ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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「証券会社が売りたがらない米国債を買え」ダイヤモンド社刊
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証券会社による米国債の価格提示について Puffinさんの実践経験より

2019年02月26日 | 債券取引の基礎、価格設定はどうなっているのか

  個人向け米国債の証券会社によるプライシングに関するある方からのご質問に、アメリカの証券会社での個人取引で多くの経験と知識をお持ちのPuffinさんからとても有用な投稿をいただきました。みなさんのお役に立つと思われますので、こちらの本文に引用掲載いたします。Puffinさん、ありがとうございました。

 

引用1

呼ばれた気がしたので、来ちゃいました(笑)。
債券取引については、投資になれている方でもなじみが薄いので、今一つイメージが湧かないようですね。
私も始めた12年前は全く分からず、日本の証券会社に問い合わせていました。しかし窓口の担当者では全く埒が明かず、債券部門に取り次いでもらい返答いただいていました。ここ数年、購入する証券会社を米国のものに移してからも、主にチャットで米国へ質問しています。そこで得た知見の一部を述べたいと思います。

債券投資は株式投資とは大きく違う点があります。
それは、市場規模の違いで、2~数倍の売買取扱高があります。

(林の注)世界の債券全体の残存額自体が、そもそも株式市場の時価総額より2倍程度の大きさがあります。


また、市場参加者は、基本的にディーラー・トレーダー・ブローカー・中央銀行・機関投資家・ヘッジファンドなどの金融のプロが中心となっております。米国債券市場では、1注文の単位が2000万USドル(邦貨に直して約22億円)ですので、個人投資家が入り込む余地は殆どありません。
その債券市場での売り買いの仲値を参考値として、主に証券会社などの金融機関同士で売買単位を小分けにした相対取引が行われ、そこでリテールの金融機関が買い付けた債券が更に小分けされて、一般個人投資家に対して販売される、という仕組みになっています。
これは、日本でも米国でも同様の構図になっております。

日本の場合は、債券投資をしている人が極めて少ないため、リテールの金融機関は「1本値」とよばれる1日1プライスの販売価格を提示して販売します。
当然、直近の債券市場価格は参考にしますが、その債券をいついくらの値で仕入れたか、により各金融機関ごとに独自の値付けをしています。
そのプライスには金融機関の取り分の儲けも乗せられるので、同じ債券でも販売価格が異なるのは当然です。また、仕入れ値よりも逆ザヤになれば、売りを引っ込める事もあるようです。
いきなり販売が無くなるのにはそうした事情もあるようです。

米国の場合は、市場が開いている日中及び時間外取引時間内には、債券も株式と同様にリアルタイムでチャートや板が提示され、かなり細かく売買価格が上下するのを見ることが出来ます。
実際の売買も、株式同様、ask(買い)とbid(売り)、limit(指値)とmarket(成行)、の注文を出すことが出来ます。
債券の場合は特に、買値が最終利回りに直結しますので、自分で買値を決められるのは助かります。
但し、違うのはそこまでで、個人の注文(多くても1注文せいぜい数十万ドル程度?)では、price makingするには桁が違い過ぎており、個人の注文で市場が動くことは絶対ありません。
その為、実際の個人の債券売買では、個人の注文を取り扱う金融機関があらかじめ持っている在庫の中から債券を割り当てられて入手したり金融機関が引き受け手となって買い取ったりする事になります。個人レベルの売買では、そうした相対取引でしか注文が通らないのです。
従って、稀ではありますがlimit注文の値に到達しても、更にはmarket注文していても、約定しない事もありました。
この辺は、小口売買の場合は仕方ないようです。

なお、債券売買手数料が安いのは米国の証券会社の方が上で、米国債の場合、Interactive Brokers証券では額面100万ドルまでは0.002%で100万ドル以上で0.0001%、Firstrade証券では2018年8月23日~は無料となっています。ドル円の為替もスプレッドが2銭程度ですので、まとまった金額ならばかなりの差になってくると思われます。

こんな感じです。
お役に立てれば幸いです。

 

(林の注)price makingについては後掲


以上がPuffinさんによる最初の投稿です。そしてさらにスプレッドと手数料に関して、追加の投稿をいただきましたので、それも引用します。

 

