ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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警鐘;日銀のゼロ金利解除 その3

2024年04月03日 | 日本の金融政策

 ここまで2回の論点をまとめます。

 日銀のゼロ金利解除によって円が強くなるであろうという市場予想がありましたが、実際にはそうはならずに逆に円は強含んでしまっているという結果になり、その理由を述べてきました。中でも重要なのは、「日本の作り出す経常黒字が、円高の要素ではなくなりつつある」ということでした。

 では次に、ゼロ金利解除により株価はどうなのか。こちらも同じく年末のダイヤモンド誌に掲載された8人の著名な株式アナリストによる予想を示しますと、1年後に4万円を突破と予想したのはマネックス証券の広木隆氏一人でした。その予想値は42,000円です。あとの株式スペシャリストはことごとく、今年の高値は3万円台と予想していました。すでに4万円を超えていて、おおハズレです。

 もっとも広木氏は株屋さんの典型で、万年強気予想しかしない人なので何年も外し続けたのですが、今年は久々に当たったのです。

 

 そこで思い出したのは、私がかつて在籍した80年代の日本経済研究センターの理事長の話です。理事長はエコノミストとして著名な金森久雄氏でしたが、面白い言葉を残していました。それは、「私は3年に二度は必ず予想を当てます。その理由はいつも強気の成長率を予想しているからです。なので逆に3年に一度は必ずハズシます(笑)」。高度成長期ですから、常に強気の予想を出せば3回に2回は当たるという、ごもっともなお話です。

 

 とまあ、為替相場も株式相場も、専門家でも予想はとても難しいということです。もちろん今年はまだ長いので、今後為替相場も株式相場も逆に動くということは大いにありえます。アナリスト商売は数字で評価されるため、厳しいものがありますね。

 こうしたことから我々が心すべき警鐘は、日銀によって歪められた日本経済は、日銀の思惑通りには動かないということです。そしてまた理論通りに動くハズと予想するアナリスト予想もうのみにしてはいけないという警鐘です。

 現在の為替市場での話題は、いったい何円まで円安が進むと日本政府が介入してくるかという点に絞られています。それは152円だろうと言われていますが、それとてゆっくりと上昇していった場合は、介入はないかもしれません。日本政府は介入の場合の条件として、急激な変動を条件にしているからです。今後の行方を見ていきましょう。

 

 もう一つ指摘しておきたい警鐘があります。みなさんのところにもNISAブームの中、多くの金融機関が新NISA口座の開設と株式投資のお勧めを言ってきていると思います。そこで注意すべきは投資に関わるすべての金融機関が言う言葉、

「今がチャンス!」です。

 どこぞの通販じゃあるまいし。乗り遅れまいとする一般投資家は、証券・銀行などの言うがままに新NISA口座を作り、作ったからにはすべからく即投資を開始します。相場の居所などおかまいなし。

「30年ぶりに日経平均が高値を更新し続けている今がチャンスです」。

えっ、逆でしょ!

 「株式は安い時に買って高い時には売るべし」です。高ければ買わずにいればいいだけです。特に今新たにNISAで投資を始めようとする方は、積立投資でない限りある程度の資金を現預金で持つ方が多いと思います。そのような方がスピード違反気味の相場を目にして、追いすがるように投資を開始するのは避けるべきです。

 

 今回のNISAには若い方に向けて別の殺し文句も用意されています。それは同じ金額を長期間少額積立投資で運用する場合のメリットです。いわゆるドルコスト平均法という投資法です。ほとんどのNISAでの投資対象は個別株でなく投資信託での運用のため、毎月1万円でも2万円でも簡単に投資できます。同額投資を継続するメリットは、相場が高い時に買える口数は少なく、安い時には多くの口数を買うことができます。例えば1万円で買える口数が2単位とします。同額で株価が半分に下がっている時には、2倍の4単位買えますし、逆に2倍に値上がりしていると半分の1単位しか買えません。すると長期では平均買値を下げることができるのですが、その方法をドルコスト平均法と言います。だからと言って高い時から開始するのはやはり得策とは言えません。

 ここでバフェット爺さんに登場していただきます。彼が2月24日に公表した「株主へのレター」の中で、

「今の米国株式市場は高騰していて、カジノみたいになっている」と述べています。彼の言葉には素直に耳を傾けるべきでしょう。

 また日経新聞の3月29日付でフィナンシャルタイムズのコラムニストは以下のような警鐘を鳴らしています。

タイトル;AIの「夢物語」に要注意

・テック各社が人工知能AIからいずれは巨額の利益をあげるはず、というユーフォリア(陶酔感)に不安を覚える

・米市場調査会社は、AI向け半導体最大手のエヌビディアの株価は、今後4,500年配当を出し続けなければ正当化できないと分析 ←(林の注)ただし現在のPERは75倍程度なので、この4,500年には疑問がありますが、割高レベルではあることは確かです。

