Sightsong

自縄自縛日記

荒武裕一朗クインテット@新宿ピットイン

2018-12-31 23:08:30 | アヴァンギャルド・ジャズ

大晦日の新宿ピットイン昼の部で、荒武裕一朗クインテット(2018/12/31)。

Yuichiro Aratake 荒武裕一朗 (p)
Takezo Yamada 山田丈造 (tp)
Haruki Ishida 石田玄紀 (as)
Daiki Mishima 三嶋大輝 (b)
Sonosuke Imaizumi 今泉総之輔 (ds)

冒頭の「On Green Dolphine Street」とオリジナル「Talking Junction」において、山田丈造のトランペットの持つ突破力に気付く。一方の石田玄紀のアルトは、次第にさまざまな歌を編み出すのだが、序盤に平板な展開が無くもない。ドラムスの今泉さんのリズムチェンジはそこへの刺激剤のように思えた。続いてトリオで「That's All」、ふたたびクインテットで本田竹広の「Sea Road」(『Back on My Fingers』に入っているとの説明だったが、『Earthian Air』のことだろう)。ピアノは、さすがに本田竹広の弟子筋にあたるだけのことはあって、明るい本田竹広的ブルースだった。

セカンドセットは、トリオで「Knocks Me off My Feet」(スティーヴィー・ワンダー)からはじまった。ここに来て本田竹広の魂のようなものが脈々と受け継がれているのだと思わされる。クインテットとなり、「Time After Time」において、再びドラムスの繊細さに耳を奪われる。太くて気持ちの良いベースソロとなり、それによるドラムスの振動を、今泉さんは即座に止めた。プレイに入るときの絶妙さもまた良かった。

3曲目はオリジナル「閉伊川」。川が流れる岩手県宮古市は本田竹広のふるさとだという。この曲では山田丈造のトランペットがフィーチャーされたのだが、かれはそれに見事に応えた。ストレートでありながらエモーショナルでもあり、吹き始めの「ンワー」という音色などがとても良い。そして荒武さんのピアノに聴き入っていると酒に酔ったようになってくる(本田竹広と同じだ)。盛り上がり高音を叩き、素晴らしい。

4曲目もまたオリジナルの「夕焼け」。今泉さんはプレイヤーたちを睥睨するようでいて、やはり、繊細に観察していることが実感された。プレイヤーを活性化させんとしていることがわかるし、自身のソロでもリズムをその場で独自に構築している。アンコールはピアノソロで、ビリー・ジョエルの「This is The Time」。

全員の個性が出ていてとても良いライヴだった。

2019年からの新ドラマーは本田珠也に替わりこの日の今泉総之輔。2019年3月15日に新アルバム、3月25日に新宿ピットインでレコ発ライヴ、とのこと。

●荒武裕一朗
荒武裕一朗『Time for a Change』
(2015年)


メテ・ラスムセン+クリス・コルサーノ『A View of The Moon (from the Sun)』

2018-12-31 11:38:47 | アヴァンギャルド・ジャズ

メテ・ラスムセン+クリス・コルサーノ『A View of The Moon (from the Sun)』(clean feed、2015年)を聴く。

Mette Rasmussen (as)
Chris Corsano (ds, slide cl)

メテ・ラスムセンのアルトの魅力は、バネのような全身と一体化して放たれる鋭いブロウである。過去に組んでおり、一緒に来日もしたクリス・コルサーノとは、お互いに手の内がわかっているのかもしれないが、だからといって成功体験の再生産には決して堕すことがない(なお、録音は来日より前である)。ここでのメテさんの音はやや塩辛い感じがあり、攻めるところは攻めるが、一本調子ではない。ふくよかな感情表現も、不穏な低空飛行もみごとである。

一方のコルサーノもまた鋭い。それはメテさんとはまた違うタイプの鋭さであり、研ぎに研いだ白刃のようだ。無理してパフォーマンスの際にエネルギーを上げているのではない。

●メテ・ラスムセン
Kiyasu Orchestra Concert@阿佐ヶ谷天(2017年)
メテ・ラスムセン@妙善寺(2017年)
メテ・ラスムセン+クリス・コルサーノ@Candy、スーパーデラックス(2017年)
メテ・ラスムセン+クリス・コルサーノ@Candy(JazzTokyo)(2017年)
メテ・ラスムセン+タシ・ドルジ+タイラー・デーモン『To The Animal Kingdom』(2016年)
メテ・ラスムセン+タシ・ドルジ『Mette Rasmussen / Tashi Dorji』(2016年)

