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ON  MY  WAY

60代を迷えるキツネのような男が走ります。スポーツや草花や人の姿にいやされ生きる日々を綴ります(コメント表示承認制です)

「最後の証人」(柚月裕子著;宝島社)を読む 

2025-03-23 19:23:02 | 読む

柚月裕子という作家の名前は知っていたから気になってはいたが、まだ読んだことがなかった。

先日、キュンパスを使って旅をしたとき、新幹線の座席に置いてあるサービス月刊誌を開いたら、彼女の書いた旅のエッセーが載っていた。

これは、彼女の作品を読めという天の啓示だな、と思った。(そんな大げさな…⁉)

 

借りてみたのは、2010年に出された「最後の証人」という作品。(その後、角川文庫から文庫本が出版されている。)

法廷ものの小説だなと思って、ぺらぺらめくって見たら、章立てが面白い。

プロローグ、公判初日、二日目、三日目、判決、エピローグ。

よし、これを読んでみようと決めた。

 

ちなみに、本書の紹介は、以下のようなもの。

検事を辞して弁護士に転身した佐方貞人のもとに殺人事件の弁護依頼が舞い込む。ホテルの密室で男女の痴情のもつれが引き起こした刺殺事件。現場の状況証拠などから被告人は有罪が濃厚とされていた。それにもかかわらず、佐方は弁護を引き受けた。「面白くなりそう」だから。佐方は法廷で若手敏腕検事・真生と対峙しながら事件の裏に隠された真相を手繰り寄せていく。やがて7年前に起きたある交通事故との関連が明らかになり……。

 

プロローグでは、殺人に至りそうなシーンが描写される。

そこから物語は、法廷のことだけでなく、2つの事件を交えながら進んでいく。

1つは、医者夫婦の一人息子が車にはねられ亡くなった事件。

はねた運転手が酒臭く、信号無視をしたという目撃証言にもかかわらず、無罪となったという話。

そして、もう1つがその数年後に起きた、痴情のもつれから起きたと思われるホテルでの殺人事件。

 

話が進んで、「公判三日目」の章までどんな事件を巡っての裁判かはわかるのだが、被告人と被害者という表現で書かれていた。

固有名詞が出てこないのは何か変だな、と思いながら気になってさらに読み進んでいった。

そこに一つのどんでん返しがあった。

それについては、「ひょっとしたらと思ったら、やっぱりか」という思いはあった。

でも、殺人事件の真実にも、もう一つのどんでん返しがあった。

ここは、柚月氏、さすがだなと思った。

 

 

だけど、肝心なのは「最後の証人」というタイトルだ。

弁護側の証人に、佐方弁護士が誰を連れてくるか、ということ。

その意外な証人の語りから、事件のすべての真実が明らかにされていく。

 

「一度の過ちは誰にでもある。二度くり返せばその人の生き方だ」という表現が、ヒューマニズムにあふれていると感じた。

なるほど、主人公の佐方弁護士、すごい切れ者だなあと感心。

権力のある者たちの働きかけに左右されない、法律をもって正義で罪を裁き、事件の真相を明らかにしていくという佐方弁護士。

テレビでよく見ていた「相棒」で、罪を犯した者は裁かれなければならないと唱える右京さんと重なるところがあった。

 

そういう主人公のキャラ立て、どんでん返しのストーリー。

初めて読んだ柚月裕子作品。

うん、面白かった。

この佐方貞人の登場は、シリーズとなっていて、検事でしばらくあって、この作品が弁護士シリーズの最初のものだということをあとで知った。

検事にせよ弁護士にせよ、そのうち、また別な作品で佐方貞人に会いたくなりそうだ。

 

 

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「代表取締役 アイドル」(小林泰三著;文藝春秋)を読む

2025-03-21 17:13:11 | 読む
 

新発田にももクロがやってくるゼット!!!!「ももクロ春の一大事2025」|おしらせ|しばた町めぐり

新潟県新発田市のまちなかは、城下町ならではの魅力がいっぱい!! 歴史情緒あふれる名所や旧跡、お洒落なカフェや料理店など。城下町しばたのグッとくるスポットをご紹介♪

しばた町めぐり

 
 

ももクロ春の一大事2025 in 新発田市 〜新発田 新発見!?〜

2025年4月12日(土) / 4月13日(日) 両日共通:13:00開場 / 14:30開演 / (17:00終演予定) 会場:新潟県・新発田市 五十公野公園 (しばたし・いじみのこうえん)

ももいろクローバーZ オフィシャルサイト

 

「ももクロ春の一大事2025 in 新発田市」

4月12日・13日、新発田市にももクロがやってくるという。

そのせいで、ライブだとかイベントだとかコラボだとか、いろいろニュースになっている。

「モノノフ」たちにはたまらんでしょう。

まさに、「一大事」ですなあ。

 

こういう全国的なアイドルグループが来ることになったせいか、図書館にはアイドルに関する本が並んでいたりした。

その中に、本書「代表取締役 アイドル」(小林泰三著;文藝春秋)はあった。

 

出版社からの内容説明には、次のような文章があった。

握手会での事件からアイドル活動を停止したささらに大企業から社外取締役の話が。…敏腕美人秘書とともに、ささらはダメ会社の危機を救えるのか?