引用2

「スプレッド」については、2通りの意味があります。
一つは、日本の証券会社が行っている米国債などの取引での、「売値」と「買値」の乖離幅、という意味。これは、相対取引での売り手である証券会社が顧客の我々に対して提示する金額差が、事実上の手数料となります。この値は、人為的に決められる値です。


もう一つは、金融商品の市場取引での、「売り気配値」と「買い気配値」の差、という意味。
現在の金融市場では、1秒間に数百万回の約定がなされる高速取引が主流となっており、我々が以前からよく目にする「約定価」は「過去に成立した取引値」を見ているに過ぎません。売りと買いが合致してしまうと即座に約定して、直ぐに次の取引に移りますので、板情報を見ていると常にこの2つの気配値のみが表示されます。
この値は、市場動向による結果として売り買いに開きが生じるもので、人為的には決められず、相場が大きく動くときには大きくなり、落ち着いている時には小さくなります。


個人相手のリテール業務でなく市場参加者として債券売買を行ってらした林先生が仰る「スプレッド」はこちらの方をさすと思われます。
従って、IB証券の手数料は林先生の「スプレッド」とは別物です。
IB証券の場合、「手数料」は債券の額面価格に対してかかってくる売買手数料です。例えば額面1,000USドルの米国債を買えば、2セントの売買手数料(最低手数料が1ドルと決められているので最終的には1ドルです。但し口座管理料が別途月10ドルかかっており、手数料は10ドルまでならばその口座管理料に含めるので、実質無料になります)がかかります。Firstrade証券ではこれが無料になります。


米国証券会社で米国債を買う場合は、リテールでは相対取引にはなりますが、購入または売却の値は市場取引レートが採用されていますので、物凄い量の米国債が頻繁に売買されている米国債券市場では大きく売り買いの金額差が開くことは無いです。その差額は市場動向に依るので一概に決められませんが、大体1,000USドル1単元当たりで数セントの金額になっています。
IB証券とFirstrade証券、両方の証券会社にも問い合わせていますが、答えは同様に”Net Yeild Basis”とのお返事でした。

因みに、為替の手数料に関しても、日本では仲値に対して1USドル当たり25銭~1円くらいの固定スプレッドが徴収されますが、米国では債券価格と同様に為替市場での約定値で決まるので大体2セント前後の変動スプレッドになっています。

引用終わり

 

Price makingに関して林が追加で(注)を入れます。

PuffinさんはPrice makingプライスメーキングと書かれていますが、その趣旨が「値付けをして取引を成立させる」という趣旨であれば、金融関係者の専門用語ではmarket makingマーケットメイキングと言われ、それを行う専門業者をマーケットメーカーといいます。

日本では相互証券(BB)と呼ばれる事業者がそれに当たり、BBという名前の由来は証券会社=ブローカーの売買を請け負うブローカー、Broker’s Brokerからきています。彼らの提示する価格は取引履行が義務付けられています。

アメリカでも同様の専門業者がいて、かつてほぼすべての大口債券取引を独占的あるいは寡占的に行っていましたが、近年はIT技術とデータ処理の発達により証券会社同士が直接相対での取引を行うことが多くなっています。ブルームバーグのプロ用端末ではいち早くそれを扱っていて、債券業者は債券のbid askプライスを端末で提示して取引を行えます。システムを作ったMr.Bloombergはもともとソロモンブラザーズのボンドトレーダーで、債券市場の情報不足や計算処理に不満を感じていたため、自分の気に入ったボンドトレーディングシステムを開発しました。それをまずプロに提供し、今日の金融市場の最重要インフラにまで発展しました。

 ちなみに私は債券部のボンド・トレーダーではありませんでした。私はプロフィールにありますように、債券資本市場部で企業や公的金融機関などの発行する債券の引き受けをする部門にいました。というと簡単な業務のように思えますが、実は単純な利付債券は少なく、ほとんどがデリバティブを付けた複雑な仕組債で、プロの投資家でもなかなか価格の妥当性を判断しかねるようなシロモノを扱っていました。引き受けた債券を機関投資家売るのが債券セールス部隊です。さらにその債券に流動性を持たせるためにトレーダーは活発にセカンダリー市場でトレードを行います。するといずれは債券は細かく細分化され、個人用に出回ってくるということになります。