ドレ・ホチェヴァー『Transcendental Within the Sphere of Indivisible Remainder』(JazzTokyo)(2016年)
メテ・ラスムセン+ポール・フラハーティ+クリス・コルサーノ『Star-Spangled Voltage』(2014年)
シルヴァ+ラスムセン+ソルベルグ『Free Electric Band』(2014年)
メテ・ラスムセン+クリス・コルサーノ『All the Ghosts at Once』(JazzTokyo)
(2013年)
『Trio Riot』(2012年)

●クリス・コルサーノ
メテ・ラスムセン+クリス・コルサーノ@Candy、スーパーデラックス(2017年)
メテ・ラスムセン+クリス・コルサーノ@Candy(JazzTokyo)(2017年)
クリス・コルサーノ、石橋英子+ダーリン・グレイ@Lady Jane(2015年)
コルサーノ+クルボアジェ+ウーリー『Salt Talk』(2015年)
メテ・ラスムセン+ポール・フラハーティ+クリス・コルサーノ『Star-Spangled Voltage』(2014年)
アイスピック『Amaranth』(2014年)
エヴァン・パーカー+ジョン・エドワーズ+クリス・コルサーノ『The Hurrah』(2014年)
メテ・ラスムセン+クリス・コルサーノ『All the Ghosts at Once』(2013年)
ネイト・ウーリー『Seven Storey Mountain III and IV』(2011、13年)
ネイト・ウーリー+ウーゴ・アントゥネス+ジョルジュ・ケイジョ+マリオ・コスタ+クリス・コルサーノ『Purple Patio』(2012年)
ロドリゴ・アマド『This Is Our Language』(2012年)


松風鉱一カルテット+石田幹雄@新宿ピットイン

2018-12-31 00:01:44 | アヴァンギャルド・ジャズ

新宿ピットインで、松風鉱一カルテット+石田幹雄(2018/12/30)。

Koichi Matsukaze 松風鉱一(as, ts, fl)
Takayuki Kato 加藤崇之(g)
Hiroaki Mizutani 水谷浩章(b)
Akira Sotoyama 外山明(ds)
Mikio Ishida 石田幹雄(p)

「K2」、「The Original Bill」、「3.11」、「w.w.w.」、「Black Tree in Shochu Island」などお馴染みの曲が多いのだが、そしていつも驚かされるのだが、今回はまたさらに凄いことになっていた。唖然呆然、驚天動地、もう笑うしかない領域。このやりたい放題を平然とやってのける面々は何。

なお、いつもよりもハードな演奏となっていたような気がする。その分、水谷さんのグルーヴが強かったし、叩き続ける外山さんを観ることができたし、狂気寸前で突入する石田さんも体感したし、また加藤さんの動きのアナーキーさといったらない。最近の松風さんは悠然と吹くイメージがあったが、吹きまくる姿にも圧倒される。

このタイミングで録音して欲しい。ということを、終わった後に三丁目で飲みながら師匠に力説した(つもり)。

Fuji X-E2、7Artisans 12mmF2.8、XF60mmF2.4

●松風鉱一
松風鉱一カルテット@西荻窪Clop Clop(2018年)
松風鉱一カルテット+石田幹雄@新宿ピットイン(2018年)
松風M.A.S.H. その3@なってるハウス(2018年)
今村祐司グループ@新宿ピットイン(2017年)
松風M.A.S.H. その2@なってるハウス(2017年)
松風M.A.S.H.@なってるハウス(2017年)
渋谷毅オーケストラ@新宿ピットイン(2017年)
渋谷毅オーケストラ@新宿ピットイン(2016年その3)
松風鉱一カルテット+石田幹雄@新宿ピットイン(2016年)
渋谷毅オーケストラ@新宿ピットイン(2016年その2)
松風鉱一@十条カフェスペース101(2016年)
渋谷毅オーケストラ@新宿ピットイン(2016年その1)
渋谷毅エッセンシャル・エリントン@新宿ピットイン(2015年)
松風鉱一カルテット+石田幹雄@新宿ピットイン(2015年)
渋谷毅オーケストラ@新宿ピットイン(2014年)
5年ぶりの松風鉱一トリオ@Lindenbaum(2013年)
松風鉱一カルテット@新宿ピットイン(2012年)
渋谷毅オーケストラ@新宿ピットイン(2011年)
松風鉱一トリオ@Lindenbaum(2008年)
松風鉱一カルテット、ズミクロン50mm/f2(2007年)
原みどりとワンダー5『恋☆さざなみ慕情』(2006年)
松風鉱一『Good Nature』(1981年)
松風鉱一トリオ+大徳俊幸『Earth Mother』(1978年)
『生活向上委員会ライブ・イン・益田』(1976年)
カーラ・ブレイ+スティーヴ・スワロウ『DUETS』、渋谷毅オーケストラ
森山威男『SMILE』、『Live at LOVELY』 
反対側の新宿ピットイン
くにおんジャズ、鳥飼否宇『密林』


