ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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金融危機15周年、グリーンスパンの反省

2023年09月21日 | 警鐘、世界のバブル

 金融市場関係者が注目していたFRBによるFOMC公開市場委員会が終わり結果が発表されましたね。政策金利は今回利上げせずに据え置きましたが、年末までには利上げの可能性を残しています。金融市場においてアメリカの長期金利は上昇で反応し、10年物で4.4%台、為替は148円台に入っています。

 「それでも米国債の4%台は買いだ」と再度強調しておきます。

 

 さて、世間ではあまり注目されていませんが、9月15日は08年に「リーマンショック」が起きた日として有名です。世界的にはリーマンショックとは呼ばず、「金融危機」と言われています。というのは一投資銀行の破綻では終わらず、日本を除く世界的巨大金融機関・投資銀行のほとんどが危機に陥り、救済を受けるところに至ったからです。当時からトップと言われていたゴールドマンサックスやモルガンスタンレー、シティーバンクも救済の対象になりました。

 この危機をNYダウの株価で計りますと、リーマン破綻の直前から見ると半年後の翌年3月末にはちょうど半分になっています。その間日経平均も1か月で約4割下げました。衝撃の大きさはそれ以前に起こった9・11とかITバブル崩壊よりはるかに大きく、世界に波及しました。

 そもそもリーマンショックとはどうして起こったのか。それは、ローンを組んで住宅など買えない低所得者に、無理な高利のローンを組ませ住宅を購入させる。その返済を担保とした住宅ローン債権をリーマンなどが債券化して投資家に販売。家の購入者は住宅の価値が上がると低利のローンへの借り換が可能になるため、返済額が低く抑えられるはずだ。という極めて楽観的見通しの下、仕組んだものでした。ということは家の価格が上がらないとたちまち返済に行き詰るという高リスクの仕組みだったのです。

 基本構造は80年代後半の日本の不動産バブルの生成と同じ。価格上昇がストップし下落に転じたとたん、すべての見込みが狂って不動産や株など資産市場の崩壊に至る。日本では不動産はもとより、株式、ゴルフ場会員権、はては絵画まですべての資産価格が暴騰し、一場の夢と化し崩壊したのです。

 それをまた中国が同じことをしていいます。愚かな人間の性ともいうべき典型的パターンを示しています。

 アメリカはもともとある程度所得の裏付けのある借り手には住宅ローンを組ませ、それを債券化し投資家に販売するという仕組みがあり、うまく機能していました。それをサブプライムというカテゴリーの低所得者にまで度を超えて拡大したため、信用危機に陥ったのです。

 先週NHKのBSでリーマン危機後15年のドキュメンタリー番組を放映していましたが、内容はリーマン破綻時のCEO、ディック・ファルドを強欲な悪者扱いした組み立てでした。 

 

 危機に瀕した他の金融機関は、リーマンほどサブプライムローンにのめり込んではいなかったのに、金融市場を覆いつくした危機は巨大金融機関を押しなべて飲み込んだのです。その脱出のため、他社の力を借りて資本増強に踏み込み、その後うまく再生した例も多くあります。

 例えば投資銀行の老舗であるモルガン・スタンレーは08年9月のリーマン破綻直後、同様に株価が暴落して資金繰りに窮しました。しかし同月中に巨額の優先株を発行し、それを三菱UFJ銀行がなんと1兆円近い資金を出して買取り、かろうじて生き残りました。わずか2週間での意思決定は極めて異例です。そして現在も日本では投資銀行部門は「三菱UFJモルガンスタンレー証券」として大手の一角を占めています。いい投資でしたね。

 アメリカ政府はリーマンを見殺しにしたのですが、危機に瀕した多くの金融機関を救済するため、実に際どい政策を実施しました。リーマンはアメリカでは投資銀行、日本流にいえば証券会社で、破綻したところで一般の人々は株主でもない限り損失は被りません。それに対して市中銀行が破綻すると口座を持つ人々は生活に窮しますので、超法規的であっても救済することになります。

 そこで財務省とFRBそして議会が共同歩調を取って、破綻した場合影響が極めて大きいゴールドマン、モルガンスタンレーやメリルリンチなどの巨大投資銀行を銀行法で規制できる銀行として登録させ、むりやり救済したのです。

 議会側からは批判が多く難航しましたが、当時の財務長官ヘンリー・ポールソン、NY連銀総裁で後に財務長官となったティモシ―・ガイトナーらの説得に屈して最後は救済に賛成しました。

 そもそもリーマン危機を醸成した大本の責任者は、アラン・グリーンスパンFRB議長でした。彼は1987年から金融危機前の2006年まで超長期間にわたり連銀議長を務め、プラックマンデー、LTCM破綻、ITバブル崩壊、9・11テロ事件後の金融市場の混乱をうまく克服したので「マエストロ」とまで呼ばれた名議長でした。

 退任後にはアメリカの有名人の誰もが書くように自叙伝を書いています。それが分厚い「波乱の時代」というタイトルで、上下巻がリーマンショックの1年前、07年に出版され、私も読みました。

