「押し付けでは?」8月3日
『リスク取って 成長の糧に』という見出しの記事が掲載されました。『伊達公子さんが「女性と社会」をテーマに、各界で活躍するプロフェッショナルと対談』するという企画です。初回は、『欧米の金融機関などビジネスの世界で活躍してきた村上由美子さん』がゲストでした。
2人の対談には、ポジティブな言葉が再三登場します。『「あなたたちには可能性がある」と若者の背中を押していきたい』『リスクを取らないと、それに見合ったリターンしかない。要はリスクが取れない人は伸びない』『ダメだったらその時に考えたらいい』『自分の選択した道で、「ああしておけばよかった」と思うことがそれまでなかった』『自分の意思で突き進んでいるから、「ほれ見たことか」と言われないように必死になります』『保証がなくても自分がエネルギーを注ぎ込んだ先に、何か生きることがあると思えれば全然違う』などです。
どうしても違和感をぬぐえませんでした。私は、現代は多様な価値観を認めよう、という社会だと考えています。Aという考え方も認められるべきだし、Bという価値観も尊重されるべきだということです。
しかし、この対談では、失敗を恐れずリスクを取って挑戦するという行き方が素晴らしいという考え方が、繰り返し強調されるのです。また、それと同時に、『今の日本の若者は自信をもちにくい』『安全な道を考えるという話をよく聞きます』『今は親の言うとおりにする』など、安全志向を徹底的に否定し続けます。
自分の能力資質を冷静に見つめ、取り返しのつかない失敗や破綻を避け、コツコツとまじめに努力して、誰にも迷惑をかけずに、家族や大切な人を守って生きていく、そんな人生を完全否定する、それは正しいことなのか、という違和感です。
伊達氏も村上氏も、いわゆる成功者、それも多くの人から注目を集める特別な成功者です。努力ができる、決断ができるという才能も含めて、常人を上回る才能に恵まれた人です。そして、おそらく幸運にも。その人生を、歩んでこられた道を否定するつもりは全くありません。それでもなお、彼女らのようではない人生も認めていくという姿勢こそが多様性の尊重ということなのではないでしょうか。
我が国の発展ということを考えたとき、伊達氏や村上氏のような生き方を選択する若者が増えるのはプラスに作用すると思います。しかし、だからといってそうした生き方を選択せよとプレッシャーをかけるのは間違っています。
少し飛躍するかもしれませんが、それは我が国の少子化対策に通ずるものがあるように思えます。若者が結婚し複数の子供を産む、それは我が国の維持発展の上では好ましいことです。だからといって、全ての若者に結婚せよ、子供をつくれ、とプレッシャーをかけるのは望ましいことではないという認識はあるはずです。未婚の自由、生まない権利は認められるべきだという認識が。
全体の発展のために、ある価値観を全ての人に強要するというのは問題なのです。学校で行われているキャリア教育に、リスクを取って挑戦せよという発想が色濃く含まれていることに不安を覚えます。全体の利益を個人の価値観に優先させる発想ですから。