・AIを動かすには膨大な水とエネルギーが必要だかEUなどはその必要量を開示せよと求める動きがある

・AIが著作権問題をクリアーするのは大きな困難が伴う

とまあ、いろいろネガティブな指摘をしています。そして今の相場はすべてがAIに集中する陶酔感のただ中にあり、エヌビディアがコケたら日本株までみなコケる可能性すらあると思いますので、要注意です。

 

 こうして為替や株式に関して見てきましたが、日銀により政策金利のマイナスがゼロになったところで正常化とはとても言えません。欧米の中央銀行はこぞって金利引き上げを終えて、いつ引き下げるかを話しています。日本は周回遅れ、それも2周くらい遅れています。日本では、金利引き上げのインパクトがゼロからさらにプラス金利の領域に達した場合、いよいよ大きなインパクトが出てくると考えておくべきだと思います。特に住宅ローンを変動で組んでいる方は要注意です。現状は変動金利での借り入れが7割を占めると言われていますので、金利上昇に伴いみんなが一斉に固定化しようとすれば、前にも申し上げたようにパニック症状が出かねません。要注意です。

 こうした変動から固定への動きは、企業の銀行ローンでも同じことが言えますので、慌てないようにしましょう。

警鐘;日銀のマイナス金利解除 終わり

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12 コメント

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Unknown (定年退職)
2024-04-09 07:47:07
林先生ご無沙汰しております。
お疲れ様です。
さて、私ごとですが、利率4%の利付債、約40万ドルほど購入が終わり、老後生活楽しんでおります。

ところで、最近YouTubeで、利回り7%以上のお宝社債を盛んに紹介しているものがあります。
単価はほとんどが100以下のもので、償還益も見込まれるという説明もあります。
劣後債というものらしいですが、こうした社債はおすすめされないのでしょうか?

私の購入した債権は殆どが、オーバーパーの米国債で単価は110というものもあります。
あまり気にしなくても良いのでしょうか?
ご指導お願いいたします。
定年退職さんへ (林)
2024-04-09 13:25:40
お久しぶりです。コメント・ご質問をいただき、ありがとうございます。
いただきました質問にお答えします。

>最近YouTubeで、利回り7%以上のお宝社債を盛んに紹介しているものがあります。単価はほとんどが100以下のもので、償還益も見込まれるという説明もあります。
劣後債というものらしいですが、こうした社債はおすすめされないのでしょうか?

絶対、絶対、絶対にダメです。
青学の原監督のように数千万失いたくなければ!

このようなユーチューバーは本質的にリスクを理解していない「シロウト」です。

昨年3月20日、25日、そして4月25日の投稿で私は、そのような劣後債のリスクについて何度か書いています。それをまず参照してください。

原監督がひっかかってしまった卑劣な劣後債についてです。
4月25日の投稿の最後には以下のように書きました。

>そして再度皆さんに申しあげます。「金利の見た目に釣られて劣後債などには絶対に手を出さないようにしましょう」

もう一つのご質問ですが、

>私の購入した債権は殆どが、オーバーパーの米国債で単価は110というものもあります。あまり気にしなくても良いのでしょうか?

そもそも私は定年退職さんにとって大事なのは、安全性とともに「定期的収入をしっかり確保することです」と何度か申し上げました。
お持ちの米国債が償還されるのは、かなり高齢になってからですよね。そこで元本が10%減ったところで、その後にさらに長期の米国債に投資される年齢でしょうか。そうでなければ2-30年前に投資した金額が少し減ったところで気にする必要はありませんよね。その分定期収入が確保されているのですから。
高クーポン・高価格債券をお勧めしたのは、年齢などを考慮した結果のお勧めです。
きっとユーチューバーはそうしたことなど考慮していない、ただ「リスクを取ればたくさん収入を得られる」というお勧めなのでしょう。

ついでもう一つ、これも最近コメント欄に書いていますが、日本で唯一と思われる債券専門証券会社が勧める債券も、ほぼ高リスクの劣後債ばかりで、将来元本が大きく棄損する可能性があるシロモノです。その誘いには乗らないようにしてください。

私の著書を出版してくれた幻冬舎は、この証券会社に私の本を送ってくれましたが、何の反応も返してくれません。

そりゃそうですよね。自分たちの商売道具を著書でモロに「ダメー!」と批判しているのですから(笑)。
Unknown (定年退職)
2024-04-09 16:06:30
林先生
早速のご指導ありがとうございます。

もちろん、その手に乗るようなことは致しません。
地道に安全安心なストレスフリーの米国債あるのみです。
しかし、世の中には酷いこと企む輩が多いですね。

私自身の再確認とあわせて、皆様方への問題提起ということでご理解いただけますようお願いいたします。

今回もありがとうございました😊
iFreeHOLD 米国国債(T-Zero2044) (米国債投資家Z)
2024-04-09 23:13:59
林先生

先生の御著書「証券会社が売りたがらない米国債を買え!」で10年ほど前に米国債に目覚めた者です。資産運用の考え方の大きなターニングポイントになりました(為替差益も結構大きいです…)。もちろん、近著も拝読しました。