以上、ご参考まで

 

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平成とはどんな時代だったか その3

2019年02月23日 | 平成とはどんな時代だったか

 合意なきBREXITへのカウントダウンが始まっています。イギリス国会はひたすら小田原評定を続けるだけでなすすべもなく、メイ首相はむしろ時間切れを狙って最後の賭けに出ているようにしか見えません。つまり「迫りくる悪夢を避けるためには、私に賛成しなさい」という破れかぶれの戦略です。それが成立したところでEU側は再交渉には応じないとしているので全く無意味です。

  敵が目の前に迫っているのに小田原城内で評定を続ける北条氏そっくりです。メイ首相はEU側も混乱を避けるためギリギリで妥協してくれるのではないかというはかない夢を追っていますが、ありえません。せいぜい期限の引き延ばしでしょう。

   ホンダはイギリスからの撤退を発表しました。社長は「BREXITとは関係ない決断だ」などと見え透いたウソを言っていますが、そんな言い訳をしたところで得るものがあるとは思えません。ポピュリストの煽りに乗った愚かな国のツケがどうなるか、高見の見物することにしましょう。

 

さて「平成とはどんな時代だった」かの続きです。

   その1では、

「平成の30年とはバブルのツケを政府に付け替えた30年だった」と記しました。その2では、

 「ツケの規模は平成の30年間で政府の累積債務が250兆円から1,300兆円と1,050兆円増加した」ことでひどさが理解されることを示しました。

  さらに「アベノミクスの6年間、戦後最長の景気回復を記録したと喜ぶが、裏で200兆円も赤字を増やしたから」で、いずれそのツケをまとめて払うことになると数字で示しました。

   一方最近になり異次元緩和を手放しで礼賛していたエコノミストたちもほぼ全員が、さすがに「このままではいかん、幕引き方法をさぐろう」と言いだしています。

 時すでに遅し!

   景気の回復局面でこそ実行しなくてはいけない異次元緩和の撤収を少しもせずに、さらに戦線を拡大して伸び切り、兵站はもう追い付きません。オリンピック景気なるものは今がすでに絶頂で、あとは坂を下るだけです。

  日銀のクロちゃんは世界景気のスローダウンが見込まれているのに、依然として黒田節をうなり続けています。うなっていることはこれまでと変わらず、「打つ手はいくらでもある」

   金利をゼロからマイナスにするほど日本国債を買いまくったため、ついに国債も買えるタマがなくなりつつあります。株を買いまくればリスクを膨らませるだけだと言われているのに買い続ける。ではいったいあとは何の手を打つというのでしょう。ヤケ酒を飲んでゼロ戦による特攻ですか?自爆テロはコンビニだけでたくさんですよ!(笑)。

   では5月からの新元号の時代、今後の日本の危機に我々はどう対処したらよいのでしょう。打つ手はもちろんたった一つ。世界がひっくり返ってもたった一つだけ買われる超安全資産、みなさんの予想通り、

 「米国債を買え!」 です。

   日本の財政金融政策に対する疑念が膨れあがると、すべての日本の資産は売られます。きっかけが何になるかは予想しづらいのですが、私は日銀政策への疑念が大きいと思っています。

  その一つはやらなくてもいい株買いです。日本国債の買い入れは停止すればいずれ保有額は減ります。債券は償還を迎えるからです。しかし株式は売らない限り減りません。しかも値下がりが始まると損失が膨らみ、日銀までが計算上債務超過に陥る可能性があるのです。日銀が保有する上場投資信託(ETF)は昨年末時点で簿価は23.5兆円。それに対して自己資本は8.4兆円しかないのですから、値下がりによるインパクトはかなり大きいのです。もちろんそればかりでなく、日本国債の保有高は444兆円もありので、ちょっとした金利上昇による価格下落で自己資本は吹き飛びます。

   海外勢は日本円、日本株、日本国債、など売りやすい金融資産をはじめ、不動産を含む売りにくい資産まで手を伸ばします。特に金融資産は現物とともに先物市場での売りも可能なため、持たなくとも売れるカラ売りが可能です。

   すると資産価格のマイナス効果だけではすみません。円安は物価高を招きますので、悪性インフレにつながります。もちろんそうした日本売りが本格化すると、個人の金融資産1,800兆円のうち半分近くを占める預貯金も防衛に動き出します。それが円売りを加速させるのは間違いありません。