そうか。アイドルの女の子がひょんなことから代表取締役社長になって、会社のピンチを救うお話なのかな、と思った。

痛快なストーリーだといいなあと思って、借りてみることにした。

 

出版社による内容情報は、次のようなもの

会社というワンダーランドに迷い込んだアイドルに襲い掛かる不条理の数々!

……あなたにバカと戦う覚悟はありますか?

握手会で起こった事件のせいで、アイドル活動ができなくなっていた河野ささら。そこに降って湧いたのが、ある大企業からの社外取締役のオファー。たまたまテレビを見ていた社長が、ちょっと気の利いた発言をしたささらを気に入って、思いついた起用だった。

その企業、レトロフューチュリア株式会社は、アンプ用の真空管や、テープレコーダーやカセットテープやビデオテープ用の磁気ヘッド、計算尺や手回し計算機の交換部品といった古い規格の製品の隙間産業で儲けていたが、ある大学で、学生が面白半分にレトロフューチュリア社製の真空管を極低温に冷やしたところ、それが量子ゲートとして作用することが発見され、原理はわからないが、とにかくレトロフューチュリア社製の真空管を使えば、今までより桁違いに安く、量子コンピュータが実現できると、この一点において、いっきに世界規模の大企業となった会社。

「目指せ、世界一」や「売上1兆円」というあり得ない目標も、イエスマンだらけの役員会では、社長の一声で決まってしまい、研究所では、データ改ざんは当たり前、逆らった社員には陰湿ないじめが待っている……。

そんな会社で、お飾りにでなく、自分の頭で考えようとするささら。敏腕美人秘書・菜々美とともに、ダメ会社の危機をささらは救えるのか?

笑っている場合ではない、本当は怖い企業小説!

 

とりあえず、読んでみる。

地下アイドルのささらが社外取締役となったのは、創業家の親子が支配する会社だった。

それぞれ会長、社長となって、売上10倍というおバカな経営目標を立てた会社。

上意下達の世界では、創業家にNOと言えないために、会社の上層部は粉飾決算に走り、大ピンチを迎える。

その発覚によって、ささらが社長を押し付けられる。

経営のことは何も知らないながら、なんとかしようとするささらだったが…。

 

読後の最初の感想は、

うーん。ささらの大活躍がもっと欲しかったなあ。

というところ。

創業者一族があまりにもダメすぎて支離滅裂だったから、ささらにどんな活躍をさせてくれるか、フィクションゆえに楽しみに読み進んでいったのだけどね…。

 

それでも、ストーリーの進み方や結末などは、会社組織をある程度知らない人でないと書けないよなと思ってた。

それで、著者の小林泰三氏はどんな人なのだろうと思って、ちょっと調べてみた。

すると、てっきり「こばやし・たいぞう」という方だと思っていたら、違っていてびっくりした。

著者名は、「こばやし・やすみ」であった。

そして、なんと故人となっている方だった。

1962年生まれで2020年没。

癌で亡くなっていたと知った。

ウイキによれば、「小説家、SF作家、ホラー作家、推理作家」となっていた。

今回初めて彼の作品を読んで、「SF作家、ホラー作家、推理作家」という肩書で彼が紹介されていたのは、違和感があった。

SF、ホラーが、本来の彼の作品だというなら、そちらの方が魅力があるのだろうなあ、と思ったよ。

 

さて、ももクロ春の一大事のなかでは、私の好きなNegiccoの登場もあるのだって。

今や3人とも子持ちの「ママさんアイドル」となっているけど、がんばってほしいな。

(これ、読後感想とは違うね…。)

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物騒なタイトルだが、児童文学 ~「杉森くんを殺すには」(長谷川まりる;くもん出版)

2025-03-09 21:53:12 | 読む

「杉森くんを殺すには」だって。

なんと物騒なタイトルの本だろう。

図書館で陳列された本書は、表紙絵が少し子ども向けの感じがしたが、そのタイトルに引きつけられ、思わず手に取ったのだった。

 

杉森くんを殺すことにしたわたしは、とりあえずミトさんに報告の電話を入れた。

という文章で話が始まる。

やけにルビがふってあるなと思ったら、これは児童文学だった。

裏表紙の小さい字を見たら、「くもんの児童文学」と書いてあった

しかも、第62回野間児童文芸賞受賞作だったと後で知った。

2023年9月初版の本。

 

書名から、ちょっとしたミステリーっぽい内容なのかなと思いながら、読み進めていくことにした。

ところが、想像したのと全然違う内容の本だった。

最初、主人公のヒロの電話相手はお姉さんで、杉森くんも男友達で…等々と思っていたのに、その想像は、読み進むほどにどんどん裏切られていった。

 

