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リーマンショック後10年に寄せて その4.最終回

2018年10月24日 | リーマンショック後10年に寄せて

  先週私が尊敬している政治学者で、地政学的リスクの専門家であるイアン・ブレマー氏が来日して、複数の報道番組に出演していました。それらの番組で彼が指摘していたことを一言で要約してお知らせしますと、現在の世界の地政学的状況について、リスクどころか

「地政学的恐慌が起きつつあるのに、それを当事者である大国が認識していない」

  そしてトランプが国際機関である国連の演説で国際機関の役割を否定し、グローバリゼーションを否定したことに触れ、

「ここまでくると地政学的恐慌は戦争ともいえる状態になっている」

とも指摘もしていました。

  おや、やっぱりトランプが世界のリスクを作っている張本人じゃないですか。

  今年も年初に私は彼の主催するユーラシアグループによる今年の10大リスクを話題に取り上げました。その時の私のコメントは、「前年に第一のリスクとして記されていたトランプのアメリカ第一主義のリスクが消えて、トランプは大きなリスクではないような形になっている。それには違和感を感じる」、というものでした。しかし10か月余りが過ぎた今、現況はやはり「トランプこそ最大のリスクで、すでに地政学的戦争状態だ」と彼は解説したのです。


  ここに至ってトランプはお友達であるサウジのムハンマド王子の扱いに困り果てて、歯切れが悪くなっています。王子関与の証拠は次々に現れ、責任を免れそうもありません。それでも王子は最後まで部下に責任を押しつけて逃げ切ろうとしていますが、それをトランプがサイドから応援して、おとといまで「王子は関与していない」と断言していました。

  ところがきのうのトルコのエルドアン大統領の演説以降はそうした発言を避け、「サウジへの制裁は議会にまかせる」と自らは逃げを打ちました。

  中東を巡っては、6か国核合意を破棄することでトランプが放火したイラン危機に加え、同盟国サウジの問題も生じ、今後原油の供給に重大な危機を起こしかねません。

  それに加え先週末には旧ソ連との中距離核ミサイル廃棄合意も一方的に破棄するという新たな火種をトランプは作り出しました。世界に放火しまくるトランプの暴走をいったい誰が止められるのでしょう。それはアメリカ議会であり、選挙民である国民以外ありません。まずは中間選挙に期待しましょう。

 

  さて、リーマンショック後10年の最終回です。その3ではリーマンショックとはそもそも何だったのかを解説しました。それは、「資産価格の下落が保有者である金融機関の資金繰りを悪化させ、それが金融機関全般に拡がり、「流動性危機」を産んだ」ということでした。ちょっとわかりづらい金融用語ですが、実は平たく言えばそれは「取り付け」です。リーマンショックの最中も、リーマンが破綻するとその直後に「次はどの金融機関か」という犯人探しが始まり、投資銀行や商業銀行、そして保険会社のAIGに至るまで破綻候補を恐怖の取り付けが襲いました。

  それを止めたのは政府と中央銀行であるFRBによる資金供給です。流動性の枯渇を強烈な資金供給で止めたのです。だったらそこに至る前にリーマンを救ってしまえば、金融恐慌を起こさずに済んだのではないか、という疑問が残こります。そのあたりのことを後に多くの研究者が金融当局を含む当事者たちに聞き取りをしながら調べています。その結果結論として出されたのは、

「リーマンが破綻したことで政府・FRBの尻に火が付き、資金供給に反対していた議会をやっと説得できた。」ということでした。

  「破綻なくして救済なし」だったと言えます。

  これは日本のバブル崩壊の後始末とは大きな違いです。90年代初頭に始まった日本のバブル崩壊では、97年に至ってやっと山一、98年に長銀など大手金融機関が破綻しました。そこに至るまで実に7年もの時間が無為に経過してしまいました。その間、銀行が貸し込んだ「住専」問題も複雑化し、救済するしないで国会が連日もめにもめました。破綻する金融機関をアメリカのようにもっと早く破綻させていたら、事はそこまで長期化しなかった可能性があります。

  ではリーマンショック後10年にあたり、こうした金融危機の経験から今後の教訓を導き出しておきましょう。

  今後破綻に瀕する可能性があるのは金融機関ばかりではありません。現在の世界を見渡すと、最もバブルが大きく膨らんでいるのは国家債務です。中でも最悪なのは日本。主要国の債務とGDPの比率を比べます。