   こうした見方はすでに多くの方が気が付いていて、先に手を打とうとされる方が多くなっています。私がサイバーサロンへの投稿をまとめた著書、「証券会社が売りたがらない米国債を買え」を2011年に出版して間もなく、米国債を買いたいがどうしたらよいか、という問い合わせを数多く受けました。しかし実際に買った方はとても少なく、例えばサイバーサロンのメンバーで私の講演会に出席された方でも1割程度だったと記憶しています。きっとその方々は今頃密かにほくそえんでいらっしゃるでしょう。

  すでに申し上げているように、私は現在2冊目の著書を書き進めていて最終段階にいます。ここで初めて披露させていただきますが、タイトル案は「ストレスフリーの幸せ投資」です。

  こう書けば前の著書やブログを知らない方からは当然、

「ストレスフリーの投資なんてあるの?」

「幸せ投資なんてありえないでしょ」

という疑問をぶつけられます。

   でも回答はもちろん、

「あります!」 (キッパリ)

   その証拠はこのブログの読者のみなさんからの投稿です。しかも驚くのは、実際に投資を開始していなくともブログにたどり着いたとたんに安ど感から幸せを感じ、投稿をしていただいています。ブログの読者の方々の多くは私の著書「証券会社が売りたがらない米国債を買え」を読んでたどりつくか、あるいは米国債投資というキーワードでたどりついた方々です。

   ちなみに印刷書籍としての出版は第2版をもって終了していますが、今は電子書籍で毎年数百冊程度売れ続けています。売れない作家にとって電子書籍はとてもありがたい存在です(笑)。

   次回は幸せになられたブログ読者の方々の実例投稿をお目にかけます。すでにコメント欄にありますが、再度確認してみてください。

 

  ここで読者の方々にお願いです。私は2冊目の著書でいままでいただいた多くのコメントの中から特に今回の著書の趣旨に合い、参考になる経験談などを少数ですが引用させていただきます。もちろんお名前はたとえハンドルネームであっても伏せて、イニシャルだけ表示するようにいたします。それでも著書への引用はいやだという方がいらしたら、どうぞ遠慮なく申し出てください。その方のコメントは著書では引用しないようにしますので。

 

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債券取引の基礎、証券会社の価格設定

2019年02月15日 | 債券取引の基礎、価格設定はどうなっているのか

日本丸さんへの回答です。

 証券会社の債券価格についてご質問いただき、ありがとうございます。

 以前いちど同様な質問に回答していますが、再度詳しく本文にて回答させていただきます。

 ご質問の要点をコピペしますと、

 ●金融機関ごとに、同じ期間でも利回りがかなり異なるものがあります。

米国債は米ドルで買う場合

・購入、売却手数料なし
・年間信託手数料なし
・金融機関の手数料なし
・流動性高く個人でも機関投資家とのスプレッド差なし

という理解は間違っていますでしょうか。
間違っていない場合は、

・各社で利回りが異なる理由
・金融機関は、どこで儲けるのか


 そもそも債券取引は株式のように取引所での取引と違い、すべてOTC、Over The Counter、と呼ばれる相対での取引ですから、一物一価ではありません。オンライン取引でも形態は相対なので、OTCに変わりありません。

  例えばAさんがB証券でC債券を買う時、ほぼ同時に別のDさんが別のE証券で同じC債券を買っても、お互いにそんな取引は知らないので、比べるべくもないため価格を合わせようとはしません。

  不思議なことにこのITの時代になってもその取引形態は変わりません。なので債券のサイトには表示価格は変動しますよ確認ください、と注意書きがあります。最近はオンライン取引が多くなり、注意書きなしのものもあることはあります。

 株式は普通上場されていて取引所取引が義務付けられています。それは、株式は例えばSONY株は1種類だけしかないので、一物一価が成立しやすく、価格や取引の透明性を確保するためです。

  一方債券は同じ米国債10年物といっても、新発債もあれば20年物の残存10年のものもあり、クーポン利率も違う。とにかく千差万別です。日本丸さんが同じ年限の債券利回りを比べていても、利率・償還日などすべてが全く同じものとは限りませんよね。

