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断末魔トランプのおたけび 

2020年09月25日 | トランプのアメリカ

  選挙で負けそうなトランプが、断末魔のおたけびを上げながら悪あがきをしています。

  選挙結果が出る前に、これだけ選挙システムや裁判による判定の可能性を叫び続けること自体、自分で負けを予想している何よりの証拠です。トランプの揺れる心を6月から追うと、こうなります。時事ニュースを引用します。

 

【ワシントン時事7月20日】トランプ米大統領は7月19日放映のFOXニュースのインタビューで、11月の大統領選の結果を受け入れるか問われ、「結果を見る必要がある」と述べ、明言を避けた。しかしFOXとの先月6月のインタビューでは「勝てなければ、他のことをする」と語っていた。

引用終わり

 

  6月には、負けは負けで認め大統領職を退くと言っていたのに、7月になると前言をひるがえし、今と同じように「どうなるかまず見てみる」と変化しています。きっと6月はまだまだこれからオレ様が世論調査の予想をひっくり返してみせると自信を持っていたのが、7月にはどうも旗色が悪く、負ける可能性が大きくなった。だが簡単に退くものか、となったのでしょう。

  こうした発言を繰り返すトランプを、地政学上のリスク分析を専門とするユーラシアグループの代表イアン・ブレマー氏がどう見ているか、9月17日の日経新聞の彼のコラムでトランプの愚かさを分析してくれましたので、みなさんに紹介させていただきます。

  記事のタイトルは、「米大統領選 民主主義に試練」。内容をまとめて示しているのが次の文章です。彼はこの数日の混乱状況をすでにしっかりと予想していました。

引用

「トランプは支持者に『郵便投票をした上で投票所にも行くべきだ』と呼びかけた。二重投票は違法行為であるにもかかわらず、大統領がそれを支持者に向かって呼びかけた」

そしてこう続けます。

「トランプは勝利以外の結果はすべて認めない意向であるため、すでに一線を越えた。トランプのこうした試みがどれほど奏功し再選される可能性があるかわからない。世論調査を見る限りトランプの劣勢は明らかなため、彼は失うものは何もないと思っているに違いない。しかしアメリカ国民はその結果、民主主義を失いかねない。」

引用終わり

 

  トランプは昨日9月24日のテレビインタビューでも記者からの質問、「選挙に負けたら認めるのか?」に対し明言を避け「See what happens.」、結果を見てみよう、とだけ言い続けています。しかしみなさんよく考えて下さい。この発言自体、選挙前から選挙の公正性を否定するとんでもない発言です。

  しかも何度となく「郵便投票は詐欺だ」と繰り返し、選挙システムを否定しています。郵便投票が自分に不利に働くとの見通しの下、6月になってUS 郵便公社の総裁を、自分への最大寄付者であるデジョイ氏にすげ替えました。新総裁はトランプの意のままになんと郵便ポストを大量に廃棄し、郵便仕分けシステム機械まで廃棄させることで郵便システムの効率的運用を邪魔するという暴挙に出ました。そのため現在も大量遅延が生じています。郵便投票を少しでも邪魔しようとするのは、テスト前に学校に放火する悪ガキのやるような古典的手口です。

  ところがこうしたトランプのやり口を違法だとか選挙妨害だと本格的に問題視するメディアが少ないことは、実に嘆かわしい。2重投票は明らかな違法行為です。私に言わせれば、「トランプのこんな言葉にメディアが慣れっこになるほど、すでに彼らもトランプ病に侵されている」となります。

  そしてさらに最高裁判事の死去が混乱に拍車をかけていますね。これまでは9名の定員中リベラル派4名、保守派5名だったのが、リベラル派の女性判事が死去したため指名権を持つトランプが自分を支持してくれそうな保守派判事を選び、選挙結果の判定を裁判に持ち込み、結果を自分の思う通りにしようとたくらんでいます。全米はこのトランプの判事指名ニュースで沸き返っています。民主党はもちろん、共和党の有力者も新判事指名は選挙後にすべきだと訴え出ているほどです。

  といっても、単純に考えれば最高裁の判決は多数決によるため、これまでの5対4でも保守派有利には違いない。それが6対3になったからといってどうした、とも言えます。しかし事はそれほど単純ではありません。まず、トランプが指名した判事候補者は上院で賛成多数により承認される必要がありますが、現在は共和党53議席に対し民主党47議席ときわどい差です。共和党の上院議員の中にも反トランプ派が厳然と存在しています。その急先鋒はかつての大統領候補ミット・ロムニー氏で、昨年末のトランプの弾劾決議でも賛成票を投じています。日本と違い党議拘束などないため、共和党員が必ずしもトランプ単純支持とはかぎりません。ですので上院の承認も確定的ではないのです。

