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24年の10大リスク by イアン・ブレマー

2024年01月12日 | アメリカ大統領選挙 24年

 例年通り、イアン・ブレマー氏率いるアメリカの調査会社ユーラシア・グループが1月8日に今年の10大リスクを発表しました。まずそれら10項目と簡単な要約をNHKニュースから引用します。

1「アメリカの分断」
11月の大統領選挙に向けてさらに政治的分断が深まり、地政学的な不安定さを世界にもたらす可能性がある。

2「瀬戸際に立つ中東」
イスラエルとハマスの戦闘を終わらせる明確な方法はなく、この戦闘をめぐる政治的分断が世界に影響を与える。イエメンの反政府勢力フーシ派による船舶への攻撃で物流網への影響なども懸念される。

3「ウクライナの事実上の割譲」
ロシアは現在、戦場での主導権を握っており、アメリカの支援などが滞る中、ウクライナの領土が事実上、ロシアに割譲される可能性がある。

4「AIのガバナンス欠如」
企業がほぼ制約を受けないままさらに強力なAIモデルなどが開発され、政府のコントロールを超えて普及する可能性がある。

5「ならず者国家の枢軸」
ロシア、北朝鮮、イランというならず者国家が、ロシアによるウクライナへの侵攻以降協力関係を深め、既存の制度や原則を弱体化させようとしている。

6「回復しない中国」
すでに外国人投資家の撤退など不調の兆候があったが、中国政府が金融のぜい弱性や需要不足に対応できず、中国経済の回復は難しいだろう。

7「重要鉱物をめぐる争奪戦」
重要鉱物はイノベーションから国家安全保障まで事実上すべての領域で大切だが、その生産地は一部地域に偏り、生産国政府は価格変動を増大させるなど保護主義的な措置をとる可能性がある。

8「インフレによる経済的逆風」
しぶといインフレに起因する高金利が、世界中で成長を鈍化させるだろう。

9「エルニーニョ現象の再来」
異常気象によって、食糧難、水不足、物流の混乱、病気の流行、政情不安などをもたらすだろう。

10「分断化が進むアメリカでビジネスを展開する企業のリスク」
大統領選挙が近づくにつれて国内市場が分断され、全米に展開する企業は特定の州の市場からの撤退などを迫られる可能性がある。

 

 恒例の10大リスクの発表ですが、この発表はことの重要性の順序になっていて1番にアメリカの分断をあげています。そのため進行中の2つの戦争は2番目と3番目になっています。その理由はもちろん、アメリカの大統領選挙の結果が世界により重大な影響を及ぼすからです。そこでこの項目のみ発表資料の中身をより詳細にサマリーしてみます。

 

サマリー1.アメリカの分断

前例のないほど機能不全に陥った米国の選挙は、世界の安全保障、安定、経済の見通しに多大な影響を与えるだろう。 その結果は全世界80 億人の運命に関わることになるが、発言権を持つ米国人有権者はわずか1億6000万人に過ぎず、さらに勝敗はほんの一握りの激戦州の数万人の有権者によって決定される。民主党であれ共和党であれ、負けた側はその結果を不当なものと考え、受け入れようとしないだろう。世界で最も強力な国が、自由で公正な選挙、平和的な権力移譲、三権分立による制度的チェック・アンド・バランスなど、基盤となる政治制度に対する重大な挑戦に直面している。連邦の政治はとんでもない状況にある。

 

 以上、ブレマー氏はこのように結論付けていますが、私は選挙結果を認めないとんでもない状況をつくりだしているのは、あくまで共和党、それもトランプであり、民主党は混乱を作り出す側には立たないと思っています。その点ではブレマー氏に賛成しかねます。

 

 さらに「もしトラ」と言われる、「もしもトランプが当選したら」どなるかについてブレマー氏はより詳細に分析していますので、長い文章ですがそのまま引用します。なお私なりに重要と思われる部分は太字にしてありますので、読み飛ばしたい方はその部分だけを読んでみてください。また私がブレマー氏の意見に異論を感じる場所には(←・・・)として私の意見を述べています。

 

引用

2016 年のトランプの大逆転劇には、米国の左派に恐怖を呼び、同盟国の指導者たちからは懸念の声が上がったが、米国のビジネスリーダーたちからはおおむね好意的な反応が示され、世界の金融市場からも楽観的な見方が示された。トランプ政権の減税、規制緩和が米国経済にプラスに働くと考えられたのだ。第 2 次トランプ政権への反応はどうなるかわからない。第1次政権よりガードレールが少なくなり、財政的余裕が縮小し、米国の各州が 急進的な政策対立により分断される政治が続くことになる。

