ヒマローグ

毎日の新聞記事からわが国の教育にまつわる思いを綴る。

「好き」の推移

2023-08-18 08:25:28 | 我が国の教育行政と学校の抱える問題

「英語だけ?」8月10日
 『子どもの英語教育 「好き」広げる環境作りを』というタイトルの社説が掲載されました。全国学力テスト中3英語の『「聞く、読む、書く、話す」の4技能のうち、とりわけ平均正答率が低かったのは「話す」で、12.4%にとどまった。6割超の生徒が一問も正答できなかった』という結果に注目し、その原因について、『英語が好きな生徒の正答率は「話す」を含めて高い。そうすれば子どもが英語嫌いにならないのかを考える必要がある』と述べているものです。
 お粗末な分析です。好きな生徒はできる、できるから好きになる、どちらが結果で原因かは定かではありませんが、当然のことです。したり顔で言うようなことではありません。しかし、私が言いたいのは別のことです。
 なぜ、英語、それも「話す」の技能についてだけ取り上げて、『「好き」を広げる』などと言うのかということです。社説では、『「英語の勉強が好き」は中3は約半数にとどまり、国語や数学よりも少なかった。小6では約7割が好きと答えており、文法学習などが本格化する中学で嫌いになる例が多いことを示している』と述べられています。
 こうした傾向は英語だけのものではありません。小中高と進むにつれ、教科の学習を嫌いだと回答する者が多くなるのは、どの教科に置いても見られる傾向です。私はこのことについて2つの問題意識をもっています。まず、小学校における教科指導の役割です。私が専門としてきた社会科で言うと、例えば6年生の歴史的な内容について言うと、一番重要なことは、我が国の歴史に興味・関心をもたせ、学ぼうとする意欲を掻き立てることだと言われています。
 私は教員時代に、全歴研という研究団体で、小中高の連携についての研究発表に携わったことがあります。そのとき、高校の歴史教員から、「小学校の社会科の教科書の記述は、最新の歴史研究の成果を十分に反映していない」という趣旨の批判をされたことがあります。おそらく正しい指摘だったのだろうと思います。私はその指摘に対し、「小学校の歴史の授業は、歴史って面白い、歴史の勉強が好き、もっと歴史のことを知りたい、という気持ちにさせ、中学校での歴史の授業に期待をもって臨ませることを使命としています。もちろん、歴史的な事実は正確であることが望ましいですが、そのことよりも学ぶ楽しさ、発見する楽しさを重視しています」という趣旨の反論をしたものです。
 社会科に限らず、小学校の授業は、学ぶことへの基本的な姿勢を形作ることに主眼を置くべきだと考えています。ですから、まともな教員が授業をしているのであれば、小学校での英語の授業は楽しいと答える子供が多いのは当たり前で、正常なことなのです。中学校で嫌いが増えるということを「過剰」に問題視することは必要ありません。
 もう一つは、中学校では、小学校で培った学びへの興味・関心を追い風に、必要な知識と技能を定着させることを使命とすべきということです。おかしな例えですが、それ自体は推進力をもたないグライダーが、風に乗ってしばらくの間飛んでいるイメージです。
 小学校の教員は英語を好きにさせ、中学校の教員はその「好き」が継続しているうちに必要な知識や技能を獲得させる、そうした分業が現実的なのです。もう少し言えば、小学校では全員をある程度「好き」にさせ、中学校では、平均的な「好き」の水準は下がるけれど、何割かの生徒は、英語の神髄に触れた上での「好き」に好きの質が深化する、ということでもあります。
 その先の高校では、選択肢が分かれ、深化した「好き」の生徒は、英語の特化したコースや課程を選択し、英語使いとして活躍する道を進み、外交官や通訳、諸外国企業と渡り合うビジネスマン、外国の研究機関と共同研究する研究者として活動する、という形こそが我が国が目指す英語立国の姿だと考えます。その他は、アプリの翻訳機能を使い、買い物ができればそれで満足しましょう。

 

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