  ことをより複雑にして申し訳ないのですが、全く同じ債券の取引ですら、先ほどのように別の証券会社との取引では価格が違うことがあります。その理由について解説していきます。

  証券会社がオファーする価格、それはサイトで見ることのできる価格ですが、そもそもどうつけているのでしょう。例えば10年物であればブルームバーグの画面にある10年物の価格を参照して付けます。市場実勢を無視はできませんので。それでもおのおの会社により多少違ってきます。

  その理由は、価格はそれぞれの証券会社のそれぞれのトレーダーが付けるからです。普通トレーダーは自分のブック、つまり貸借対照表と損益計算書を持っていて、そのうちの資産にあるリストから売る債券を選び、売り物としてアップします。

 同じ債券でもその人によって売りたいと思っているか、もしくは価格が上がりそうなのでキープしてもよいと思っているかで大きく違います。つまりトレーダーの思惑で異なるのです。

  それでも他社がどの程度のオファーをしているかは見ていますので、市場実勢から大きく乖離はさせられません。ここまでが基本編です。

 ではご質問に沿って回答していきます。

 米国債は米ドルで買う場合

・購入、売却手数料なし
・年間信託手数料なし
・金融機関の手数料なし
・流動性高く個人でも機関投資家とのスプレッド差なし


という理解は間違っていますでしょうか。

  間違っていません、基本部分は。そして手数料はありませんが、最後の質問、儲けはどこからの回答は売買差、スプレッドです。

 しかし以下の点だけは違います。

 >・流動性高く個人でも機関投資家とのスプレッド差なし

 スプレッド差は付けます。理由は手間ヒマの違いがメインです。

機関投資家間でももちろん違いがあります。

  例えばA証券に100億円分の米国債Bの在庫があるとします。

 一口100億円の機関投資家との売買と1億円の機関投資家100人を相手にするのでは、テマヒマが100倍違います。それが一口100万円の個人だと10,000倍のテマヒマの差になります。価格差があって当然ですよね。機関投資家向けには別の価格表を見せています。

  ほかに例えば100億円の在庫に対して1億円の買い注文を受けるとします。それに応えると残りは99億円分という中途半端な在庫になります。そうはしたくなのが在庫を抱えるトレーダーの偽らざる心情です。なのでちょっと高くしたくなる。

  というように在庫を抱える証券会社のトレーダーによって様々なポジションを抱えているため、提示価格には差が出がちです。回答は「ボリュームによって流動性には差がある」となります。

  このことは以下の質問、証券会社によって価格に違いがあることの答えの一つでもあります。

 >金融機関ごとに、同じ期間でも利回りがかなり異なるものがあります。

  先ほども書きましたが、厳密に同じ償還日、同じクーポン利率の債券でしょうか。確認してみてください。

  さらにことを複雑にします。この先は読まなくても支障はありません。

 債券を取引する証券会社は在庫を抱える必要があります。例えばHP上に30の債券が表示されていれば、それを保有しているはずです。その合計金額は莫大な額になります。大手であれば数百億円、昔のソロモンなどは米国債なら常に数兆円も抱えていました。それは例外としても、日系大手で100億円としましょう。在庫は刻一刻と価格の変動リスクにさらされています。価格がたった0.1%動いても1千万円です。従って裸で抱えるようなことはしません。普通は抱える分、先物を売り建ててヘッジをします。

  でもよく考えてください。抱えているのは1種類ではなく、年限の違う千差万別の債券を、量的にもバラバラに抱えていますので、1つの先物を売り建てても完ぺきなヘッジにはなりません。そこでトレーダーは自分のポートフォリオをひとまとめにした平均的債券と考えてそれに対するヘッジをします。それも1つとは限らず、年限の長短などでいくつかに分けます。そのおのおの平均値を算出するだけでも大変面倒ですが、最近はコンピュータがやってくれ、ヘッジに見合った先物も探してくれます。それでも実物の在庫との差があるため、多少の損得はしかたありません。それをトラッキング・エラーと言います。

  債券を在庫で持つということはこれだけのテマヒマとシステムなどの設備投資が必要です。そしてより重要なのは、在庫のファイナンス、つまり資金調達と為替ヘッジです。米ドルを抱えるのにドルで調達しておけば為替リスクは避けられますが、円よりドルの調達コストが高くなるので、儲けは薄くなります。調達にはコストがかかります。

