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トランプを眠らせるもんか

2019年12月29日 | アメリカアップデート

  いよいよ年の瀬が迫ってきましたね。みなさんは年末年始をどうすごされるのでしょうか。今年はカレンダーがとてもよい当たり年ですので、長期の海外旅行などに行かれる方も多いと思います。

  私は一年で一番忙しいキャットシッターの家内をサポートする主夫として家事に励みます(笑)。お客様の中で一番長い旅行をされるお客様はドイツ人家庭で、毎年この時期には2週間まるまる海外の暖かいリゾートに出かけるそうです。うらやましー。

   今年は株式市場にとってはとても良い年でした。特にアメリカの市場はダウ、ナスダックなどおしなべて3割も上昇しました。至上最高値にありながらの上昇は相当なエネルギーを必要とします。日本株はそれには及びませんでしたが年間19%の上昇で、日本株としては上々のできでしょう。今年の相場を左右したキーワードは年間を通して「米中貿易交渉」でした。それも年末に第一段階の合意というニュースを受け、株価の最後の一押しの要因になったようです。このまま北朝鮮による挑発行為がなければ、トランプ政権にとってはめでたしめでたしで終わりそうです。しかし彼自身は足元で弾劾訴追が決まり気が気ではないでしょう。

   そして来年はいよいよ選挙イヤーです。それを占うように、年末28日の日経新聞朝刊のトップ記事は、「トランプ4業種 失速」というタイトルで、車・鉄鋼・エネルギー・石油の4業種で激戦州の雇用が急減という内容でした。この4州こそが16年のトランプ勝利の道筋を付けた州です。これらの州はいわゆるラストベルトと言われる錆びついた古い産業の地域で、トランプはその復活を約束して当選しました。その後の雇用回復の結果はどうか。

 記事の要点を引用します。

 史上最長の好景気が続く米国で、トランプ大統領が支援する「自動車」「鉄鋼」「エネルギー」「石炭」の4産業の失速が目立ってきた。2019年は自動車と鉄鋼で雇用者数が減少に転じ、7~9月期の4業種の純利益も前年同期から8割超減った。好況が続くハイテク産業との明暗は鮮明だ。激戦州の中西部4州で製造業の雇用は急減し、トランプ氏は20年大統領選の再選戦略の修正を迫られる。

 その典型が鉄鋼だ。18年3月、海外製品に25%の輸入関税を発動して価格が持ち直したが、19年に自動車や建設需要の低迷で相場が急落。雇用者数は3月以降右肩下がりで、2四半期連続の減益だ。大手のUSスチールは19年夏、約200人を一時解雇した。

 トランプ氏は就任早々、自動車や部品の関税撤廃を盛り込んだ環太平洋経済連携協定(TPP)から離脱を決めたが、自動車産業は19年1月以降、雇用が急減する。新車市場の低迷で1~10月の国内生産は前年同期を3.4%下回った。ゼネラル・モーターズのメアリー・バーラ最高経営責任者(CEO)は「景気後退に備える必要がある」と3工場の閉鎖を決めた。

エネルギー、石炭両産業はパイプライン建設推進や火力発電所の排ガス規制緩和で支援を受けたが、効果は長続きせず鉱山の閉鎖が相次ぐ。エネルギー産業は7~9月に9割減益、石炭は最終赤字に陥った。

 製造業の不振はトランプ氏の悩みの種だ。激戦州のミシガン、ウィスコンシン、ペンシルベニア、オハイオ4州で鉄鋼、自動車、機械など製造業の雇用者数は今年約5万人減った。16年大統領選は4州のうち2~3州を落とせば、トランプ氏は敗北していた。

ハーバード大のゲイリー・ピサノ教授は「保護政策で雇用者数を増やそうとしても、米国の製造業の復権にはつながらない」と指摘する。自動車と鉄鋼は環境技術や付加価値の高い製品の創出など、国際競争力の向上が追いつかない。石炭もコスト高で価格競争力に乏しい状況は変わらずだ。

引用終わり

   この記事はいいところを突いてはいるのですが、突っ込みが足りていません。それは、4州でトランプの支持率がどうなっているかの数字が示されていないことです。なので私が調べた数字を追加します。トランプがおちおち寝ていられない理由がはっきりします。

  12月25日付のオンライン・ニュースサイトDaily Wireからの引用で、接戦州におけるトランプ支持率と不支持率の差を16年選挙時と現在で比較したものです。プラスはトランプ支持が多いことを示し、マイナスは不支持が多いことを示します。

 

              16年選挙時  19年12月  (%)

ウィスコンシン州      +0.77     △14

ミシガン州          +0.23     △14

オハイオ州           +8.13     △5

ペンシルベニア州      +7.2      △7

 

  ラストベルトでのトランプは、選挙の投票率ではわずかに勝っていたのですが、現在の支持率は軒並み大きく下がっていて、4州全部がマイナス圏にいます。トランプ政策は掛け声倒れだということが判明した今年の中盤当たりから不支持が上回り始めていました。これで彼が眠れぬ夜をツイッターで紛らわせている理由がおわかりになるでしょう。トランプの全国支持率が45%以下に下がらないといっても、彼を嫌う岩盤も盤石で、支持率は当選以来一度も50%を上回ったことはありません。

  実際の選挙ではウィナーテイクオール(0.01%でも上回っていれば、州の全選挙人を手に入れる)の仕組みから、上の数字のようなわずかな差が勝敗を分けたのです。

    しかし対抗する民主党にはいまだ有力候補がいません。これだけ反トランプ票が待ち受けている舞台でも、役者がいなくては勝負になりません。

   日経記事の最後にハーバード大学教授の言葉が引用されていました。

 「保護政策で雇用者数を増やそうとしても、米国の製造業の復権にはつながらない」

   私は以前トランプのTPP離脱を批判した記事で、以下のように書いています。

 「そもそもアメリカ経済発展の原動力はダイナミックな産業構造の転換によるところが大きい。60年代までの基幹産業であった鉄鋼・自動車など労働人口を多く抱えていた産業が日本、韓国、中国などに市場を奪われたが、逆にシリコンバレーから勃興したIT産業が世界を席巻し、主役が交代した。もし今、鉄鋼産業が中国と競争して雇用を確保しようとするなら、賃金を中国人並みの8分の1にしなければ無理だ。そんなことをしても意味はないし、誰もなり手がいない。TPPの離脱とはそうしたトランプの無知でおバカな政策なのだ。」

   こうした議論はアメリカ経済の順調な成長や株価の上昇により、多くの方は忘れていたと思います。しかし大統領選挙が来年に迫る中で彼の成績を点検すると、こうしたことが見えてきました。トランプ政治3年を経た結果は予想通りで、産業のダイナミックな構造転換を元の木阿弥にしてやろうとトランプがいくらわめいても、無駄な抵抗でしかないのです。

 

 

 

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