PORTA CHIUSA@本八幡cooljojo

2018-12-30 23:11:50 | アヴァンギャルド・ジャズ

本八幡のcooljojo(2018/12/29)。

Paed Conca (cl)
Hans Koch (cl)
Michael Thieke (cl)
+
Maki Hachiya 蜂谷真紀 (voice)
Nao Takeuchi 竹内直 (ts, bcl, cl)

リーダーのパエド・コンカはレバノン在住スイス人、ハンス・コッホはスイス人(アコーディオンのヨナス・コッハーと近くに住んでいるという)、ミヒャエル・ティーケはドイツ人。クラリネット3人のユニットである。ここに、かれらと共演を積み重ねてきた蜂谷真紀さん、さらにゲストの竹内直さん。音の響きが優しく良いcooljojoで横一列に座り、パエドさん作曲の譜面は見ずに演奏する形となった。

ファーストセット。各人の息遣いや微かな囁きが重ね合わされ、途切れることのないうなりを作り出す。それとともに各人固有の声が浮き彫りになってゆく、そんな発見的な面白さがある。ハンスさんが静寂の中から大胆に飛び出てきて驚くことがしばしばある。ミヒャエルさんのクラは隣人の間を埋める媒体のようだ。パエドさんは高音でも中低音でもリードを出し入れしてサウンド全体を擦った。誰かが声をあげれば他の者はドローンを形成するという、流体のごときユニットにも思える。

そして竹内さんの音は、やはり日本ジャズ的というのか、街の薄暗がりに溶け込むかれらとは異なり、エッジが四角く押し出される別の強さがあるように聴こえた。蜂谷さんは器楽的でありながら、それが人間の声であるという当たり前のことに気付かされるあり方を示した。

セカンドセットは、こんどは真ん中に座った蜂谷さんによるスポークンワード(とは言え立ったりこちら側に介入してきたりする)。それはバベルの塔にのぼろうとする裸の王様の愚かさを言葉にするものに聴こえた。周囲から棒で突くように刺激を与える管楽器。やがて各人が有象無象の民の声をあげはじめた。

雲の中で視る夢のような音楽体験だった。

(ああ、ハンスさんにサーデット・テュルキョズさんのことを聞くのを忘れていた)

Fuji X-E2、7Artisans 12mmF2.8、XF60mmF2.4

●蜂谷真紀
庄田次郎トリオ@東中野セロニアス(2018年)

●竹内直
竹内直+加藤一平@セロニアス(2017年)


佐藤達哉+永武幹子@市川h.s.trash

2018-12-29 11:40:46 | アヴァンギャルド・ジャズ

市川h.s.trash(2018/12/28)。少し早めに着いたから、かつて市川りぶるがあった場所に足を運んでみた。その2階には何も入っていないようだった。

Tatsuya Sato 佐藤達哉 (ts)
Mikiko Nagatake 永武幹子 (p)

「Softly, as in a Morning Sunrise」、「Triste」(ジョビン)に続いて、「Along Came Betty」(ゴルソン)。ここで永武さんのピアノが加速した。同じゴルソンの「I remember Clifford」では、佐藤さんの底面を力強く踏むようなテナーの迫力。そして「Act」(佐藤)。やはりオリジナルでこそ、このテクニシャンの色が出てくるのだろうか、ハード・ドライビングな展開。ピアノもまるで遅れず追跡した。一転して「Danny Boy」では、エアを大きく含んだ色気のあるテナー。しかしピアノソロのあと、急に大きな音で驚かされた。「Hallucinations」(パウエル)は、確かにバド以外の誰が書くのだろうといううねうねした変な曲だが、かれらは、カーブだらけの山道を運転するかのように見事に決めた。

