ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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トランプ恐怖支配の終焉

2018年12月26日 | トランプでアメリカは大丈夫か?

  株価の暴落が止まりませんね。それに対して一人ホワイトハウスでクリスマスを迎えたトランプが、絶え間なく吠え続けています。私の「吠えるな、トランプ!」の声は届いていないようです(笑)。自分のいかさまゴルフを棚に上げて、面白いことを言っています。24日クリスマスイブ、ロイターからの引用です。

 「トランプ大統領はツイッターで「米経済にとって唯一の問題はFRBだ。彼らは市場に対する感覚がない」とし、FRBを「腕力はあるが、パットのセンスが欠けていてスコアの上がらないゴルファーのようだ」と批判。貿易戦争や強いドル、壁を巡る政府機関閉鎖について理解していないと指摘した。」

   私からは今度は聞こえるような大声でこう返してあげます。

 「米経済にとって唯一の問題はおまえさん、トランプだ。おまえさんは市場に対する感覚がない。大統領が吠えたからって、株価を上げられるもんか!」

  さらに全ゴルファーのためにもう一言、「ゴルフでいんちきするトランプの言葉などに聞く耳を持つな」です(爆笑)。

   日米ともにあわてる政府関係者や金融系エコノミスト達のコメントはおしなべて、

 「株価は暴落しているが、実体経済の足元は堅調で問題はないため、心配する必要はない」ということを繰り返しています。しかしほんとうにそうでしょうか。私は疑問を感じています。株価は半年・1年先を見て動いているのに、足元の堅調さだけでは説得力に欠けます。

   そもそも実体経済の安定性ということがどこからきているかと言いますと、アメリカで言えば企業収益や消費の堅調さ、賃金の伸びなどですが、それらはトランプの減税と言うドーピングによると部分が大です。これ以上のドーピングは民主党の下院勝利により禁止令が出されました。一方で貿易戦争が中国経済にも影響し、それが世界経済の見通しを悪化させています。さらにアメリカ国内でもトランプに対する離反の動きがハーレーダビッドソンやGMなどのメーカーに拡がっています。

  こうしたことに対して評論家からは様々なコメントがありますが、私は個々の対市場コメントより大事な点を指摘します。それは、

 「恐怖による支配の終焉」です。

   「恐怖」とはニクソンを辞任に追い込んだジャーナリスト、ボブ・ウッドワード氏の著書の英語版タイトルで、トランプのやり口を恐怖による支配であると定義しています。私もその通りだと思います。外交政策はもちろん、国内政治、経済問題から金融市場まで、彼のツイッター攻撃による「恐怖」で震え上がっていたのがこの2年でした。

  しかしみんながそれに反抗し始めたのです。それが先に指摘した「恐怖による支配の終焉」なのです。

   マティス国防長官はトランプをあからさまに批判して自ら辞任。経済原則に則って行動するアメリカメーカーも離反。中国は最初から反抗し続け屈しない。議会も予算を巡り共和党すら離反。FRB議長も決然と対抗し、株式市場もトランプに「NO!」を突き付けました。

  そして日本ではあまり報道されていないのですが、司法においてとても大事な動きがありました。それは最高裁判事の離反です。12月22日のウォールストリート・ジャーナル日本語版から引用します。

「【ワシントン】メキシコ国境からの不法入国者による難民申請を禁止する米大統領令を一時差し止めた地裁の命令について、トランプ政権が差し止め解除を求めていた訴訟で、連邦最高裁判所は21日、政権の訴えを退けた。トランプ大統領の移民政策に対し、司法がまたも待ったを掛けた格好だ。」

   最高裁の判事の構成は少し前に1名のセクハラ疑惑の新判事をトランプが指名し、9人のうち5人を保守派で固めたはずでした。しかし今回の判決ではトランプにノーを突き付けました。FRBに次いでアメリカの司法もトランプ支配から独立し、きちんと機能していることを示しました。

 

  これでアメリカでは司法立法行政もトランプにノーを言える健全なる行動原理を有していることが証明され、私はとても安心しています。どうりでトランプが一人寂しくホワイトハウスで嘆くわけです。

  しかし安心はできません。それは、彼はサイコパスと診断されている人間ですので、ここから本領を発揮するからです。本領とはもちろん破れかぶれの暴走です。それによるトランプリスクは来年も継続します。それでもみんなが反抗するようになれば、彼の暴走に歯止めがかかります。