話が細かく進んでいくたびに、「杉森くんを殺す理由」がその1からその15まで語られていく。

主人公と杉森くんは、中学まで親友だった。

なのに、それが「よくない方向」に向かっていったから、杉森くんを殺すという穏やかではない方向に流れて行ってしまった。

 

タイトルからは、まるでいじめにあった子が反撃する話かと思っていたのだが、違っていた。

いなくなってしまった友だちの、残された方の子の話だった。

ネタバレになってしまうので、あまり多くは語らないが、人の死があり、それまでの自分が相手とどんなふうに付き合っていいたのか、どうすればよかったのかなど、考えさせる。

周りが気づいてあげるということがないと助けられないこともある。

多感な時代、悩んだり苦しんだりする人が多いだろうけど、そういう人が近くにいたら、どう助けたらいいのか、ヒントや助言になる内容といえた。

自分が依存してもよい先をたくさん作っておくことが大事だということ。

悩みや不安を分散できるように吐き口をたくさん作っておくこと。

それは、他者への依存ではなく、自立なのだという話には納得できるものがあった。

 

この話は、子どものことだけでなく、生きづらい現代の大人の社会でも当てはまるだろう。

悩みや不安に耐えきれずに精神的な病気になってしまったり、自傷してしまったりする大人もいるから、当てはめて考えてもよいだろう。

そして、残された人は、相手の自殺を止められず、ある意味自分が殺してしまったのと同然だと考えて悩む場合も多い。

それもすごくよく分かるが、相談される側も負担を大きく持ちすぎず、適切に分散することが大切だということが、この物語から学ぶこともできる。

 

物騒なタイトルだったが、主人公が救われるようなエンディングでよかったよ。

 

なお、児童書らしく、本書の巻末には「こまったときの相談先リスト」があり、それらの電話番号等が載っていたことも付記しておく。

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「答えは市役所3階に 2020心の相談室」(辻堂ゆめ著;光文社)であの頃を思い出しつつ…

2025-03-07 20:23:54 | 読む

感染症禍の2020年。世界中がパンデミックで本当に厳しい毎日だった。

何があったのか、だんだん忘れてきているのは、私、齢のせいだろうか。

「答えは市役所3階に 2020心の相談室」(辻堂ゆめ著;光文社)は、その時期にあったことを題材として描いている。

発行元の光文社による本書の内容紹介は、次のようになっていた。

 

「こんなはずじゃなかった」。進路を断たれた高校生、恋人と別れたばかりの青年、ワンオペで初めての育児に励む女性…。市役所に開設された「2020こころの相談室」に持ち込まれたのは、切実な悩みと誰かに気づいてもらいたい想い、そして、誰にも知られたくない秘密。あなたなりの答えを見つけられるよう、二人のカウンセラーが推理します。最注目の気鋭がストレスフルな現代に贈る、あたたかなミステリー。

 

本書は、5章から成っていて、市役所の感染症禍に設置された相談室の5事例を扱っている。

それぞれの相談者は、失ったものがある。

それを挙げてから、相談者の物語が進んでいく。

第1章 17歳女性 将来の夢を失った

第2章 29歳男性 婚約者を失った。

第3章 38歳女性 幸せな未来を失った。

第4章 46歳男性 人間の尊厳を失った。

第5章 19歳男性 生きる気力を失った。

 

まあ、そうだよなあ。

COVID-19感染症禍。

本当にいろいろあった。

特に、感染が始まった2020年は。

本書に出てきた、当時のできごとだけでも、なかなかの量だ。

主なものを列挙してみる。

NHK学校音楽コンクールの中止 / 感染予防用のアクリル板のパーテーション / 緊急事態宣言 / 2月の終わりから5月までの休校 / 3つの密 / 夏の甲子園の中止 / 病院の面会禁止 /病院の救急と発熱外来の看護師 / PCR検査 / 医療従事者の労働環境の悪化 / 託児所に子どもを預けられない自宅待機 / SNSを使ったオンラインコンサート / 飲食店の営業終了 / Go To トラベル政策 / ボーナスカット / 孫と会わせてもらえない / 立ち合い出産の全面中止 / 入院中の面会の一切禁止 / クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号の集団感染と海上隔離 / 濃厚接触者 / 14日間の隔離生活 / 小さい布マスクの配布 / マスクの値段の高騰 / マスクをしないと向けられる非難の目 / ネットカフェの休業 / テレワーク、時差通勤の普及 / 大学のオンライン講義 / 学校のリモート授業 / ワクチン接種 …

 

作者の辻堂ゆめさん、当時のできごとをからめながら、よくこの物語を作ったものだ。

さすがだなあと思った。

感染症禍で起こった1つ1つのことが、登場人物たちを苦しめる。

それぞれの章で、それぞれの主役の心情を困りごとを描きながら、そこにこころの相談室の2人が話を聞くことで悩みから解放されていく。

5人の相談者が生きていく中で、それぞれがバラバラではなく実はつながり合った時間があったりするのも面白い。

5人をリレーのバトンのようにつなげていくのが、Nの刺繡が入った巾着型の御守。

それぞれの手に渡って、幸福や幸運が訪れていくように描かれていた。

 