  さらに彼らは自己勘定でヘッジなしで保有するというリスクも取ります。みなさんと同じで、将来的に米国債からの金利収入と為替変動でもうかると思えばヘッジなしの保有もありえるのです。 

 こうしてトレーダーは基本動作に加え、様々な思惑もからめてプライシングをするのです。

  ここまでで債券の取引の基本形態、みなさんに相対するトレーダーの基本動作などについてご理解いただけましたでしょう。

 もし日本丸さんが価格を比較して不満があれば、他社はもっと安いよといって交渉してみてください。ディスカウントの可能性はなきにしもあらずだと思います。

以上、かなり専門的な部分もあるため難しなりましたが、ご理解いただけましたでしょうか。

  あー、ここまで書いてくると、債券専門家としての昔を思い出し、感傷に浸ることができました(笑)。日本丸さんに感謝です!


 みなさんに一つだけお願いです。日本丸さんではありません。投稿を拝見していると、10回に2-3回くらいの割合で債券を「債権」と変換ミスをしている投稿を見受けます。せっかく「債券」のサイトですので、お間違いのないようにお願いします!


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平成とはどんな時代だったか その2

2019年02月10日 | 平成とはどんな時代だったか

 前回その1で述べたことは、平成の30年間に日本のGDPはわずか1.4倍にしかならなかったが、同時期にアメリカは4倍、ドイツも3倍の経済規模になり、日本だけが置いてきぼりを食ったことを数字で示しました。

   そして「平成の30年とは昭和のバブルのツケを政府に付け替えた30年だった」という私なりの分析結果を示しました。

   その付け替えの結果は政府財政の赤字が平成初年度の250兆円から平成30年度には1,300兆円にもなってしまったことに象徴されるとも指摘しました。

   この分析の重要点は、次の新たな時代に我々はどう向き合ったらよいかの道筋を示している点です。平成でバブルの後始末が終わったというだけの認識であれば、あたかもツケは払い終わりめでたしめでたしということですが、私の分析ではそうは問屋が卸さないとなります。つまりこれからの新たな時代はいよいよ政府のツケ1,300兆円をみんなで始末をつけなければいけないのです。

  その第一歩はわずか2%の消費増税ですが、これによる増収額は約5.6兆円と見込まれます。しかしご存知のように景気対策のため消費税の還元策で2兆円が消えますので、ネットでは3.6兆円しか増税になりません。それでGDPの240%にもなる1,300兆円を返済するには単純計算で361年かかります。

   もちろん借金はすべて返し終わる必要はありません。どの会社もそうであるように、リーズナブルな額であれば、それを保ったまま経営は続けられます。国家の場合どの程度までなら大丈夫かは、国の発展段階や将来の成長力にもよりますが、例えば成熟国の多いEUの加入条件はGDPの60%以下です。これはちょっと厳しいので、先進国のざっくりとした平均的割合である100%としましょう。とすると現時点でのGDPは名目で560兆円程度なので、

 

1,300兆円 ― 560兆円=740兆円 

 

740兆円も借金を減らす必要があります。740兆円を3.6兆円で割ると205年です。笑うしかない期間です。

   でもその前に、もっと笑っちゃうことがあります。それは来年度予算の国債発行予定額は32兆円で、またその分累積赤字が増えるので、2%の増税分5.6兆円など焼け石に水にもならないのです。つまり消費増税などで累積赤字が減ることはありえないというのが、日本という超赤字国の実態です。

  となれば、アベノミクスとは累積赤字をものともせずに突き進む「付け回し政策だ」ということを、しっかりと見据える必要があります。累積赤字の数字を見ますと、安倍政権の6年間だけで200兆円も増加し、GDP比で35%も増加。これが「景気拡大は戦後最長の62か月になった」の裏の姿です。

  数字ばかり恐縮ですが、もう少しだけ。みなさんの家計の実態を俯瞰しておきましょう。

   日銀の資金循環統計によれば、日本の家計は18年9月末で金融資産を1,860兆円も保有しています。このうち現預金が970兆円、保険・年金525兆円、株式209兆円という内訳です。これだけ現預金を保有していても家計はそれを使おうとせず毎年増加する一方です。何故か?

