2011/04/05, , 日経産業新聞
原子力発電の安全神話が大きく崩れた福島第1原子力発電所事故。世界の原子力大手、米ゼネラル・エレクトリック(GE)と仏アレバの首脳は相次いで緊急来日し、日本政府と東京電力などに支援策を打ち出した。問題の長期化は原子力メジャーの世界戦略にも大きな打撃となるだけに事態の収拾を急ぐ。
4日午後2時。東京・霞が関の経済産業省を訪れたGEのジェフ・イメルト会長兼最高経営責任者(CEO)は終始、厳しい表情を崩さなかった。
「長期にわたって日本を支援したい」。原子力事業で手を組む日立製作所の中西宏明社長とともに海江田万里経産相を訪問した同会長は、被災者へのお見舞いの言葉の後で、全方位で日本政府と東電を支援することを表明した。
福島第1原発はGEが開発した「沸騰水型」と呼ばれる種類で、同社は1号機の原子炉製造などを担当。2号機も東芝と共同で受注した。日立とは米国の原子力開発計画が停滞し事業を縮小していた2007年に原子力部門を統合、提携関係にある。
約25分の会談後、イメルト会長は経産省1階ロビーに集まった約100人の記者団を前に「GEとしてあらゆる支援をする」と重ねて強調。原子炉の製造責任の有無についての質問が飛ぶと、表情はさらに固くなり「我々の役割は東電などを支援することだ」と述べるにとどめ明言を避けた。
第2の来日目的は、夏場に向けて、日本での電力供給力向上の支援表明だ。
「事態収拾に向けて協力したい」。3日午後、イメルト会長は東電の勝俣恒久会長らと事故後初めて会談。東電側からは原子力担当の武藤栄副社長、火力担当の相沢善吾常務も出席し、火力発電所の増強策などについて協議した。ガスタービンの日本向け出荷の準備に入ったことも表明した。
世界最大の原子力技術会社、アレバの動きはもっと速かった。
「(3月)25日には成田に到着できる」。大震災発生から5日後の3月16日、アレバは提携先の三菱重工業を通じて東電に対し、必要な資機材を満載した世界最大級の輸送機「アントノフ」の到着日まで指定する具体的な支援策を提案した。
3月31日にはロベルジョンCEOのほか、サルコジ仏大統領、放射性廃棄物処理の専門家らが次々と来日した。アレバは放射性物質を含む水処理、使用済み核燃料、沸騰水型軽水炉(BWR)の3分野の専門家20人を東電に派遣。ロベルジョンCEOは「必要な専門家はいくらでも派遣する」と経産相らに約束した。
原発は30の国・地域で440の発電所が運転中とされる。多くの原発の名目上の寿命は25年から40年だが、米国では40年の運転寿命を60年に延長することが検討されている。さらに米国では20を超える原発新設案がある。
世界のエネルギー需要が15年には1980年時点の2倍に達する試算もあり、中国やインドなど新興国を中心に原発の新設計画は相次ぐ。GEのイメルト会長は福島原発事故発生後の3月14日、同社のインドでの原発新設計画に「変更はない」と表明した。
世界で福島第1原発事故の状況が連日報道されるに伴い、各国で原発の安全性について議論が高まっている。一方で「将来的にエネルギー安全保障、地球温暖化の両面から欠かせない役割がある」として、米国やフランスなどでは大きな政策変更の検討が進まないとの見方もある。
日本の原子力産業が苦境に陥っている間にも、競合国の動きは止まらない。GEとアレバの積極的な支援姿勢は、政府と一体となった原発戦略といえそうだ。(松井健)
【表】福島原子力発電所の主契約者
第1原発 1号機 米GE
2〃 米GEと東芝
3〃 東 芝
4〃 日立製作所
5〃 東 芝
6〃 米GEと東芝
第2原発 1号機 東 芝
2〃 日立製作所
3〃 東 芝
4〃 日立製作所
【図・写真】海江田経産相との会談を終え、記者の質問に答えるイメルトGE会長(右)と中西・日立社長(4日)
【図・写真】アレバのロベルジョンCEO(左)と握手する海江田経産相(3月31日)