   年末恒例のユーラシアグループ代表イアン・ブレマー氏の2019年の「世界の地政学上の10大リスク」がどうなるか、今から楽しみにしましょう。18年の見通しで彼はトランプリスクを過小評価というより、リスクからほとんど消してしまったのですが、年央に私はそれをどうも誤りだと指摘しました。世界は今年の後半戦もトランプリスク一色でした。それでも彼の指摘する一つ一つの項目は頭に入れておく価値は十分にあります。


  さて、株式暴落の一方で原油価格と米国債金利の下落が止まりません。米国債投資を考えていたみなさんは、私がブログでお勧めした時期に、しっかりと投資されましたか?私は著書の出版以来はじめて、今年は2回買いシグナルを出しました。

   アメリカ金利が久々に3%を超えたのは今年の4月末、私の著書が出た11年8月以来、約7年ぶりのことでした。そこで私は今年4月24日に最初のお勧め記事を書いています。シリーズ「トランプでアメリカは大丈夫か」の7回目の記事で、サブタイトルは「米国債投資のチャンス到来」でした。10年物国債の金利は5月中旬に3.1%台までいき、いったんピークを迎えて反落し3%を下回りました。

  その後9月下旬にふたたび3%を上回り始め、10月8日に私は「米国債投資のお勧め」というタイトルで単独の記事を書いています。その時の10年物金利は3.23%でした。そして3%台は11月末まで2か月にわたり続きました。

  ところが11月23日にコメント欄で陽子さんの質問に対して、私は以下のように回答しウォーニングを出しました。引用します。

 陽子さんの質問

>アメリカの経済はまだまだ大丈夫!と思っていましたが、ここへ来てなんだか不穏な空気ですね。。。償還まで20年以上の長期債も思いきって前倒しで買っていこうと思います。

私の回答

さまざまな経済指標のなかでも、いわゆる将来を指し示す先行的な指標に陰りが見え始めているので、一方的に成長継続とはいかないと思います。

 ただ日本との決定的違いは、すでに何回も利上げをしているので、いざとなったら何回も利下げで景気を刺激できるところです。

 長期債への投資は最初の一歩は早めに、その後はじっくりと進めてください


  「最初の一歩は早めに、その後はじっくり」というのはもちろん、長期金利が今後低下しそうだという予想をたてて申し上げています。陽子さんは最近のコメント欄で米国債への投資比率が高くなっているとのことですから、大丈夫そうですね。

   では、もし10年物が3%台にあった時点で投資し損ねたという方はどうすべきか。

代替としては短期債への投資もありだと思います。アメリカ債券市場のクリスマス前の終値のイールドは以下のとおりでした。

  10年債;2.75% 5年債;2.58% 2年債;2.57%

   10年物金利は急落し、5年物と2年物は若干低下したうえにほとんど差がありません。これをどう見るかですが、金利の示唆することを素直に述べますと、以下のようになります。

 「短期が高いのはまだ利上げがありそうだということ。中・長期が短期と比べさほど高くないのは、中期的には利上げが停止され、その後も経済成長が鈍化し、物価も雇用も強くなりそうもないことを示唆している」ということです。ですので、中期・長期ものへの投資はペースを緩めるかいったん停止し、長期金利の上昇をもって再開するのがお勧めです。

   もちろん上記は瞬間風速だけを切り取って解説していますので、今後の実体経済の変動や先の見通しによっては変化の可能性があることを頭に留めておいてください。 

 (注)私の言う短期とは2年物、中期は5年物、長期は10年物以上のことです。

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吠えるなトランプ!

2018年12月21日 | トランプでアメリカは大丈夫か?