  消費もしないし投資もしないのは、将来政府が破綻に瀕して年金を予定通りもらえなくなったり、介護・健康保険が十分に払われなくなったりするだろうと予見しているからです。財政破綻はないという論者は、政府の債務は1,300兆円あるが、家計の貯蓄が1,860兆円あるから大丈夫と言います。しかしその主張は、みなさんに貯蓄を政府に差し出せと言っているに等しい。

   そのような論者に私は言ってあげます、「だれが政府に自分のカネなんか差し出すもんか!」と。

   ではその付け払いはどうされていくのでしょうか。政府が自らに徳政令を出し、預貯金を召し上げますか?それともおバカな大統領をいただくベネズエラのように160万パーセントのインフレにしますか?

  そうした極端な手は取れません。そのかわり消費税をじわじわと増税し、健康保険・介護保険料をじわじわと上げ、公共料金もじわじわと上げ、医療・介護をはじめ公共サービスを減らし、年金をじわじわと減らしていく。その証拠はすでに家計の可処分所得の減少として現れています。可処分所得とは所得全体から天引きされる社会保険料などを差し引いた自分で使える額を表します。

  2月5日のNHKニュースのサイトから引用します。

「総務省の「家計調査」で2人以上の勤労者世帯の自由に使えるお金、「可処分所得」の推移を見てみます。これまで景気回復の最長記録だった「いざなみ景気」の終盤にあたる平成19年にはひと月平均44万2000円余りでしたが、平成29はひと月平均43万4000円余りと、わずかに減少しています。これに対して「社会保険料」の負担は、平成19年がひと月平均4万7000円程度なのに対し、平成29年はひと月平均でおよそ5万6000円まで増えています。」

   10年かかってちょっとだけ増えた所得も、社会保険料の増加で可処分所得は減少しているのが家計の実態です。これでは消費や投資に励めるはずはありません。

  一方でこのところ国会で大問題となっている厚労省による統計の不正問題があります。しかも一つこうしたことが起こるとイモヅル式にどんどん統計不正の事実が出てきてしまう。それもまたアベノミクスの結果偽装であり、今後の政策の方向性をゆがめる重大な事象ではあります。しかし私に言わせればたった6年で200兆円も赤字を積みあげることに比べればその程度のことは枝葉末節にしか見えません。

   この先いよいよ我々団塊の世代が70歳代に突入し、さらに5年後には全員が後期高齢者に仲間入りすることになり、医療費・介護費が爆発するのが見えています。もちろんその段階ではさすがに高齢者世帯では貯蓄の取り崩しが始まり、「財政は破綻しない論者」も根拠の一つを失うことになります。

 

 数字ばかりが並んでしまいましたので、今回はこの程度にとどめます。次回はそうした日本国の暗い行き先をどうしたら明るく生きることができるか、私の提案を差し上げることにします。

つづく

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平成とはどんな時代だったのか その1

2019年02月05日 | 平成とはどんな時代だったか

  平成もあと3か月ですね。こうして心の準備をしながら天皇の退位と元号が変わるのを待つというのはとても珍しいことなのでしょうが、今後はけっこうあるかもしれませんね。

   みなさんにとって平成はその名の通り平静な時代でしたか。私にとっては激動の時代でした。平成元年にJALをやめる決意をして、2年からアメリカの投資銀行ソロモンブラザーズに転職し約10年在籍。99年にイギリス系の投資会社に転職。投資会社では自らが買い手となり文字通りM&Aをしていました。文字通りとは、買収=Acquisition をして、自社グループに吸収もしくは合併=Mergerさせるという仕事です。サラリーマンにとって転職は激動そのものですが、外資系にしては20年で1回しか転職をしていないため、よく「めずらしいね」と言われます。

  年齢的には30歳代までがJAL、40歳代が投資銀行、50歳代が投資会社。そして平成最後の10年である60歳代は天職を得たりと、資産運用アドバイザーとして著述に励む充実の日々を楽しく過ごしています。でも人から見ればリタイアしたおやじが晴耕雨読ならぬ晴れればゴルフ、降れば稼ぎの悪い物書きと見えるにちがいありません(笑)。本人としてはそれでまことにけっこうなのですが、家内からは「元気なんだからもっとなんかして稼いだら」と言われています(笑)。