そして、毎回各章の最後に、「昼休みのひととき」という場面があり、そこではカウンセラーが、相談者の真の姿や悩みを、鋭くあばいていく。

その若いカウンセラーがあばく真実には、感心する。

感染症禍で起こった事実を題材として、よくまあ、5話ともに良質なミステリーだこと

そのうえ、第5章からまた第1章に戻るようなストーリー。

こういった細かさは、まさに辻堂ミステリーの真骨頂だ。

 

辻堂ゆめさんの作品はこれで3冊目だが、毎回違った魅力を味わわせてもらっている。

 

「いなくなった私へ」(辻堂ゆめ著;宝島社) ~辻堂ゆめ氏のデビュー作を読む~ - ON  MY  WAY

先日、辻村ゆめ氏の作品「山ぎは少し明かりて」を読んで、もっと他の作品を読んでみたくなった。「山ぎは少し明かりて」(辻堂ゆめ著;小学館)~辻堂さんの筆力に魅せられ...

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引きつけられるなあ。

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「白土三平伝 カムイ伝の真実」(毛利甚八著;小学館)を読む

2025-03-04 18:21:11 | 読む

白土三平というと、忍者もののマンガ家というイメージがある。

子どものころ、テレビで放送されたアニメは「サスケ」だった。

もともとは月刊誌の「少年」で連載していたが、放送されていた頃は、週刊少年サンデーに連載されたのを思い出す。

それ以前に少年サンデーでは、「カムイ外伝」の連載があったことの方が印象が強い。

ほかに、週刊少年マガジンには、「ワタリ」というマンガも連載されていた。

高校3年生のとき授業中に、日本史の先生が、白土三平の作品は読んだ方がよい、という話をしたことがあって、それでびっくりしたことがあった。

あの当時、先生がマンガを勧めるなんてなかなかないことだった。

同じ高校の現代国語の若い女性の先生なんて、マンガより日本や世界の名作文学を読めとやかましかったから、日本史の先生の言葉は、驚きだった。

勧められたのを覚えていて、後年「忍者武芸帳 影丸伝」か「カムイ伝」のどちらかはすべて読んだのだった。

だけど、どちらか一方は、読んでなかったのだよなあ。

その作者の白土三平は、2021年に89歳で亡くなってしまい、すでに故人である。

 

このたび、図書館の棚に、「白土三平伝 カムイ伝の真実」という本が置いてあった。

2011年の7月に第1版が発行の本だった。

著者は、「毛利甚八」という人物。

よく知らないなあと思いながら、著者の紹介に、「1987年よりマンガ『家栽の人』(画・魚戸おさむ ビッグコミックオリジナル)の原作を担当する。」とあった。

ああ、あの「家栽の人」の原作者だったのか、と思い出した。

あの作品は、植物好きの家裁の判事が、少年事件の解決と更生に取り組む姿を描いたもので、私も好きな作品だった。

たしか、テレビドラマ化されて、片岡鶴太郎が主役を演じたはずだ。

その毛利氏が白土三平の何を書いていたのだろうと、気になって借りてきた。

 

白土三平の生い立ちから2011年当時までの人生が描かれていた。

白土氏の父親は、プロレタリア美術運動に身を挺した画家岡本唐貴だった。

岡本は、特高から受けた拷問により体を痛め、家族は極貧となり、耐え忍ぶ生活だった。

各地を転々として暮らす一家。

時には家族と離れ離れになりながら暮らした少年時代の様子。

食べるものを得るためにした大変さの数々。

父親の思想の影響や空腹の体験が、白土三平が、弱者の側からの作品を描き続けた背景となっていたと知った。

 

白土三平は、やがて紙芝居作家として独立し、やがて貸本屋マンガを描くようになり、漫画家デビュー。

その後、マンガ雑誌「ガロ」を創刊し、そこで「カムイ伝」をすごいペースで描き始めた。

そして「神話シリーズ」や「カムイ伝第2部」を描いた話へと続く。

あちらこちらで出てくるのが、白土氏の房総の海での自然生活である。

 

著者の毛利氏は、長い時間をかけて白土氏と関係をつくり、白土氏の人生を聞き出した。

本書は、白土氏の父・岡本唐貴の生涯からはじめ、ずっと白土氏の足跡を追いかけて、ていねいに彼の作品のルーツを探った力作と言える。

房総の生活で得た漁法や調理法などが、作品に反映されていると書いていることも、白土氏の生活に入り込まんだからこそ書けたことである。

本書は最終的に白土三平に読んでもらい、事実と違う部分は全て削除・修正した上の出版だったという。

なかなかの評伝だった。

 

その後、毛利甚八氏は、どうしたのかなと思って調べてみたら、2015年に食道がんで亡くなっていたことを知った。

享年は57歳であった。

「家栽の人」の主人公の判事そのままに、非行少年の未来の可能性を信じた人だったようだ。

亡くなった記事には、毛利氏が、少年事件の厳罰化の流れに反対し、少年院などを通した更生の可能性を発信し続けたことが書かれてあった。

二人とも故人となり、本書「白土三平伝 カムイ伝の真実」は、白土氏にとっても、毛利氏にとっても貴重な1冊となっている。

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「フラット」と「レリーフ」、2部構成の面白さ ~「いつかの岸辺に跳ねていく」(加納朋子著;幻冬舎)~