GLOBAL NOTEという国際比較サイトから10月12日更新分を引用します。

日本    238%

ギリシャ  182%

イタリア  132%

アメリカ  105%

スペイン  98%

フランス  97%

ドイツ   64%

中国    47% 

  日本とアメリカは国家債務の膨張に加え、もう一つ問題を抱えています。それはリーマンショックに過剰反応した中央銀行による膨大な資金供給で、それが次なるバブルの呼び水になっていると私は思っています。

  日銀やFRBが国債買い入れで資産を大膨張させました。アメリカはすでに買い入れを停止し、出口に向かい資産圧縮を始めています。財政を膨張させないために歯止めの役割も担う金利もしっかりと上昇させています。

  それに対して日銀はいまだに国債を買いまくることで金利を押さえつけて財政の健全化をはばみ、資産を膨張させて出口など知ったことかという政策を継続しているのです。

  世界ではすでに次の不況にどう備えるかの議論が始まっています。なのに日銀のみが完全に取り残されました。アメリカは今後さらにFRBが政策金利を上げますので、景気のスローダウンに対しては利下げで対処することが可能です。一方日本は全く打つ手がありません。

  ではこの「リーマンショック後10年に寄せて」のシリーズをまとめます。初回にみなさんにリーマンショックは何をもたらしたかということで、以下の3点を挙げました。

第一は、震源地のはずのアメリカが10年後までに先進国諸国では一人勝ちした

第二は、危機後に報道やエコノミストなど誰もが言っていた「アメリカにも失われた10年が来る」というようなことは全くなかった

第三は、金融危機を作り出した側の投資銀行のほとんどが消えてなくなった

  そして今回、最も大事なことを追加しました。

第四として、金融危機からの脱却政策の行き過ぎが、政府債務と中央銀行資産を膨張させ、次のショックの火種を残した

  ということです。

  私はこれまで同様、

「今後の世界の最大のリスクは、出口のない日本の財政・金融政策にある」

と見ています。

  みなさんはそれに対してしっかりと自己防衛をしましょう。防衛策は、円リスクからの脱却しかありません。円資産を米ドル、そして米国債へシフトを進めることで乗り切りましょう。

おわり

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リーマンショック後10年に寄せて、その3

2018年10月17日 | リーマンショック後10年に寄せて

  「FRBはクレージーだ」と言ったトランプは、今度は「FRBは最大の脅威だ」と言っています。おなじように返してあげます。

  「世界にとって最大の脅威はトランプ、おまえだ!」

  最近世界のニュースを賑わしているのは、トルコのサウジ領事館におけるカショギというジャーナリストの結末ですが、つい数日前は同じくトルコに拘束されていたアメリカ人牧師が釈放されアメリカに帰ってきたというニュースでした。いずれもが中間選挙での共和党の劣勢に対して、わずかながら追い風を送っています。それでもいまのところ下院の共和党の劣勢は逆転するところまで行っていません。

  それをしり目にトランプは、

  「選挙で負けたとしてもオレ様の責任じゃない。オレ様は応援演説してやっただけだ。今回の選挙は大統領の信任投票などではない」と言ってのけました。

    なんという無責任かつ負けず嫌いの言い草でしょう。ここまで言われても共和党の候補者は情けないことにトランプに応援演説を頼み、トランプ支持を前面に打ち出して戦っています。

 

  ついでにトランプは中国を引き合いに出して別の予防線も張っています。「中国が中間選挙にハッキングして介入している。とんでもないやつらだ」。その次の予防線が何か、みんなであてっこでもしますか(笑)。

 

  さて本題の「リーマンショック後10年に寄せて」に入ります。

  「その1」ではリーマンショック後10年で、以下の3点の大きな変化が起こったと指摘しました。

第一は、震源地のはずのアメリカが10年後までに先進国諸国では一人勝ちした

第二は、危機後に報道やエコノミストなど誰もが言っていた「アメリカにも失われた10年が来る」というようなことは全くなかった

第三は、金融危機を作り出した側の投資銀行のほとんどが消えてなくなった。

  そして「その2」で指摘したのは、「バブルは渦中にいると膨張しているのがわからないが、ごく少数の人たちはそれに気づき、崩壊により大きな利益を上げていた」、ということでした。