  上の記述でも元号と西暦がミックスしてしまいました。私自身、元号ははっきり言って面倒なので自ら進んで使うことはしません。公的な書類を記入する時や指定されている時に、しかたなく使用するくらいです。西暦の方が年齢などの計算が簡単なのが理由で、西暦を元号に変えたり、元号を西暦に変換するのはとても面倒です。だからと言って廃止すべきだとまで言うつもりはありませんが、なるべく西暦にしてほしいと希望だけ出しておきます。

   平成の最後に、「景気拡大は戦後最長の62か月になった」と発表されました。しかし実態としてはよく言われるように「実感なき景気回復」という表現が的を射ているように思います。

   年末年始には平成がどんな時代だったかのテーマで様々なテレビ番組が放映されていました。その多くが「失われた30年だった」とか「昭和のバブルの後始末の時代だった」というものでした。それは先ほどの実感なき景気回復に通ずるものです。

   その時に流されるお決まりの映像は証券取引所内の場立ちの混雑で市場の活況を映すバブル時代から始まり、ジュリアナのお立ち台で扇子を持って踊る姿が映り、最後は山一の社長の「悪いのは私で、社員は悪くありませんから!」で終わる映像で、何度となく流されました。

   映像内容はともかく、大事な部分は平成の30年間を失われた30年と呼び、「平成とは、昭和のバブルの後始末だった」と結論付けるストーリーです。私はその議論は映像と同じく非常に表面的で、誰もがわかっていることの繰り返しにすぎないとしか思えません。では本当はこの30年をどうとらえるべきなのでしょうか。

 私の見解は、

 「平成の30年とはバブルのツケを政府に付け替えた30年だった」というものです。

  そもそもバブルの後始末はどう行われたのでしょう。バブッたのは圧倒的に株式・不動産関連の企業と、それをうしろでファイナンスした銀行をはじめとする金融業界です。株式・不動産関連企業とは正確な言い方ではなく、それとは全く関係のない製造業や小売業からサービス業までが、株式投資や不動産投資にのめりこみました。それを煽るがごとく貸し付けでバックアップしたのが中小から大手、政府系までを含むすべての金融機関でした。

   では投資に当てられ返済不能となった巨額の負債はどうなったのでしょう。処理金額が大きかったのは企業・金融機関などの損金処理です。山一のようにインチキな飛ばしは処理とは言えません。企業も金融機関も会計上の損金処理を長く続けることで体力を消耗し、中小企業のなかには最近まで引きずってしまった企業もあるくらいです。

   私の分析は、後始末に実は日本政府と日銀が財政支出と異次元緩和で役割を果たしたというものです。その金額がどの程度かと言うと、平成元年の日本政府の累積赤字は250兆円くらいで、現在はそれが1,300兆円に膨らんでいます。つまり政府による身の丈以上の支出はその間だけで1,050兆円にのぼっています。

  その間30年のGDPは名目で88年の393兆円から557兆円と164兆円しか増えていません。年率ではわずか1.17%の成長です。ドーピングとしての1,050兆円は、ほとんど無駄打ちだったといえるかもしれませんし、もっと言えば「その間の成長などドーピング分でしかなかった」と言えなくもないのです。

  ちなみにアメリカを同年で比較しますと、88年の5,236兆ドルが20,513兆ドルに約4倍の増加で、成長率は年に4.66%でした。驚くべき差がついています。

   普通だったら赤字国債の莫大な発行はどこかで金利の上昇を招くのですが、それを日銀が日銀法に違反して異次元緩和でバックファイナンスしました。政府と日銀による違法行為が金利低下を招き、政府をいい気にさせていることを決して忘れてはいけません。

   ドイツのように財政収支が均衡している国では収入の範囲でしか国は金を使いません。それでも88年から18年の30年間でドイツのGDPはちょうど3倍になっています。日本は30年で1,050兆円も収入よりオーバーして政府が消費し投資しドーピングとして民間に注ぎこみました。その分民間は企業もそこで働く消費者も潤ったためバブルのツケをおおかた払い終わりました。結果として政府は1,050兆円も累積債務を増やしたのですから最初に申し上げたように、

 

「平成の30年とはバブルのツケを政府に付け替えた30年だった」というわけです。

 つづく

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