2025-02-24 14:42:57 | 読む

本書について、図書館で残してくれた帯には、こんな言葉が書かれていた。

あの頃のわたしに 伝えたい。

明日を、未来を

あきらめないでくれて、

ありがとう。

 

生きることに不器用な

徹子と、

彼女の幼なじみ・護。

二人の物語が重なったとき、

温かな真実が明らかになる。

 

図書館でパラパラっとめくったときは、「フラット」「レリーフ」の2話か2章かわからないけど、2部構成と知った。

中学生、高校生の時代が出てくるから、ほのぼのした青春小説かなと思って、借りてみた。

 

案の定「フラット」では、護という人物からの目線で物語が進む。

護の幼なじみの徹子は真面目な女の子だけど、突然知らないおばあさんに抱きついたり、授業中に涙を流したりする奇行があって、周囲から浮いたりする、少し不思議な存在の子だった。

こういう子っているよなあ。

でも、気になる存在で、確かに守ってあげたくなるよなあ、と思いながら、どのように護と徹子の恋話が進むのかなあと期待しながら読んでいった。

たしかに、いろいろなエピソードが紹介されながら、時は進んでいく。

ところが、社会人になって、徹子の結婚話が決まって、護も心から「良かったな、おめでとう」と言ってあげたい気持ちになったところで、「フラット」は終わりになってしまう。

 

そして、第2章というべき「レリーフ」が始まる。

こちらで今度は、徹子の目線で物語が進んでいくのだが、驚きのストーリーだった。

「フラット」で起こっていた、徹子の不思議な言動のあれこれが、徹子目線で語られることによって、すべてそうだったのか!!と納得のできごとに変わっていく。

徹子の不思議なエピソードが、実はすべて伏線として「レリーフ」の章で回収されていく。

それだけでなく、カタリという人物の登場によって、ものすごく面白くなった。

というか、彼が怖いほどのサイコパス的な存在として徹子とかかわっていくから、途中で読むのをやめられなくなった。

青春小説が、見事にSFミステリーに変わっていた。

 

なるほど、「フラット」な話が、「レリーフ」で一つ一つ深みを加えていく。

その様子が彫り込まれていって立体的となり、「レリーフ」という作品になるのだな。

読み終わったとき、そんな思いがした。

 

前半の「フラット」で出てきた人物たちが、「レリーフ」の終盤に登場し、重要な役割を果たす。

ただ、結婚式のドタバタは、間違いなく物語のクライマックスなんだろうけれど、ちょっと強引な話の展開なような気もする。

そして、徹子が子どものころに出会っていた老人の話で、幸せなエンディングを迎える。

その場面を読んで、前に読んだ東野圭吾の「時生」のラストシーン、「トキオっ 花やしきで待ってるぞ」…というのを思い出した。

 

いずれにしても、前半と後半とであまりにも大きな変化があって、びっくりした。

こういうSF的な物語は、昔はあまり見なかった。

この展開は、今の時代を生きる人たちに受けるのだろうなあ…なんてことも思ったよ。

とりあえず、面白い物語だったよ。

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「仔猫の肉球」(雨宮処凛著:小学館)で生きづらさの軽減

2025-02-17 20:36:11 | 読む

新潟日報の週1回のコラムに「『生きづらさ』を生きる」という連載がある。

作家の雨宮処凛氏が書いている。

そこに、月乃光司さんという方がほっとするようなイラストを書いているのを、知っている人も多いだろう。

月乃さん自身も、若いときにはアルコール依存症になり、引きこもりだったりもした。

生きづらい過去を持っている。

この2人によるコラムは、毎回必ず読んでいる。

 

さて、雨宮処凛氏は、中学時代にいじめを受け、毎日自殺を考えていたという。

高校でも不登校、家出、リストカットを繰り返していた。

高校卒業後に受験にも失敗し、フリーターとなったこともある。

彼女の公式サイトに、略歴はこう書いてある。

1975年、北海道生まれ。

作家・活動家。

愛国パンクバンドボーカルなどを経て、2000年、自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版/ちくま文庫)でデビュー。

以来、いじめやリストカットなど自身も経験した「生きづらさ」についての著作を発表する一方、イラクや北朝鮮への渡航を重ねる。

06年からは格差・貧困問題に取り組み、取材、執筆、運動中。メディアなどでも積極的に発言。3・11以降は脱原発運動にも取り組む。

07年に出版した『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版/ちくま文庫)はJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。

「反貧困ネットワーク」世話人、「週刊金曜日」編集委員、フリーター全般労働組合組合員、「こわれ者の祭典」名誉会長、「公正な税制を求める市民連絡会」共同代表。

 