  今回は、そもそもリーマンショックとは何だったのか、その内容を確認しておきましょう。そうすることでふたたび同様なことが起こるような事態に備えられるからです。

  9月に日経新聞でリーマンショック後10年というシリーズが掲載されました。その1回目はリーマンの当時の副会長にインタビューをしていました。彼の言い分を一言に要約しますと、

  「リーマンには十分に担保があったのに救済しなかった政府はおかしい。AIGなどは救済したではないか」というものでした。リーマンの東京の責任者も後で著書において同様なことを書いていました。しかし十分な担保があるならそれを売って資金を得れば倒産などしないはずです。

  リーマンショックの直接のきっかけは、信用力のない個人に住宅ローンを組ませ、その債権をリーマンがローン会社からまとめ買いをして証券化。証券化とは小口に分けて投資家に販売する手法で、リーマンと限らず従来から行われていた手法です。それが信用力のある個人へのローンなら問題ありませんが、ローン会社はろくに収入もないような個人にまで貸し出し、その債権をリーマンに売ることで自分は身軽になれることから、やみくもにローンを出しました。信用力のないローン、それがプライム以下、つまりサブプライムローンです。そして買い取ったリーマンを巻き込み、無間地獄に陥ったのです。

  サブプライムローンの証券化商品は債券の形をとり、金利が高いため国内・海外の投資家が飛びついたのです。この住宅ローンの借り手は当初の4年は金利を極端に低くしてもらえ、金利が上がる5年目になる前に住宅価格が上昇基調にあったため売却し、次の物件に乗り換え低利ローンで借り換える。このような4年サイクルが永久に可能だろうという甘い見通しの下に住宅の買い手とローン会社がはしゃぎ、投資銀行が煽ってその証券化商品を世界に売りまくったのです。

  リーマンはその商品を作るためにローン会社からどんどんローンを買い取り、それを短期資金の調達で賄っていました。ところが住宅価格が頭を打つと、すべてが逆回転し始めます。ローンの借り手は住宅を高く売却できないため5年目から高い金利に苦しめられ、支払い不能に陥る。するとそれを束ねて作った証券化商品にもデフォルトが起こり、それをしこたま仕込んでいたリーマンも在庫が不良化し、短期資金を再調達しようにも誰も貸してくれなくなる。

  政府もそんな甘い見通しの投資銀行は救えないためリーマンを救済せず倒産させました。リーマンの幹部連中が「担保はあった」と言うのなら、売って資金を返済すればいいのですが、そうはいかない。サブプライムの欠陥商品などに買い手はつかず、ローンの担保の住宅も暴落が始まっていて買い手など付きませんでした。

  リーマンの倒産は次の連鎖を呼びました。大手の投資銀行株が軒並み暴落し、金融界全体が次はどこかという疑心暗鬼状態に陥りました。リーマンショックの本質は、このあたりにあります。彼らの保有していた資産は一瞬にして流動性のない商品となり、不良化したのです。

  日本のバブル期も同様で、株の暴落に続き不動産価格の下落が始まったとたん、すべての不動産に買い手がつかなくなる、すると資金を借りて買っていた不動産の保有者は資金繰りがつかずに倒産する。そこに貸していた銀行も危機に陥る。

 資産価格の下落が保有者の資金繰りを悪化させる、それが金融機関全般に拡がると、金融用語では「流動性の枯渇」とか「流動性危機」と呼びます。

 私が自分のいた会社で経験した倒産の危機をここで紹介します。それはまさに倒産のニアミスまで行きました。

  私が89年にJALを辞めることを決め、ソロモン・ブラザーズに入社したのは90年初めです。そして1年半後91年の秋、突然ソロモンの社内に激震が走りました。ソロモン本社の国債トレーダーが米国債の入札で不正を働き、「米国財務省から国債の引き受け業務を停止する」という処分が下ったのです。ソロモンの資産は15兆円と極めて巨大で、それを短期の借入やCPで賄っていました。ところが資金の出し手はそのニュースに驚き、借り換えに応じなくなり流動性の枯渇に陥りました。

  あと数日でデフォルトになるという時点でソロモンが取った手は資産の売却でした。リーマンと違い15兆円の資産の中身の大半が米国債だったのです。何度も申し上げている通り、米国債は世界で最も流動性の高い資産、つまり売りたい時にいつでも、いくらでも売却できる資産のため、資金の借り換えが出来なくても米国債を売って資金を得ることで、資金ショートを乗り切ることができたのです。

