ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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107年目の優勝

2023年08月24日 | ニュース・コメント

「おめでとう、慶応義塾高等学校!」

 やりましたね、107年目の優勝。はっきり言って、まさかの優勝でした。優勝候補の中に慶応の名前はもちろん全くありませんでした。平成30年以来、出場すらなかった中での優勝ですから、当たり前です。

 しかし今回、甲子園の応援団だけでなく、卒業生たちの盛り上がりはすごいものがありました。同窓生のメーリングリストなどで準々決勝くらいからさまざまな激励メールが飛び交い、ちょっとしたにわか応援団ができていました。私も娘が慶応なので、LINEで娘とさかんにやりとりしました。彼女は野球部が平成時代の最後に出場した時、わざわざ甲子園まで応援に行っていました。しかし今回は松本市にいてそれはかないませんでした。ここ数年夏の間は「小澤征爾・松本フェスティバル」の手伝いをしているためです。

 

 高校野球の歴史をひも解くと1915年(大正4年)に大阪の豊中球場で第1回が開催され、慶応高校は第2回目の大会に初出場しその年に初優勝しているそうです。

 もうすぐ関東大震災100年の節目が来ますが、震災は1923年(大正12年)ですから、それよりも早い時代の優勝でした。その後も出場はしていますが、優勝はなし。

 私は大学だけ慶応なのですが、私の時代は甲子園に出場すらできない時代で、特に昭和37年から平成16年まではかすりもしない(笑)不毛の時代でした。当時の神奈川県の代表校は巨人の原監督を有した東海大相模や、平成の怪物・松坂大輔のいた横浜高校の2校に独占され、2校とも優勝が多く、慶応はおよびでない時代が続いていました。

 なのになんでこのところ突然強くなったのか、ご存知の方がいらしたら是非教えてください。全国から精鋭を集めるということをしたのでしょうか?監督はじめみんなで「野球を楽しむ」だけで優勝できたとはとても思えないのです。

 私の大学時代、6大学野球では慶応はとても強く、春・秋・春の3連覇を遂げた時代でした。それでも野球入学などの特待生はいなかったと記憶しています。昭和の怪物江川卓も慶応大学は受験で不合格にしているくらいですので。

 それが平成17年になるとしばらくぶりで甲子園に出場しましたが、それでも優勝候補などに名前が挙がったことは記憶にありません。平成も30年が最後の出場で、それ以来令和5年の今年は久しぶりの出場なのです。

 

 どうして強くなれたのかをネットを検索してみると以下の慶応高校野球部のサイトを見つけましたが、それでは秘密はわかりませんでした。

 

「慶應義塾高校での野球を目指す皆様へ」

慶應義塾高校野球部に関心をもっていただき、ありがとうござます。まずはこのページと「慶應義塾高校で野球をするために」、そして「よくある質問(FAQ)」をゆっくりご覧ください。また、ご質問がありましたら、下記の連絡先までご連絡ください。

入試制度

本校には一般入試、帰国子女入試、推薦入試の3つの入試制度があります(詳しくは本校HPをご覧ください)。もちろん、どれも簡単な試験ではありませんが、自分に合った入試を選び、準備や対策を早めに進めればチャンスは充分あるはずです。不安は先輩たちにもありました。一番大切なのは本人の「やる気」です。是非、チャレンジしてください!

 

 このあとは最近の野球部の戦績が記載されていました。これだけではなんとも言えませんが、野球一本やりで入学できるとは思えません。

 

なお、最初の行にタイポ発見、

>ありがとうござます。

 

ここで指摘されるなんて、みっともないよ!