 しかし待てよ。それまでにリーマンなどのサブプライムローンはすでに相当なバブルを形成して、ベアスターンズなどがすでに07年には実質破綻をしていたはずです。ということは、バブル形成を許したのはマエストロだということになります。

 そのためか彼は自省をこめて「波乱の時代、特別編」という補完本をリーマン破綻直後に出版しました。内容はもちろん、「悪うございました。金融危機の責任は私にあります」ということでマエストロの称号を返還したのです。私は不本意ながらも特別編も数百円払って買いましたが、「ただにしろ!」が本音でした(笑)。

 その後アメリカ政府は危機全体をしっかりと反省するため「金融危機調査委員会」を立ち上げ、2011年には報告書を公表。「グリーンスパンの政策も大きな一因であった」と結論付けているのです。

 いずれ来る日本の危機、いったい誰が責任を取ることになるのでしょうか。どこぞの会社と違い当事者が生きているうちに責任を取らせたいものです。

 

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拝啓 寺島実郎様

2022年09月25日 | 警鐘、世界のバブル

最近の貴殿の解説には、大きな間違いがあります。

どなたか寺島さんをご存知の方がいらしたら、あまりに初歩的でみっともないので、正してあげてください。氏は日本総研会長や多摩大学学長などをされている著名な評論家です。

 

その間違いとは、「日本政府の公的債務は1,255兆円ある。今は金利は低いが、たった1%でも金利が上昇したら、12.55兆円利子がふくらむ」というものです。

公的債務のほとんどが国債発行によるものです。

過去に発行済みの国債金利は上昇などしません。

新規発行だけの話です。今年度1%上昇した金利で100兆円新規発行があれば、コストの上昇は1兆円のみです。

債券でなく借入金も固定で借りていれば、上昇しません。

こんな誰でも理解できることを先週から2回テレビで聞きました。

ということは、テレビ局の方々も理解できていないというみっともない状態です。

敬具

 

 

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 宴の終わり

2022年06月24日 | 警鐘、世界のバブル

  いよいよ世界で様々な宴が終わりを迎え始めましたね。勝手に世界3大バブルと呼ぶことにしましょう。すでに終わり始めたのがアメリカの株価バブルです。次いで中国の高度成長による高圧経済バブル。そして無理に無理を重ねた日本の財政バブルです。

 

  まずアメリカ株についてですが、NYダウが高値から2割下落し、NASDAQは3割の下落です。いわゆる弱気相場入りは2割を目途とされていますので、ダウはそのレベルに達してしまい、NASDAQはそれを大きく割り込んでいます。もう一つあげると、仮想通貨です。ビットコインだけでも高値から7割近い大暴落で、それもついでに加えてあげましょう。仮想通貨の賭場では胴元が夜逃げを始めています。

  といっても、アメリカ株の下落は日本の株式バブル崩壊とは違い、ある程度で底を打ったら企業の成長とともに株価も上昇するだろうと私は思っています。つまり失われた10年も20年も来ないということです。

  理由は単純、バブルの大きさが不動産バブルも加わった日本のバブル時代ほどの大バブルではないこと、世界的に競争力のあるハイテク企業の競争力が損なわれていないことからです。それは08年の金融危機後の株価の回復を見れば明らかだし、企業の収益力で見た指標がそれを示してくれます。

  日本株のピーク時、株価収益率PERは60倍程度、NASDAQの昨年のピーク時は30倍程度と日本株の半分、S&P500では20倍と日本の3分の1でしたから、下値もたいしたことはないと推定できるのです。そしてまたアメリカは革新的な新機軸を生み出す力を持っているからです。

 (注)株価収益率とは、1株当たり利益と実際の株価の倍率比較で、平均的株価収益率は15倍から20倍が適正と言われています。

  一方中国ですが、株価は高値から2割を超えて下げましたが、高度成長時代をすでに終えたと思われるので、大きな戻りはないでしょう。経済成長率で見ますと、2000年代の最初の10年は10%成長、10年代に入り前半は7%、後半は6%。そして直近はコロナ禍もあり、20年は2%、21年は反動で8%。中国政府の今年の目標は5.5%ですが、実際はIMF見通しの4%程度がコンセンサスのレベルです。もし4%を上回ることがあってもそれは怪しい。秋の共産党大会に向けた、はなむけの演出だと思われます。GDPというのは各種経済統計から統計的に推定して作成しますが、中国のGDPはかなり恣意的に作られた大本営発表数値だからです。

  それよりも信頼できるのが「李国強指数」で、電力消費量、鉄道貨物輸送量、銀行融資残高の推移に注目する見方です。総理に就任する以前に彼がより信頼性の高い指数として自ら示唆していた統計です。今年に入ってから電力消費量は全く伸びていません。月次ではマイナスもたびたび記録しています。なのに、今年1-3月期の成長率は4.8%だと発表。信憑性に疑義ありなのです。

  また中国経済の宴の終わりは不動産投資にも表れています。日本の経済産業研究所の分析を引用します。

「2020年に、中国の主要都市における住宅販売価格の対世帯可処分所得比は、深圳(39.8倍)、上海(26.2倍)、北京(23.8倍)、をはじめ、すでに1980年代後半のバブル期の東京(20倍未満)を上回っている。」

