U3さんという読者の方から、1月10日付の記事、「その15」にコメントが付きました。U3さんはある方(仮にB氏とします)が私の著書「証券会社が売りたがらない、米国債を買え」の内容を検証し、「林の話の内容に疑義あり」、と書いているが、それに対してどう考えるか、とのこと。私がB氏の主張の内容に回答をしています。そのやりとりがちょっと長いですがとても面白いやり取りになっていますので、私の著書を読まれたみなさんの参考になるかと思い、本文に転載することにしました。やりとりは1月14日から昨日1月17日まで何回かにわたり行われました。
「著作に対する検証結果の記事を読みました。 (U3)」
2012-01-14 23:20:23
以下の記事です。
(1)、(2)を見たからといって債券投資について
気持ちは揺らぎませんが、(3)については少し
ぐらついています。ブレークイーブンが変わってきてしまいます。
先生はどのようにお考えですか。
http://blog.livedoor.jp/tsurao/archives/1702450.html
林 敬一 (U3さんへ)
2012-01-15 18:54:11
著書のコメントのお知らせをいただき、ありがとうございます。
まずこのブログを書いていらっしゃる方の初回のコメントでは、私の著書をたいへんほめていただき、その方にお礼を申し上げます。
2回目のコメントでは、以下の3点の批判的記述がありますので、それに簡単にお答えしたいと思います。
引用
(1) 都合がいいその1: パフォーマンス測定の終点が2010年末
さて、2007年までに林氏はこのようなことを言えたのでしょうか?
2010年末といえば、株式市場が1930年代以来の大幅下落に見舞われた後です。この時期は1930年の大恐慌以来、最も債券に有利な時期です。その時に債券が勝っているからと言って株式より債券が有利は言えません。
引用終わり
私の著書は2011年秋の発売で、本文の内容は10年から11年にかけて書きました。従って、10年・20年・30年のパフォーマンス検証で2010年末を使うのは、ちょうど丸い数字でもあり直近でもあり合理的だと思います。
ちなみにそれ以前3年間を含めてS&P500の年末価格を記しますと、08年末、09年末はもっとひどい数字です。07年末は非常にいい数字ですが、11年の出版でこれを使うのはとても不自然です。
2010年末;1,257
2009年末;1,115
2008年末;903
2007年末;1,468
1981年から30年間で米国債は23倍、S&Pは11倍。それが例えば07年末と言うピークで比較しても、10年末とはたった17%しか違いませんので、S&Pが13倍になるだけです。
引用
(2)都合がいいその2: 配当を無視
株式には配当がありますが、林氏は株式の配当を無視しています。ところが、配当無と配当有では以下のように大きくパフォーマンスが異なります。
2011年11月末まで30年間の円建S&P500(配当込)のパフォーマンス
・配当無し指数: 100⇒354 (+254%)
・配当込み指数: 100⇒805 (+705%)
100円投資して354円と805円では全く違います。
引用終わり
私はこうした配当込のインデックスがあるのは知りませんでした。バッフェト氏のバークシャーハサウェー社の年次報告書も一般的インデックスで比較しているので、それを使用しました。
もし配当込のインデックスの数字が正しい数字とすれば、確かに米国債の818とS&Pの805でほとんど同じですね。しかし500種の株に配当があるとそのたびに同じ株に再投資するのでしょうか。そのような運用は一般の人は可能でしょうか。インデックス投信でそのような運用をしているのがあれば可能ですね。
私の著書の最重要点は私のブログ同様、「ストレス・フリーの資産運用」です。かたやリスクフリーの確定利回、かたや半分になるかもしれない株式運用、リスクを取ってリスクフリーと同じでは、私は投資に踏み切れません。
引用
(3) 都合がいいその3: 将来の受け取り金利額を現在のレートで計算
『証券会社が売りたがらない米国債を買え! 』では、将来の受け取り金利額を現在の元本レートで計算するという致命的な過ちを犯しています。
引用終わり
この方のブログにある数字の検証は、おおむね正しいと思います。編集段階でこの部分の数字をどう表現するか、かなり検討をしました。
しかし結論は、「事をこれ以上複雑にするのはやめて、注書きに書こう」ということになりました。