さて、新NISAが株式偏重であることは色々と御指摘頂いていますが、最近、米国長期債の1銘柄のみ(2044年償還)に投資するという比較的低コスト(といっても0.1705%/y)で、新NISA対応の投資信託が出たそうです(下記URL)。損益分岐を見る限り、計算上は普通に米国債を買った方が得そうなのですが、新NISA対応という点では、多少意味がありそうでして、どのように評価されますでしょうか。

https://www.daiwa-am.co.jp/funds/detail/5115/detail_top.html
定年退職さんへ (林 敬一)
2024-04-11 09:15:04
>もちろん、その手に乗るようなことは致しません。地道に安全安心なストレスフリーの米国債あるのみです。
しかし、世の中には酷いこと企む輩が多いですね。
私自身の再確認とあわせて、皆様方への問題提起ということでご理解いただけますようお願いいたします。

本当にそうですね。

みなさんへの問題提起とのこと、ありがとうございます。
米国債投資家Zさんへ (林 敬一)
2024-04-11 09:19:48
私の著書とブログをお読みいただき、ありがとうございます。
超安全な米国債に目覚めてよかったですね。

そして新商品のご紹介、ありがとうございます。

内容を拝見した限りでは、「大和、なかなかいい商品を開発したな」という感想を持ちました。
要は「NISAの利用を可能にした単純な持ち切り米国債投資」ということですね。

私は税務の専門家ではありませんので、その点を確認するため一つお願いがあります。
大和証券に、「同じ償還の生の債券を買った場合と、このファンドに投資した場合の税引き後の有利不利がどうなるのか」聞いてみていただけますか。償還は全く同一でなくとも、およそでかまわないと思います。

その結果を是非またこのコメント欄に投稿をお願いします。

もしNISAで投資が可能かつ有利であれば、みなさんの選択肢が増えると思います。
Unknown (米国債投資家Z)
2024-04-11 21:42:05
林先生

お返事を賜りまして有難うございます。
御指摘の点、大和さんにお尋ねしました。
回答を頂き次第、コメント欄に報告させて頂きます。
Unknown (安全性第一)
2024-04-11 21:47:32
林先生

初めまして(^^)

50代前半の、資産運用初心者です。
老後資金確保の為に、
後れ馳せながら資産運用を試みるも、
マイナスになるばかりで迷走していたところ、
先生の著書「投資は米国債が一番!」にたどり着きました。

大変丁寧で分かりやすい内容で、
安定志向の自身の考えに合致する内容でしたので、
早速米国債を購入しようと準備をしていたところ、
1ドル153円超になってしまい、
現在は米ドル購入を見合わせております。

SBI証券のストリップス債は、
1ドル153円超の本日ですと、
17年~25年物で利回り4.5%を越えておりますが、
153円の現在でも米国債購入はお勧めでしょうか?

ご教示頂きたく存じます。
お忙しい中恐れ入りますが、
どうぞ宜しくお願い致します。
安全性第一さんへ (林 敬一)
2024-04-12 15:02:52
私の著書とブログをお読みいただき、ありがとうございます。

以下のご質問の件ですが、

>SBI証券のストリップス債は、
1ドル153円超の本日ですと、
17年~25年物で利回り4.5%を越えておりますが、
153円の現在でも米国債購入はお勧めでしょうか?

このご質問に的確に回答するには、ご自身の全資産の内容や現在と将来の収入などの情報を知ったうえで、資産のうちどの程度を投資されるおつもりなのかまで確認する必要があります。

そのために私はフェースブック上に個人相談の窓口を設けてあります。相談料はいただきますが、普通のファイナンシャル・アドバイザーなどに比べるとわずかな額です。

というようなことは何度もこのブログ上で申し上げていますが、最近ブログを読み始めた方はご存じないと思います。

この債券が利付債なのかゼロクーポン債なのかもわからないため、コメント欄だけでのやりとりは、ある意味無責任なやりとりになりますので、簡単にアドバイスはしたくないのです。

と言ってもこのところの為替の動きは非常に急激ですので、一刻も早く結論を知りたいと思われることでしょう。そこで一つ調べて教えてください。SBIのサイトで検索すると、この債券のブレークイーブンポイントとなる為替レートが出ていると思います。

リスクを計るうえで大事なポイントですので、まずはそれを確認して判断するのがよいと思っています。
Unknown (安全性第一)
2024-04-12 22:45:27
林先生

お忙しい中ご回答下さいまして有難うございました。
感謝致します。

ブレークイーブンは、45円~67円でした。

自身の資産を洗い出しの上、
個人相談に乗って頂くこともあるかもしれませんが、
その際は、どうぞ宜しくお願い申し上げます。

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