セカンドセット冒頭の「Woody'n You」(ガレスピー)もまた細かな音符で埋め尽くされている。「Afternoon in Paris」(ジョン・ルイス)は永武さんが左手でベースラインを、右手で目が醒めるような旋律を弾いた。続いて「Central Park West」(コルトレーン)を経て、佐藤さんオリジナルの「Minor Resolution」はアクロバティック。「I'll Close My Eyes」はテナーのタンポ音がとても効果的に聴こえた。「Quintessence」(クインシー・ジョーンズ)については、佐藤さん曰く、オリジナルではフィル・ウッズのアルトをフィーチャーしているがテナーでもまた良いとのことであり、確かにここでも音色の微妙な変化を味わうことができた。「Quantum Leap」(佐藤)もまたトリッキーで複雑な曲であり、このふたりはどこまでやるのだろうと思わせる。アンコールは短めの「A Girl from Ipanema」であり、佐藤さんが「A列車」を引用すると永武さんもまた引用する余裕をみせた。

Fuji X-E2、XF35mmF1.4、XF60mmF2.4

●永武幹子
廣木光一+永武幹子@cooljojo(2018年)
植松孝夫+永武幹子@中野Sweet Rain(2018年)
永武幹子+齋藤徹@本八幡cooljojo(2018年)
永武幹子+類家心平+池澤龍作@本八幡cooljojo(2018年)
永武幹子+加藤一平+瀬尾高志+林ライガ@セロニアス(2018年)
永武幹子+瀬尾高志+竹村一哲@高田馬場Gate One(2017年)
酒井俊+永武幹子+柵木雄斗(律動画面)@神保町試聴室(2017年)
永武幹子トリオ@本八幡cooljojo(2017年)
永武幹子+瀬尾高志+柵木雄斗@高田馬場Gate One(2017年)
MAGATAMA@本八幡cooljojo(2017年)
植松孝夫+永武幹子@北千住Birdland(JazzTokyo)(2017年)
永武幹子トリオ@本八幡cooljojo(2017年)


フラヴィオ・ザヌティーニ『Born Baby Born』

2018-12-28 14:30:45 | アヴァンギャルド・ジャズ

フラヴィオ・ザヌティーニ『Born Baby Born』(clean feed、2018年)を聴く。

Opacipapa:
Flavio Zanuttini (tp)
Piero Bittolo Bon (as)
Marco D'Orlando (ds)

トランペット、アルトサックス、ドラムスという編成であるためか、各プレイヤーの主張がその都度主役になっていて面白い。ときにジョン・ゾーンのMASADAを思わせるキメの瞬間もあるのだが、これはMASADAよりも奇妙に浮かれている。

ピエロ・ビットロ・ボンのアルトの声によるところもあるだろう。また、ライナーノートでユージン・チャドボーンが書いているように、ベースがいないことで自由度が増したからかもしれない(かれはバスドラムがベースの役割を果たしもすると指摘している)。

●ピエロ・ビットロ・ボン
ピエロ・ビットロ・ボン(Lacus Amoenus)『The Sauna Session』(2012年)
ピエロ・ビットロ・ボン『Mucho Acustica』(2010年)
ジャズ・ガウロンスキー『Jaruzelski's Dream』(2008年)


ギレルモ・セラーノ+ヨアヒム・バーデンホルスト+マルコス・バッジャーニ『Lili & Marleen』

2018-12-28 12:38:20 | アヴァンギャルド・ジャズ

ギレルモ・セラーノ+ヨアヒム・バーデンホルスト+マルコス・バッジャーニ『Lili & Marleen』(cleanfeed、2016年)を聴く。

Joachim Badenhorst (cl, bcl, ts)
Guillermo Celano (g)
Marcos Baggiani (ds)

ヨアヒム・バーデンホルストの吹く音は独特で、いつもサウンドのマチエール、サウンドのテクスチャーと一体化する。それは目立たせるように前に出てきて吹かないからだが、それでも、ヨアヒムの存在は常に感じられ、ああヨアヒムの音だと嬉しくなる。本当に好きな人である。

ここではアルゼンチンのギタリスト、ドラマーとトリオを組んでいる。かれらの佇まいがそのままサウンドになったようだ。曲はほとんどオリジナルだが、1曲目はあの「Lili Marleen」であり、時間も感情もトリップした世界を作っている。