  このことは最高裁の判決にもいえることで、保守派だからといって必ずしも保守的判決を支持するとは限りません。最近でもそうした逆転は起こっています。現在最高裁長官であるジョン・ロバーツ氏は保守派であるにもかかわらず、自分が信ずるまっとうなリベラルな判決に票を投じることがありました。最高裁の判事ともなると、さすがに党派対立の渦からは独立した考えを有する見識の持ち主が多いのでしょう。

 

  従って、トランプという怪物が最後の悪あがきをしてはいますが、自分が選挙で負け裁判に持ち込んだ時に有利になるようすべての判事を制御することは、さほど簡単ではないと思います。そして裁判所を自在にたぐろうと選挙前に画策すればするほど、人心はトランプから離反するのを彼はわかっていない。その単純さが命取りになる、それが私の見方です。

 

  一方、トランプののどに刺さったトゲ、コロナ問題では、昨日NY州のクオモ知事がワクチンをめぐるトランプの選挙宣伝に強烈な一撃を加えました。全米で700万人に感染させ、20万人も殺した責任者は他でもないトランプです。そのトランプがいまだに「10月にはワクチン接種を始める」と言い続けていることに対しクオモ知事は、

 

「NY州は連邦政府のワクチン審査を信用しない。州独自の委員会で安全性をチェックし、安全性が担保されてから慎重に接種を始める」と述べました。

 

  なにがなんでも11月3日の選挙当日までに間に合わせようとあせるトランプに対し、いっさい妥協をしないクオモ知事らしい対処方針です。

 

  イアン・ブレマー氏の指摘するように、トランプはアメリカを真っ二つに切り裂き、さらにそれを率先して煽り、民主主義の根幹をなす選挙すら投票前からインチキだと否定する。

 

  さて、我々は生きざますべてがフェイクのトランプの断末魔を、とくと高見の席から見物しようではありませんか。

 

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全米オープンゴルフ開催コース、ウイングドフットの思い出

2020年09月17日 | ゴルフ

   ゴルフの前に、大阪なおみ選手、全米オープン2度目の優勝、やりましたね。

おめでとう!

  今回の優勝は日本人と黒人にルーツを持つ彼女にとって、生涯の思い出となる優勝に違いありません。7つのマスクを用意し、すべてを使い切って優勝を勝ち取るなんて、かっこよすぎ。絵にかいたような快挙でした。コロナ渦にあって久々に明るい話題でしたね。トランプはさぞかし苦々しい思いで見ていたことでしょう。

  一方、今日から男子の全米オープンゴルフが開催されます。今回はテニスと同じNY郊外での開催で、日本からは松山や石川など4人が参加します。会場のコースは、私がNY時代に暮らしていた郊外の家から車で10分の所にあるウイングドフット・カントリークラブです。

  場所はウエストチェスター・カウンティ―で、マンハッタンから郊外電車で北へ40分、距離は30㎞くらいです。都会の喧騒から隔絶された夢のような郊外のスカースデールという街に住んでいました。借りていた家は一戸建てで約300坪くらいの敷地に50坪ほどの平屋建てでしたが、その界隈ではとても小さな家でした。ちなみに家賃は87年当時で月1,650ドル。スカースデールの家は芝生に囲まれ、家々の間には塀がないため、芝生と木立が延々とつづいて美しい街並みを作っています。芝生文化のない日本にそういう住宅街はないのですが、雰囲気としては軽井沢、それも旧軽の別荘地という感じでしょうか。違いは大都会NYからわずか40分。私にとっては一生の思い出になる理想郷でした。

  そうした森の中の住宅が続く中にアメリカでも有数のプライベートゴルフ場が点在しています。今回の会場であるウイングドフットはその一つで、全米オープンを5回も開催しています。しかし私の住んでいた時代、そのゴルフ場はWASP専用と言われていました。白人でどんなに金持ちでもユダヤ人はダメだったのです。

  私の住むスカースデールにはユダヤ人も多かったのですが、彼らはWASPのウイングドフットに対抗して道一つ隔てたすぐ隣に、もっぱらユダヤ人だけのゴルフ場、クエーカーリッジ・ゴルフクラブという、これまた超一流のゴルフ場を作ってプレーを楽しんでいました。コースの設計者はともにティリング・ハーストという有名なコース・デザイナーで、アメリカ東部に素晴らしいゴルフ場をいくつも作っています。

