ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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ドル高での米国債投資はどうなの?

2024年04月16日 | 投資は米国債が一番

 ドル高が高進していますね。投稿時点では154円台です。最大の原因はアメリカ経済が好調でドルの金利が高いからです。

 

 多くの方から、「このドル高でも長期のアメリカ国債に投資しても大丈夫か?」というご質問をいただいています。

 私からの回答は、「もちろん大丈夫です」というものです。理由は単純で、ドル高に動いている時には、米国債の金利も高いからです。

 ブログのコメント欄でも「安全性第一」さんというハンドルネームの方からその質問をいただきました。私からは逆にブレークイーブンの為替レートをその方に確認していただきました。ブレークイーブンの為替レートとは、いくらまでドル安になった場合、投資元本がマイナスになるかを確認する計算で、そこまでは損することはないというレートです。

 

 ご質問は、「SBI証券のストリップス債は、1ドル153円超の本日ですと、17年~25年物で利回り4.5%を越えておりますが、153円の現在でも米国債購入はお勧めでしょうか?」というものでした。

 そこで私から「SBIのサイトで、償還時のブレークイーブン為替レートがあるはずなので、調べてください」と依頼すると、早速回答をいただき、

「ブレークイーブンは、45円~67円でした。」とのこと。

 1ドルが将来45円~67円になるとはとても思えません。17年~25年後には逆に200円~300円にもなっている可能性すらあると私は思っています。たとえ為替レートがいまのままであっても、ドル額では大きな利益が出ます。簡単に計算してみましょう。

現在の米国債の年限別金利をブルームバーグで確認しますと、

10年物;4.61%・・・複利運用で10年後に1,000ドルは1,577ドル

30年物;4.72%・・・複利運用で30年後に1,000ドルは4,053ドル

 

  為替レートが変化していなくとも、10年後には約1.6倍、30年後では約4倍にもなります。なにもせずにこれだけの利益が出る、夢のようなお話です。

ブルームバーグでは20年物の表示はありません。理由はアメリカ国債には20年物の発行はないからです。そこで簡便法で20年物の金利を10年と30年の平均値とすると、4.67%になります。

20年物(仮定);4.67%・・・複利運用で20年後に1,000ドルは2,517ドル

20年後為替レートが今と同じレベルだとしても投資金額は約2.5倍にもなり、金利を生む米国債の威力は莫大だという事が理解できます。

 

 では米国債投資の長期での投資実績を確認しておきましょう。

 私が最初の著書、「証券会社が売りたがらない、米国債を買え」を出版したのが2011年8月です。その中で2011年末までの30年間の実績をあげていました。1981年に米国債を買って2011年に償還を迎えた時、どのような実績をあげたか。

 81年当時の為替レートは1ドルが240円。それが2011年になんと3分の1の83円になってしまいました。ところが、81年時点の金利が非常に高く8%台でしたので、ドル建ての元本は複利計算でなんと24倍にもなっていました。

 ですので、24を3で割ると8。つまり為替で3分の1になっても、金利で24倍になったため、結果は円建ての元本が8倍にもなったのです。100万円の投資は800万円になりました。

 

 ではそれから12年後、昨年2冊目を出版した時におなじように計算すると、果たしてどうなったか。1993年に100万円投資すると、22年末で786万円になっていました。こちらも約8倍です。

 二つの実績はほぼ同様の倍率になる結果を生み出しました。これはもちろん偶然で、今後を保証するものではありません。

ではもう一つ、2011年出版の著書を読んで、そこから開始した投資の現時点での結果はどうか。

 その時点での30年債金利は4.37%で、ドル円は83円でした。そこで100万円投資すると、どうなったか。これまでにドルの元本は複利で1.75倍になっています。それにドルの値上がり分は83円が154円、つまり1.85倍ですので、両方を掛け合わせると、3.24倍。円建てでは100万円がすでに324万円になったということです。しかも今後20年近く毎年4.37%の金利をエンジョイできます。

 しかし何よりも大事なのは、先週に続き本日も暴落している株式投資と違い、戦争が起ろうが、石油価格が上がろうが、米国債は暴落などしないという安心感が得られ、しかもきっちりと成果が出る投資対象だということです。

 以上、「154円でも米国債は買いだ」でした。

 

蛇足;一平も、米国債には気が付かず(笑)

 