早く訂正してね。

 

 今回の優勝を卒業生たちは本当に喜んでいるのですが、一方で「しらけた」という指摘をする人たちが多いことも発見しました。それらのほとんどは応援に対するクレームです。例えば「応援がうるさ過ぎる!」、「あれじゃ、仙台育英がかわいそうだ」、「育英の外野手二人がフライを取り合って落球したのは、応援がうるさくて声掛けが聞こえなかったからだ」とか、「球場全体の3分の2が慶応の応援団になっていて、フェアーじゃない」というような声です。

 この応援については、球場に足を運んだ娘も指摘していました。「関西地区には慶応OBがものすごくいて、みんなが応援に来ていたため、相手チームの応援席以外、ほぼ全員が慶応の応援団だった。ちょっと相手チームが可哀そうだった」と言っていました。

 私も含め大学時代には毎年春・秋の早慶戦で応援合戦を繰り広げます。学生たちはプレーボールのはるか前から入場していて、応援団の指導のもと応援の仕方をリハーサルで叩き込まれるのです。例の応援歌「若き血」はもとより、各バッターに送る声援の仕方、メガホンを使って声を出し叩くタイミングなど徹底的に仕込まれ、試合開始頃には声がかすれるほどでした。卒業後の同窓会などでも応援歌は必ず歌い、エールを交換します。なので、会場にいる卒業生たちはファンファーレが始まりを告げると、全員が条件反射で自然に応援を行ってしまうのです。

ごめんなさいね、仙台育英のみなさん。

以上、107年目の優勝でした。

 

 

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中国の不動産開発産業と経済のゆくえ

2023年08月20日 | 中国問題

 恒大集団が実質破綻し、アメリカでチャプター11の海外企業向け版であるチャプター15を申請しました。この15の申請とは11と同じで、一応駆け込み寺として逃げ込み、債権者の追及を逃れ、あわよくば再生しようという方法です。しかし中国の不動産市況は悪化の一途をたどっていて、とても再生の見込みなどありません。

 私は8月1日の投稿、「奢れる中国は久しからず」で行き過ぎた不動産投資は中国衰退の引き金になりうるという見解を示しました。日本のバブル崩壊とその後の長期低迷になぞらえています。人口減少も日本の踏んだ轍と同様です。

 すでにこの恒大集団は2021年12月にドル建て債券のデフォルトを起こし、2022年3月には株式の売買も停止されていたため、アメリカではやっぱり来るものが来たかかという程度の受けとめをされています。集団の負債総額はなんと48兆円、けた違いの大きさです。

 こうなると金融市場では次はどこかという犯人探しが続き、日本と同様バブル崩壊への道を歩み始めます。中国で最大規模の不動産開発会社「碧桂園」は、発行したドル建て社債2本(総額2,250万ドル)の保有者に対して、8月7日が期限だった利払いを履行できませんでした。30日間の猶予期間までに支払いができなければ、9月にデフォルトになります。金融市場は既に、碧桂園社債のデフォルトや大規模な債務再編を織り込んでいるといわれていて、同社の人民元建て債券は14日から売買停止、米ドル建て債券の価格は大幅に下落し、流通利回りは実に3,000%を超えています。もちろん株式時価総額も、ピーク時の2018年1月から9割以上減少しています。そして負債総額は恒大集団よりすこし少ないものの、未完成プロジェクトの規模は恒大集団のなんと4倍。デフォルトのマグニチュードは恒大より大きいものがあります。

 すでに各地で大問題になっている完成しないマンション・鬼城問題も相まって、不動産の売れ行きは悪化の一途をたどり、家計の消費にも悪影響を与えています。このため度を超えたオマケ付き販売などが横行しています。たとえばマンション一軒買ったら、2軒目はタダとか、リゾートマンションを無料であげるとかです。完全に末期症状ですね。

 

 中国政府はこうした大手不動産開発企業の状況悪化のニュースは、極力報道しないように規制しているそうです。すでに多くの国民は知ってはいても、さらなる大破綻ニュースは本格的動揺を招くため規制しているのだと思われます。実に姑息ですね。しかし一方で中国株式市場や通貨元の下落は隠しようがありません。

