スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

ストックホルム沖の群島海域における領海侵犯疑惑 (その1)

2014-10-20 03:50:13 | スウェーデン・その他の政治
ストックホルム沖の群島海域における領海侵犯疑惑について、国内外で大きなニュースになっている。私もニュースを追っているうちに、サスペンス小説を読んでいるかのようにワクワクしてきたので、これまでの流れを簡単にまとめてみたい。時間がないので、走り書きであることをご了承いただきたい。

◯ 事件の流れ

【 10月17日(金)夕方 】

スウェーデン国防軍は、ストックホルム沖の群島海域の一つ、Kanholmsfjärden(カンホルムス・フィヤルデン)において大規模な軍事作戦を始めたと発表。その海域において「外国勢力による海中活動が行われているという情報を入手したため」であり、その情報は「信頼のおける情報源から得られた」と説明した。


Kanholmsfjärden(カンホルムス・フィヤルデン)


作戦には海軍の新型艦Visbyや旧型艦Sundsvallなど、対潜哨戒や爆雷投下の能力を持つ艦船や小型艇などが参加。参加部隊は海軍の海戦部隊や沿岸作戦部隊、予備役のほか、空軍のヘリコプター部隊などであり、総勢200人ほど。投光機などを用いながら夜を徹した捜索活動が続けられた。

ロシアの潜水艦や小型潜水艦の可能性が最初の段階から指摘されたが、国防軍は「国籍は不明」と答えた


【 10月18日(土)午前 】

日刊紙Svenska Dagbladet(スベンスカ・ダーグブラーデット)が、大規模な軍事作戦のきっかけとなった「信頼のおける情報源」とは群島に住む民間人である、との報道を、国防軍の内部筋の情報を元に伝えた。この民間人は17日(金)の昼過ぎにKanholmsfjärden(カンホルムス・フィヤルデン)の海域において不審物を目撃し、それを国防軍に通報したという。


【 10月18日(土)午後 】

国防軍は、この日の朝から兵力と対潜哨戒能力を増強して、外国勢力の海中活動を捜査していると発表。また、海中活動が行われている可能性のある海域を絞り込み、その海域に捜査活動を集中させているとも伝えた。








スウェーデン海軍の中では最も新しいコルベット艦 Visby


【 10月18日(土)夜 】

日刊紙Svenska Dagbladet(スベンスカ・ダーグブラーデット)が、さらなるスクープを発表。大規模な軍事作戦が展開される前日の16日(木)の深夜スウェーデン国防軍の通信傍受局ロシア語による通信を傍受したという。この通信は、ロシア軍が緊急連絡用に用いる周波数で発信されたものだった。

その翌日に、ある「信頼のおける情報源からの目撃情報」があり、大規模な捜索活動が始まったわけだが、その日(17日)の22時に国防軍通信傍受局は再び同じ回線を使った通信を傍受している。ただ、前日の通信とは異なり、この時は暗号化されており、内容は把握できなかった。一方、交信双方の発信場所は突き止めることができたという。それによると、一つはKanholmsfjärden(カンホルムス・フィヤルデン)であり、もう一つはバルト三国とポーランドの間にロシアが飛び地として領有しているカリーニングラードだった。ここにはロシア海軍の軍港がある。

日刊紙Svenska Dagbladetは、この情報の出どころは「スウェーデンの諜報活動に関わる人」とし、それが国防軍通信傍受局なのか諜報局なのか、それとも各部隊付きの諜報担当者なのかは明かしていない。しかし、この情報は現在の捜索活動に携わる複数の関係者にも確認を取り、信頼性が高いと判断したという。

17日(金)の午後に始まった軍事作戦(捜索活動)は、昼過ぎの目撃情報から2時間も経たないうちに開始されたわけだが、このスクープ情報が正しいとすれば、国防軍はその目撃情報が入る前から、「外国勢力による海中活動」を察知していたわけで、その素早さの説明がつくことになる。

また、ロシア軍の緊急連絡用回線を使ったロシア語による通信だったという点から、ストックホルムの群島海域において、ロシアの潜水艦もしくは小型潜水艇が事故を起こして潜水活動に支障をきたし、コントロールを失っている可能性が考えられるが、このスクープ情報をもたらした筋は、そこまでの確証はないと答えていたそうだ。一方、そのスクープ情報に対するスウェーデン国防軍の公式見解「ノーコメント」だった。


この晩の日刊紙Svenska Dagbladetのスクープはこれだけではなかった。国防軍が捜索している対象が仮に「外国勢力の小型潜水艇」だとすれば、近くの海域に母艦が存在する可能性があるが、それと思わしき艦艇が実際にストックホルム沖合いのバルト海に待機しているというのである。船名はNS Concordであり、リベリア船籍だがロシアのノヴォロシースク(黒海沿岸)にあるNovoshipという企業が所有しているという。この船は全長244メートル、幅42メートルで排水量が10万トンを超える石油タンカーであり、15日(水)からバルト海の公海上で待機し、錨を下ろすことなく、付近を行ったり来たりしているのだという。目的地はデンマーク海峡として登録されている。





この謎の石油タンカーは、スウェーデン軍が捜索活動を始めた17日(金)午後スウェーデンの沿岸から40海里の所にいたものの、日刊紙Svenska Dagbladetこのタンカーの存在を報じた直後の22時頃、東に進路を取り、遠ざかっていったという。また、それまではネット上の海上交通情報サイトMarinetraffic.comで確認できていたものの、突然姿を消したともいう。船に取り付けられた発信機を切った可能性が考えられる。

ただし、スウェーデンの海上交通庁の広報担当者によると、ただ単に発信機の電波の届かない海域に入ったためだという可能性もあり、今回の「外国勢力の海中活動」との関連を断定するのは早計だ、とコメントしている。また、石油タンカーが港の外や公海上でしばらく停泊することは珍しいことではなく、例えば、石油価格の動向を見ながら、利益が上がるタイミングを見計らって売買契約を結び、入港するというケースはあることだ、とも説明し、慎重に判断しなければいけないとしている。

一方で、このタンカーの目的地は「デンマーク海峡」と登録されているのに、それからかなり離れたバルト海のストックホルム沖合いで数日間も何を屯(たむろ)しているのか。それになぜ錨を下ろさないのか、という疑問点もあり、不信感が拭えない。

(ちなみに、このタンカーを所有するNovoshipという会社は、Sovcomflotというロシア国営企業グループに属すが、この社長はSergej Frankといい、2000年代初めのプーチンの第一政権において運輸大臣をしていた男であり、プーチンを取り巻く権力グループの1人だという。彼の息子は、プーチンの親友であり石油商社Gunvorで巨額の富を築いたGennadij Timtjenkoの娘と結婚しているという報道があるが、これだけでは今回の事件との関連性はなんとも言えない。さらに再び「ちなみに」だが、Timtjenkoはクリミア半島併合にともなうアメリカのロシア制裁の対象となっている男で、制裁が発表される前日に自分が持つGunvorの株をスウェーデン人のビジネスパートナーに売却している。)


【 10月19日(日)午前 】

スウェーデン国防軍による捜索活動は、規模がさらに拡大する。前日には、捜索海域が狭められたという発表があったものの、この日の捜索では前日よりも海域が拡大された。


【 10月19日(日)午後 】

スウェーデン国防軍は、メディアで報じられているロシア潜水艇の可能性について、「そのように断じることはできない」としながらも、「しかし、その可能性も現時点では排除できない」と答えた。

この日の午後は、新たな情報がメディアで報じられた。

まず、2週間前の出来事について。スウェーデン海軍の沿岸作戦部隊が小型艇で訓練をしていた所、海中の何らかの物体と衝突し、小型艇が大破。4人の兵士が海に放り出される事件が2週間前に起きていたという。小型艇は沈没したものの、兵士は近くの島に泳ぎ着くことができ、無事だった。場所は現在まさに捜索活動が続くKanholmsfjärden(カンホルムス・フィヤルデン)の海域であった。この時は、海中の大型ブイに衝突した可能性が指摘されたものの、もしかしたら外国の潜水艇であったかもしれないという。

また、日刊紙Dagens Nyheter(ダーゲンス・ニューヘーテル)は、該当海域の島にて黒い服を来てリュックサックを背負った不審人物が目撃され、国防軍諜報部と公安警察が手配中だと伝えた。この不審人物は、島に住む一般住民が目撃し、写真に撮っている。



さらに、この前日話題になった石油タンカーについてだが、東進をやめて、南に向かい始めた。そして、この日の午後、目的地をそれまでのデンマーク海峡からロシアのプリモルスクに変更したと、スウェーデンの海上交通庁が伝えた。また、日刊紙Dagens Nyheterの記者がヘリコプターでこの石油タンカーの上空まで飛び、様子を報道した。「2度ほど旋回してみたが、甲板には誰も見当たらなかった。しかし、操縦席にオレンジ色の服を着た男の姿が最後に見えた」と伝えた。タンカーは海面上に大きく浮いており、積み荷がないことが分かったという。



そして、ニュースがもう一つ。ロシアの調査船Professor Logachevが、昨夜、バルト海に面したサンクトペテルブルクの港を出港したというのである。この調査船は、海中調査や海底探査を得意とする船だという。航海の目的地はスペインのカナリア諸島にあるラスパルマスに設定されているとのことだが、今回の事件との関連性も考えられる。


【 10月19日(日)夜 】

スウェーデン国防軍は記者会見を開き、過去数日の間に不審物体の目撃情報が3件あったことを発表した。一つは、この前日にSvenska Dagbladetがスクープした、群島に住む民間人による17日(金)の昼過ぎの目撃情報だが、同じ日の午前中にも別の目撃情報があったという。また、19日(日)の朝10:15にも群島の間の海域で不審物が目撃されたことがわかった。水面上に何かがあり、この目撃者が写真に収めた直後に、海面下に沈んで姿を消したというのである。

国防軍は、その時の写真の一つを一般に公開した。



とりあえず、今はここまで。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