  きまぐれトランプの政策を普段から批判していたと言われ、「そして誰もいなくなった」劇のいなくなる候補の筆頭だったマティス国防長官が辞任するというニュースが飛び込んできました。マティス氏はトランプに引導を渡される前に、「シリア撤退は国益には反するし、同盟国との関係を悪化させる」とはっきりとした辞任声明を出しました。悪いことは悪いと言う立派な軍人です。

   といっても辞任は大方の予想通りです。報道では全軍の司令官である大統領と国防長官の二人が、数か月も会話をかわすことがほとんどなかったというのですから、異常を通り越してあきれるばかりです。もちろんアメリカの一方的シリア撤退に対する世界の反応は大反発です。特にアメリカと一緒に依然ISと戦っている「有志連合」を組んでいる英仏首脳の反発は強いものがありました。またアメリカ議会でも与党共和党の有力議員が「ここで撤退すべきではない」と強く異を唱えました。そのニュースを時事通信から引用します。

 「トランプ米政権がシリア駐留米軍の撤収を開始したことについて、与党・共和党議員から19日、批判の声が噴出した。ルビオ上院議員は記者団に「シリアからの米軍撤収の決定は大間違いだ」と指摘。「今後数カ月から数年、(中東で)大きな反動が起きるだろう」と警告した。グラム上院議員はツイッターで、シリア撤収について「オバマ前大統領同様の大失敗になる」と批判。オバマ氏が米軍をイラクから撤退させた後に過激派組織「イスラム国」(IS)が台頭したことを念頭に懸念を示した。さらに「(対ISで連携してきたシリアの)クルド人勢力を危険にさらすことになる」と強調した。」

   でも世界には、ただ一人撤退に歓迎の意を表した人がいました。ロシアのプーチンです。衝動的トランプはこれでプーチンの思うつぼにはまり、彼がほくそ笑んでいることまで考えは及んでいません。トランプは兵士をクリスマス前に帰還させたと言いたいだけの衝動的決断を、側近たちの制止もかかわらず実行したのです。ではタイトルの話に移ります。

 

トランプの遠吠え その1

  金融市場では株や原油価格が暴落しています。特に株価で命脈を保つトランプが、暴落をFRBの利上げのせいにするために大声で吠えています。自分で選んだ議長なので思うがままに操れると思いこんでいたのでしょう。FRBのパウエル議長はトランプが吠えれば吠えるほど、「誰がおまえの言うことなんか聞くもんか」という毅然とした態度でのぞんでいるように思えます。FRBの本分は政府から独立した政策を決定することにあるので、いくら吠えても無駄です。私としては、今回の利上げでトランプの犬ではないパウエル氏の本当の姿がわかり、とても安心しました。

  

トランプの遠吠え その2

   トランプは選挙戦で「メキシコ国境に壁を作る。払うのはメキシコだ」と千回くらい叫んでいましたが、全く実現できていません。その後も壁を作るぞと吠え続けましたが、中間選挙の下院での敗北がその公約に予算面でノーを突き付けています。壁建設の予算案を議会が承認しそうもないのです。

  いや、まてよ。メキシコに払わせるのだから、中間選挙の敗北なんか関係ないはずだよね、トランプちゃん。

   そしてまた連邦予算を巡り、このたびはトランプサーカス劇場がオープンしました。「財政の崖歩きショー」が久々に始まったのです。オバマ政権時代の2011年夏ころから共和党のいやがらせで、財政の崖問題が頻繁に起こっていました。しかもその時の論点は国債の利払いができるか否かだったので、私の著書「米国債を買え」がもろに影響を受けました。最終稿を出し終わって旅行に出ていた私をダイヤモンド社はNYでつかまえ、私に「利払いができずにデフォルトしたらどうなるのかを書いてくれ」と依頼してきました。そこでしかたなく、「そんなデフォルトは政治ショーだから大丈夫。ボクシングで言えばスリップダウンだ」と書き送り、それが追加されました。

   今回は内容が異なり、議会は暫定予算を通過させたのですが、その中にメキシコの壁建設に十分な予算が充てられていないことにトランプが怒り、予算書にサインをしないというのです。サインなしだと連邦政府の予算執行に支障が出て、政府機関が閉鎖などに追い込まれます。それを人質にして壁予算を求めているというのが今回のトランプサーカスの演目です。

   政府機関の閉鎖をいとわず「暫定予算を承認しない」と吠えるトランプと反目する議会、どっちが勝つか見ものです。

  

  ではこのところ暴落を続ける株価をどう見るかに移ります。

  私ははっきり言ってここでの株式暴落はむしろアメリカと世界にとっては安心材料だと思っています。世の中のエコノミスト・アナリストのほとんどは投資銀行・証券・銀行系の人たちのため、株価の暴落を大いに嘆いています。でもそれは超近視眼的見方でしかありません。もし世界景気のスローダウン見通しに反して相場が上げ続けたら、将来の暴落の程度がひどくなるだけです。実に健全なるコレクションじゃありませんか。