  ではウイングドフットとはどんなゴルフ場か。一口で言えば若干の起伏はありますが、フラットな林間コースで、池などはほとんどありません。すでに100年近い歴史があるため、木々はとても高く、林への打ち込みは禁物。隣のホールまで打ち込めばプロゴルファーでも容易に木を超えて帰ってくることができないほどです。そしてオープンに合わせてラフはこれでもかと長くしますので、ちょっとラフに入れたら見つけるのも大変です。

 

  面白いエピソードを紹介しますと、こうしたオープン開催コースでも普段は乗用カートでのプレーは当たり前なのですが、その際、日本ではフェアウェーを守るためカートは「カートパス・オンリー」というコースが多いのですが、アメリカ、それもイーストコーストでは「フェアウェー・オンリー」という表示があるのです。最初は何のことか意味が分かりませんでした。その理由を聞くと、せっかく長く伸ばしたハザードとしてのラフをカートで踏みつけてはいけません、大事にしてね、という意味だと聞き納得。アメリカのフェアウェーは雨が降った直後でない限りけっこう固いので、カートの乗り入れくらいでは痛みません。どうしてもラフを横切らないといけない場合、「直角のみ可」と表示されていて、ラフをとても大事にするのです。ところ変われば品変わるエピソードでした。

   今回も日本から松山選手や石川選手が参加しますが、彼らはきっとベント芝の長いラフと高い木々に苦しめられ、苦戦を強いられそうです。コースは古いので距離はあまり長くありません。ひたすら正確性の勝負ですので、ティーショットのフェアウェーキープ率の高さが勝敗を分けそうです。

 

  もう一つ面白い話をしますと、ウイングドフットのクラブハウスにはコースを写した古い写真が何枚か飾ってありました。その隣に同じ場所を撮影した新しい写真があって、比較することができます。それを見て一番驚いたことは、木々の成長はもちろんですが、グリーンの成長でした。グリーンが上に伸びるって想像できますか。本当に成長するんです。昔に比べてグリーンの面がだいぶ高くなっているのです。理由はバンカーの砂の堆積です。プレーヤーがバンカーからショットをするたびにバンカーのふちのラフとグリーンに少しずつ砂を撒いていくことになります。それによってどれくらい高くなっていくのか、正確なところはわかりませんが、私がプレーした時と70年前の写真と比べると、グリーンの面は膝から腰の高さくらい高いことがわかりました。ということは70年で50㎝―70㎝ほど高くなっている可能性があります。これによりグリーンは開場当初に比べだいぶ高く砲台になっていて、バンカーのいわゆるアゴも高くなり、難易度がかなりあがっています。

 

  私はNY駐在中にウイングドフットと隣のクエーカーリッジの両コースともプレーする幸運に恵まれました。非常にストリクトなメンバーコースですので、メンバーが招待しない限りプレーすることはできません。通常そうしたメンバーコースでは、1年に招待できるゲストの数は20人から50人程度。唯一といってよい例外は、有力なスポンサー企業が取引先を集めてコンペを開催するケースで、そのご相伴にあずかったのです。私を招待してくれたのは、両コースともNYタイムズでした。

  ちなみにメンバーがどれくらいクラブに支払っているかと申しますと、ウイングドフットの場合、入会金は推定15-20万ドル。年会費は数千ドルということで、一応マル秘です。入会金は戻りませんし、日本と違い有価証券である会員権などないので、売買もできません。クラブによっては1年にかかった費用をメンバーで頭割りにするので、「今年は3万ドルです」というような請求書が来ます。ちなみに世界で最も会員になるのが難しいマスターズを開催するオーガスタナショナルは、入会金も年会費もウイングドフットと同程度。理由はマスターズの開催権はメンバーが持っていて、収入が費用を大きく上回るためで、毎年1億ドルを超えるような収入があるそうです。

  私は同じNY州内では、ロングアイランドにあってやはりオープン開催コースのシネコック・ヒルズと、パブリックコースのベスページ・ブラック、合わせて3つのオープン開催コースでのラウンドを経験することができました。パブリックコースといっても設計家はロバート・トレント・ジョーンズSrです。彼は全米ベスト100のコースで最も多くの設計をしている一人です。

ベルリンでのカラヤンとともに、「JALさん、どうもありがとうございました」。

では、日本人プレーヤーの健闘を祈ります。

 

 

