ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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老後資金2千万円の不足だって? つづき

2019年06月17日 | 老後の備えはどうするか

   年金の不足問題は、週末のニュースショーで日本中を巻き込み、一層激しい論争を起こしていますね。それに輪をかけて財務大臣兼金融大臣が火に油を注ぐ発言の連発です。そろそろ安倍首相も彼の処遇を考える必要がありますね。

   前々回私は「次回は2千万円の作り方についてです」と書きました。一回あきましたが、今回はその回答です。回答は実に簡単です。

   「ご自分で計算して老後資金が〇千万円足りないと思った方は、その分貯金すればいい」以上です。

   「それじゃ、身もふたもないじゃないか」と言われそうですが、このブログをコンスタントにご覧のみなさんは、ご自分の年齢と必要資金くらいもうとっくに計算されていますよね。ある程度以上の年齢の方はご自分の余命と老後の楽しみ方の見当をつけ、必要資金を計算されていることでしょう。若い方には別途安全な運用方法を説明します。

   私は資産運用に関して著書やこのブログで何度も同じことを申し上げてきました。それは、

「70歳過ぎたら、運用なんかしなさんな」です。

   これは本心から言っています。70歳過ぎてリスクを取って増やしてどうする。そんなことでストレスを感じたら、老化した脳の血管が破裂するだけだからです。運用するより、余裕のある方は「使って楽しめ」。余裕のない方は「使い方をセーブするべし」。

  それぞれの方の資産額や人生の楽しみ方に差がある以上、一般論で言えることはこれ以上ありません。それでも説明不足なら、個別の相談にはいつでも応じます。

   今回の2千万円の話で驚いて運用を始めようと思っても、70歳どころか60歳過ぎていたら、ほとんどの方ははっきり言って手遅れです。65歳から収入を年金だけに頼るのであれば、65歳までに2千万円貯めておく必要があります。年に100万円貯めても20年かかるので、45歳で始めなくてはいけません。

   それを、運用をうまく行うことで1千万円の投資額を2倍にしようとするとどうでしょう。例えば45歳から55歳まで10年で1千万貯め、その後毎年7%で複利運用できれば10年後の65歳で2千万円になります。しかしそんなうまい話は昔の高金利時代の話です。今年に7%を得ようとして株式などの高リスク資産に投資すると、2年後には半分の500万円になってしまうかもしれません。

  少額の積立NISAならいかにもお手軽で安全だ、というような宣伝文句がまかりとっています。リスクの程度を率で計ったら金額は関係なし。半分になってしまうのは、1千万円でも1万円でも同じこと。リスクの程度は投資対象によるのです。

 

  毎日株式相場や為替相場を眺めては喜びと嘆きを繰り返して、いったい何になるのでしょう。今回のニュースを見て、資産運用セミナーに人が集まり、これまでの5割増しとか、5倍も集まったと喜んでいる業者がいます。集まる人たちの付け焼刃ぶりにもあきれますが、セミナー主催者は何のリスクもなく運用資金のおこぼれで収入を得られます。たとえ運用に失敗しても自分は損をかぶることはありません。

 

  では若い人はどうすべきか。答えは、「超長期の超安全な債券で運用せよ。」です。超安全な債券とはもちろんアメリカ国債です。

   まず100万円を元手にアメリカ国債への投資を始めたらどうなるか。単純な計算結果をお見せします。金利想定は3とおりで、30年後の結果を単利と複利で示します。

30年物     単利    複利

金利  3% →   190     244 

    4% →   220     328 

          5%  →   250    440

  日本国債では複利の運用はできません。米国債だと複利の運用が可能です。金利が低くとも、超長期の複利運用ではとてつもなく大きな成果が出ます。例えば金利を現在の金利に近い3%としても、複利だと30年後に2.4倍になります。単利と複利で結果は190対244と3割近い差が出ます。5%のケースではその差は7割以上になります。運用資金の乏しい方こそ将来をみすえ超長期の米国債に投資すべきなのです。