●ヨアヒム・バーデンホルスト
Poem of a Cell Sound / Film Installation & Concert in Tokyo@ドイツ文化センター(2018年)
Spontaneous Ensemble vol.7@東北沢OTOOTO(2017年)
LAMA+ヨアヒム・バーデンホルスト『Metamorphosis』(2016年)
ハン・ベニンク『Adelante』(2016年)
安田芙充央『Erik Satie / Musique D'Entracte』(2016年)
ダン・ペック+ヨアヒム・バーデンホルスト『The Salt of Deformation』(-2016年)
ヨアヒム・バーデンホルスト『Kitakata』(2015年)
カラテ・ウリオ・オーケストラ『Garlic & Jazz』(JazzTokyo)(2015年)
カラテ・ウリオ・オーケストラ『Ljubljana』(2015年)
パスカル・ニゲンケンペル『Talking Trash』(2014年)
ヨアヒム・バーデンホルスト+ジョン・ブッチャー+ポール・リットン『Nachitigall』(2013年)
ハン・ベニンク『Parken』(2009年) 


吉田哲治『Jackanapes』

2018-12-28 10:32:04 | アヴァンギャルド・ジャズ

吉田哲治『Jackanapes』(Yoshida Music、2018年)を聴く。

Tetsuji Yoshida 吉田哲治 (tp, p, sonar le)

吉田哲治さんの印象深い演奏はガイくんや渋オケの1989年の録音なのだが、こうしてソロを聴いてみるとそれらとはまた違って、実に味わい深い。音色も味わい深いし、間も味わい深い。ピアノがその間をさらに味わい深いものにしている。ジャケットの路地も味わい深い(調布かな)。寂しくて哀しくて、そのへんで飲んでいる夜中。ソロだけど味わい深さ何重奏か。

●吉田哲治
のなか悟空&元祖・人間国宝オールスターズ『伝説の「アフリカ探検前夜」/ピットインライブ生録画』
(1988年)
生活向上委員会大管弦楽団『This Is Music Is This?』(1979年)


石川晶とカウント・バッファロー『OKINAWA』

2018-12-27 00:23:57 | アヴァンギャルド・ジャズ

石川晶とカウント・バッファロー『OKINAWA』(King Records、-1976年)を聴く。

石川晶 (ds)
直居隆雄 (g)
市川秀男 (key)
寺川正興 (b)
ラリー須永 (perc)
羽鳥幸次 (tp)
新井英治 (tb)
村岡 建 (ts, as)
鈴木正男 (bs)
大野グループ (strings)
タイム・ファイブ (vo)
伊集加代子 (vo)

たいへんなオリエンタリズムである。妄想の沖縄が、すぎやまこういちの編曲により、わけのわからない形になっている。

しかし愉しい。石川晶のコテコテなドラムスも良いし、コーラスも魔界的熱気を煽っている。一応は「谷茶目」をやっていたりもするのだが、果たしてこの妄想の沖縄が現実の沖縄にどのように受容されたのか。


加藤政洋『敗戦と赤線』

2018-12-26 08:10:27 | 政治

加藤政洋『敗戦と赤線~国策売春の時代~』(光文社新書、2009年)を読む。

本書は、集団売春街がどのように形成されたのかを追っている。それは主に前借金にもとづく管理売春であり、狭義の「赤線」に限るものではなかった。また、戦前の遊郭や私娼街が存続した場所ばかりではなかった。色々なタイプがあった。

驚くべきことは、こういった施設は政府や警察の強い意向で作られたことである。敗戦後すぐの1945年8月18日、内務省から警察宛てに、外国人向けの「性的慰安施設」を充実させるよう命令があった(国務大臣は近衛文麿)。すなわち、占領軍から日本人を護るために日本人を差し出すという人柱政策、「性の防波堤」に他ならなかった。

明らかになるのはこれにとどまらない。施設は急に拵えられたのではなく、戦中の軍人や軍需工場の「産業戦士」に向けられた慰安所から地続きであった。また、GHQが公式に制度を解体させてもなお別の形で存続させた。

本書では東京の主な地域の他、岐阜、京都、沖縄についてもその経緯を検証している。ここでも驚く指摘がある。那覇の栄町は、戦後の発展の中心として企図されながら、たまたま別の遊興の場所になってしまったのではなかった。戦前の大遊郭・辻に取って替わる歓楽街として、なかば意図的に囲い込まれたというのである。