  私は入社してまだ1年半しかたっていなかったため、このまま倒産したら路頭に迷うことになるだろうと覚悟を決めていました。しかしその危機をソロモンは難なく乗り切りました。それを可能にしたのは、資産の流動性の高さです。巨額の売却でも米国債の取引高は常に非常に大きいため、価格を暴落させることもなく、市場が吸収してくれました。その時の売却額は5兆円を上回ったといわれていますが、市場へのインパクトはほとんどないに等しいものでした。

  そしてもう一人の大きな救世主はウォーレンバフェットじいさんでした。彼は当時ソロモンに数億ドルの出資をしていました。そして不正行為により監督責任を取らされ首になった会長の代わりに、年収1ドルで会長を引き受けてくれたのです。不正はたった一人の仕業だとして救済を決断。オマハの賢人と呼ばれるバフェット爺さんの信用力に加え、米国債の信用力と流動性の高さがソロモンを救いました。

  米国債の強さは、リーマンショックの時にも発揮されました。それは世界の投資家が株式や証券化商品を売却し市場が暴落した中にあって、同じく金融資産である米国債だけは買われ、史上最高の高値までいくほどでした。

  ソロモンの倒産の危機とリーマンショック、大激震の走る金融市場で力を発揮したのは米国債でした。このことは今後どのような金融・経済危機が起ころうとも変わりません。教訓として頭に入れておきましょう。

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リーマンショック後10年に寄せて その2

2018年10月12日 | リーマンショック後10年に寄せて

 「FRBはクレージーだ!」とトランプが吠えています。

「クレージーはお前だ!」とトランプに返しておきましょう(笑)。

  株価下落に怒りまくっての発言ですが、オールマイティー幻想にひたるトランプに株価暴落はいい薬です。自分が言えば誰でもいうことを聞くと思っているおバカさんですから。もっとも、サイコパスのトランプは、自分は絶対に正しい、間違っているのはオレ様以外だとしか考えないので薬も効きません(笑)。

 

  財務長官ムニューシンは珍しくトランプのFRB非難発言を否定し、「株価下落は正常な調整だ。FRBは間違っていない」と発言。彼はゴールドマンの出身なので、資本主義の仕組みや政府と市場メカニズムのことを理解しての発言になっています。彼は就任打診時から会社や大学の同僚たちに「やめとけ」とさんざん言われたのに就任を受諾しているので、トランプに相当近い考え方の人間ですが、中央銀行をクレージーだという発言にはさすがに同調できなかったのでしょう。だったら早く辞めればいいのに。時間の問題かもしれません。

 

  リーマンショック10周年の株価の暴落をどうとらえるべきでしょう。私は「上げ一方で高くなりすぎた反動」というくらいにしか見ていません。その理由はさしたる大きな原因もない、「静かなる暴落」だからです。もちろん市場関係者は説明しなければならないので長期金利上昇のせいだとか、中国問題だとか言っています。たしかに私はみなさんに「米国債投資のチャンスだ」と3日前に申し上げているので、金利は上昇してはいますが、株価を2日間で1,300ドルも暴落させるような上昇ではありませんでした。

 

  でも一応、長期金利上昇の原因だけは再度見ておきましょう。前回の解説で金利を動かすのは「雇用と物価だ」と申し上げています。物価はトランプがイランを制裁するというような余計なことをして原油が上昇したからで、それに雇用の堅調さが合いまったためです。雇用の回復はオバマ時代に比べると、トランプになっての回復などたいしたことはありません。オバマの就任時10%の失業率は彼の末期にはすでに4%台になっていました。5%以上の改善です。 

  それを引き継いだトランプはわずか1%改善しただけで、自慢するほどのことではありません。それでも最近は賃金も前年比で2%台後半になっているため、まだしばらくはインフレにはプラスの要素になっています。そして他でもない、自分が原因を作ったイランの制裁が原油価格の上昇を招き、その懸念から金利が上昇しています。そうしたインフレの兆候が金利上昇をもたらす、ごく自然な動きです。

  金利上昇の原因をもう一つ付け加えるとしたら、トランプ税制による税収減と選挙のための財政出動公約を挙げておきます。これもまさに自分が作った原因であるにも関わらず、FRBがクレージーだと、いつものように吠え続けています。財政赤字の拡大は国債を増発させ、金利上昇要因となります。 