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最近の講演会内容・・・みなさんの復習をかねて

2024年01月30日 | 投資は米国債が一番

 しばらくブログの更新ができなくて、申し訳ありませんでした。理由は講演会が続いたこと、そしてその間にスキーも志賀高原と赤倉高原ホテルスキー場と2回続いたことによります。仕事もさることながら、好きな遊びにも追われていました(笑)。

 スキー場は相変わらず外国人スキーヤーが多く、日本人のスキー人口減少を補い、スキー場経営や地元に貢献してくれていますので、大歓迎です。私はゴンドラやリフトで一緒になった方とは日本人外国人を問わず、必ず話をするようにしています。それは10分~20分にもなる搭乗時間をとても楽しくすることにもなります。一日で10回はゴンドラなどに乗るため、20人近い方と会話ができるのです。

 では今回出会った方で印象に残った方とのエピソードを2つ。一人目はゴンドラに乗り合わせたオーストラリア人女性とのお話。40歳台くらいの彼女は家族や友人たち7人で日本にきているのですが、まず東京に3日滞在。そして長野県のスキー場に移動してキチネット付きコンドミニアムに滞在し、地元のスーパーで買い物をして自炊しているとのこと。実はこうした自炊組はとても多いと感じます。しかも3ベッドルームのコンドでルームシェア―をするため、1週間単位で滞在してもコストはとても安く抑えられると言っていました。

 その後彼らは大阪に移動、さらに京都見物をして合計2週間の日本滞在をエンジョイするとのこと。日本ではすべてがバーゲンセールだと言っていました。そして彼女の仕事はかつての私と同じインベストメント・バンカー。話が合って楽しい時間を過ごせました。

 

 二人目はスキー場までわずか30分くらいで来られる新潟県の直江津市から来た20歳台の男性。地震のことを聞いてみると、「いやビックリしたし結構被害がありました」とのこと。家中でたくさん物が落ちて食器類がかなり壊れたこと。そして近所では液状化現象が起きていたそうです。そのためいつもなら正月早々スキーを始めるのに、今になってやっとスキー場に来たと言っていました。やはり震災の影響は広範囲にあったんですね。

 

 次は私の2回の講演会内容をみなさんにお知らせします。初めは高校まで在籍した成城学園の同窓会からの依頼で、私と同世代の70歳台、あるいは少し若い世代の50名ほどの方を対象に行いました。そして次は同世代の友人が主催する経済金融問題研究会の例会で行いました。こちらのメンバーはほとんどが70歳台60歳台で、金融機関出身者や研究機関在籍者が多く、錚々たるキャリアをお持ちの方々でした。

 

 以下が講演会で配布したプレゼンの項目と内容の要約です。元の資料がパワーポイントのため、行間などがまちまちですが、その点はご容赦ください。

 

講演会タイトル;ストレスフリーの資産防衛

副題;政府主導のNISAに騙されず、自身と子供たちのためにも賢く備える

 

1.アベノミクス検証

・政府が低金利を頼り、放漫財政により累積赤字を積み上げた

・独立しているはずの日銀が政府と一体になりアベノミクスを推進

・日銀は国債を買いまくり市場にオカネをばらまいたつもりが、日銀に巨額のブタ積み当座預金500兆円が残っただけ

・我々の手元にオカネは届かず巨額の累積赤字でおびえることになった

・家計は防衛に走り、2千兆円の金融資産が積み上がっているが、株などの投資には向かわず1千兆円も現預金に滞留。しかしNISAの掛け声に動きが出始めた

・企業も自己防衛のため500兆円の内部留保を預貯金で貯めこんでいる

・そもそも金融政策では経済成長力をアップできない

 

2.アベノミクスにもかかわらずGDPは大幅減少

円建てGDP   アベノミクススタート時500兆円、現在590兆円、  年率わずか0.9%の成長

ドル建てGDP スタート時 6.3兆ドル、現状4.1兆ドル 3分の2へ減少

(ドル円レート86円→140円 4割の円安)

・世界を見るには、基準をドル建てで考えるクセをつけるべき。でないと世界を見誤る

・一人当たりGDPの比較では、かつてトップクラスだった日本は韓国と同レベルで30位程度にまで落ち込んでいる

 