 

  こうしてこうして政治と金融市場の状況を見ると、11月の中間選挙以降トランプがイライラをつのらせ吠え方が異常になっていることがわかります。この度を超えたイライラの理由は上記に加え、ロシア疑惑で追いつめられた大統領のフラストが頂点に達しつつあるからです。

  来年1月に始まる選挙後の新議会では下院多数派の民主党が圧力を強めるのが必定です。民主党はいよいよ弾劾のための外堀の埋め立て工事を始めると宣言しています。上院では否決されることが分かっていても、下院が弾劾を発議することが民主党にとっては大事なことなのです。要はトランプのレームダック化、ドナルドダック化を狙っているのです。

   トランプは自分の味方であるはずの政府内の枢要ポストのほぼすべての人材が去り、彼らが退任後は自伝で大統領府の混乱とトランプの錯乱ぶりを暴露することに毎日腹を立てています。さらに古くから自分の腹心の部下であったはずの顧問弁護士までが司法取引で裏切り、自分を追い詰めようとしている。こうした事態に夜も寝られない状態となっていて、いつ精神錯乱状態になってもおかしくない状態であると精神分析医らは診断しています。

   しかし彼は精神的にタフなので、精神分析医たちの予見を越えて吠え続けるだろうと私は思っています。

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アメリカの長期展望、力の源泉について

2018年12月14日 | トランプでアメリカは大丈夫か?

   この1・2か月の間に、コメント欄にどなたかから「アメリカは長期的に見て大丈夫か、見解を聞かせて欲しい」との要望がありました。それがいつどなただったかを確認できずにいましたが、とりあえず私の長期展望をお伝えすることにします。

  経済はまずまずでもトランプによる政治的混乱に不安を覚える方も多いと思いますが、何も心配することはありません。端的に言うとトランプの政策は「アメリカ・ファースト」だからです。

  矛盾しているように聞こえるかもしれませんが、アメリカを第一に考えることはアメリカにとって悪いことではありません。ただしトランプのそれは実に近視眼的考えです。でも近視の視野がせいぜい数年であれば、次の大統領はトランプに対する強烈な巻き返しをするでしょうから、大丈夫なのです。減税を中心とした財政上のバラマキも、トランプは下院を失ったためこれ以上の無茶はできません。

 

  では長期展望をした場合はどうでしょう。私はもちろんアメリカは大丈夫だと思っています。いったいアメリカの力の源泉、強さの本当の秘密はどこにあるのでしょうか。私の見方をお知らせします。

  みなさん意外に思われると思いますが、私の考えるアメリカの力の源泉は増加する人口や豊富な資源などの経済指標は単なる付け足しで、実はダイバーシティ、「多様性を飲み込む包容力」だと思っています。

  生物学的にも雑種強勢、純粋種は弱く雑種は強いというのが定説です。アメリカは国の成り立ちからして人種、性別、国籍、宗教などを問わず、世界から人材を集める工夫をしていて、多様性を力の源泉としています。

  スポーツの世界を見ればとてもよくわかります。日本の野球選手で最も素晴らしいと思われる選手はみなアメリカのメジャーリーグに行きます。メジャーリーグの強さはアメリカの選手に加え日本人選手や、日本以外のアジアの一流選手、そして最も大きな供給源である中南米の強豪選手たちを実質的に無制限に飲み込んでいくからです。

  元々のアメリカの選手と言っても、当然様々な人種のルツボでから人種を越えて交じり合った人たちです。日本の相撲や野球のように外人枠と言う名の厳しい制限を設けることは、ムラ社会を象徴する排他主義であって、私には弱さをキープするための制度にしか見えません。

  スポーツだけでなく対局にある学問の世界も同じです。アメリカの大学や研究機関では世界中に門戸を開き、様々な国から研究者やアイデアを集める工夫がなされています。日本人のノーベル賞受賞者の多くがアメリカで学んだり研究したりしています。

  世界をリードする産業分野での強さを象徴するのがシリコンバレーという巨大なハイテク集積地です。カリフォルニア州サノゼ近くのスタンフォード大学を中心に発展を遂げたシリコンバレーは、地域全体が世界一のハイテク集積地であり、IT関連産業の起業装置です。テクノロジーだけでなく、企業に必要な資金を提供するベンチャー・キャピタルが集まるリスクマネーの集積地でもあります。もちろん実際の巨大IT関連企業の本社はシリコンバレーだけでなく、西海岸全体に広がりを見せています。

