ヒマローグ

毎日の新聞記事からわが国の教育にまつわる思いを綴る。

講話をさせれば分る

2023-08-14 07:53:29 | 我が国の教育行政と学校の抱える問題

「教えてみると分かる」8月7日
 『防衛大・等松春夫教授の告発 優秀な者ほど辞めていく』という見出しの記事が掲載されました。『集英社オンライン上で論考「危機に瀕する防衛大学校の教育」を公表』した等松氏へのインタビュー記事です。
 その中に次のような記述がありました。『教官40人のうち専任は10人で、残り30人は自衛隊のローテーション人事で制服自衛官が務めます。優秀で熱心な教官もいますが、そうでない人も少なくない。防衛学は本来、科学的に安全保障や軍事を考える学問です。でも実際は、例えば、「リーダーシップ教育」と称して旧日本軍の将軍や提督を持ち出し、彼らがどう部下を統率したか、あるいはいかに勇敢に戦って玉砕したか、といった精神論のような話を聞かせるものもあります』。
 ひどいですね。無責任な歴史小説のような内容を話してお茶を濁すなんて、専門家としての見識が疑われます。私はこの記事を読んで、20年前のあることを思い出しました。当時私が指導室長として勤務していた市は、市内にある大学と協定を結び、教員志望者を対象に、市内の公立小中学校の管理職が、現場感覚を生かして教育課題について講義するという事業を行っていました。似ていますよね。制服自衛官が防大生を指導するのと。
 当初、私は、良い試みだと考えていました。しかし、年度途中で行われた大学関係者との懇談では、学生から不評だと聞かされたのです。その理由を訊いてみると、とにかくつまらないというのです。
 大学側の担当者の「推測」では、講師役を務める校長や副校長は、都教委や市教委の公式見解とは異なることを話して注意や指導を受けることを恐れており、その結果、公式的なことしか話さないというのです。中には、都教委や市教委の掲げる教育目標を延々と読み上げる副校長や校長研修の内容をそのまま伝達する校長などもいるということでした。
 私としては、校長らに対し、強くプレッシャーを与えているという自覚はなかっただけに、唖然とすると同時に、反省もしました。しかし、それ以上に感じたのは、多くの校長や副校長は、自分の問題意識と現状分析に基づいて、自分の言葉で90分間話をするだけの知見や能力がなかったのではないかということでした。
 酷な言い方をすれば、日々の業務、教委や保護者・市民への対応、学校事務、教員への助言や相談、事故やトラブルへの対応、諸会議への出席、校長会・副校長会・都や市の教育研究会の事務などに追われ、自分なりの勉強や研究をする余裕がなく、「忙しい、大変だ」という愚痴をこぼすだけで、教育者としての自己研鑽が疎かになってしまわざるを得ないのが現状だということです。
 もちろん、全ての管理職がそうだというわけではありませんが、何割かは、そうした状況に危機感を抱きながらも、多忙さを言い訳に流されていってしまいつつある者がいたというのは争えない事実だと思ったのです。
 校長や副校長は、大学の教育学者ではありません。マクロな視点で、我が国の教育行政について語る必要もありません。ただ、最も子供に密着し、教員や保護者の悩みにも対応し、学校現場を体感で知る者として、自分なりの問題意識と処方箋をもつことは、我が国の学校教育の実践的な改革のために必須なことだと思います。
 もちろん、教育行政側が、その見識を吸い上げ生かす姿勢をもつことが前提になりますが。今はどうなのでしょうか。

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