  平常時の住宅価格と年収の倍率は、5倍~7倍が適正と言われていますので、中国では持続可能なレベルをはるかに上回っています。このような高い住宅販売価格は長く続きっこない。年収のすべてをつぎ込んでも返済に何十年もかかる高価な家など、とても買えないレベルになっています。すでに不動産価格は下落しつつありますが、今後さらなる下落もあるでしょう。中国経済は不動産投資が成長力の柱の一つのため、それを失えば経済全体のスローダウンも必至です。 

  さらに中国の場合、地方政府の財政はひとえに不動産によるところが大きいため、そのバブルがはじけると、地方と国家財政に大きく響きます。地方政府が2020年に国有地を不動産会社に売って得た収入は、中央と地方を合わせた税収総額の5割を超えています。コロナ禍克服のため、景気対策の減税などで税収が細っていて、マンション開発に伴う収入が地方財政を支えているのです。北京や上海などの大都市を除けばすでに不動産市況が停滞する地方も多く、人々も新規購入を急ぐ必要がなくなっています。つまり10億総不動産屋の時代が終わりつつあるのが現在の中国なのです。世界にばらまくカネを人民の土地から収奪する中国共産党の収奪政治が、いつまでも続くわけがない。宴の終わりもいずれ見えてくるに違いないのです。

  中国人が天安門以来、反政府大暴動をおこさない理由は、ひとえに経済成長によります。成長の恩恵がある限り、リスクをおかそうとしませんが、それがなくなれば我慢の限界を超え、暴発の危険性は増します。

 

  そして最後に日本の財政バブルについてです。これはすでに何度も述べていますが、一応おさらいします。

 

  円安が止まりません。これまでは日米金利差がその主な原因とされてきましたが、ここにきて日銀の超緩和策への不信感が日本でも欧米でも取りざたされるようになっています。私にいわせれば、やっと気づいたかという感があります。

  政府と一体になった日銀による正々堂々たる「違法な財政ファイナンス」が来年10年を迎えます。もともと2年で達成すると豪語していた2%のインフレも、賃金上昇抜きの2%のため国民は誰も評価しません。

  一方、あまりニュースで取り上げられないため見落とされがちなのは、今後の物価上昇を占ううえで重要な企業物価の上昇です。企業物価指数とは昔の「卸売物価指数」が名前を変えたものです。こちらはすでに4月に対前年で10%増をめでたく達成しています。10%の上昇はなんと40年ぶりで、40年前とは第2次オイルショックの時代までさかのぼります。企業物価の上昇は、いずれ消費者物価に転嫁されます。みなさんもご自分の周辺の様々な値上げをじわじわと実感されているでしょうが、これからが本番であることを覚悟しましょう。

 

  いまいちど、「うれしいですか、クロちゃん」

 

  ここでもう一つ大事なことを加えます。最近物価上昇率を示す時、食品・エネルギーを除く「コア指数」という数字が一般的に使われます。これはアメリカ流用語なのですが、今消費者にとって一番の関心はほかでもない、食品とガソリン代・電気ガス代です。その二つを除く統計などに大きな意味はないのです。先月の2%上昇とはコア指数であって、全部込みの総合物価指数は2.5%の上昇でした。それが我々の実感をより反映しています。

 

  さて、物価上昇に対処するには一時136円を超えてきた円安に対処する必要がありますが、政府も日銀もそれに対する処方箋を持っていません。いや、利上げという処方箋を持っているのですが、絶対に使わないのです。

  それを使ったとたん、政府・日銀のこれまでの対処が間違っていたことが明るみに出て、タッグを組んで作り出した世界トップの財政バブルが大崩壊するからです。日銀が半分を保有する国債価格が暴落し、今後発行する国債の利払い費が増えることへの対処ができません。

  国の借金は1,000兆円の大台を超えましたが、クロちゃんが作ったバブルのサイズは400兆円です。黒田総裁の就任前、日銀の国債保有残高は125兆円。それが最近は520兆円あまり。つまり彼が一人で400兆円を買い取りました。その発行元は政府で、金利はほぼゼロ。日本政府はコストなしで400兆円をまんまとせしめ、国民はそのため大損をしています。

  何故大損か。国債金利がほぼゼロに抑えられているため、我々の預金金利もゼロだからです。国民の金融資産2千兆円のほぼ半分、1千兆円は預貯金で、その金利がたった1%だとしても我々は年に10兆円も金利を受け取れます。一人当たり7万円、それがゼロ。つまり丸損なのです。それでもみなさん、円預金に固執しますか?

 

  さてこのバブル、円安とインフレが日本を襲う中、負けを認めない黒田総裁はいつまで続けるつもりなのか。マグマはどんどん大きくなる一方で、国民の不安は財政破綻に向けられ、いよいよ円リスクからの脱出を試みる人が増えそうです。

 

  その証拠に、私のフェースブック、「ストレスフリーの資産運用」にある「個人相談窓口」への相談はこのところ従来になく増え続けています。

 

  古今東西、終わらない宴はないのです。

 

おわり

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