  そこで働く人間の約半数はアメリカ人ですが、あとの半数は海外から来たIT技術者や学者たちです。一時は中国人が半数近くを占めると言われていましたが、その後はインド人がとって変わりました。日本人はほとんどいません。そうした人種=頭脳の多様性を受け入れることが、最初に述べた「多様性を飲み込む包容力」で、シリコンバレーでも力の源泉となっています。

  では、これまでは成功したアメリカですが、反移民を掲げるトランプが出てきた今後の見通しはどうでしょうか。私は「多様性を飲み込む包容力」さえ保てば世界をリードし続けるとみています。今後の世界の産業変革はほとんどすべてがITの力にかかっています。巨大産業である自動車産業はもとより、すべてのモノつくりのカナメ、新技術、新基盤はIT技術がベースにくると思われます。GAFAと言われるグーグル、アップル、フェイスブック、アマゾンに代表される大企業も、ITという基盤を利用した新機軸を開発し、世界に冠たる企業に成長しました。そのプラットフォームと呼ばれる基盤を創作し続けるのは、シリコンバレーです。

  私は、例えばアップルが永続する企業であるとは全く思っていません。彼らはPCのシェアーを失った後にiPodという新機軸を打ち出しウォークマンを駆逐しました。しかし本当の強さはiPodというハード機器ではなく、PCとiPodを利用した新たな音楽配信プラットフォームの構築でした。同様にiPhoneもハードではありますが、単なるハードではありません。すでに構築した音楽配信や映画配信を載せ、その上で無限の展開可能性を秘めた様々なアプリをアップルストアからダウンロードさせ利用料をとり続けるという、全く新しい課金システムを持ったプラットフォームなのです。しかしiPhoneがシェアーを失う事態になれば、プラットフォーマーとしてのシェアーも失う可能性は無きにしも非ずです。

  それに対し日本の電子機器メーカーは残念ながらハードという枠からはみ出す発想がなく負け続け、遂に市場から駆逐される寸前まで来てしまっています。なさけないことに、かつて得意だった家電でも掃除機・扇風機・ドライヤーというコモディティ製品まで、ダイソンの新機軸によって駆逐されつつあります。今後IOTという部分でうまくすれば居場所を見つけるかもしれませんが、果たして新機軸を有するプラットフォームを打ち出せるかはかなり疑問です。

  今一つ心配なのは日本の自動車メーカーです。今や輸出産業の中では最重要部門で、唯一競争力を維持している業種です。ところが世界の先端は、いわば箱物でしかない車から脱し、新たなITのプラットフォーム上で動く車を作り上げる段階に差しかかっているように思えます。果たして日本の自動車メーカーが、全く新たなプラットフォームを開発し、その上で動く新しい車社会を構築できるでしょうか。そうした柔軟な発想による技術が、ハードメーカーの純粋培養で育った自動車技術者から出てくるとは思えないのです。

  このことはアメリカのメーカーもドイツのメーカーも同じように直面している問題です。ハードという殻を打ち破る発想を、果たしてどこが一番乗りで創出するか、私にはどうも自動車メーカーではない柔軟な発想を持つ新規参入者が創出しそうに思えるのです。

 

  鎖国時代の日本は、発展から背を向けた世界の果ての後進国でした。それが外に向けて門戸を開放したとたんに、大発展しています。日本人も世界に向かって出て行った時代もありました。しかし現在の日本は国として内向きで、若い人たちも世界に出て行こうとしない閉じこもりのような状態です。

  学卒で直接外資系、それも世界的なIT企業に入ろうとか、若いうちに海外に出ようという学生はほとんどいません。国という単位で見ても、人手不足が続いているのに外国人労働者の流入はかなり制限しています。政府は移民という単語を新政策に盛り込むことはしません。

  最初に申し上げた通り、雑種強勢の世界で純粋種を保つ日本に自分の資産のすべてを置いておく気には全くなれません。アメリカが自身の国の在り方を閉じた国にしてしまわない限り、強さが損なわれることはないと思いますし、そんなことをすることはないでしょう。

 以上、アメリカの長期展望、そして強さの秘密でした。

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トランプでアメリカは大丈夫か16 最終回

2018年07月20日 | トランプでアメリカは大丈夫か?