 そして中国の深刻な経済状況は失業者の増加にも表れています。しかし「臭い物にはフタ」の中国政府が、若者の失業率発表を取りやめると発表。それがかえって疑心暗鬼を招いています。今朝のTV報道で中国の専門家である東大の阿古教授が次のようにおっしゃっていました。「16歳から24歳の若者の失業率は21%と報道されていますが、中国の専門家の話では実際には4割以上に達しているそうです。乖離の理由は求職活動をしない相当数の寝そべり族の若者が、失業者にカウントされていないから」とのこと。はたして今後政府が公表する若者の失業率が大きくなるか小さくなるか、見ものですね。

 

 習近平というオレ様独裁者の経済運営は際どい局面に達しているので、要注意です。そのことが新たな危機まで発展すると、世界経済へのインパクトは非常に大きいものがあります。目くらましのための戦争でも起こさないといいのですが。

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さあ、どうする政府日銀

2023年08月17日 | 戦後70年、第2の敗戦に向かう日本

 円安と米国債の金利高が止まりませんね。米国債投資チャンスを狙っている方にはチャンスが継続していますが、円安は物価高の副作用を伴います。特にガソリンの値上がりは家計を直撃しますし、車を持たない方でも運賃がジワジワと値上がりするので、間接的に生活費に影響するようになりそうです。

 

 今回の話題に入ります。私が属しているネット上のサイバーサロンを主催されている方から「7月末に日銀の行った政策変更について、説明してほしい」と要望を受けました。すでに2週間すこし経過していますが、この超難解な政策変更に関して、なるべく簡単な説明を試みます。この内容をおよそでも理解できると、今後の日本が抱える大きな問題が見えてきます。

 そもそも日銀の今回の政策変更を一口で言うなら、「YCC(イールド・カーブ・コントロール)政策の一環で行っている主に10年物長期金利の変動許容幅を0.5%から1%に拡大した」ということです。

 と言われても、呪文を唱えられたとしか思えませんよね。YCC自体、世界でも日銀だけが行っている特異かつ異常な政策です。長期金利を一定以下に抑える政策ですがその副作用が大きくなったので、平たく言えば「市場の圧力に屈し、実質的に長期金利の利上げを行った」ということです。「10年物金利の変動許容幅を0.5%から1%に拡大した」という説明は人を煙に巻く「霞ヶ関文学」の類です。実際には金利は下げには向かわず上昇しかしないので、「上限を切り上げた」にすぎません。

 

 YCCという特異な政策は、もちろん大きな副作用を伴います。副作用とは、金利という重要な指標が、指標としての役に立たなくなってしまったということです。毎日変動する株価をあらわす代表的指標である日経平均株価が日銀によりむりやり抑え込まれれたり、「今日は取引が成立しなかった」としたらどうでしょう。「そんなバカな」ですよね。それと同じことを債券市場で実行しているのです。

 

 それもこれもすべては黒田氏が13年に始めたデフレ克服のための異次元緩和の悪影響です。2年という期間限定だったから異常な資金供給政策を認めたのですが、10年を経過したいまでも効果がないまま継続しています。というよりその間に政策はより強化され、国債だけでなく株式まで買いまくり、長期金利のコントロールまで始めてしまった。それでも人々のデフレマインドを変えることはできませんでした。このところのインフレと賃金上昇は、あくまでロシアのウクライナ侵略により始まった世界的インフレの影響によるもので、10年近くたって政策の効果がやっと出たなどというものではありません。それは日銀も認めています。インフレはすでに3%に達し、賃上げも同様に3%程度に達しているのに、日銀はまだ定着はしていないと言っています。つまり日本経済が活性化したためなんかでは決してないのです。