著書では数字欄の下に、以下の注意書きがあります。
「このシミュレーションは簡便化のため円ドルレートを固定していますが、実際にはこの通りのことは起こりえないことに注意してください」
この方はその注意書きを引用せずに批判をされています。
もちろんそれがミスリーディングだということであれば、改訂版で再検討することはやぶさかではありません。しかし円高のスピードをどう想定するか、シミュレーションを何通りも本に盛り込むのか、などの問題は残ります。
以上が3つのポイントに対する私のコメントですが、回答になりましたでしょうか。
「ご回答ありがとうございます。 (U3)」
2012-01-16 00:04:30
先生、ご回答ありがとうございます。
このブログの方の指摘、そしてなにより
先生の回答で著作について、より理解が進みました。
1点目は2010年末が一番債券に有利とは言えない点が分かりました。
2点目は投信で再投資する方法で可能かもしれませんが、これは信託報酬が毎年かかりますから
コスト面を考慮すると債券に軍配がありそうです。
3点目は本書で但し書きあり、ということで注意深い読者なら分かるということですね。
以下のように、同じ方が追加で著作に対する検証をされていました。
ドル安、米国債金利の低下のトレンドを強調されているようですが、前回ほどの力を感じませんでした。
そして締めくくりは有用な本である、としていました。
http://blog.livedoor.jp/tsurao/archives/1702759.html
U3さんへ (林敬一)
2012-01-16 09:39:17
ブログの方の追加検証について。
引用
●2004年4月に利回り4.3%の米国債を1ドル=109円で買って「為替で損をしていても全体では利益が出ているはず」
林氏は「お見事の一言です」と褒めています。
では、本が出版された2011年8月までの約7年半で、その見事な投資はどうなっているのでしょうか?
引用終わり
この米国債に投資をされた方とのやりとりは、私が著書に書いているように10年10月くらいのサイバーサロン内でのやりとりです。出版より1年前です。
市場は当然動きますので、2年前のお話をもって今はだめだ、と指摘されても困りますね。
それと、もし今の極端な金利低下時点で比較するなら、高いクーポンの付いた元本の債券は、大きなキャピタルゲインがでていますので、それを加味しないといけません。この方の保有債券はとても高いクーポンがついています。現時点での評価をするのに、キャピタルゲインを入れないで元本は円に直すと減っていると評価するのはいかがでしょう?
書籍は一定の時間で区切って論旨を展開せざるをえません。それはこのブログの方もわかっているはずです。
そこで私は本を買われた方が、のちのち数字の検証がやりやすいように、様々な引用データのURL記して、「ご自分でフォローしてください」と案内しています。是非U3さんもその後の数字はご自身で検証されることをお薦めします。
もう一つ引用します
●最後に
最初に本を紹介したエントリーでも書きましたが、『証券会社が売りたがらない米国債を買え!』は王道の債券投資を勧めている点で、非常に素晴らしい着眼点の本です。
同じような投資信託の分散投資の本ばかりを何冊も読むくらいなら、その中の1冊とこの本を入れ替えておいた方が価値があります。
ただし、米国債を過剰に持ち上げている記述が見受けられるので、3割引きくらいで読むことをお勧めします。
引用終わり
ブログのB氏におほめをいただき、大変ありがとうございます。評論家の山崎元氏とは論旨に違いはあれ、合格点をいただき感謝いたします。
今後もU3さんがもし疑問な点などをお持ちでしたら、どうぞ遠慮なく指摘・ご質問ください。
Unknown (U3)
2012-01-16 20:48:10
先生、どうもありがとうございました。
納得できました。
ブログの方は7割の合格点を付けながらもそれを認めてしまうと、自身で展開しているインデックス投信による分散投資が音を立てて崩れてしまうからか、そういったバイアスから株の優位性を無理やり捻り出している印象を受けました。
遠慮せずにいくつか質問させて頂きたいのですが、ゼロクーポン債を国内証券会社で買おうとすると、ある程度の為替手数料と売り買いのスプレッドを覚悟しなければいけません。残存20年超のゼロクーポン債を持つ覚悟があるならこれくらいはコストとして甘受すべきでしょうか?あるいは外国のブローカーに口座を作って、とことんコストにこだわって取引すべきでしょうか?