…すごいじゃん。なかなかの生き方をしているんだなあ、と思うよ。

 

その彼女は、たくさんの書籍を出版しているが、私は、冒頭に書いた新潟日報紙のコラムでしか彼女の書いたものを読んだことがない。

図書館でたまたま見かけたのが、この「仔猫の肉球」というエッセイ集。

表紙の写真の猫が可愛らしかった。

そこにつられて、借りてみることにした。

 

「まえがき」を見たら、その生きづらさを抱えながら生きてきた彼女が、30歳手前で一匹の猫を拾ったことで人生が変わった、と書いていた。

 

2004年夏、一匹の仔猫を拾ったことで、私の人生は大きく変わった。

何の役にも立たないのにおそろしく堂々と生きている猫の姿から、「生きる」ことに対するハードルが極限まで引き下げられ、同時に自分への期待値も限界まで引き下げられた。

思えば、それまでずっと生きづらさをこじらせるばかりの人生だった。

 

…と始まっていて、猫の自由さか…と興味を引いた。

本書の章立ては、

01 猫が教えてくれること

02 自分と仲良くする方法

03 生きづらさを生きるコツ

04 3・11に思う

05 生きづらい社会で考える

となっていて、実は、猫について書いてあるページは意外と少ない。

 

でも、読んでいて、難しくなくて、なんだかとても救われる気がする。

前書きの後半に、本書は、新潟日報の「『生きづらさ』を生きる」に連載したものを編集、構成し直したものだと書いてあった。

なあんだ、そうだったのか。

そう思いつつも、見開き2ページで1まとまりの文章は読みやすい。

そのうえ、まとめて読み進んで行くと、ずいぶん気持ちが楽になっていくから、不思議なものだ。

きっと、68歳に近くなった今なお自分が抱えている「生きづらさ」が、雨宮氏の文章に共感しているからなのだろうな。

 

仔猫の肉球みたいな。あたたかくて、柔らかくて、ふっと心がほぐれる感じ。

…に本書がなれたらうれしいというようなことも、著者は書いていた。

私には、十分そう感じる本だった。

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「いなくなった私へ」(辻堂ゆめ著;宝島社) ~辻堂ゆめ氏のデビュー作を読む~

2025-02-10 21:08:35 | 読む

先日、辻村ゆめ氏の作品「山ぎは少し明かりて」を読んで、もっと他の作品を読んでみたくなった。

 

「山ぎは少し明かりて」(辻堂ゆめ著;小学館)~辻堂さんの筆力に魅せられた~ - ON  MY  WAY

筆力のある人だなあ。今回初めて辻堂ゆめさんの作品を読んでそう思った。読んだ本は、「山ぎは少し明かりて」。枕草子から借りてきたタイトルのようだが、この作品は、三世...

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どれにしようかなと思いつつ、せっかくだからデビュー作を読んでみようと思った。

この「いなくなった私へ」という作品は、2015年に第13回『このミステリーがすごい! 』大賞・優秀賞を受賞した作品だった。

原題は、「夢のトビラは泉の中に」だったと、エピローグの後に書いてあった。

内容について、Amazonの紹介によると、次のようである。

 

人気シンガーソングライターの上条梨乃は、ある朝、渋谷のゴミ捨て場で目を覚ました。

誰も彼女の正体に気づく様子はなく、さらに街頭に流れる梨乃の自殺を報じたニュースに、梨乃は呆然とした。

自分は本当に死んだのか? それなら、ここにいる自分は何者なのか?

そんな中、大学生の優斗だけが梨乃の正体に気づいて声をかけてきた。

梨乃は優斗と行動を共にするようになり、やがてもう一人、梨乃を梨乃だと認識できる少年・樹に出会う……。

自殺の意思などなかった梨乃が、死に至った経緯。

そして生きている梨乃の顔を見ても、わずかな者を除いて、誰も彼女だと気づかないという奇妙な現象を、梨乃と優斗、樹の三人が追う。

 

前回読んだ作品は、ダムの建設にかかわっての、3世代に関わる現実的な物語だった。

よく取材したなあと思う、ヒューマンドラマと言える作品だった。

だけど、この物語は、ゴミ捨て場で目覚めた自分がすでに自殺したというニュースが流れていることを知るという、あり得ない展開。

おまけに、顔の知られた有名な歌手だったのに、周囲の人間には認識されないという、不思議さがついてまわる。

記憶と中身は生前のままだが、外見が変わってしまった元歌手の主人公梨乃と10歳の小学生、樹。

2人は、周囲から本人だと認めてもらえなくなっていた。

要するに、これは一種のサイエンス・フィクション(SF)なんだな、と理解した。

 

SFと思いながら、

唯一梨乃だと認識してくれた、たまたま通りかかった大学生の優斗は、なぜ認識できたのか?同じ日に死んだ樹が莉乃を認識できるのはわかるとしても。

何故生きているのに死んだことになっているのか?

彼女たちは本当に死んでしまったのか?

なぜ死なければならなかったのか?