  この「静かなる暴落」、このままリーマンショックのような暴落につながるかと言えば、そこまでは行かないだろうと思います。他に著しい資産価格の高騰が起っていないからです。


   と、ここまでが今回のまえがきで、「リーマンショック後10年に寄せて、その2」を続けます。しかし実は原稿はすでにその1を書いた数日後にはできていて、その間に「トランプの悪事」や「米国債を買え」という2つの記事をはさんだため、タイミングがずれてしまいました。そのため、株式の暴落の可能性を書いていたのですが、いかにも後付けになってしまい、ちょっと困惑しています。でもこの際、ストーリー建が狂ってしまうので、10月初めに書いておいた原稿をそのまま載せることにします。お許しあれ。

 

  その1で申し上げた大事な点は、バブル崩壊とその後の後始末のことばかり言い立てるが、その前に「バブルに踊っていたのだからその付けが回るのは当然だ、とは誰も指摘しない」ということでした。

  そしてバブル崩壊後は景気が悪い、景気が悪いと20年経っても言い続けます。そういう人たちにはこう言ってあげましょう。「あのバブルをもう一度やりますか、あとで崩壊ももれなく付いて来まっせ、それでもいいですか?」と。

  そもそもバブルとは渦中にいる人、エンジョイしている人はそれがバブルだと決して思わないので、崩壊のことは考えていません。ところが、日本でもアメリカでもその外で崩壊を予測して大もうけした人たちはいるのです。

  日本のバブル崩壊を予想し、株式市場が崩壊したら儲かるプット・オプションをアメリカで売り出したのは、他でもない私のいたソロモン・ブラザーズでした。なので株式バブル崩壊後しばらくの間、「日本のバブル崩壊の主犯はソロモン・ブラザーズだ」とさんざん言われました。

  知らないとは恐ろしい。ソロモンは崩壊を予想して自らそれに賭けたのではありません。崩壊を予想していたアメリカのヘッジファンドのニーズに合わせて、崩壊したら大もうけできる商品を作って売っただけです。簡単に言えば空売り商品ですが、実際にはプット・オプションというちょっとわかりづらい商品で、儲けは仕組みの作成料としてのフィーのみです。それを買って崩壊に賭けたヘッジファンドは大もうけしました。

  アメリカのサブプライム・バブルの崩壊でも同様で、崩壊を予想して大もうけした人たちが少数います。最も有名なのはジョン・ポールソンと言うヘッジファンドのマネージャー兼自己投資家です。サブプライム商品の暴落を予想してプット・オプションをしこたま買い、大もうけしたのです。彼が儲けに対して支払った税金だけでなんと15億ドル、1,700億円です。儲けは5,000億円以上と言われています。もっとも彼は一発屋で、その後もポールソン・ファンドを運営していましたが損ばかりで、今では客が離れてしまいました。

   バブルとは災害と同じで、まさかこんなことが起こるなんて、というところに生じ破裂しますが、実はよくよく考えれば被害者は崖っぷちにいたのです。金融市場でいえば、今絶好調のアメリカこそ危険だと申し上げておきます。ただしこれは株式市場だけのことで、債券、なかでも米国債は株価崩壊時にはめちゃめちゃ買われますので、全く問題ありません。前回の金融危機でもそうでした。

  何故アメリカ株式相場が危ういと言えるのか?

  それは一つには超緩和策という市場へのミルク補給はこれ以上ないこと。そして「現在のアメリカ株は企業収益が伴っているのでバブルなんかじゃない」としっかりとした理屈があるので、天邪鬼な私は逆に「危ない」と言うのです。日本のバブル時代も、実は株を買っていた人々やアナリストは屁理屈を付けて、〇〇だから大丈夫だと言っていました。2000年のITバブルしかり、リーマンショック前もしかりです。

  そもそも今の株価の上昇と企業収益の上昇は、何が原因でどこがスタートだったでしょうか。すでに超緩和策による上昇は一服していたところに、トランプの当選がスタートで火が付き、それに油を注いだのはトランプ減税です。だから危ないのです。でも株価の崩壊は金融危機の時ほどではなく、世界が吸収可能な範囲だと私は思っています。

  11月には中間選挙があります。これはトランプの政権の通信簿で、そこで共和党が負けたら、金融市場はどうなるでしょう。株式相場はそのタイミングで逆転を始める可能性があります。理由は政権運営がトランプの自由にならなくなるからで、再選に向けて再減税などのバラマキ政策も簡単にはできません。

(注)このように中間選挙後の株価逆転を予想していたのが、実際にはもっと早く起こってしまいました。

  貿易戦争は株価に悪材料にならないのか?

