燻製を始めて20年以上になりますが、大きなポイントは3つ有ると思っています。
①良い材料を使うこと②塩の選定と塩加減③燻製の温度と時間です。
①と②は人の感覚で判断可能ですが③の温度については、マニュアル本とかネット上での結果が報告されていますが、大抵は燻製温度という表現です。中には温度がアバウトであったり温度に幅を持たせたりしています。本当に大事なのは燻製中の材料に加えられた時間と温度です。レベルの高い人は燻製中(含む湯煎中)の中心温度と時間を決めて燻製しています.
これまでの調査結果と実験結果(本ブログの別記事参照)から纏めて見ました。
燻製温度
燻製の作り方を書いた本やネット上には、作る対象によって乾燥温度と時間、燻煙する温度と時間さらに湯煎する場合は温度と時間が記載されています。あくまでもこれは目安にしかなりません。燻製する装置あるいは道具により、温度設定のレベルが違う、雰囲気温度の材料への熱伝達も装置のサイズや煙の逃がし方によって変わってきます。先ず自分の燻製器で設定(目標)温度に対して実際の温度がどうなっているか把握している人は少ないです。昔からベーコンを作っていますが、一応ON-OFF型の温度調整器を付けて燻煙していたのですが、内部まで火を通すと外側が黒く焦げており、以降設定温度を下げ内部に火が通っていないところを湯煎で加熱しています。2年前に温度調整をバラツキの少ないPID制御方式に変更しました、これで雰囲気温度を±1℃に抑えることが可能になりました。温度調整器の性能を比較してみました。
左はロバートショーの温度調整器です、内部の液体の膨張でON-OFF制御します。このタイプの温度調整器を使用している方が沢山いると思います。私の燻製器はφ450高さ680の灯油タンクを改造したもので中に1100Wのヒータが入っています、75℃に温度設定した結果実際の温度は上に+7~8℃、下に-7~8℃で、15℃のバラツキがあります。ヒータの能力が小さければハンチングは少なくなります。教科書どおり75℃でベーコンを燻製すると中は火が通っているが外が黒く焦げます。右はOMRONの温度調整器です。PID制御します。加熱だけなら誤差0℃です。燻煙中は±1℃の誤差レベルです。
温度がバラツク状態で燻煙すれば燻煙時間の決め方はいい加減なものになります。温度が正確での燻煙時間になりますが、本に書いてある通りもしくは他人の報告に基づいて燻製してみても思った通りにならないことが多いです。書いた人の温度管理や装置がどうなっているのか分からないし、燻製を作る側の温度管理レベルと装置のこともあります。要は試行錯誤でないと思ったものが出来ない状態です。教科書どおり出来ないところに燻製の面白さと奥深さがあると思います。
推薦する温度調整器
温度調整器の購入を考えているのなら、PID制御できる調整器と先端が尖った熱電対のセットがお勧めです。燻製時だけではなく湯煎時の温度が正確に制御出来、肉の内部温度の測定にも使用できます(温度調整との同時は出来ません)。
燻製時間
燻製の時間については、時間どおりやっても大抵は対象物の温度は設定温度よりも低くなります。これは加熱した空気で対象物を加熱するには空気と対象物の熱伝達が悪いため長時間の加熱が必要となります。魚の干物とかベーコンくらいの比較的厚みが小さい物なら燻製時の加熱だけで内部まで火が通ります。もし内部に火が通っていなければ温度を高くするか時間を長くすれば解決します。
燻製中のベーコンの芯部の温度測定結果です。50℃で1時間乾燥後70℃で燻煙したものです。8.5時間でやっと60℃です。いつもベーコンは燻煙5時間くらいでやっています。芯部温度は55℃位で、温度不足なので湯煎を追加しています。ベーコンでは燻煙の温度を75~80℃位で実施すれば芯部は63℃を超えて湯煎が不要になると思いますが、表面の焼き過ぎを嫌って私は70℃での燻煙をしています。