などと、次々と謎が出てきた。

そんな疑問にせかされて、どんどん読み進んでいけた。

約390ページがあっという間だった。

 

第4章まである話なのだが、各章の冒頭に、主人公たちと全く関係ない異国での謎の話が綴られていた。

どこでどのようにストーリーが結びつくのかと考えたりもした。

やはり、最後には関係していた。そこまでつながるのが楽しい。

 

戦前・戦中・戦後とたどった先日の作品「山ぎは少し明かりて」とは全く違うスタイルの話。

あえて共通点を探るとすれば、「いなくなった私へ」も「山ぎは少し明かりて」も、「人が好き」と感じるところだろうか。

輪廻転生をテーマにしながら人とのふれあいを大事にしていた主人公。

カルト教団のせいで命の危機を迎えたりもする。

SFながら、生きるってことは、どういう意味を持つのだろうと考えたりもした。

 

辻堂さんは、このデビュー作を書いた当時はまだ20代の大学生(東大法学部!!)だったはず。

それでも、これだけ読ませる。

「山ぎは少し明かりて」の読後感想にも書いたとおり、やはり筆力のある方だなと感嘆した。

そして、「山ぎは…」とは全く別の面白さを味わうことができた。

ほかにどんな作品を書いているのだろう。

そんな興味もわいてきたのだった。

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「レッドスワンの絶命」(綾崎隼著;KADOKAWA・メディアワークス文庫) …続編を読みたくなった

2025-02-06 19:05:26 | 読む

読み終わって、続編があるならすぐにそれを読みたくなった。

 

本書の著者は、先月読んだ「冷たい恋と雪の密室」、「青の誓約」を書いた綾崎隼氏。

「青の誓約」を読んでみたら、この著者は、サッカーが好きなんだなと思った。

 

「青の誓約 市条高校サッカー部」(綾崎隼著;KADOKAWA)を読む - ON  MY  WAY

この前、「冷たい恋と雪の密室」を読んで、綾崎隼という作者が新潟県に関係していると知った。「冷たい恋と雪の密室」(綾瀬隼著;ポプラ社)を読む-ONMYWAY1月といえば、雪...

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だから、彼の書いたサッカー物の小説が「レッドスワンシリーズ」として数冊あることを知り、読んでみたくなったのだ。

 

どれが最初に出た本なのかな、ということを、出版日等を調べて確認し、本書「レッドスワンの絶命」が始まりであることを知った。

幸い、最寄りの図書館に単行本があったので借りてきた。

本書は、KADOKAWAから単行本が出ていて、その後メディアワークス文庫からも出版されているが、内容紹介は次のようになっていた。

 

私立赤羽高等学校サッカー部『レッドスワン』。

九度の全国大会出場経験を持つ新潟屈指の名門は、不運なアクシデントが続き崩壊の危機に瀕していた。

試合中の負傷によって選手生命を絶たれた少年、高槻優雅は為す術なくその惨状を見届けるのみだった。

しかし、チームが廃部寸前に追い込まれたその時、救世主が現れる。

新しい指揮官として就任したのは、異例とも言える女性監督、舞原世怜奈。

彼女は優雅をパートナーに選ぶと、凝り固まってしまった名門の意識を根底から変えていく。

どんなチームよりも〈知性〉を使って勝利を目指す。

新監督が掲げた方針を胸に。

絶命の運命を覆すため、少年たちの最後の闘いが今、幕を開ける。

 

あとがきで、綾崎氏は、16作目となるこの作品で初めてサッカーを題材として書いた小説なのだと書いていた。

しかも、デビューする遥か前からサッカーを題材にした小説を書きたいと思っていたとのこと。

作品の中で、サッカーのルールやポジション、サッカー用語の解説などにふれていることなどに、その思いがあふれているのが分かった。

読み進むうちに、情熱をもってこの物語を作ったことが伝わってきた。

 

数か月後の大会で決勝まで行かなければ、廃部という条件を突きつけられてしまったチーム。

主人公の少年は、けがをするまではサッカーの天才的な存在だったということになっている。

普通の物語なら、その少年の復活と活躍で勝ち進むような展開になるのだろうけれど、そうではない。

主人公がけがをしたまま、ストーリーは進む。

そこで力を発揮するのが、女性監督である舞原世怜奈。

彼女が、「人を生かす」という目で選手を見たり働きかけたり起用したりしていく姿は、非常に共感できて面白い。

 

自分も、仕事をしていくうえで、そのことを大事にしていた。

学級を持っていたときにも、それぞれの子が輝くように、周囲から認められるようにということを心がけて働きかけていた。

また、後年勤務先を任されたときも、それぞれの職員が持つ力を生かせることを考えて、運営に当たったことがよみがえってきた。

それぞれがもつ長所をどう把握し、どう生かすかが、リーダーには問われている。

自分の描くビジョンにしたがって、思い通りに動かそうとすることがではない。

罰を与えたり、叱責したりするだけでは、人もチームも変わらないのだ。

 

…そんなことを思い出させてくれた物語。

 