 YCCの副作用をもう少し説明します。市場規模では株式全体の時価総額800兆円より大規模な1,000兆円の債券市場がその機能を失っているということは、実はとんでもないことなのです。この数年で長期金利の指標である最も大事な10年物国債の取引が一日中「成立せず」という日が何日もあり、金融市場が機能しなくなっていました。金融市場で最も大事な「流動性の枯渇」を日銀自身が作り出しているのです。一般の方は債券市場の重要性を認識できないため、大ごととは思えないと思います。しかし資本市場の関係者にとっては商売を奪われ、企業は金利の参考指標を失って社債発行を適切な金利でできないため資金調達がままならず、銀行・生保・郵貯などの債券投資家は収益機会を失いました。

 

 もちろん我々の家計にとっても異次元緩和は大きなインパクトを与えました。大事な金利収入を失ったのです。家計の金融資産2千兆円のうち預貯金にある1千兆円は金利をほとんどもらえません。預金金利がたった1%でもあれば、家計は年に10兆円も得られるはず。1千万円預金すれば金利だけで年に10万円ももらえます。

 銀行は収益を得るためにシロウトの小金持ちの方に向け、詐欺的投資商品を売りつけるまでに至りました。仕組債に投資したら元金が半年で8割失われたという事例まであったことをみなさんにもおしらせしました。銀行は庶民の味方であるはずが、犯罪者集団に成り下がった。それも、これも異次元緩和のおかげです。

 

 さらに政府は低金利をよいことに国債をいい気になって増発し、累積赤字はGDPの260%にまで達してしまった。黒田氏による異次元緩和が始まって以来、日銀の買った国債の総量570兆円は、その間に国が発行した国債の総量とほぼ同じです。日銀は法律で国のファイナンスを行ってはいけないのに、法を迂回して犯罪を行っています。

 

 570兆円を巻き戻すことなど不可能で、どこかの時点で債券バブルは崩壊し、金利は猛烈に上昇し、企業は資金調達ができなくなり、我々はローンで家を買うことなどできなくなります。

 

 いつもそうであるように、日銀は自分の政策には間違いなど絶対にないということを標榜しつづけるため、「この変更は、金融政策の正常化への一歩ではない。利上げではなく金利の許容変動幅を拡大しただけだ」と言い張っています。もちろんこの変動幅拡大という苦しい言い訳を市場関係者の誰もが、「単なる利上げだ」と思っています。何故なら金利は低下などせず、上にしか行かないので、「上下の幅を拡大」という苦しい言い訳など誰も信じないからです。

 日銀の目指す正常化とは、まずは短期の政策金利を現在のマイナスレベルからプラスの世界に戻すことを指します。ちなみにアメリカもかつてゼロ金利政策を実施しましたが、今は政策金利を5%以上にして、正常化しました。ヨーロッパなども同様です。

 

 世界の孤児となった日銀がいったいいつまでこの愚かな政策を続けるのか。結局ポイント・オブ・ノーリターンを超えたため、巻き戻したくとも戻せません。金利が激烈な上昇を始めたら株式は暴落し、不動産も暴落、債券投資家は巨額の損失を出すことになります。それが我々には関係ないと思ったら大間違い。すべての銀行や郵貯、そして生保も大きな損失を出し、我々の銀行通帳や保険証書は紙切れ同然になる可能性すらあります。国内市場は抑え込めても、国際的に取引される為替取引を完璧に抑え込むことなどできないからです。

 昨年円安が高進した時に、財務省がドル売り介入をして一応成功しました。きっと財務省も日銀同様、オールマイティー幻想を抱く人たちの塊ですから、今後もそれを繰り返すでしょう。しかし無限の介入などできっこない。外為会計で保有しているドルが尽きれば運の尽き。きっとアメリカ政府との通貨スワップ協定を結んだりして引き延ばしにかかるでしょうが、それとていつかは反対取引を行う必要があります。

 

 日銀の植田総裁は、「今後1年から1年半をかけて異次元緩和のレビューを行う予定」と明言しました。なんで1年も1年半もかかるのか?私がすでにここで総括してあげたのに(笑)。きっとこれからそのレビュー内容を小出しにしては市場の反応を見て、「霞ヶ関文学」を仕上げていくのでしょう。