  もちろん米国債投資には為替のリスクがあります。あくまでドルでの運用ですから、ドルが安くなるとその分金利収入や最後にもらえる償還額は減ります。逆にドルが高くなればその分増えます。たとえば1ドルが100円だと想定し、100万円、つまり1万ドルを投資したとしましょう。金利が4%だと投資開始時点で4%の利回りは固定されますので、30年後の償還時には先の表の数字のとおり、1万ドルが確実に3万2,800ドルになるということです。将来の償還時点でも為替レートが100円であれば為替の損得はなし。金利のおかげで投資額が3.28倍になります。複利で運用すれば金利にはとてつもない力があることを実感できる数字です。では、100円より円高だとどうなるでしょう。例えば過去の最低水準である80円になってしまったとすると、その分損失が出てしまうのでしょうか。

   いいえ、そうではありません。ドルベースで元本は3.28倍になっているため、為替で2割減ったとしても、まだ元本は2.6倍になって残っているのです。いくらまで円高が進むと元本が100のまま増えない、ブレーク・イーブンなのでしょう。答えは1ドル約30.5円です。どう考えてもなりっこない数字です。ちなみに金利が3%でも為替レートが45円なるまでは損失なしです。

  長い期間を考えた場合、成長力に大きな格差がある日本の円とアメリカのドル、どちらが力を有するでしょうか。私は今後深刻な財政問題や少子高齢化問題を抱える日本の円には分がないと思っています。であれば、1ドル45円や30円にはとうていなりそうもありません。逆にドルは2倍3倍、200円―300円になるかもしれません。

  では次に、満期になる30年後に1万ドルもらうには、いくら初期投資すればよいか、逆算をしてみましょう。金利が3%だとすると、答えは4,100ドルです。1ドルが100円で変わらないなら41万円を30年間複利運用すると100万円になります。4%だと初期投資は31万円、5%だとわずか23万円で済みます。

   その程度なら若い方でも調達可能な金額ですよね。それを毎年20年間続けるとどうなるか。35歳で開始すると、30年後の65歳から85歳まで、毎年100万円がもらえる勘定になります。言い換えると、合計820万円の投資が2千万円になります。毎年41万円の調達は決して不可能ではありませんよね。投資期間の間に金利が上昇していれば、もっと大きなリターンになります。

 

  日本のように金利ゼロの貯金だけでは、何年たっても41万円は41万円。100万円ほしければ100万円が必要です。株式投資だとどうか。大きなリスクがあります。今から30年前の89年6月の日経平均株価は33,300円くらい。それが今21,000円です。ご愁傷様という以外ありませんし、今後おなじようなことが起こらない保証はありません。

  そして米国債への投資で一番大切なことは、単に増えるということではありません。ドルに資産を移すので、日本のひどい財政や年金のリスクから逃れることができることです。その安心感付きの投資は、世界で一番安全な米国債以外にありません。

   私の2冊目の著書では、より詳しい老後資金の作り方を書いてありますので、お楽しみに。

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老後資金2千万円不足の補足

2019年06月12日 | 老後の備えはどうするか

  「老後資金は2千万円足りない」という報告書が国会にも大きな波乱を巻き起こしています。それを隠滅しようと麻生大臣が「受け取らない」と必死に叫んでいますが、遅きに失しています。

   報告書の発表時に自分が作らせたと誇らしげに述べた言葉との矛盾がひどすぎ、彼自身の資質と信頼性が問題になりつつあります。彼はこれまでも財務省を巡る森友問題などの責任をうまく逃れてきていたのですが、今回は簡単には済まされないとの観測が出ています。もっとも安倍首相にとって麻生派56票は絶対に必要な票なので、必死で守るでしょう。

   今回の答申を出した金融審議会のメンバーが判明しました。一般的に有識者と言われるメンバーの他に、予想通り見事なまでの「資産運用シフト」が敷かれていました。株高演出政権の舞台裏を見ますと、メンバーには以下の組織からの人が含まれていました。

 ・野村資本市場研究所

・セゾン投信

・みずほ総研

・ブラックストーン・グループ・ジャパン(世界最大の投信会社の日本法人)

・FPアソシエーツ(フィナンシャル・アドバイザー)


 そしてオブザーバーには、以下の組織から人が送り込まれていました。

 ・日本取引所グループ(証券取引所)

・日本証券業協会

・投資信託協会

・日本投資顧問業協会

・信託協会(投資信託の業務を行う信託銀行)

