、トヨタよりも一足早く試作に成功している。その通称は、「大型いすゞ乗用車」。一九四三年一二月五日発行の『汎自動車・技術資料』の表紙には、同試作車の写真がある。【以下は次回】