金融市場関係者が注目していたFRBによるFOMC公開市場委員会が終わり結果が発表されましたね。政策金利は今回利上げせずに据え置きましたが、年末までには利上げの可能性を残しています。金融市場においてアメリカの長期金利は上昇で反応し、10年物で4.4%台、為替は148円台に入っています。
「それでも米国債の4%台は買いだ」と再度強調しておきます。
さて、世間ではあまり注目されていませんが、9月15日は08年に「リーマンショック」が起きた日として有名です。世界的にはリーマンショックとは呼ばず、「金融危機」と言われています。というのは一投資銀行の破綻では終わらず、日本を除く世界的巨大金融機関・投資銀行のほとんどが危機に陥り、救済を受けるところに至ったからです。当時からトップと言われていたゴールドマンサックスやモルガンスタンレー、シティーバンクも救済の対象になりました。
この危機をNYダウの株価で計りますと、リーマン破綻の直前から見ると半年後の翌年3月末にはちょうど半分になっています。その間日経平均も1か月で約4割下げました。衝撃の大きさはそれ以前に起こった9・11とかITバブル崩壊よりはるかに大きく、世界に波及しました。
そもそもリーマンショックとはどうして起こったのか。それは、ローンを組んで住宅など買えない低所得者に、無理な高利のローンを組ませ住宅を購入させる。その返済を担保とした住宅ローン債権をリーマンなどが債券化して投資家に販売。家の購入者は住宅の価値が上がると低利のローンへの借り換が可能になるため、返済額が低く抑えられるはずだ。という極めて楽観的見通しの下、仕組んだものでした。ということは家の価格が上がらないとたちまち返済に行き詰るという高リスクの仕組みだったのです。
基本構造は80年代後半の日本の不動産バブルの生成と同じ。価格上昇がストップし下落に転じたとたん、すべての見込みが狂って不動産や株など資産市場の崩壊に至る。日本では不動産はもとより、株式、ゴルフ場会員権、はては絵画まですべての資産価格が暴騰し、一場の夢と化し崩壊したのです。
それをまた中国が同じことをしていいます。愚かな人間の性ともいうべき典型的パターンを示しています。
アメリカはもともとある程度所得の裏付けのある借り手には住宅ローンを組ませ、それを債券化し投資家に販売するという仕組みがあり、うまく機能していました。それをサブプライムというカテゴリーの低所得者にまで度を超えて拡大したため、信用危機に陥ったのです。
先週NHKのBSでリーマン危機後15年のドキュメンタリー番組を放映していましたが、内容はリーマン破綻時のCEO、ディック・ファルドを強欲な悪者扱いした組み立てでした。
危機に瀕した他の金融機関は、リーマンほどサブプライムローンにのめり込んではいなかったのに、金融市場を覆いつくした危機は巨大金融機関を押しなべて飲み込んだのです。その脱出のため、他社の力を借りて資本増強に踏み込み、その後うまく再生した例も多くあります。
例えば投資銀行の老舗であるモルガン・スタンレーは08年9月のリーマン破綻直後、同様に株価が暴落して資金繰りに窮しました。しかし同月中に巨額の優先株を発行し、それを三菱UFJ銀行がなんと1兆円近い資金を出して買取り、かろうじて生き残りました。わずか2週間での意思決定は極めて異例です。そして現在も日本では投資銀行部門は「三菱UFJモルガンスタンレー証券」として大手の一角を占めています。いい投資でしたね。
アメリカ政府はリーマンを見殺しにしたのですが、危機に瀕した多くの金融機関を救済するため、実に際どい政策を実施しました。リーマンはアメリカでは投資銀行、日本流にいえば証券会社で、破綻したところで一般の人々は株主でもない限り損失は被りません。それに対して市中銀行が破綻すると口座を持つ人々は生活に窮しますので、超法規的であっても救済することになります。
そこで財務省とFRBそして議会が共同歩調を取って、破綻した場合影響が極めて大きいゴールドマン、モルガンスタンレーやメリルリンチなどの巨大投資銀行を銀行法で規制できる銀行として登録させ、むりやり救済したのです。
議会側からは批判が多く難航しましたが、当時の財務長官ヘンリー・ポールソン、NY連銀総裁で後に財務長官となったティモシ―・ガイトナーらの説得に屈して最後は救済に賛成しました。
そもそもリーマン危機を醸成した大本の責任者は、アラン・グリーンスパンFRB議長でした。彼は1987年から金融危機前の2006年まで超長期間にわたり連銀議長を務め、プラックマンデー、LTCM破綻、ITバブル崩壊、9・11テロ事件後の金融市場の混乱をうまく克服したので「マエストロ」とまで呼ばれた名議長でした。
退任後にはアメリカの有名人の誰もが書くように自叙伝を書いています。それが分厚い「波乱の時代」というタイトルで、上下巻がリーマンショックの1年前、07年に出版され、私も読みました。
しかし待てよ。それまでにリーマンなどのサブプライムローンはすでに相当なバブルを形成して、ベアスターンズなどがすでに07年には実質破綻をしていたはずです。ということは、バブル形成を許したのはマエストロだということになります。
そのためか彼は自省をこめて「波乱の時代、特別編」という補完本をリーマン破綻直後に出版しました。内容はもちろん、「悪うございました。金融危機の責任は私にあります」ということでマエストロの称号を返還したのです。私は不本意ながらも特別編も数百円払って買いましたが、「ただにしろ!」が本音でした(笑)。
その後アメリカ政府は危機全体をしっかりと反省するため「金融危機調査委員会」を立ち上げ、2011年には報告書を公表。「グリーンスパンの政策も大きな一因であった」と結論付けているのです。
いずれ来る日本の危機、いったい誰が責任を取ることになるのでしょうか。どこぞの会社と違い当事者が生きているうちに責任を取らせたいものです。