3.破綻に向かう日本財政

・23年度予算 歳出額115兆 歳入80兆 単年度赤字35兆

・単年度赤字を国債発行でまかなうが、実際の国債発行額は大本営発表の35兆円ではなく、 23年度は借換債を含む236兆円と巨額

・国債累積発行残高1,000兆円、借入金含む債務総額はGDP比250%

・日本財政破綻のきっかけは円安インフレ金利上昇、国債を抱えすぎている政府日銀への信頼喪失、格付け低下による資本逃避

・MMT理論や日銀と政府を合算すれば借金は無くなるというナンセンスな議論、最近は聞かなくなった

・バラマキで破綻しないなら、税金など徴収しなければよい

世界中の国々も同様にすれば国家破綻はなくなる

 

4.破綻への備えは外貨資産へのシフト

・円安のインパクトとは金融資産に対してだけではない。将来の給与や退職金、年金、不動産、すべてが円建て

・防衛策は外貨建てへの転換

・しかも超安全なドル資産に限る

5.備えあれば憂いなし

・成長段階を終えた日本に、安全地帯はない

・世界で一番安全な金融資産=米国債

  根拠は

・イノベーション力、人口増加+優秀人材吸収力

・世界最強の軍事力+エネルギーと食料の自給

 

5.米国債投資の驚くべき投資実績

・1冊目の著書の出版時2011年まで・・・1981年に30年債に投資し2011年に償還を迎えたケースでは、ドル建て元本は24倍、ドル円レートは240円が3分の1の83円になっていたがそれでも8倍になった

・2冊目の著書の出版時・・・同様に1993年に30年債に投資し、2023年に償還を迎えたケースでは円で7.8倍になった

・1冊目の出版時2011年に米国債30年物に投資をすると、現状でドル建て元本は100が172、ドル円は83円が140円。すでに両方で290%にもなっている

 

6.1ドル150円でもまだ買える米国債

  • 1,000ドル、15万円から買える米国債

 1ドル150円で1千ドルの米国債を買うと、15万円必要

 米国債は複利運用が可能、金利4%でも威力抜群

 10年後に1,000ドルが約1,500ドルに

 円高に転じた場合のブレーク・イーブンは100円

 計算は 150,000円 ÷ 1,500ドル = 100円

 もしドルが150円のままだと、10年後は225万円になる

 1,500ドル X 150円 = 225万円・・・1.5倍

 

7.世界の金融資産、半分以上は債券

・22年5月初旬の時点で債券が6割

・株式時価総額 100兆ドル

・債券残高総額 120兆ドル

 世界の投資家は平均で6割を債券に投資

・日本の債券残高1,300兆円、株式時価総額1,100兆円

・日本では債券投資が成立しなくなり、ギャンブル性の高い株式投資だけになっている

・政府は非課税枠NISAでの債券投資を認めていない

・日本を含む各国の年金運用は国債がメインだが、日本ではほぼ不可能になりつつあるため、年金も株式にシフトしている

 

8.米国債の買い方

・「証券会社は売りたがらない」が、どうしても欲しいと言えば買える

・1,000ドル単位、1年~30年物まで

・種類は若年層向け複利運用のゼロクーポン債、あるいは2回利払いを受けたい高齢者の場合は利付債

・実際には新規発行分は買えない、日本の証券会社が買い付けた既発債の在庫のみ

・証券会社の外債サイトで売り物の一覧表がある。ブレーク・イーブン為替レートも表示されている

 

8.証券会社と生保に騙されるな

・米国債を買いたいというと、「債券ファンド」を薦めるのが常とう手段。毎年のフィー収入が欲しいため。ファンドは手数料を毎年取られるだけでなく、元本の変動が激しく、売り時を計るのは困難で、株式ファンドと同じ

・債券は償還期限(満期)まで持ち切れば、必ず100%で償還

・生保は外貨建て年金を薦めるが、これは生保にフィーを払って米国債を買うようなもの。しかも売りたいときに売れない

9.投資の安全性は流動性がすべて

・高い流動性とは、いつでもいくらでも売りたいときに売れ、買いたいときに買えること。代表格が米国債

・国が市場を閉鎖したり、価格に介入したりする資産ほど危険な資産はない

・日本国債は日銀が保有しすぎているため、全く売買のできない日がしょっちゅうある

・流動性が高いか低いかの判断基準は、売りと買いの売買スプレッド=差額が大きいものほど、流動性が低い

 

   以上がプレゼンテーションの内容です。みなさんには従来からお伝えしている内容が大半ですが、その復習としてどうぞご活用ください。

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金利が低下してもまだ米国債は買いか?