 そのようなことをいくらやっても、我々はすでに政府日銀を信用していないため、

 異次元緩和を続ければ続けるほど不安が募り、預貯金を取り崩して投資したり消費したりなんかしません。東京財団による最近の世論調査では「財政赤字に不安を感じる」という人が70%を占め、問題ないという人はわずか10%でした。

 太平洋戦争に突き進んだ軍部は負けを決して認めず、大本営発表で撤退は「転戦」、敗戦を「終戦」と言い換えていました。私には政府日銀の失敗を認めない姿勢は、戦時中の軍部とダブって見えてしまうのです。

   さあ、どうする政府日銀?

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米国債ダウングレード、その2

2023年08月11日 | 米国債への投資

 8月1日にフィッチの発表がなされて以降、ドルが円に対して少し上昇していますね。多くのエコノミストや証券アナリストはダウングレードがまるで大きなショックであったような言い方をしていますが、株価だけをとっても各指数はショックというような下落はしていません。為替はむしろドル高です。格下げ前日の7月31日と8月8日までの数字を並べますと、

        7月31日  8月8日   変化率

NYダウ     35,559   35,176   ▲1%

日経平均      33,192        32,473         ▲2%

ドル円      142.3   144.8     +2%

  この間の株価を言葉で表すなら、日米とも相場は「ベタナギ」だったということになりますし、ドル円レートも格下げされたドルがむしろわずかに上昇しました。私が前回書いたように、アメリカのメディアは、「直後の債券市場の反応は価格が上昇し、金利は下げた。つまり投資家は安全資産へ向かった」。そして「日経平均は過剰反応した」。本当のショックであれば、御本尊の米国債こそ価格が暴落して当然ですが、そうはなりませんでした。日本では株価の下げた原因を格下げの影響としたいらしく、相変わらず「米国債のダウングレードにより株価が下げた」と言い続けています。

  8月9日付けの日経新聞のフィナンシャルタイムズ論説欄に、格下げに対する非常に説得力のある解説がありましたので、それを紹介します。日経新聞はフィナンシャルタイムズと提携していて、毎日一面ほぼ全部を使ってフィナンシャルタイムズの論説を掲載しています。中でもこの日の解説員のジリアン・テッㇳ氏の解説はいつも読み応えがあります。長い文章ですので、かいつまんで部分引用します。

 

引用

タイトル;米国債格下げ、主因は政治

フィッチによる発表の日、一方ではトランプが起訴された。理由は「米国の民主主義への前代未聞の攻撃」を仕掛けたというもの。この二つ、関係がなさそうで実は大いにある。フィッチの発表内容は重要ポイントがみんなに見過ごされている。過去数十年にわたり格付け会社は主に国の経済と金融のファンダメンタルズを分析することで米国の信用力を評価してきた。フィッチも今回の発表でいくつかの財政と経済の指標を対比させている。

しかし米国は他国と決定的に違いがある。それはドル紙幣を印刷するという超特権を持っている国であることだ。政府がそうと決めれば国はいつでも債務を返済できる。つまりデフォルトなどしないということだ。

 しかしフィッチの分析はさらに米国政治の極端な二極化を懸念し、政治的妥協ができないとデフォルトが瞬間的にはありうると考えていることを指摘している。その二極化の主因こそがトランプによる国の分断である。デフォルトの定義からして瞬間でも元利払いができないとそれはデフォルトと認定されるので、フィッチの懸念は的を射ていて、見当違いではない。トランプはFRBの独立性を脅かし、財政的裏付けのない大型減税を実施した。彼のおかげで米国は先進国というより、政治的リスクの大きな新興国と判断され、格下げされたのだ。

というように、実は8月1日に起こった2つの事象は連携していているのだ。

引用終わり

 

