スウェーデンの今
スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員
 



9月半ばに発表された「2008年予算」では、二酸化炭素税エネルギー税が来年1月1日から引き上げられることが決められた。この結果、ガソリンはリットルあたり0.29クローナ(5円)、ディーゼルは0.55クローナ(9.6円)高くなる。目的は、化石燃料の使用抑制、それから、所得税減税を補う新たな税収の確保。

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スウェーデンの政治において、税制や環境政策などを議論するときに登場する概念の一つが「ekonomiska styrmedel」だ。styrmedelとは社会の発展を操作する手段・ツール、という意味に使われるから「ekonomiska styrmedel」は「社会の発展を操作するための経済的手段・ツール」ということになるだろう。1970年代以降、使われるようになった比較的新しい概念だ。

環境政策で言うなら、二酸化炭素税がその代表例だ。社会全体にとって化石燃料の消費削減が望ましい、という方針が議会を通じて決定されたとする。しかし、我々の社会が市民や企業の自由な経済活動に基づいている以上、国が直接的に国民の消費行動を決定することはできない。しかし「価格」という操作変数を使えば、間接的に影響を与えることができる。つまり、政治的決定によって化石燃料の使用が消費者にとって割高になるように設定する一方で、化石燃料をなるべく使わないライフスタイルをとれば逆に割安になるような経済システムを導入するのだ。化石燃料に課せられる二酸化炭素税は、そのための一つのツールというわけだ。

タバコ税や酒税も、これらの商品の消費を抑えるための政策的ツールと見ることもできる。(嗜好品に対する課税による税収確保と所得の再配分という目的もあるが)

政府が「××を使わないように心がけよう」と努力目標を打ち出しても、誰も見向きもしないかもしれない。逆に、法律や通達によって「××を使ってはダメ」といえば、一番手っ取り早いかもしれないが、監視や罰金徴収の作業などが面倒だ。それに「××がどうしても必要」という人もいるだろうし、そういう状況もあるかもしれない。それに比べて、この「ekonomiska styrmedel(経済的ツール)」の良い点は、各個人が、ある行動を取ることの利益と損失を自分で天秤に掛けながら、意思決定をすることができることである。例えば、どうしても車に乗る必要がある、とする。二酸化炭素税のためにガソリンは高いけれど、そのコスト以上に車に乗る便益は大きい、とその人が判断すれば、割高なガソリンを買う代わりに、車に乗る権利を行使することができる。

「ekonomiska styrmedel」とは、国なり公的機関が、下部の組織や国民に対して「こうしなさい」と直接命令するのではなく、“こういう行動を取れば経済的に得になるような制度的枠組み”を設定する。各個人は、その枠組みの中で様々な選択肢を考慮しながら、自分の頭で考えて行動を決定することができるやり方なのだ。

もちろん、この方法がうまく機能するためには、そのツールが適切な所に用いられなければならない。例えば、税金などによって調整された価格が高すぎて、社会の一部の人に不当な悪影響を与えているかもしれない。もしくは目的達成のためにはまだまだ低すぎるかもしれない。だから、常に検討されなければならない。

今回のガソリン税の引き上げでも、日々の生活でどうしても車が必要な過疎地の人々に大きな負担をかけないようにするため、通勤に伴うガソリン代を所得から控除できる上限が引き上げられることになった。

さて、日本のガソリン価格はスウェーデンの6割程度。化石燃料の使用を抑制しようと思えば、まだまだガソリン税を引き上げる余地はあるのではないか・・・?

<追記>
理論という面からすると、何もスウェーデンだけに特別なものではない。経済学者のコース(Coase)などは、環境汚染の外部性を考慮し、汚染者と被害者が対等な立場で交渉することで、環境汚染の社会的被害を内部化し、汚染のマイナス面を考慮したうえで個人が消費量を決定する、そして、それが社会全体で見ると最適になる、というようなモデルを打ち立てて、ノーベル経済学賞を取っている(と思う)。

ただスウェーデンで注目すべきなのは、その考え方を社会発展の長期ビジョンの中に取り込んで、その一つのツールとして議論し、活用している点だと思う。/font>

コメント ( 3 ) | Trackback ( 0 )


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コメント
 
 
 
興味深いです・・・ (Ma)
2007-10-12 10:45:55
この概念を英語で言うと、economic instruments of controle もしくは economic instruments to govern とでもなるのでしょうか。どういう方の理論が元なのでしょう。
 
 
 
Unknown (Yoshi)
2007-10-16 05:55:32
遅くなりました。

理論という面からすると、何もスウェーデンだけに特別なものではないと思います。経済学者のコース(Coase)などは、環境汚染の外部性を費用化して利用者に課すことで、環境汚染の社会的被害を内部化し、汚染のマイナス面を考慮したうえで個人が消費量を決定する、そして、それが社会全体で見ると最適になる、というようなモデルを打ち立てて、ノーベル経済学賞を取っていると思います。

また、トービン税という環境税も、この考え方に則っていると思います。

ただスウェーデンで注目すべきなのは、その考え方を社会発展の長期ビジョンの中に取り込んで、その一つの経済ツールとして議論し、活用している点だと思います。
 
 
 
Unknown (Ma)
2007-10-16 15:20:12
とても勉強になります。ありがとうございます。
 
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