2023年12月06日 | 投資は米国債が一番

  今年の7月9日の記事で私は、「4%台の金利は、腰を据えて買うべきだ」と書いています。その記事を再掲します。

引用

 昨日のアメリカ市場では米国債10年物金利が4.1%に低下したにもかかわらずドル円は147円台そこそこを付けるという珍しい状況になっています。これまで米国債金利に沿うように金利が低下すればドルレートは安くなるのが、今は真逆に動いています。

 それにもかかわらず、

「10年物金利が4%に台なら、腰を入れて買うべし!」

 というのが私の意見です。22年の10月末にも4%台に乗せましたが、その時のドルも147円台でした。10年物4%台はその前をたどると14年も前の08年秋までさかのぼらないとその機会はありませんでした。

引用終わり

 

 私の一冊目の著書が発行された2011年以降、しばらくして米国債10年物金利は3%を割り込む時期が圧倒的に長く、それでも何年かに一度3%台に乗せることがありました。その時はすかさず「チャンス到来」という記事を書きました。たぶん3回ほどしかなかったと思います。それに比べ現状のレベルは為替レートは147円台ですが、

10年物 4.10%

30年物 4.31%

で、今でも買えるレベルです。

 

 ゼロクーポン債に投資したとしてブレークイーブン、つまり損得ゼロとなるドル円レートを計算してみましょう。

1000ドル分をドルが147円の時に買うと147,000円かかります。

10年物4.1%;複利では1000ドルが10年後に15,00ドルになるので、円の投資金額を1,500ドルで割るとブレークイーブンが計算できます。

147,000円 ÷ 1500ドル=98円・・・ブレークイーブン

 

30年物4.31%;1000ドル30年後に3,590ドルになるので、

147,000円 ÷ 3,590ドル=41円・・・ブレークイーブン

10年後の98円や30年後の41円は、なりっこないドル円レートだと思います。

 

 日本経済の成長力の弱さと、とんでもない借金漬けの財政状況はとてもじゃないが改善は不可能です。私はむしろドル円レートは長期的には逆に200円に向かう可能性のほうがずっと高いと思っています。

 

 ということで、金利がゼロに近い円にオカネを置いておくより、日本の衰退リスクを回避できるドル、それも高い金利を生み出す力を持つ米国債に置いておくべきです。

 

 参考までに、米国債の年限別金利が見られるサイトは、以下のブルームバーグのサイトがお勧めです。

  http://www.bloomberg.com/markets/rates-bonds/government-bonds/us/

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投資は米国債が一番シリーズ、 その3.為替レート150円でも米国債金利5%は買いか?

2023年10月22日 | 投資は米国債が一番

 10月20日のNY市場では米国債10年物金利が一時5%に乗せ、終値でも4.9%となっています。それにつられてドル円も一時150円に乗せ、終値は149.90程度まで買われています。では、この水準で10年物米国債は買えるか否かを簡単にシミュレーションしてみましょう。

 

 単純化のためにきりのいい数字を使います。「金利5%の米国債はドル円150円でも買いか」について投資した場合のブレークイーブン為替レートを計算します。この計算ですが、利付債を計算することはできません。なぜなら半年ごとにドル金利をもらう為替レートを半年ごとにすべて予想し、最後の償還時のドル円レートを計算することはとても不可能だからです。それにたいし、途中で金利をもらわずにその分を含めて償還時に一度にもらうのであれば、ブレークイーブンの計算が可能です。

 

 利回り5%で1,000ドル分の10年物ゼロクーポン債(ストリップス債)をドル円レート150円で買うと想定します。必要金額は

 

1,000ドル X 150円 = 150,000円

 

5%で10年複利運用しますと、1,000ドルが1,500ドルではなく1,630ドルほどになります。その計算はネットで複利計算サイトを見つけると簡単にできます。それを買ったときに150,000円支払っていますので、

 150,000円 ÷ 1,630ドル = 約92円

これがブレークイーブンのドル円レートです。

 

検算します。

償還額1,630ドル X ドル円92円 = 約15万円

ドル円レートが92円になっても元手の15万円は返ってくる勘定です。

 