  なりますが、貿易戦争は大いに潤っているのは中国であり日本であって、アメリカではありません。従って貿易戦争が継続しても、アメリカ自体は大きなダメージを受けません。

  貿易戦争が思わぬほど長期化したらどうか。それでも大丈夫です。時間が経つと、アメリカは調達先を中国から周辺諸国などに変更可能だからです。ということは、実は中国を徹底的に叩いたところで、ベトナム、タイ、インドネシア、インド、バングラデッシュなど他の国が出てくるため、アメリカの輸入依存体質が変わるとは思えません。対中国赤字が周辺国に分散するだけです。

  そして下院での勝利が予想される民主党は、トランプの弾劾手続きを具体的に開始することで揺さぶりを掛けるに違いありません。トランプの手詰まりがトランプ相場逆転の後押しをすることになります。

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リーマンショック後10年に寄せて その1

2018年09月29日 | リーマンショック後10年に寄せて

  トランプが国連の演説で自画自賛を始めたところみんなが笑いだし、「こんな反応は予想しなかった」と照れ隠しで言った言葉でさらに失笑を買いました。かわいいトランプちゃん、自分の支持者向け演説と同じように、世界はオレ様を称賛して拍手、いやスタンディング・オベーションが返ってくると思っていたのです。

  では会場の笑いの意味は何か。自分がどの大統領より多くの業績を挙げたというのが、悪い冗談だという笑いです。つまりパリ協定からの離脱やイランの六か国国協定からの離脱、TTP離脱、エルサレムへの大使館移転など、世界にとって大迷惑なのに「業績だって、冗談だろう」という笑いなのです。

そのニュースをBBCのサイトから引用します。

「自分の政権が米国史上「ほとんどどの政権より」も多くの業績を達成したと自慢すると、会場からは笑い声が聞こえ、大統領は「そういう反応が返ってくるとは思ってなかった」と笑い返した。一方で、エマニュエル・マクロン仏大統領やアントニオ・グテーレス国連事務総長は、多国間主義の重要性を熱弁した。トランプ氏はまたイランが中東全域で「混沌(こんとん)と死と破壊」の種をまいていると非難し、加えてグローバリズムを否定した。」

  グローバリゼーションの旗手のはずのアメリカが、グローバルに物事を解決する場である国連でそれを否定し、横暴な振る舞いをしています。

  一方国内ではトランプ陣営の選対本部長で訴追されているマナフォート氏が司法取引に応じ、すべてを白状するとのこと。いよいよ包囲網が狭まっています。そうした中でますます破れかぶれの政策を実行しています。

 貿易問題での強気発言も中間選挙までだという観測が多くみられますが、それはまったくの間違いだと私は思います。中間選挙で負けようが勝とうが、選挙後彼の頭の中は2年後の再選問題でいっぱいになるため、ますます支離滅裂な政策を打ち続けるに違いありません。もちろん負けたらえらいことになるでしょう。

  それにより自分がさらに追いつめられることなど、小学生並みの頭のかわいいトランプちゃんには理解できないのです。

  窮鼠猫を噛む状態のアメリカ大統領が世界平和のカギを握る図など、絶対に見たくはありませんが、それが現実です。

  私はもちろん、中間選挙では下院で共和党の負けを予想しています。キーワードは「女性票」です。トランプの支持率40%は岩盤だと言い立てる人々は、その反対に50%以上の不支持率の岩盤があることを忘れています。今回の選挙は大統領選とはシステムが違い、彼の支持・不支持率はそのまま下院選挙では結果に反映される可能性が強いのです。ちなみに大統領選挙ではヒラリーの得票率はトランプの得票率を上回っていましたが、選挙人の獲得数でトランプが勝利しています。

 

  さて今回の本題です。9月はリーマンショック後10周年でした。それに寄せて、あの金融危機とはなんだったのかをこの時点で振り返ってみましょう。「災害は忘れたころにやってくる」という格言を噛みしめる必要性を今こそ感じるからです。