もう一点、現在のドル円の水準と米国債の金利水準ですと、前者は魅力的ですが、後者は魅力的でないので、外貨MMFでドルを買って待機していようと思っています。
現在の米国債の水準は買うに値するでしょうか?
U3さんへ (林敬一)
2012-01-17 18:28:03
すみません、「先生」は私にふさわしくないので、ただの林さんにしてください(笑)
ブログの方の株式相場への援護射撃は、そういう理由もあるんですか。
イ ンデックス投信自体は、個別株の分析などできない一般の方にとって有力な投資手段だと私も思います。ところが投資の専門家でも債券の実力をみくびって いるので、元本を増やすには株式だ、と思い込んでいる人がほとんどです。その思い込みから、みなさん債券をしっかりと評価したことがないのだと思います。
債券投資のパフォーマンスを計るのにも、やはりインデックスを使用することが一般的です。でもそこに最も大きな落とし穴があります。そのお話はいずれ本文でみなさんにさし上げるつもりです。
U3さんの検討されている米国債のゼロクーポン債ですが、たしかに今の為替はとても魅力的ですが、金利はとても低いですね。MMFでの待機は賛成です。
債券を買う場合に、売買のスプレッドは証券会社の利益がそこにしかないので、回避はできませんよね。為替手数料は最近証券会社によってはほとんどかからないようなことも聞きますので、外資系も含めて研究されることをお薦めします。たとえ両者がかかるとしても、償還まで持つ長期投資であれば売却時のスプレッド はかからないので、ほとんど無視できるレベルだと思います。
「ありがとうございます。 (U3)」
2012-01-17 20:40:42
お言葉に甘えて、早速林さんと呼ばせて頂きます。
ゼロクーポン債の手数料について、と為替、金利についてのヒント、ありがとうございます。
MMFをコツコツ積み立てて金利上昇を待ちたいと思います。
豪ドルなどもMMFで積み立ててみます。
債券投資におけるインデックス使用の落とし穴の記事、とても楽しみです。
私はインデックス投資に興味を持って始めようとしたものの外債のインデックスファンドが株安、円高時に逆相関せずに一緒に下落しているというのを目にして疑問に思うようになりました。
ネットを調べているうちにゼロクーポンを利用している方を見つけたりして、米国債への投資に少し興味を持ち、その中で林さんの著作を手にしました。読み進むうちに、そして、Googleで著者のブログはないものか、と検索して3日前に辿り着きました。
これからブログもじっくり読ませて頂きたく思っています。
そんななか駆け足で見させて頂いた中で、「日本人の預金好きの理由」という
エントリーで書かれている以下の記述はまさにそうだと思いました。
債券投資をこれから身に付けていきたいと思います。
引用はじめ
「日本人の金融資産の9割がリスク資産には投資されていない。逆に投資を果敢にする人の8割が株に投資している。」
ということでした。
何故こんなに偏った投資行動をするのか、謎を解いてみましょう。
私の分析による答えは、「日本人は債券投資を知らないからです。」
引用終わり
また、「リスクの好きな日本人」というエントリーで、投信を買っているような投資家は、
・外貨のリスクを42%も取っている
・株式のリスクを83%も取っている、
という言及を見て本当にそうだと思いました。
以上がU3さんと林やりとりです。
今後、「円高トラップに嵌まり込む日本」のシリーズが終わったら、半年を経た著書の検証を行うと同時に、今後の投資のヒントをみなさんにお伝えしたいと思っています。