 はたして92円まで、あるいはそれ以下にドル円が低下するか。日本の経済財政事情から将来にわたり円金利は上げることが極めて難しいと想定されます。利上げをしたら財政破綻が待っているからです。その上貿易赤字は改善が見込めません。

 貿易だけでなく資本の動きでも最近は米国債に買いが集まり、先日の投稿で書いたように株の投資家は日本株を売り、アメリカ株買いに集中している状況を考えると92円は非常に考えづらいレートです。いや、はっきり言って「100円を切る円高にはなりっこない」と私は思っています。

 さらにいま国会の話題は「やってはいけない減税」論議に集中しています。自民党は税収額が史上最高になったからそれを国民に「還元する」という愚かなことを言っています。しかし財政収支そもそも赤字で累積赤字も最高額を毎年更新している中で、減税などありえない。EUに属していたら即刻破門です。

 政府のやり方は、赤字は日銀が背負っていくから目をつぶっていて大丈夫。選挙に勝つための減税に議論を集中させ国民の目をごまかす。なんという姑息かつ無責任な政権でしょう。

 

 それをやり続ければいつかは大破綻、あるいは先日私が投稿したように「衰弱死」が待っています。その時にドル円レートはいったいどこまで安くなるのでしょう。考えるだけでも恐ろしい。

 

 まあ、そんなことが起らずとも、しっかりと金利の稼げるドルにしておくに越したことはない、それが結論です。

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投資は米国債が一番シリーズ その2.ゼロ金利が日本を衰弱死させる

2023年10月10日 | 投資は米国債が一番

 このシリーズ、前回はデフレからインフレに転じた日本は、「賃金がインフレに追い付かない実質賃金の低下により窮乏化の道を歩み始めている」ということを示しました。

 その実質賃金ですが10月6日に公表された8月分の実績値でも低下が続き、なんと17か月間も連続で低下しているのです。その結果8月の消費支出は物価変動を除くと2.5%減少し、こちらも6か月連続のマイナスとなっています。収入が増えなければ消費が盛り上がることはありません。インフレに負けるのは賃金収入だけではなく、もっと激しく負けているのは金利による収入です。家計の抱える1,000兆円にのぼる預貯金による金利収入はゼロに等しい。そして年金世代の収入も同様に増えるどころか今年は減少しています。家計の金融資産はその他にも1,000兆円ありますが、そのうちの貯蓄性保険なども金利収入の激減に悩まされています。

 

 そもそも金利レベルというものは、日本でもアメリカでもおおむねインフレを若干上回り、金利収入が実質ベースで目減りすることはあまりありません。そのため預金していても定期預金であれば、インフレに大負けすることはなく、一歩進んで国債でも買っておけばインフレ率を引いたとしても、マイナスにはならないのです。その理由は経済原則的にはインフレ上昇に伴って金利が上昇するからです。もちろんオイルショック時のように一時的な逆転はありえますが、長期のトレンドではインフレと金利は並行して動きます。アメリカの現在をみれば明らかです。インフレのため金利が大きく上昇しています。

 ですので、どの国でも年金資金の大半を国債で運用しておけば、将来の年金支払いに困ることはないはずなのです。ところが日本では異次元緩和などという経済原則を無視した超緩和策を実施し、それが10年を超える長期に及んでいるため、ちょっとインフレが高進すると、金利がインフレに負けることが当り前になってしまいました。すると我々の預金もインフレに負けて目減りし、積み上げた年金もインフレに負けてみんなが窮乏化していく。それが今の日本が置かれている状況です。

 

 そこで政府日銀は次なる成長という飛躍のためだと超緩和策を導入しました。成長はもちろん必要だし悪くはないのですが、そのために無理な低金利政策と資金供給をやり続け、かえって国民の不安を増大させ、消費を委縮させてしまう悪循環に陥っています。

 

 成長という言葉、便利ですよね。国政選挙でも地方選挙でも全候補者が成長を唱え、選挙が終わっても唱え続けます。政治家だけでなく経済界も、金融界も、全員が唱え、誰も正面切って「もう成長なんてヤメロ」と表立っては言えません。

 

 そこで私が言ってあげます。「もういい加減、成長というお経を唱えるのはやめろ!」。

 

 無理な成長などしようとせず、身の丈に合った成長をすればそれでいいはず。身の丈とは潜在成長率並の成長です。潜在成長率は「生産人口増加率+生産性の上昇率+資本設備の増加率」を合計したものです。生産人口が減少する現在、潜在成長率はどの程度か、日銀の推計をもとにした東京財団による調査結果を見てみましょう。昨年9月の報告書からです。