トランプでアメリカは大丈夫か?

  答えはもちろん「ダメ」です。

  昨日は保護政策の本命である自動車関税を2.5%から20%に上げる政策に関して、米商務省の公聴会が開かれました。その席上全米自動車工業会が、

 「国内価格が年間で830億ドルも上昇してしまい、数十万人の雇用が失われる」と証言し、以前同様トランプの顔に張り手をくらわしました。自動車産業のためにやっているつもりが、公聴会では当事者を含むすべての証言者が反対意見を述べたのです。反対の効果を産むといわれてもなお実行しようとするので、トランプでは、アメリカは間違いなくダメになります。

  トランプのこれまでの政策でほとんど唯一評価されているのは減税です。減税すれば企業は利益がかさ上げされるし、個人は得して喜びます。しかも個人減税はトランプ自身を含む高額所得者優先です。

  でもそれは将来への付け回しの可能性が大きい政策で、特に企業減税は貿易戦争と同じで、海外の競争相手国が対抗して下げに回ると効果が薄れ、もうひとつの戦争の開始にもつながります。その上今回の減税は恒久減税のため財政に借金をどんどん上積みするので、将来世代が苦労します。

  株価は利益のかさ上げで今も上昇していますが、これはワンタイムの効果でしかありません。今年例えば20%の減税で10%の利益上昇になったとします。来年も同じ税率なら利益の押上はゼロだから、株価上昇への貢献はなし。つまり同じ減税率で何回続けても、収益上昇効果は1回限りで、財政負担の累増するのです。株価は前年対比でしか評価しないのです。

  これに関して一昨日、トランプのお気に入りラリー・クドローNEC(国家経済会議)委員長が、無責任かつおバカなことを発言しています。

「減税は必要なら第2弾、第3弾、第4弾があってもよい」

  株式相場は大喜びでした。この男、経済評論家でテレビコメンテーターだったのですが、辞任したコミー委員長の後をうけ今年の3月に就任しています。しかし、過去に日本に対しとんでもない発言をして大ヒンシュクを買った前科の持ち主です。ウィキペディアを引用します。

「東日本大震災発生直後のマーケット情報を伝える生放送でクドロー氏は『経済へのダメージよりも、日本の大震災の犠牲者の数のほうが、はるかにひどいことになっているようで、これについては、ありがたいとしか言いようがないわけですね。』と発言し批判を浴びた」

  なんというタワケもの。なのでトランプとの相性は抜群でしょう。

  また別件で、きのうのアメリカではトランプ批判が大爆発しています。メディアはもちろん、民主党、共和党を問わす、トランプのタワケぶりに大批判を浴びせました。内容はプーチンとの会談が終わり共同記者会見でのこと。彼はロシアによる大統領選挙介入疑惑に関して、次の発言でアメリカをロシアに売ったといわれました。

  「ロシアが選挙に加入する理由なんかない」

と発言し、プーチンを喜ばせたのです。ところがアメリカでは司法省がロシア人12人を介入疑惑で訴追したばかりで、かなり確度の高い証拠を突き付けています。その司法省と特別検察官モラー氏を、トランプは自分の疑惑を振り払うためにロシアに売り渡した、と批判されたのです。

  そのトランプ発言に味方であるはずの共和党下院議長のポールライアンまでが批判声明を出しました。批判の嵐に対しトランプの怒りが会談後の帰りの機内で爆発したのですが、国内のあまりの批判に耐えかね、帰国後すぐに釈明会見を行いました。しかしそれがまた火に油を注ぎました。釈明は、

  「オレ様はロシアが選挙に介入する理由はある、と言うつもりだったけど、ないと言ってしまった」というお粗末なものです。

  まるで子供が苦しいバレバレのウソをついているという、低レベルの言い訳だったのです。何度も言いますが、「かわゆいトランプちゃん」の本性が出てしまったお粗末なウソツキ会見でした。

  これには共和党の重鎮ですらアメリカを売るとは絶対に許せないとして、プーチンとの二人だけの会談で実際にトランプが何を言ったのか、通訳に証言させようというところにまで来ています。さすがアメリカ、そういうところまで行くとは驚きです。司法取引が当たり前の国ですから、免罪符を渡して証言させるかもしれません。

