不動産の2022年問題をご存知でしょうか?これは、いずれ戸建て住宅を郊外に持ちたい人にとってはチャンスかもしれません。あと5年待つのも選択肢の1つです。(『午堂登紀雄のフリー・キャピタリスト入門』午堂登紀雄)
※本記事は有料メルマガ『午堂登紀雄のフリー・キャピタリスト入門』2017年5月8号を一部抜粋したものです。興味を持たれた方は、ぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:午堂登紀雄(ごどう ときお)
米国公認会計士(CPA)。1971年生まれ、岡山県出身。中央大学経済学部 国際経済学科卒。株式会社エディビジョン代表取締役。一般社団法人 事業創造支援機構代表理事。
「なぜこんな場所に農地が」と思ったことはありませんか?
不動産の「2022年問題」とは
今から5年後に起こるであろう、「2022年問題」をご存知でしょうか。
端的に言うと、都市圏にある農地の一部が放出されて膨大な数の住宅が建築され、不動産価格が下落するのではないかと言われている問題です。
これは「生産緑地問題」とも言われることがあり、生産緑地法に基づいています。
1974年、市街化区域内の宅地化を促す目的で生産緑地法が公布されました。この法律により大都市圏の一部では農地の「宅地並み課税」が行われ、都市近郊の農地のほとんどが宅地化されることになりました。
その後、1992年に同法が改正され、一部自治体が指定した土地の固定資産税は農地なみに軽減され、また相続税の納税猶予が受けられる「生産緑地制度」が適用されました。
生産緑地とは、住宅の建築が可能な市街化区域内の面積500平米以上の土地のことで、生産緑地の指定を受けると建築物を建てるなどの行為が制限され、農地としての管理が求められます。
生産緑地制度が適用されたのは首都圏・近畿圏・中部圏内の政令指定都市、その他の一部地域です。
都市部の住宅地の中に、時折ぽっかりと畑があり、「なぜこんな場所に農地があるんだろう?」と感じてしまうような場所に遭遇したことはないでしょうか。これらはほぼ生産緑地です。
東京都だけで「ドーム724個分」の生産緑地
では、これの何が問題なのか。
1992年の改正により、生産緑地の指定から30年後が経過すると、所有者が農業を続ける意志がない場合、市区町村の農業委員会に土地の買い取りを申し出る事が可能となります。
つまり、それが2022年になるわけです(それまでは所有者が死亡したり病気などで農業に従事できなくなったなどの場合しか買い取り申し出はできません)。
法律では、市町村は特別な事情がない限り時価で買い取らなければならないと定めていますが、主に財政負担が難しいという事情から、今まで買い取るケースはほとんどどありませんでした。
市町村が買い取らない場合、市町村の斡旋によって買い手を探すわけですが、生産緑地として買う人(つまり営農する人)がいなければ、この生産緑地指定が解除されます。
生産緑地が解除されると、従来は固定資産税が宅地の1/200分のとして減額されていたものが、軽減が無くなり一気に跳ね上がります。
生産緑地の所有者の多くは高齢者と見られ、農業を継続できない人もいるでしょう。かといって少なくとも500平米はあるため、その固定資産税が宅地並みになればあまりに高額となる。
そのため土地の維持ができず、売却などで一斉に手放す所有者が続出する可能性があるわけで、それを大きなビジネスチャンスとして虎視眈々と狙っているのがハウスビルダーやマンションデベロッパーです。
では、そのような土地がどのくらいあるかというと、平成26年のデータによると、
生産緑地(ha) 東京ドーム(4.6ha)個数換算
埼玉県 1,824.80 397
千葉県 1,188.51 258
東京都 3,329.80 724
神奈川県 1,404.10 305
愛知県 1,206.02 262
大阪府 2,100.40 457
つまり、東京都だけでもドーム724個分の生産緑地があることになります。
もちろんすべての生産緑地が解除されることはないですし、土地開発の際には道路用地も必要なので宅地の有効面積はもう少し小さくなりますが、もしこの土地に新築一戸建てが建築されれば、東京都だけでも25万戸以上の戸建てが供給されることになります。
これが賃貸アパートや賃貸マンションの集合住宅であれば、賃貸物件の供給戸数も一気に増えますから、需給バランスを大きく歪めることになりかねないのです。
埼玉県羽生市の悲惨な事例
それをすでに経験した地域があります。かつてNHKでも特集された埼玉県羽生市です。
市は2003年、人口増を見込んで、住宅建設が原則不可となっている市街化調整区域の農地に住宅を建築できるよう条例を定めました。その結果、市街地から遠く賃貸には向かない立地に新築アパートが乱立し、おびただしい空き家を生んでしまったというのです。
政府もこの問題を認識しており、都市農地の保全を推進する姿勢を示し、生産緑地制度の改正も視野に入れているようですが、生産緑地を優遇しすぎている現状にも問題があると指摘されているなど、有効打となるかは不透明です。
そこでカギを握るのは、自治体の構想力とリーダーシップではないでしょうか。
一例として、パナソニック、野村不動産、横浜市が2015年3月から取り組んでいるスマートシティプロジェクト「Tsunashima サスティナブル・スマートタウン」が挙げられます。
ここは生産緑地ではありませんが、横浜市港北区綱島地区にあるパナソニックの工場跡地を活用し、次世代エネルギーシステムの導入をはじめ、さまざまな先進技術の導入による都市型スマートシティの構築を目指すプロジェクトです。開発を進めるのはパナソニック、野村不動産の2社を主幹事とする合計10団体ですが、横浜市も参画して進められています。
これは特殊な例かもしれませんが、介護施設や保育所を運営する企業、ショッピングモールを運営する企業、あるいはコンパクトシティなどの計画都市を、自治体がリーダーシップを持って街づくり構想を持ち、所有者や企業に働きかけることが必要です。
公園や通学路への転換、家庭菜園事業などといった用途は限定されますから、誰かが音頭を取らなければ土地は利益追及の不動産業者に売り渡され、ハウスビルダーの草刈り場となるでしょう。
結果、不動産価格や賃貸物件の賃料が大きく下落しかねないわけです。
個人はどう備えるべきか?