 第 2 次トランプ政権は行政権力を強化し、チェック・アンド・バランスを弱め、法の支配を弱体化させる措置を取るだろう。トランプは、障害とみなす数千人の公務員を更迭し、経験の浅い忠実な職員を引き入れて連邦政府機関を支配しようとするだろう。

閣僚の多くは共和党幹部となるだろう。ニッキー・ヘイリー、ロバート・ライトハイザー、マイク・ポンペオ(いずれも政策コミュニティーで知られる有能な人物たち)らが復帰する可能性が高い。(←ニッキー・ヘイリー氏はトランプの対抗馬として予備選に出馬してトランプの復讐対象となるので、私はトランプは彼女を政権幹部に選ばないと思います)。

主要政策のリスクとしては、広範な10%の輸入関税や中国からの最恵国待遇の剝奪を目標とする貿易保護主義が挙げられる。国防総省では、幹部にジム・マティス前国防長官よりもマイク・フリン元大統領補佐官のような政治的忠誠心の強い人物が任命され、不確定要素となるだろう。同時に、ホワイトハウスに入るトランプ大統領の政策顧問の中核(スティーブ・バノン元首席戦略官、スティーブン・ミラー大統領顧問、カシュ・ パテル元国防長官代行首席補佐官といった人物)は、エリートビジネスリーダーや外国の要人との関係をほとんど持たず、関係を優先する意欲も限られている。

「ディープステート(闇の政府)」を一掃したトランプは、法の支配を破ることへの制約が少なくなる。彼の最初の仕事は、FBI、司法省、内国歳入庁(IRS)を自らの武器とし、トランプ自身や味方の害となる手続きを妨害し、政敵を迫害することだろう。バイデンとその家族もその対象になるだろうが、野党議員、メディア関係者、献金者、批評家など、この報復主義的マッカーシズムがどこまで突き進むかは非常に大きな問題だ。政治的左派から右派まで全体の行動を左右することになるからだ。良くて政治的な反対意見を冷え込ませる程度だが、最悪の場合はほぼ完全に封殺するだろう。 第 2 次トランプ政権が無法な行動をとった場合、連邦レベルではそれを抑制する救済策はほとんどないだろう。議会が分裂した場合、あるいは共和党が支配する場合、トランプの行き過ぎた行動をチェックすることはできないし、する気もないだろう。民主党優位の議会ですら弾劾や罷免は見送られている。保守的な最高裁は、その3分の1がトランプによって任命され、独立性を保つだろうが、言うことを聞かない大統領に対して判決を執行する権限は限られている。南北戦争の終結以来米国が経験したことのないような憲法上の危機が発生する可能性がある。 米国の分散されたシステムは、ワシントンの機能不全を補うものとなるだろう。連邦政府が弱体化すれば、各州に権力が委譲され、競合する政治・経済戦略の自由市場が活発化することになるからだ。(←トランプは独裁者として君臨したがるので、各州に権力が移譲されることにはならないと思われる)。この分権化の裏返しとして、共和党州と民主党州は、政策面だけでなく、居住、ビジネス、投資の誘致先という点でも、ますます分極化が進むだろう。州によって政策や規制が異なるため、企業にとって困難なビジネスおよび投資環境の分断を生むだろう。立地の選択が暗黙の政治的主張となる。 外国企業は米国の政治的地理を理解するのが難しくなり、トランプの政治組織に逆らわないようにするために時間を費やすことになるだろう。連邦政府全体との関係、中でもトランプを動かせる共和党議員との関係は、外国政府にとって、1 期目よりもさらに不可欠になるだろう。また、投資家は規制緩和された産業に大きなビジネスチャンスを見いだすと思われるが、その一方で米国の財政状況に対する懸念はますます強まるだろう。 具体的な政策を市場がいかに前向きに捉えようとも、属人的、権威主義的で、気まぐれな トランプ大統領の復活は、米国の民主主義に深刻な打撃を与えるだろう。また、投資先としての米国の長期的な安定性、金融面での約束の信頼性、海外パートナーとの約束の信頼性、グローバルな安全保障秩序の要としての役割の持続性についても、根源的な疑問が生じ始めるだろう。

引用終わり

 

 とまあ、「リスク」を専門とするブレ―マー氏ですから、あらゆるリスクを網羅して掲げています。私はたとえもしトラが実現しても、これほどまでには至らず、話半分。さほど悲観する必要はないと思っています。

 とはいえ、何故これほどまでにアメリカ国内と世界を分断し、つぶしてしまうようなトランプの人気がアメリカ人の間で高いのか。次回はその疑問をぶつけてみたいと思います。

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