  まず初めに、まとめの意味で3つの項目を上げます。

第一は、震源地のはずのアメリカが10年後までに先進国諸国では一人勝ちした

第二は、危機後に報道やエコノミストなど誰もが言っていた「アメリカにも失われた10年が来る」というようなことは全くなかった

第三は、金融危機を作り出した側の投資銀行のほとんどが消えてなくなった。含むソロモン・ブラザーズ(笑)

  日本のバブル崩壊の場合、資産価格の下落やデフレの継続により20数年後でも株価は元には戻らず、大都市の一部の路線価だけが最高値に戻っていますが、地方の地価は戻る様子はなく、沈みゆく一方です。

  私は著書で「アメリカ発の金融危機は全治3年」と書きました。3年と言えた根拠は、政府から巨額の支援を受けた巨大金融機関はたった2年間ですべて返済し終わり、倒産した巨大メーカーGMも3年後には再上場を果たして復活したからです。ちなみに日本の場合、公的資金の注入を70兆円の最大値にまで拡大したのが崩壊後9年目の99年です。その後に返済が始まり、最後のりそなの完済は2015年です。なんというスローペースだったのでしょう。

  すでにバブル崩壊を経験した日本の多くの識者は私のように楽観的になれなかったようで、「アメリカにも失われた10年が来る」と言い続けていましたが、そのようなことはありませんでした。

  欧米では10年前の危機をリーマンショックとは呼ばず「金融危機」と呼んでいますので、ここでも今後は主にその名前を採用します。何故リーマンショックと呼ばないのかと申しますと、リーマンの倒産は金融危機と言う大きな事象の中の一つの象徴的イベントに過ぎないからです。 

  金融危機後10年が経ち、経済紙や一般報道機関が様々な回顧をしています。しかし共通して欠けていることがあるのを指摘しておきます。それは、株価や不動産価格がピークを付けた後、暴落や雇用の喪失がひどかったことばかりを言い立てますが、「ピークを付ける前までは行き過ぎたバブルがあって、みんなでそれをエンジョイしていた」という事実の指摘です。

  それは日本でも同様で、バブル崩壊後のひどさばかりを言っていますが、崩壊前は信じられないほどバブルに踊り、遊び呆けていたのです。私には「単にその付けが回ってきただけ」と見えます。エンジョイしたことはすっかり棚に上げ、せっかくの好景気が崩壊したと言い立てています。そしてその後長引く不況に対しては「政府が無策だ」と言うのはアンフェアーです。まずは自分たちが踊ってしまったこと自体を大いに反省すべきなのです。でないと、こうしたバブルは形を変えてまたやってきます。

  同様なことはアメリカでもそうで、政府がリーマンを崩壊させなければ、あれほどひどくはなかったはず、というようないいとこ取りをしようとする論調が危機後10周年特集などでも多く見受けられますが、まずはそれを作り出した人々をあぶり出し、踊った人々を糾弾しておく必要があると思います。

  アメリカで言うと、この危機の主犯はもちろん『マエストロ』という称号をいただき主犯の認識なく職を辞し、07年に崩壊が始まったころに自画自賛の自叙伝を出版した元FRB議長のグリーンスパン氏です。本の題名は「波乱の時代」上下2巻、副題は「世界と国家を語る、これからの市場と経済」でしたが、サブプライム問題などこれっぽっちも触れていませんでした。お気の毒に今ではこの副題は笑い話です。サブプライム・ローンやそれを債券化した商品のほぼすべては彼の任期中に積みあがったもので、責任は金融監督庁とFRB議長の彼にあります。

  さすがに彼もそのことを反省して大部の自叙伝の出版から1年後くらいに、自分は間違っていたと反省の書を60ページほどの小冊子の形で出版しています。タイトルは「波乱の時代 特別版―サブプライム問題を語る」です。その小冊子を先に読んでいれば、数千円の上下2巻など買わなくても済んだのに、と思ったのは私だけではないと思います(笑)。まあ、中央銀行のマエストロと言われたトップもこうして間違うのだ、というよい反省材料は提供していただいたので、よしとしましょう。

  さて日銀のクロちゃん、果たして自叙伝を出すほどの成功を収めるか、そしてその後小冊子を出さなくて済むか(笑)、今後が見ものです。

  と書いては見たものの、日本の役人はどんなにひどい失敗をしても成功をしても、決してそれをネタに本を書いたりしません。歴史を綴ることの大切さを知らないのか、黙して語らずが役人の不文律なのか知る由もありませんが、きっと墓場に持っていくのが日本のお役所のお決まりなのでしょう。

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