 この論調はいつも繰り返し私が述べている、「たとえ政治的理由でデフォルトしたとしても、それはボクシングで言うスリップダウンで、起き上がれない本当のダウンなどではない」という主張と同じことを述べています。

 

  ですので論説員の付けたタイトルは、「米国債格下げ、主因は政治」という具合になるのです。

  すでに発表から一週間以上経過していますが、日本のマスコミやアナリストなどのはやし立てる「ダウングレード・ショック」など、数字的に考察しても大したことはなく、一格付け会社の意見表明に過ぎないのです。

 米国債投資を検討されている皆さんも、ダウングレード問題などに怯えることなく、10年物で4%台の利率をしっかりとつかみ取りましょう。

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米国債のダウングレード

2023年08月03日 | 米国債への投資

 お待たせしました。ダウングレード問題です。

 世界で最も安全な金融資産である米国債が、フィッチ・レーティングスにより1段階だけダウングレードされました。AAAからAA+への変更です。

 フィッチ・レーティングスはアメリカの2大格付け会社、ムーディーズ、S&Pに次ぐ第3の格付け会社で、100年の歴史を持ち世界的に信頼を得ている会社です。

 

まず、当日の市場の反応を見てみましょう。

 ダウングレードのインパクトを数値で見てみますと、発表後のNYダウはその日71ドルのプラスで引けていますので、無反応と言っていいレベルでした。ちなみにロンドンの8月1日17時に発表されたのですが、NY時間では12時です。一方その翌日、2日の日経平均はなんとマイナス768円。過剰反応というレベルです。

 では肝心の米国債の価格=金利はどうか。10年物国債の前日終値は3.97%、当日終値は4.03%と若干上昇、つまり価格は若干の低下。まあこの程度は日常茶飯事のレベルと言えます。では為替市場はどうか。このところのアメリカ経済は強いという見方を引き継いだままで、むしろ金利上昇をテコに1円弱ほどドル高に動きました。しかしそれも日常レベルの範囲でしょう。

 

  では一般のニュース報道はどうか。私がチェックしたのはいずれも英語版で、BBC、ブルームバーグ、ウォールストリート、ロイター、CNBCですが、どこもがトップ記事はトランプの起訴、例の国会乱入を煽った罪に対する起訴の記事がトップで、ダウングレードは小さな扱いでしかありませんでした。一応ダウングレードに関するロイターの英語版タイトルと記事の冒頭だけ引用します。

タイトル;U.S. markets may not see lasting impact from Fitch downgrade

内容;The 10-year U.S. Treasury yield declined about 3.6 basis points (bps) to 4.0109% immediately after Fitch’s decision, indicating investors’ preference for safer assets.

引用終わり

 タイトルを訳せば「アメリカ市場はフィッチによるダウングレードの影響は続かないと見ている」。記事の冒頭では「直後の債券市場の反応は価格が上昇し、金利は下げた。つまり投資家は安全資産へ向かった」と言っています。いつもの質への逃避が起ったといっているのです。

 ダウングレードなのに、安全資産に向かったとは驚きです。ベイーシス・ポイントとは、100分の1%ですから、見えないほどではありますが金利低下=価格上昇でした。報道の扱いを含めこれらの反応をまとめますと、要は日本を除いては無視に近いものだったということです。

 この欧米の反応には前触れが影響しているのかもしれません。フィッチはすでに5月24日にダウングレードの可能性の警鐘を鳴らしていました。それは6月末の財政の崖問題が佳境に入った時期です。もちろんその後、崖問題はいつものシナリオどおり大団円に終わりました。

  世界のニュースと市場の反応は大きな影響なしというものだったことがわかります。しかし私のような専門家の目は、ニュース内容に以下のような疑問をいだきました。解説します。

 今回の発表内容で、「おいフィッチ、大丈夫か?」という疑問を持った部分があります。以下はNHKニュースですが、まずご覧ください。

NHKニュース8月2日、冒頭のみ引用、

大手格付け会社「フィッチ・レーティングス」は1日、外貨建のアメリカ国債の格付けを最も信頼度が高い「AAA」から「AA+」に1段階引き下げたと発表しました。

引用終わり

おいおい、アメリカ政府は外貨建て国債など発行したことはないし、する必要もないけど?翻訳の間違い?