都市部の生産緑地は、通常は駅徒歩10分圏内にあるような立地は少ないため、本来は収益物件としては適さないことがほとんどです。
さらに昨今は投資物件への過大な融資が行われていることが問題視されており、金融庁も金融機関への通達や検査等によって引き締めの方向へと舵を切っています。
そのため金融機関サイドも、賃貸需要が見込めにくい場所への融資は控えるようになるはずです。
また、マンション在庫もだぶついていますから、マンションデベロッパーも売れ残りを恐れ、優良立地以外には触手を伸ばさないでしょう。
つまり、生産緑地跡に集合住宅が無法地帯のように乱立するという状況は想定しにくいと考えられます。
また、立地重視・資産価値重視の家選び・投資物件選びをしたい人にもあまり関係ないと言えるでしょう。
そもそも都心部や駅近には生産緑地はまず存在しないので、地価にしても賃料にしても、都心や駅近では2022年問題の影響はさほど大きくないと想定されます。
影響を受けるとすれば、ファミリータイプのアパートや戸建ての購入を考えている人たちや、すでに所有している投資家になります。
「2022年問題」の影響を最も受けるのはファミリー向け物件
ファミリーは車を持っていることが多いため、駅から離れても賃貸としての需要はあります。
それはアパート建築メーカーもわかっており、そういうプランを地主に提案しますから、ファミリー向け賃貸アパートが増え、空室増加、賃料の下落圧力が高まるという事態は想定されます。
賃貸アパートを借りる人にとってはメリットですが、所有する人にはリスク要因です。
同様に、一戸建ても駅徒歩○分といった概念はあまり通用せず、デベロッパーやハウスビルダーは広い土地を買い取って区画整理し、分譲戸建てとして売り出すでしょう。
すると、低廉な新築戸建てが乱立する可能性は高く、将来家を買う人は安く買える一方、すでに所有している人にとっては自宅の資産価値の下落が待ち受けています。
それはイコール、戸建て賃貸をしている投資家にとっては直接的な競合になるリスクとなります。
戸建て賃貸は、いったん入居が決まれば比較的長い期間の入居が期待できる一方、一般の戸建てより低コスト・ローグレードな仕様であることが多いため、魅力度で負けやすい。
現状で賃貸が決まっていても、いったん退去されるとリフォーム費用がかさむにもかかわらず、なかなか次が決まらないという事態になる可能性は否定できません。
とはいえ、自治体や業者の動きも地主の判断も私たちにはコントロールできず、どうなるかはわからない。ではコントロールできることは何か。
不動産投資家であれば、やはり立地上不利な物件を手放していき、2022年以降の環境変化を観察することではないでしょうか。
むろん、賃料を下げる余力を生めるよう繰り上げ返済を続けるとか、設備やデザインの見直しによるリフォームといった競争力を上げる努力も必要とはいえ、立地は変えることができません。
自分が売りたいときには、みんなも売りたがっているので、なかなか売れない状況になるのが通常です。
2022年以降になって慌てても選択肢が狭まるだけ。だから「売れる時に売っておく」という判断も必要です。
郊外に家を買うなら、あと5年待ってみるのも手
もうひとつ、いずれ戸建て住宅を郊外に持ちたいと思っている人にはチャンスかもしれません。
すでに過剰状態にある戸建て市場に、さらなる供給がなされると、売れ残った新築戸建ての値下げ合戦が起こるかもしれません。
いずれにせよ、もともと中古住宅を買おうと思っていた人が低廉な新築住宅に流れ、中古住宅の価格の下落が予想されます。
戸建てを希望していて、もし急ぎでなければ、あと5年待ってみるのも悪くはないかもしれません。
ただし前述のとおり融資環境も変化しますから、どこで判断するかは人によって異なるのは言うまでもありません。
それに、価格は住まい選びの一要素に過ぎず、「その場所」は世界にそこひとつしかない家族の戦略基地です。
そのため、価格だけではなく、ライフスタイル全体を見据えたうえで最適な住まい選びは何かという軸を持つことが必要です。