肉の厚みの大きなロースハムなどになると、燻煙中の加熱だけでは芯部まで温度上げることが出来ないので、薫製後の湯煎が必要となります。教科書では50~55℃で2時間乾燥、55~60℃で3時間燻煙、湯煎はたっぷりの鍋に水を入れハムを入れてゆっくり温度を上げ75℃で1.5時間ボイルするとある。
厚み70mmの肩ロースの燻製時の表面温度と芯部温度を測定した結果です、55℃で煙りなし2時間、同じく55℃で燻煙3時間です。表面芯部ともほぼ同じ37~38℃になっています。上昇曲線から温度は収れんに近く時間をかけても温度はなかなか上がらない状態です。表面温度が低い状態で燻煙しています。燻製の香りを増すには65℃まで温度を上げても良いかと思われます。
温度設定と実際の温度
燻製中の設定温度と実際の素材の温度の差があるということです。燻煙の温度だけで目標温度(多分殺菌がされる温度)に達しません。大抵は燻煙時の温度を試行錯誤で調整しているものと思います。ベーコンや魚などでは多少温度が高くなって肉が硬くなっても我慢できます。一方ロースハムでは元々燻煙だけで目標温度にするには難しく、後の湯煎がポイントとなります。
湯煎の温度と時間
湯煎の温度と時間は殺菌の温度と時間に大きく関わっています。殺菌の点では、芯部が70℃1分あるはよりシビヤな75℃1分とかあります。芯部をこの温度にするには外側の部分はもっと高くなります。これでは、硬い肉になります。
美味しい豚肉
NHKの「ためしてガッテン」にペプチド自体には味はありませんが、肉全体の味をまろやかにするといわれています。ペプチドは50℃~60℃の温度帯を通過するときに、最も増えます。この温度帯に長く置くには「かたまりの肉」を使います。かたまり肉の状態で蒸すとゆっくり温度を上げることができるため、50℃~60℃の温度帯を通る時間帯が長くなります。プロは、かたまり肉で加熱をした後スライスし、様々な料理に応用していたのです。かたまり肉の蒸し時間は、300グラムの場合、中火で30分です。
上の図から62℃からタンパク質の凝固が開始し68℃からタンパク質の収縮が開始するとあります。一般細菌の死滅温度は60℃となっています。
以上のことから、タンパク質が硬化しないで殺菌ができる温度は60~62℃になります。旨みを増すためにはコラーゲンを分解しゼラチン化すれば旨くなると言われています。コラーゲンは加熱調理によってゼラチン化し、溶けたゼラチンはさらに小さな断片(ペプチド)にまで変化します。コラーゲンの分解温度は68℃以上ですが、時間をかければ低い温度で分解するとのことです。
それではどれだけ時間をかければよいのか、ネットで調べると60℃で短いものは2時間長いものは24時間となっていました。
殺菌の温度と時間
一方殺菌の関係から60℃で殺菌可能かどうか可能なら保持時間をどうするかが調査必要です。殺菌条件として70℃1分または63℃30分あるいはそれと同等以上の殺菌条件とあります。同じ殺菌条件を得るための各温度と保持時間が数値ででています。これをグラフ化したものが下図です。
時間を対数で表示すると温度と時間の関係は直線になります、70℃1分と63℃30分は同等の殺菌条件となります。60℃では129分になります。一方よりシビヤな75℃1分という条件もあります。これと同じ殺菌条件は60℃ではほぼ24時間になります。60℃での保持時間は最大24時間の範囲で決めればよいことになります。
低温湯煎の時間の決定
湯煎を温度を60℃にして保持時間を6、12,18および24時間でサンプルを試作し味を見た結果、24時間が最も良いという結果が出ました。
あとがき
我が家でのロースハムは60℃×24時間湯煎ということになりましたが、長時間精度良く温度管理が必要なことから他人にお勧めはできないと思っています。真似をするなら自己責任でお願いします。
最新の燻製と湯煎の温度と時間
ベーコンとハムについて標準を決めました。燻製と湯煎の温度測定結果も載せています。下記ブログ参照ください。
http://blog.goo.ne.jp/kusa-kun/e/d307b8e386ead7b0683c2d418446f457