  この「子供じみたウソツキ大統領でアメリカがまともにやっていけるはずはない」、というのが今回のシリーズの結論です。

  じゃ、いったいこの先アメリカはどうなるのか。米国債に投資されている方、これから投資をしようという方は不安ですよね。これも実に簡単な結論ですが、

  「トランプがホワイトハウスを去れば、すぐにまともになる。」

  トランプでなきゃ、誰でもいい。経済は彼の政策で壊れるまでは行っていないので、大丈夫です。彼ほどのひどい人間がこの先また出現することはありません。その理由は、アメリカの大統領、議会、ともにひどい政治運営がなされると、すぐに激しい反動が生じ、揺り戻しがあるからです。たとえ彼が8年やったとしても大丈夫。次は反トランプでまとまるのです。

  それに加え、トランプの保護主義戦争がさらに激しくなったとしても、経済への実害の規模はさほど大きくありません。何故ならアメリカは貿易立国ではないからで、貿易立国である中国・日本・EUこそ被害を受けます。

  冷静に直接的影響のみで数字をたぐれば、貿易戦争で例えばアメリカの赤字が減少したとしましょう。するとその減少分、アメリカのGDPはかさ上げされ、アメリカにはプラスと出ます。現在の経常赤字はGDPの2-3%程度ですが、それがゼロになればGDPはその分プラスになります。反分ならプラスの影響も半分です。それがGDPの統計なのです。ついでに言えば、だからドル高に振れているのです。その後の波及効果までは見ていません。米国への輸出が大きい国はその反対で、アメリカのプラス分、GDPはみんなでマイナスの負担を分け合うことになります。分け合うということは、少し分散されるため、日本だけを見ると、さほど巨大リスクではないということになります。もちろん例えばトヨタのような巨大輸出企業にとっては、とてつもない大ごとですが。でも、

  トランプのアメリカはダメですが、米国債はびくともしません。

  定年退職さんのご質問に私が答えたように、米中が貿易戦争から実際の戦争にまでなったとしても、米国債は買われるだけ。乱暴な結論のようですが、それが『質への逃避』の唯一の対象になりうる資産、米国債なのです。


  以上が今回のシリーズのまとめですが、こうした楽観論に対して、次のような議論を展開する人がいます。

「アメリカのトランプ、イギリスのBREXIT、イタリア、オーストリアなど、反グローバリゼーションを掲げるポピュリズム政党・政治家が、今後も資本主義・民主主義世界を揺るがすことになる」というこわい議論です。

  この議論をリードするのは、世界的人口動態歴史学者であるエマニュエル・トッド氏などですが、次回からは今後を占う意味で、こうした議論を私なりに検証したいと思います。

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トランプでアメリカは大丈夫か15 貿易戦争5

2018年07月09日 | トランプでアメリカは大丈夫か?

     ついに戦闘開始ですね。トランプはいつもの高めの直球を、ボール球のつもりで投げたら相手の中国がそれを本気で打ち返してしまったのか、それとも最初からトランプも本気で戦おうとして戦争を起こしたのでしょうか。

  貿易赤字は本当にいけないのか、そもそも貿易とは何かについて単なる交易から解きほぐしてみます。

  トランプの頭の中には企業収支も貿易収支も赤字はいかん。黒字でないといかんという原理原則が染みついていて、赤字は損だと少しの疑いもなく信じています。

  多くの方も貿易は赤字より黒字がいいに決まっていると思われているでしょう。その考え方、必ずしも正しくはありません。意外に思われるでしょう。ちょっと面倒ですが、大事なことなのでなるべく簡単に説明を試みます。

  まずそもそも交易とは何かを考えます。こういう文章をあることろで拝見しましました。

>「取引」とはアップサイドを自分のものにしてダウンサイドを他人に押し付けることです。

  そうでしょうか。私は違うと思います。そもそも太古の昔から行われていた物々交換も現代の交易や海外との貿易も、双方ともに交換したほうが得だから交換するのです。一方が得で一方が損なら、誰も交換などしません。

  このことは今も昔も同じで、現代では物々交換しないのはおカネが代替してくれるからです。例えば、1万円のバッグを買うときに、買う人は自分の保有する1万円札を差出してバッグを買うほうが得だ。売る人は自分の作ったバッグを保有するより、それを差し出して1万円をもらったほうが得だと思うから売買が成立するのです。