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「香港に三権分立はない」by林鄭月香

2020年09月05日 | 中国の恐ろしさ

    9月1日の林鄭月香港政府行政長官の発言にはおどろきましたね。その内容はタイトルにある香港には三権分立はないというもので、行政府がすべてに勝るというのです。時事通信から引用します。

引用

香港の林鄭月娥行政長官は1日の記者会見で「香港に三権分立はない」と述べた。香港の学校教科書から三権分立に関する説明が削除されたことを受け見解を示した形だが、政府トップの行政長官が明確に三権分立を否定する発言を行うのは異例だ。

  林;この発言、矛盾していますよね。それまで教科書に説明があったということは、三権分立はないのではなく、「勝手になくした」が正確でしょう。記事はさらに次のように続きます。

林鄭長官は「香港では行政、立法、司法機関が相互に協力しバランスを取るが、この三つの機関は最終的には行政長官を通じて中国政府に責任を負う」と説明。三権はあくまで中国政府が承認したものであり、香港の体制は「行政主導のシステム」との認識を示した。

引用終わり

  私は今年の初めから、何度か香港について書いてきました。それは97年の香港返還時点で国際的に公約された「一国二制度」がどんどん踏みにじられているからです。中でもこの数年の中国による香港への圧政はひどいものがあります。今年の1月17日の記事で私はNHKのBS番組、「証言ドキュメント/天安門事件30年」を取り上げ、その中で最後に以下のとおり書いていました。

「中国という国、そして共産党のひどさを見くびってはいけない。その実態をみなさんにもお知らせしたいと思い、わざわざ30年も前の天安門事件のドキュメンタリーに触れたのです。デモの続く過程で香港は観光客を失い、アジアの金融センターとしての地位も失ってしまいそうです。それだけでなく、この状態が続くと中国共産党は香港全体を収容所にしかねない。ウィグルやチベットをみれば、それが決して杞憂ではないと思うのです。」

  こう年初に書いたことがどんどん顕在化しています。極めつけが冒頭にあげた林鄭月娥行政長官の発言「香港に三権分立はない」です。世界に向かって反旗を翻し、香港は収容所になったことを宣言したようなものです。

  昨年香港は犯罪者あるいは容疑者を中国に送還する条例のことで半年近くデモで荒れました。それは取り下げられていますが、「香港国家安全維持法」を8月に成立させ、中国を批判する人たちを軒並み逮捕。例えばりんご日報(アップル・デイリー)創業者の黎智英氏や学生時代から日本語を話す女性リーダーの一人として有名だった周庭さんも一時収監されています。彼らは保釈中ですが、終身刑になる可能性があります。本当に気の毒です。

  さらに本来9月6日に予定されていた香港の立法会議員選挙を1年先延ばしにしてしまいました。そこにきてあの林鄭月娥行政長官のとんでも発言です。彼女はさぞ終身皇帝習近平の覚えめでたき人物なのでしょう。彼女の恐いものなしには恐れ入ります。虎の威を借る狐とは彼女のことを言うのでしょう。

  香港はいうまでもなくアジアの金融の中心地でした。私も投資銀行にいた90年代にはアジア開銀の主催する年に一度の大イベントが香港で開催された時に何度か出席しました。しかしその香港が97年に返還されてしまうと、投資銀行の同僚や友人を含む相当数のバンカーが香港から脱出しました。彼らが戻ったという話は聞きません。

   中国の恐ろしさをちょっと回顧しておきましょう。中華人民共和は1949年に共産党により誕生しましたが、生まれて直後からとんでもない侵略者でした。1年後の50年にまず侵略されたのはチベットです。あのダライ・ラマが平和に統治する仏教国のチベットを人民解放軍が侵略し、51年には制圧してしまいました。中国の侵略前まで人口のほとんどがチベット人でしたが、現在はなんとチベット人600万人に対して中国人750万人と、人口移動により完全制圧されています。そうしたチベットの惨状は、日本にあるダライ・ラマ法王日本代表部事務所のHPに行くと詳細が見られます。

https://www.tibethouse.jp/about/information/situation/

  次のターゲットは間違いなく台湾でしょう。

  ちょうど現在チェコの代表団90人が台湾を訪れていますが、小国チェコが世界に向かって反中国色を鮮明にした勇気を私は称賛したいと思います。チェコの片割れであるスロバキアの大統領もすぐさまそれを支持しています。

  一方中国の王毅外相は訪問先のドイツで「チェコは一線を越えた、高い代償を払わせる」と恫喝しています。果たしてこの勝負どうなるか、今後も注目しましょう。

 

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