「私立赤羽高校」の別称「レッドスワン」というのは、新潟県のスタジアム「ビッグスワン」と重なるものがある。

著者も新潟県の出身だから、舞台を新潟県に選んで書いたのだろうけど、私にとっても地元だから、興味を持って読んだ。

小説ではあるが、マンガやドラマを見ているような感覚で引き込まれてしまった。

 

「レッドスワンシリーズ」は、その後何冊か出ている。

とりあえず2作目の「レッドスワンの星冠」、3作目の「レッドスワンの奏鳴」までは読んでみようと思っている。

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「いつの空にも星が出ていた」(佐藤多佳子著;講談社)

2025-02-03 22:06:03 | 読む

今月になり、プロ野球の各チームがキャンプ・イン。

テレビのニュースで流れていたので一番多いのが、去年日本一になった横浜DeNAベイスターズ。

去年は、セントラルリーグの3位だったのに、2位の阪神タイガースも、優勝した巨人をも打ち負かして、日本シリーズに進出してしまった。

それだけではなく、日本シリーズでも波に乗って、パシフィックリーグで圧倒的な勝率を誇ったソフトバンクホークスを撃破した。

「下剋上」と言われる優勝だった。

前年度日本一のチームだから、注目度も高い。

去年は、そこまで強かったチームだけど、実は、セントラルリーグ6チームの中で、最も優勝回数の少ないチームなのだ。

 

だけど、面白いことに、セリーグでの優勝回数は2回しかないのに、日本一の回数が3回とは。

これは、去年のクライマックスシリーズに勝ったうえでの日本シリーズ優勝ということだ。

勢いに乗ると強いということなのかな。

私の好きな阪神タイガースよりも、日本一の回数は多いじゃないか。(阪神2回、横浜3回ですけどね)

タイガースも熱狂的なファンが多いけど、去年はベイスターズファンもなかなかだな、と思ったよ。

 

今回借りた本は、「一瞬の風になれ」を書いた佐藤多佳子氏の「いつの空にも星が出ていた」(講談社)という一冊。

佐藤多佳子氏の他の作品はまだ読んだことがなかったので、これを借りてみようかと手に取ったのだった。

 

あとで調べてみたら、発行元の講談社は、本書について次のような内容紹介をしていた。

 

うれしい日も、つらい日も、この声援と生きていく―。

 

本屋大賞受賞作家、40年の想いの結晶。

大洋ホエールズからDeNAベイスターズへ。

時を超えてつながる横浜ファンの熱い人生が胸を打つ感動作。

 

さえない高校教師。未来を探して揺らぐ十代のカップル。奇妙な同居生活を送る正反対の性格の青年たち。コックの父と少年野球に燃える息子。彼らをつなぐのは、ベイスターズを愛する熱烈な思いだった! 本屋大賞受賞作家が、横浜ファンたちの様々な人生を描き、何かに夢中になる全ての人に贈る感動の小説集。

 

…ということだったが、そんな内容まで知らずに本書を読み始めた私だった。

本書は、

「レフトスタンド」「パレード」「ストラックアウト」「ダブルヘッダー」

の4つの話で構成されていた。

これが、過去から時代を追って現代に近づいてくる。

しかも、大洋ホエールズ時代から、横浜ベイスターズ、DeNA横浜ベイスターズという変遷だ。

でも、それぞれの話に出てくる中心的な登場人物は、皆その当時の横浜ファンなのだ。

 

「レフトスタンド」の話は、1984年当時の弱小チーム。

出てくるのは、さえない高校の先生と、さえない囲碁同好会の高校生。

「パレード」は、1998年の優勝の頃。

主人公は、高校生時代から社会人1年生の女性とその相手。

「ストラックアウト」は、2010年の頃の再び弱かった頃。

主人公は、小規模電気店に勤める若者男性。

「ダブルヘッダー」は、2016~17年のころで、17年に初めて下剋上を果たして日本シリーズに出たときのベイスターズが出てくる。

ここの主人公は、小学4~5年生の野球少年。

 

それぞれに、熱狂的な横浜ファンなのだが、彼らの人生とその当時のチームの戦いぶりが交錯する。

それぞれの人物に起こるできごとや事件とベイスターズの試合が並行して描かれることが迫真性を増す。

その当時の印象的な試合のシーンももちろん多い。

その頃活躍した選手の名前が出てくると、とても懐かしい。

遠藤、川村、戸叶、石井琢朗、鈴木尚典、佐々木、三浦(現監督)、木塚、山﨑、今永、濱口、筒香…、それぞれの時代で輝いた選手たちの名前が続々出てくる。

 

阪神タイガースファンの私だが、とても楽しく読めた。

本書が出版されたのは、2020年10月。

だから、もちろん昨年のベイスターズの日本一は扱われていない。

でも、本書のような過去があったからこそ、熱心なファンは、去年の優勝がより一層うれしかったはず。

「いつの空にも星が出ていた」の星とは、ベイスターズから来ていたのだと、途中でやっと気づいたよ。

ベイスターズファンなら、必読の一冊だな、この本。

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