・国際銀行協会

・生命保険協会

   なんとも言い難いほどの出来レースぶりですね。これでは「国民よ、資産運用に励め。でないとえらいことになるぞ」という答申が出るわけです(笑)。

 

  しかし一方で実際に出来上がった答申書の内容には、「今後の日本の老人大国の姿」など、見るべきものもありますので、興味のある方は、以下のサイトを見てください。

https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20190603.html

 

  さらりと見たい方のために目次を以下に紹介します。内容を全部読むのはたいへんなので、35ページからわずか2ページのサマリーを読む手もあります。「おわりに」がそれに該当します。

 

  目 次

1.現状整理(高齢社会を取り巻く環境変化) 3

(1)人口動態等 ....................................................... 3

ア.長寿化 ........................................................ 3

イ.単身世帯等の増加 .............................................. 4

ウ.認知症の人の増加 .............................................. 6

(2)収入・支出の状況 ................................................. 8

ア.平均的収入・支出 .............................................. 8

イ.就労状況 ..................................................... 10

ウ.退職金給付の状況 ............................................. 13

(3)金融資産の保有状況 .............................................. 15

(4)金融環境に対する意識 ............................................ 18

2.基本的な視点及び考え方 ............................................ 21

(1)長寿化に伴い、資産寿命を延ばすことが必要 ........................ 21

(2)ライフスタイル等の多様化により個々人のニーズは様々 .............. 23

(3)公的年金の受給に加えた生活水準を上げるための行動 ................ 24

(4)認知・判断能力の低下は誰にでも起こりうる ........................ 24

 3.考えられる対応 .................................................... 25

(1)個々人にとっての資産の形成・管理での心構え ...................... 25

(2)金融サービスのあり方 ............................................ 26

(3)環境整備 ........................................................ 29

ア.資産形成・資産承継制度の充実 ................................. 29

イ.金融リテラシーの向上 ......................................... 32

ウ.アドバイザーの充実 ........................................... 33

エ.高齢顧客保護のあり方 ......................................... 34

おわりに .............................................................. 35

【付属文書1】高齢社会における資産の形成・管理での心構え .............. 37

【付属文書2】高齢社会における金融サービスのあり方 .................... 44

 

   以上、目次を見ると実に立派な内容になっていますので、読む価値はあると思います。

 最後に一言。

   お読みになっても、くれぐれもその気になって株式投資などには絶対に手を出すべきでないとご忠告申し上げます。

   なお、NISAはギャンブル投資用口座で、安全な米国債は買えません(笑)。

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「老後の不安」さんへのアドバイス

2019年06月11日 | 老後の備えはどうするか

  「老後の不安」さん、

  17年10月12日にご質問をいただいていて、私が見逃してそのまま回答を差し上げず、大変失礼いたしました。私の著書をお読みいただき、「これだった」と思われたそうで、ありがとうございます。

  このところ老後資金2千万円の不足が国会でも論戦の的となるなど、老後資金が大きな問題になっているので、この質問が自ら私に「おい、忘れているよ」と語りかけてきたのかもしれませんね。絶好のタイミングでもありますので、みなさんも一緒に「老後の不安」さんへの回答を考えてみましょう。

   ではまず、コメント欄のご質問を追加の分と合わせてそのまま掲載します。

 引用

米国債券を購入したいのですが。 (老後の不安)

2017-10-12 15:33:35

初めて書き込みさせて頂きます。宜しくお願いします。
米国国債を購入したいと思っています。
私が1人になった時の年金の不足分を補えればと考えています。
主人と7歳の年の差がありまして、平均年齢まで生きたとすると13年は1人暮らしだよ。と主人に言われ、急に不安になりました。
主人は55歳で早期退職し、退職金を運用してるようですが、リーマンショク、ギリシャ危機等あってかなり目減りしてるようです。住宅ローンは完済してますが今は、リフォームローン、子供達の奨学金、義父の施設代等、月の支払いは13万円位はあります。
主人は60歳から年金を受給しているのですが、65歳からにしたらと私が言いましたら、月の支払いが足りないからもうもらうと言っていました。
主人が居るうちはなんとか大丈夫かもしれませんが、私独りになった頃は、退職金は当てには出来ないと思っています。
私も会社に勤めていましたが、主人の転勤もあり、会社を辞めてしまったので、私の年金は、10万あるかないかです。