念のためFitchの発表資料を英語版で見てみましょう。

Tue 01 Aug, 2023 - 17:13 ET

Fitch Ratings - London - 01 Aug 2023: Fitch Ratings has downgraded the United States of America's Long-Term Foreign-Currency Issuer Default Rating (IDR) to 'AA+' from 'AAA'. The Rating Watch Negative was removed and a Stable Outlook assigned. The Country Ceiling has been affirmed at 'AAA'.

この発表資料はNHKとは微妙に違い、「長期外貨建て発行体の格付け」となっていますが、完全な翻訳間違えではなさそうです。NHKの言う「外貨建てのアメリカ国債」ではありませんが、それはよしとしましょう。しかし「外貨建て発行体」という言葉が気になります。そこで私はこのヲタクっぽい疑問を日本のフィッチの問い合わせ窓口宛に確認メールを入れてみましたので、返事が来たらまたみなさんにお伝えします。

 先ほどのNHKニュースには続きがあります。格下げの理由についてですので続きを引用します。

引用
格下げの理由について格付け会社は、今後3年間にアメリカの財政が悪化する懸念や政府の借金の上限、債務上限問題にみられる政治の混乱などを挙げています。

債務上限問題を巡っては、過去20年にわたって政治対立を繰り返し、土壇場で解決が図られるのは財政運営の信頼を損なわせるものだと指摘しています。
大手格付け会社がアメリカ国債の格付けを引き下げるのは、かつてのスタンダード・アンド・プアーズ、今のS&Pグローバル・レーティングが2011年8月に最も信頼度が高い「AAA」から「AA+」に引き下げて以来、およそ12年ぶりです。

2011年に初めてアメリカ国債が格下げされたときは、世界で株価が下落するなど金融市場が動揺しました。今後の市場の反応が注目されます。

引用終わり

 この格下げに対し、財務省のイエレン長官はすぐに以下の反応をしています。

NHKニュース同日の引用です、

「フィッチ・レーティングス」がアメリカ国債の格付けを引き下げたことについて、イエレン財務長官は1日、声明を発表しました。この中でイエレン長官は「フィッチ・レーティングスの決定に強く反対する」としたうえで「アメリカ国債が依然として世界有数の安全かつ流動性の高い資産で、アメリカ経済が強いという投資家や世界中の人々の認識を変えるものではない」と強調しています。
また「アメリカ政府は財政が持続的になるようしっかりと取り組んでいる。債務上限に関する法律には1兆ドル以上の財政赤字削減が盛り込まれ、財政の道筋は改善された」などとして今回の国債の格下げは恣意的(しいてき)で古いデータに基づいたものだと批判しています。アメリカ国債はアメリカ政府と基軸通貨であるドルに対する信頼を背景に長く世界で最も安全な資産とされてきました。
さまざまな投資商品に組み込まれ、アメリカ国債の利回りは金融市場の重要な指標となっています。

引用終わり

 

  以上、欧米での反応は「だからどうしたの?」という反応でしたが、日本では「サプライズ」でした。そしてイエレン長官は発行主体の張本人ですから反論は当然と言えるのですが、私はむしろ「せっかくの警鐘を大事にせよ!。でないと日本になっちゃうよ」です。アメリカ国債自体はドル建て債務のためデフォルトは技術的にもありえません。ありえるとすれば議会の邪魔だけです。

 投資をしている方にとっては、もし今後利回りがさらに上昇するようであれば4%台は大チャンスだ、とあらためて申し上げておきます。

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