占領軍の意図を超えて、非占領側が自国民を差し出す構図。「占領軍」を別の形に読み替えてもよい。これは現在の構図でもあるだろう。

●参照
藤井誠二『沖縄アンダーグラウンド』
木村聡『消えた赤線放浪記』
マイク・モラスキー『呑めば、都』
滝田ゆう『下駄の向くまま』
滝田ゆう展@弥生美術館
川島雄三『洲崎パラダイス赤信号』


アリス・コルトレーン『Spiritual Eternal』

2018-12-26 01:03:46 | アヴァンギャルド・ジャズ

アリス・コルトレーン『Spiritual Eternal』(Warner Bros.、1976-77年頃)を聴く。

アリスのワーナー時代のスタジオ録音を集めたものである。すなわち、『Eternity』(-1976年)、『Radha-Krsna Nama Sankirtana』(-1977年)、『Transcendence』(-1977年)の3枚であり、ライヴ録音の『Transfiguration』(1978年)は含まれていない。

パーソネル
『Eternity』
『Radha-Krsna Nama Sankirtana』
『Transcendence』

アルバムとしては、『Transcendence』が多くの弦楽器やコーラスと共演して壮大なサウンドとなっており、その前の2作が比較的シンプルである。とは言え、アリスのオルガンのカラーはすべての時間で濃密極まりない。執拗に濁った音を繰り返し、また彼女ならではの曲想でもある。ハープもまたアリスの音だ。それらが信仰に直結した音楽であろうから、これまでジャズ作品として色眼鏡を通して評価されていたのだろうけれど、いやそれにしても心の力に気圧される。それにチャーリー・ヘイデンとの共演なんて、匂いの結合に動かされる。素晴らしい。

●アリス・コルトレーン
アリス・コルトレーン『Translinear Light』(2000、2004年)
アリス・コルトレーン『Turiya Sings』(1981年)
アリス・コルトレーン『Universal Consciousness』、『Lord of Lords』(1971、1972年)
アリス・コルトレーン『Carnegie Hall '71』(1971年)
アリス・コルトレーン『Huntington Ashram Monastery』、『World Galaxy』(1969、1972年)
「JazzTokyo」のNY特集(2017/7/1)
「JazzTokyo」のNY特集(2017/8/1)


スコット・フィールズ『Barclay』

2018-12-25 00:19:11 | アヴァンギャルド・ジャズ

スコット・フィールズ『Barclay』(Ayler Records、2018年)を聴く。

Scott Fields (g)
Matthias Schubert (ts)
Scott Roller (cello)
Dominik Mahnig (perc)

いっぷう変わったスコット・フィールズのコンポジション。ストップ・アンド・ゴーの要領で、チェロが奇妙なダンスのように立ち上がり、マティアス・シューベルトの粘るテナーが、構造を糊で維持し、時間を辛抱強く進行させる。

これが2曲目になると、悪ふざけのように一気にどしゃめしゃと騒ぐ。それでも糊はシューベルトのテナーだ。3曲目になってようやくフィールズのギターが目立ってくる。この人もヘンな人かな。

●マティアス・シューベルト
7 of 8 @ Jazzkeller 69(2018年)
藤井郷子オーケストラベルリン『Ninety-Nine Years』(JazzTokyo)(2017年)


アーサー・ドイル+水谷孝+豊住芳三郎『Live in Japan 1997』

2018-12-24 21:55:31 | アヴァンギャルド・ジャズ

アーサー・ドイル+水谷孝+豊住芳三郎『Live in Japan 1997』(Qbico、1997年)。2枚組ヴァイナル。

Arthur Doyle (ts, fl, voice)
Takashi Mizutani 水谷孝 (g)
Sabu Toyozumi 豊住芳三郎 (ds)

1997年11月14日、MANDA-LA2でのライヴ。この時の来日時の演奏は、『Live in Japan Doing the Breakdown』にも収録されている(仙台私立現代美術館=2005年に閉館、バーバー富士、酒游舘)。しかし、それはときどきレコ屋で見かけるものの、いまだに持っていない。本盤もわりと最近入手した。というのも、当時行こうと思ったのに、放蕩が過ぎて本当にオカネが捻出できなかったのだ。悔しさのあまり、しばらく聴く気がしなかった。

