goo blog サービス終了のお知らせ 

礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

近代犯罪科学全集と浅田一の文体(付・浅田博士の予言)

2012-07-14 05:36:04 | 日記

◎近代犯罪科学全集と浅田一の文体

 一昨日および昨日のコラムで引用した浅田一『犯罪鑑定余談』(武侠社、一九二九年一〇月)は、武侠社の「近代犯罪科学全集」(一九二九~一九三〇)の第七巻にあたる。
 同全集は全十六巻からなる。全体に興味深い内容であり、今なお、参考に値する全集である。ただし、巻によって、若干、内容に精粗があると言えるかもしれない。
 浅田一『犯罪鑑定余談』は、第一巻の高田義一郎『変態性慾と犯罪・犯罪と人生』に次ぐ第2回配本である。
 同書の冒頭には、浅田一の「自序」が置かれているが、これが興味深い文章なので、紹介してみたい。かな遣いなどは直したが、句読点は原文のままである。

 この夏北海道樺太〈カラフト〉への視察を終え八月中旬東京に出ずるや、どこから嗅ぎつげられたか、僕の宿舎に寝込みを襲うて武侠社の柳沼澤介氏が高田義一郎博士の紹介状を持って来訪され、犯罪科学全集に何か執筆せよと慫慂〈ショウヨウ〉された。さすがは犯罪科学の編輯者だけあると思った。しかし忙しくてとてもむずかしいと再三辞退したが、今まで書いたものを纏める〈マトメル〉だけでよいとのことであったからそれならば実は医学雑誌「治療及処方」に数年来「鑑定余談」を連載しているが読者からも一つこれらをまとめるようにと勧められる向きもあるので、そのうち纏めようと考えていた矢先である。ところがこのことはかねて同雑誌の編輯主幹長尾藻城〈ソウジョウ〉氏にご相談することになっていたのであるからもし同氏の御承引があればお引き受けしてもよいと申出ると柳沼氏は早速横浜に行って藻城氏の快諾を得て来られたそうである。それでこの「治療及処方」に初めから本年〔一九二九年〕九月まで載せた「鑑定余談」および「続鑑定余談」を主とし、その他「診断と治療」「東京医事新誌」「中央公論」「改造」「新青年」「科学知識」「グロテスク」「大阪朝日新聞」「福岡日々新聞」「長崎日々新聞」などに載せた旧稿を集めて、「法医学の概念」「科学的鑑識の理論及び実例」「解剖及び書類鑑定実例」「精神鑑定」の四章に分類し、上梓してみることにした。【以下略】

 まず注目したいのは、その独特の文体である。
こみいった内容をズラズラと書き連ねているようだが、文脈に乱れがなく、時系列も明白である。今日の文章と比べて読点(テン)が少ないようだが、それでも十分に意味が通る。いずれにしてもこれは、並の学者の文章ではない。
 また、当時の浅田が、医学専門誌から猟奇雑誌、地方新聞にいたるまで、実に多彩なメディアで健筆を揮っていたこともわかる。浅田博士の学識と文章力を以てすれば、どんなメディアからの執筆依頼にも応じることが可能だったと思われる。武侠社の柳沼澤介も、そうした浅田であるからこそ、犯罪科学全集への執筆を強く求めたのであろう。
 なお、先ほどの「自序」の原文をよく見てみると、テンを打つべきところに、「四分角」ほどのスペースがあり、これがテンの役割りをはたしていることに気づく。こうしたことは、今日の印刷物ではあまり見かけないことだが、この当時では、ままあったことなのか。博雅のご教示を待つ。

今日の名言 2012・7・14

◎居ながらにして諸外国に向つて無線電話及写真で講演が出来る様になる

 浅田一博士の言葉。「五十年後の法医学」という文章に出てくる。『犯罪鑑定余談』(武侠社、1929)所収。初出は未確認であるが、1929年における予言であるとすると、1979年の世界を予言したことになる。ここでいう「写真」だが、浅田は、もちろん動画、当時の言葉で言えば「活動写真」を意識していたと思う。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする