スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

SAS:「問題のボンバルディア機、もう使わない!」

2007-10-30 06:53:15 | コラム
9月以来、SAS(スカンディナヴィア航空)の所有するボンバルディア・Dash8/Q-400型機が幾たびも着陸装置の不具合を起こし、緊急着陸出発空港への引き返しをする羽目になった。その都度、同型機の飛行一時停止や一斉点検のために欠航せざるを得ない便が相次いだ(主に北欧内やバルト海諸国の各都市を結ぶ路線)。SASにとっては大きな損失だ。その上、いくら問題部分を点検、改善しても、同様の不具合が後を絶たない状況だ。SASの安全性に対する乗客の信用が失墜するだけでなく、パイロットなどの乗務員からなる組合も「もういい加減にして欲しい」と訴えるようになった。

そして、SASもついに音を上げた「SASの手元にあるボンバルディアの同型機27機は今後、一切使わない」との決定を今日、下したのだ。

27機のうち26機は実際はSASが他の航空会社からリースしているもの。そのため、SASとしてはこのリース契約をどうにか解消できればいいが、そう簡単にはいかない。できれば、別の航空会社にこの契約を売り渡したい。

ともかく、契約の処理や、今後の休航便や代替機の確保のために、莫大な損失が予想される。SASはその損失を製造元であるボンバルディア社に負担させるための交渉を行っていく。

一方、ボンバルディア社は「不具合は補強や改善で処理できるものなので、SASの決定にはがっかりだ。」と答えている。その上、「もしSASが今使っている機体に不満なのであれば、新品同様で無欠陥の同型機にアップグレードしてあげる」と妥協策を提示するものの、SAS側は「そこまでしてもらっても、利用者の信頼は回復できない」とつれない返事。

SAS側は今回の決定の理由を3つ挙げている。つまり、① 乗客の信用回復、② パイロットや乗務員への配慮、そして③ SASというトレードマークに対する信用回復だ。一方、面白いことに、「ボンバルディア機の安全性や技術面が問題だから」とは一言も口にしていない。ラジオのインタビューでこの点を追及されたSASの担当者は「いや、ボンバルディアの同型機の安全性は今でも高いと認識している。今回の決定は、あくまで当社のビジネスやマーケティングを配慮しての決定だ」と答えているのだ。この期に及んで(!)である。

この様な態度をSASが取っている理由は、私が思うに、ここで技術面の欠陥を認めてしまっては、そのような問題機を他の航空会社に引き取ってもらう際に障害となる上、その際の倫理的な責任も追及されかねないためではないだろうか・・・?

さて、なぜSASの使用機に問題が相次いだのか? その理由の一つは、SASがこのモデルDash-8/Q400の最初のお客さん(launch customer)で、開発後の第一世代の機体を入手したためだと考えられる。航空機は一つのモデルでも、使い勝手や性能を徐々に改善していくくにつれ、例えばAタイプ、Bタイプ・・・などのように様々なバージョンが生産されるのらしい。つまり、SASが使ってきたのは、生まれたての一番“粗野な”タイプのものだったのだ。この機の導入は2000年。それから7年経ち、ちょうど今、様々な欠陥が顕在化してくる時期なのだろうか?

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ちなみに、つい先日の着陸で「片脚が折れた」と書いたが、実はそもそも脚が出なかったために、パイロットが緊急着陸に踏み切ったのだということだ。翼のすぐ後ろに座っていた乗客が、“出そこないの脚”を携帯電話で撮っている。

写真の出典:Dagens Nyheter