  このことは、一つ一つの商品の売買の積み上げである国対国の貿易でも全く同じで、双方が得をするから貿易をするのであって、片方が得でもう片方が損することなどありえません。そのような取引は誰もしません。

  ここまでの議論、多くの方には釈迦に説法で申しわけありませんが、トランプには馬の耳に念仏なので困ります。

  しかし国と国の貿易では国際収支として赤字黒字の数字が出てきます。個々の交易は双方とも得をするのに、国際収支になると赤字と黒字という言葉を使用するため、あたかも会社の収支と同じに思えるので損だの得だのという議論になってしまう。会社の赤字はもちろんいけません。赤字では会社の持続性がなくなるからです。一国の収支も同様で、持続性を考えるなら赤字続きというわけにはいきません。

  ここまではまずご理解いただけますでしょうか。

  では国際収支ですが、世界全体を一国として見るとどうなるか。もちろん世界中を合算すれば赤字と黒字は同額なので、収支トントンになります。

  収支トントンだと世界レベルでは損得なしでしょうか。いいえ、違います。ここが大事なのですが、最初に申し上げた通り、もちろん全員が得します。双方得だから貿易したのですから。

  国際収支の差はそのままにはできません。それをどのように埋める、あるいは決済するのでしょう。基本的にはハードカレンシーで支払う、特にハードの中でも基軸通貨であるドルで決済します。もし赤字国が十分に決済通貨を持っていなかったら、双方合意のもと貸し借りを計上し、後払いも可能です。

  こうして世界は貿易によりみんなが得をして幸せになり、発展することができるのです。

  では赤字国はいつまでも借金生活を続けられるでしょうか。もちろん持続性はありません。相手がこの国はヤバイと思ったら、ツケでは買えなくなります。するとIMFに駆け込むか、買うのを我慢し、通貨価値を切り下げ、競争力を増して黒字を目指すことになります。

  ところが、アメリカは万年赤字ですが、ヤバイということはなく、IMFの支援を必要とするところまで行ったことがありません。80年代にラジカセや自動車を打ち壊して騒いだ時代から赤字続きですが、一度もヤバくないのです。何故か。

  それは言うまでもなく、基軸通貨ドルが自国通貨だからです。いくらでもドルを発行し、相手はいまのところドルを信用して持ちたがるので全く心配いりません。アメリカとの貿易で黒字を積み上げた日本や中国のような国はドルを大量保有しています。それを遊ばせず、アメリカ国の借金である米国債を買ってドルをアメリカに還流させたり、赤字の発展途上国に貸し付けたりして、バランスを取っています。

  ここで「アメリカがドルを発行する」というのは、必ずしも実物貨幣の発行とは限りません。帳簿上の借金でいいのです。日本国の外為勘定で米国債を買うのは現ナマによらず、ただ単に二国間で帳簿上の付け替えをしているだけです。

  日米に限らず、世界中の国々は世界中の国々とこうして決済、あるいは貸借関係を結びます。それによりモノやサービスが活発に国境を越えて世界の経済は活性化するのです。

  そしてアメリカはこの何十年、赤字ばかりですが、それで困ることはありません。先ほど申し上げた通り、基軸通貨のドルを赤字という手段で世界に供給し、それがあることで世界の交易が成立しているのです。

   逆に基軸通貨の国が黒字だと、世界は流動性不足に陥り、交易がスムーズにできなくなるのです。自国通貨のドルは世界中に欲しがる国があるので、赤字でも問題はありません。赤字=損と思っているおバカなトランプちゃんは、このことを理解できず、赤字イコール悪という企業経営の世界しか理解できません。

  なん度も言います。赤字を作り出す交易も、損得でいえば双方が得するから実行されるのです。アメリカ国民は他国から買うことで満足するので買うのであって、損なのに買っているのではありません。

  ここまでの議論をおさらいします。

1.  交易はいつでも双方が得だと思うから実行される

2.一国単位では黒字国赤字国はあるが、世界全体の国際収支は常にバランスしている

3.黒字国は赤字国をファイナンスすることで世界のバランスが取れている

4. 一国にとって赤字より黒字のほうが持続性があるのでよいのだが、アメリカは例外。基軸通貨国は赤字でないと世界に流動性を大量に供給できない

5.世界はドルが潤沢にないと交易するのに支障が出る


  わかりづらい話になりましたので、こよいはこころらで・・・

コメント (5)
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