引用

日銀が推計する潜在成長率の推移をみるとリーマン・ショックで一時マイナスに落込んだ後、14年頃には約1%まで上昇したが、その後は再び低下基調となり殆どゼロまで落込んだ。戦後2番目の長さとなったアベノミクス景気は潜在成長率の押上げには全く寄与していない。

引用終わり

 

 80年代には4%あった潜在成長率ですが、今はゼロに落ち込んでいるのが実態です。それをむりやり押し上げようと、もがけばもがくほど無駄な財政支出が増え、政策金利をマイナスにしたままのため金利収入もなくなり、国民は窮乏化へまっしぐらとなるのです。ホントは恐ろしい「成長」という言葉の魔力を我々はしっかりと頭に入れておきましょう。

 

 さて、前回予告した今回の本題です。

 こんな状況の日本経済に対して、10年前から異次元緩和という旗を掲げて十年一日のごとく同じことをやり続けていますが目立った効果をあげていません。医療の世界では同じクスリ、それも劇薬の長期間服用は中毒症状や副作用が大きくなるため、治療方法を変更するのが当たり前。今の日本はまさしく薬が効かなくなってどんどん投薬量を増加させ、劇薬の副作用ばかりが目立つようになっています。副作用とは、金利収入がなくなること、金利は上昇しないだろうと高をくくり個人や企業が借金を抵抗なくすること、同様に政府も巨額債務超過となりそれを支える日銀の国債大量買いを継続。それらに危うさを感じ、自分の資産だけは守ろうと消費行動が保守的になっていることが副作用です。

 

 緩和策が当初の目標通りほんとに2年という短期決戦であれば、「よし、低金利のいまのうちに借金してでも設備投資をしておこう、あるいは借金してでも家を買ったり車を買っておこう」となる。しかし緩和がいつまでも続くとなれば誰もすぐに動こうとはしなくなる。時限措置であることが効果を増します。時限がないのが長期服用の最も悪い副作用です。

 時限に効果があることはジャパネット・タカタがみごとなまでに証明してくれています。毎日テレビであのお兄さんが、

「77種も入ったおせちが通常価格29,800円。でもいまならなんと1万円引きの19,800円!」

彼らはいつもそういう方法で消費者を煽り、見事にニーズを引き出します。

 企業も消費者も、いつまでも金利が安いのなら「イマでしょ!」などとは思わないのです。どうせ金利は上がりっこないという見込みをみんなが抱いている。それがさらにデフレマインドを助長してきました。政府にもう一言言ってあげます。

 

 「デフレマインドを作っているのは、あんた達だよ!」

 

 では大破綻など起こらずにこのまま推移したどうなるか。私の見立ては、「衰弱死」です。

 薬漬けの老人が静かに息を引き取るように、日本も静かに静かに衰弱して行き、やがてご臨終を迎える。

  その間に起こることは、賢い人たちによる日本からの逃避です。物理的に日本を離れるのではなく、居ながらにして衰弱死から免れるための行動を起こす。それはもちろん円建て資産からドル建て資産への静かなる逃避です。

 家計の金融資産が、実は静かに外に向かっていることをみなさんご存知でしょうか。みずほ銀行のチーフ・マーケットエコノミストである唐鎌大輔氏によると、「一般投資家による株式投資信託の買いがこの3~4年で5兆円ほど増加しているが、中身を見ると国内株は5兆円減少し、外国株が10兆円の増加となっていて、合計5兆円のプラス。今後もこの傾向が続く可能性が大きい。」とのこと。この解説は実は為替の見通しに関する分析をしている時に示されたもので、金融資産を持つ個人の行動が大きな変化をしつつあるとの見通しを示していました。

 

 ではこの先それが反転することがあるか?私はもちろんないと思います。今後は株式投資だけでなく、超安全な米国債投資も増加すると、円安はじわじわと助長されます。日本財政の表立った破綻がなくとも、いままのまま緩和策が続くことで日本というカラダは徐々に蝕まれ、円安は高進し、インフレが家計を破壊し、遂には衰弱死に至る。

 

 以上が私の見通す、大破綻しなくとも死に至る日本経済の哀れな末期です。

 

 

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