そんなことはともかく、怨念のスープのごとき演奏である。豊住芳三郎はときおり強くなるパルスで活を入れるのだが、アーサー・ドイルと水谷孝とは徹頭徹尾ぐちゃぐちゃに連続的な活を入れ続けている。どちらがギターでどちらがサックスかわからなくなることもある。このパワーは怒りによるものか、あるいは何か。仮に当時観ていたら、脳はもっとやられていただろう。残念。

豊住氏は、水谷孝について、「彼の”戦闘スピリッツ”と思われる姿勢は私の中では、阿部薫と”同等””同質”のものだった」と書いている。ところが、山内テツとのトリオでの演奏はリハまで、2011年の欧州ツアーは受け入れ側との条件の違いで頓挫したらしい。(『Art Crossing』第2号/特集・豊住芳三郎、2018年、ちゃぷちゃぷレコード)

ところで、このQbicoレーベルは他の作品と同様に、本盤についてもどうも怪しい出し方をしたようである。

●豊住芳三郎
ジョン・ラッセル+豊住芳三郎@稲毛Candy(2018年)
謝明諺『上善若水 As Good As Water』(JazzTokyo)(2017年)
ブロッツ&サブ@新宿ピットイン(2015年)
豊住芳三郎+ジョン・ラッセル『無為自然』(2013年)
豊住芳三郎『Sublimation』(2004年)
ポール・ラザフォード+豊住芳三郎『The Conscience』(1999年)
加古隆+高木元輝+豊住芳三郎『滄海』(1976年)
加古隆+高木元輝+豊住芳三郎『新海』、高木元輝+加古隆『パリ日本館コンサート』(1976年、74年)
豊住芳三郎+高木元輝 『もし海が壊れたら』、『藻』(1971年、75年)
富樫雅彦『風の遺した物語』(1975年)


栗林すみれ『The Story Behind』

2018-12-24 14:19:30 | アヴァンギャルド・ジャズ

栗林すみれ『The Story Behind』(Somethin' Cool、2018年)を聴く。せっかくなのでヴァイナルで。

Sumire Kuribayashi 栗林すみれ (p)
Yuki Ito 伊東佑季 (b)
Hideaki Kanazawa 金澤英明 (b)
Tomohiro Yahiro ヤヒロトモヒロ (perc)
Hiro Kimura 木村紘 (ds)
Kengo Komae 小前賢吾 (ds)

いきなり富樫雅彦の名曲「Waltz Step」。いろいろなピアニストが弾いているが、やさしく重ね合わさって浮き立つようなサウンドはそれらとはまた全く異なっていて、本人のものだろうか、ハミングとともに陽光が射しこんでくるようだ。

他のオリジナル曲もすべて良くて、聴いていて嬉しくなってくる。B面1曲目の「Halu」なんて、こんなところに悦びがあるんだなと思わせてくれる。


北村京子『Protean Labyrinth』

2018-12-24 12:07:45 | アヴァンギャルド・ジャズ

北村京子『Protean Labyrinth』(self-released、2018年)。

Kyoko Kitamura's Tidepool Fauna:
Kyoko Kitamura 北村京子 (voice)
Ingrid Laubrock (ts)
Ken Filiano (b)
Dayeon Seok (ds)

サックスは人間のヴォイスに近いとはよく言われることであって、確かにここでもイングリッド・ラウブロックのふくよかなテナーとの共存にそのことを感じなくもない。だがそのような思い込みがあるからこそ、また、ヴォイスとサックスとの違いが際立ってくる。

北村京子の旧作『Armadillo In Sunset Park』(2012年)は、ソロのピアノとヴォイスによって、まるで身の回りの不思議な世界をユーモラスに想像させてくれるものだった。意味を持つ単語を使わないヴォイスのみによる『Protean Labyrinth』は、それとまったく異なるようでいて、同じものが常に胎動している。それは何かを伝えようとしたり、囁きで何かを企てようとしたりする、ヴォイスの気配なのかもしれない。

ダヨン・ソクのドラムスは、ヴォイスとサックスによるマッスを削ろうと策動する。あるいは逆のこともある。

この3月(2019年3月)には来日し、3月9日(土)と10日(日)に、「坪口昌恭さんとのコラボで、坪口さんが選りすぐった東京の若手ミュージシャン及び北海道からは吉田野乃子さん、合わせて6人のアンサンブルでアンソニーブラクストン楽曲の公開勉強会を行います」とのこと、楽しみだ。

>> 定淳志さんのレビュー