ヒマローグ

毎日の新聞記事からわが国の教育にまつわる思いを綴る。

贅沢は敵、ではないけれど

2023-08-13 08:56:12 | 我が国の教育行政と学校の抱える問題

「そうなのかなぁ」8月7日
 『広がる子供の「体験格差」』という見出しの記事が掲載されました。『近年、保護者の経済力によって子供の学校外での体験活動に差が生じてしまうことが問題視され始めている』という問題意識の下で書かれた記事です。
 記事によると、『世帯年収300万円未満の家庭にいる子供の3人に1人が直近1年を通じ、「習い事」「旅行」「動物園・博物館へ訪問など」といった学校外の体験活動をしていなかったことが判明した』そうで、『貧困の世代間連鎖や再生産をなくす意味でも、子供の体験機会を支えることは重要』という「専門家」の見解が示されています。
 また、文科省の調査においても、『小学生の頃に自然・社会・文化体験をする機会が多いと、高校生になって自尊感情や外向性などに良い影響を及ぼしていることが分かっている』という結果が出ていることの報告もありました。そして、子供の「体験格差」をなくすために、公的支援を拡充させていくことの必要性が強調され、それにもかかわらずその合意が得られていない現状を憂える内容となっています。
 記事の中で最も印象に残っているのは、『子供の体験は果たして「贅沢品」なのか』という問いかけの言葉でした。正直に言って現時点では、私の中では、「贅沢品」なのです。
 贅沢品ではなく、必需品だとした場合、様々な問題が生じます。どの体験が必需品なのか。英語塾に通うことは必需品だとして、英語圏の国に短期留学するのは必需品なのか贅沢品なのか、その線引きはどのようにするのか、限られた予算の中、議論は紛糾するでしょう。支援は、世帯年収何万円以下を基準にするのか、裕福な家庭の子供にも支援するのか、この線引きも紛糾しそうです。政策の効果の検証はどのように行うのでしょうか。多額の予算を投入しその効果は不明です、というのでは問題です。
 しかし、そうした「些末」な問題は、実はどうでもいいのです。私がこだわるのは、「体験格差」に限らず、そもそも「~格差」はあってはならないもの、全てを均一にしなければならないものなのか、という根本的な問題です。
 私の家は、私が生まれた時点で、祖父は寝たきり、叔母はまだ高校生、両親と姉、祖母の7人が父親の稼ぎで暮らすという貧乏世帯でした。2歳のときに祖父が亡くなり、小1のときに叔母が嫁ぎ、祖母と母が内職をするようになり、経済的には少し好転しましたが、貧しい方でした。
 自転車を買うことができなかったので、みんなで少し遠くに遊びに行くとき、友達は自転車で、私はその後を走ってついて行く、というのが常態でした。台風が来ると、板塀を紐で縁側に括り付け飛ばされないようにしました。翌日の朝、友達が「○○の家、ボロボロ。風に飛ばされなくなるぞ」と言ってからかいながら登校していきました。風邪をひいて初めて学校を休んだ日、担任のN先生が心配して見舞いに来てくれましたが、破れたパジャマを捨てずに着ていて、上下が異なるパジャマで寝ていた私は、出ていきませんでした。母が恥ずかしがったのです。
 私は、家が豊かでないことを感じていましたが、それを恥ずかしいことだとは思っていませんでした。一度もひもじい思いをしたことはなく、両親には感謝していました。父も母も真面目に一生懸命に働いているので、立派な人だと思っていました。N先生が見舞いに来てくれたときも、先生に会えなかったことよりも、母が切ない思いをしているだろうなと感じ、「お母さんを更に切なくさせるようなことはしてはいけない」と思いました。ケーキやお寿司を食べたいとは思いましたが、食べられないからといって、一時的に友人を羨ましく思ったことはありましたが、すぐ忘れました。両親を不甲斐ないと思ったりしたこともありませんでした。ある程度(どの程度なのかが難しいのですが)の格差は現実として受容し、その中で精一杯前向きに努力する、そんな姿勢が尊いものだと思います。
 子供が放置され、ガリガリにやせてしまうような貧困は根絶しなければなりません。でも、どんな手立てを講じても、「格差」はゼロにはなりません。あくまでもゼロを求めていけば、未来永劫実現されない格差ゼロを理想とし、現状に不満を抱き、他者や社会にその不満を転化させ、攻撃的な子供を多く生み出す結果に陥ってしまうような気がしてならないのです。
 まだ「必需品」が手に入らず苦しんでいる子供がいます。まずはすべての子供に「必需品」をいきわたらせることに全力を尽くすべきだと思います。その上で、社会や経済の進展に伴い、少しずつ「必需品」の種類は増えていくはずですから、そうした動きに沿っていけばいいのではないでしょうか。

 

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