年齢、56歳
家族構成、主人63歳 義父90歳
職業の安定性、パート勤務 一年更新
年収、130万位
運用総資産、海外オフショアファド500万
手持ち500万
米国債に投資する割合、手持ち500マン
運用の期間、20〜30年 くらい?
林先生の著書は拝読しております。 私の求めていたのはこれだった!と思いました。もっと早くに出会っていたら、すごく落ち込みました。
円安の状況の中、米国債券を買うベストな方法、13年間独り暮し出来る方法が
ございましたら、ご教授宜しくお願い致します。

 

米国債券を購入したいのですが (老後の不安)

2017-10-13 15:28:48

昨日は長々と失礼致しました。
個人年金を忘れておりました。
60歳から100万位10年間受給の予定です。
この個人年金も米国債券で運用したいと考えているのですが、どういう買い方がベストなのか、悩んでおります。

引用終わり

 

  「老後の不安」さんの資産内容などが2年前と比べて変化しているかもしれませんが、このままの状態であるとしてアドバイスをさせていただきます。

   まずいくつかのポイントについてですが、

>主人は60歳から年金を受給しているのですが、65歳からにしたらと私が言いましたら、月の支払いが足りないからもうもらうと言っていました。

  私はもらえるものは早めにもらうやり方に賛成です。相手が完全に信用できるとしても、ご自分が生きているとは限りませんので、もらえる時からしっかりもらいましょう。そして自分が実際に支払った分くらいまでは絶対に生きて回収しようではありませんか!(笑)。

 

  さて資産の内容とおよその投資予定として、以下のように書かれています。

>運用総資産、海外オフショアファド500万
 手持ち500万

 米国債に投資する割合、手持ち500マン

 運用の期間、20〜30年 くらい?

 

  この内容中、気になるのは「海外オフショアファンド」です。こうしたファンドに投資をされているので、私の著書の他にもいろいろと勉強をされているのではないかと思いますが、ファンドの運用成績はいかがですか。悪くなければ継続もありだと思いますが、もし悪いようでしたらそれも含めて徐々に切り替える手も考えてみてください。

   年齢は当時56歳ですので現在は58歳ですが、その時点からのスタートで運用期間を20年から30年とされています。元本を少しでも増やし、一定の年齢に達したら償還金を受け取る必要があるのでしたら、ちょっと長すぎるかもしれません。例えば70歳になって個人年金が入らなくなるので、その後に償還が順次来るように年限を設定されてはいかがでしょう。その場合はゼロクーポン債がお勧めです。

   もし日本財政や年金の破綻が不安なので備えるということの優先度が高いのであれば、すでに外貨建て資産が5割ですので、急ぐ必要はないと思います。じっくりと構えましょう。それとご自身がまだ働く意思をお持ちのようですので、それは収入と健康維持のためにも目いっぱい継続されることをお勧めします。

   もう一つの考え方として、逆に少しでも多く金利を得る考え方を紹介します。働いた収入と個人年金があれば当面生活には困らないでしょう。米国債は安全ですが、投資金額からしますと金利収入に頼ることはできないと思いますので、米国債投資により資産の安全性を確保することと、金利というおこずかい稼ぎに徹したらよいと思います。そのためにはご自分の寿命など考えずに長期物で金利の高いもの、特に金利が高いオーバーパーのものを狙うのがよいでしょう。金利収入はご自身が楽しむお金にして、どんどん使いましょう。いざ予定外のまとまったお金が必要となれば、千ドル単位での部分売却は可能です。

   それと個人年金分の投資ですが、これはご主人様が元気で経済的にある程度頼れる間だけにしましょう。お一人になられてから心配のあまりすべて貯めこんでいては、楽しむ時間を失います。

   以上、ゼロクーポン債での運用と金利受け取りの二つの考え方をお示ししました。せっかく貯めたお金ですので、それを使って楽しむことも忘れないようにしながら選択をされるとよいと思います。

   遅くなって大変申し訳ありませんでした。多分すでに投資をされるなどして、資産内容が変化しているかもしれませんが、少しでも参考になればと思います。また、追加の質問などあればどうぞ遠慮なく。この本文をお読みになっていらっしゃるといいのですが。

コメント (4)
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