ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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ファンド資本主義が資本主義を救う、自由主義対専制主義

2021年11月22日 | ファンド資本主義への変貌

  「ファンド資本主義が資本主義を救う」というテーマで、これまで8回にわたり書いてきました。その主な趣旨は、

 

・現代のファンドは超巨大化し金融市場を支配するほどの大きさになっている

・しかし彼らは企業を独善的に支配するのではなく、巨大ファンドとしての責任をしっかり果たしている

・総会での議決権行使に当たっては、専門の議決権行使アドバイザーという、優れて客観的な視点を持った有力なアドバイザーにおおむね従っている

・アドバイザーの最重要点は企業がESGという観点から正しい経営をしているかである

・その内容はE=環境に代表される地球温暖化問題への取り組み、S=社会正義の観点から生産活動において人権抑圧が行われていないか、G=企業統治が公正におこなわれているか

 

  このような観点は現代の企業経営の基本となりつつあり、透明性を確保することに役立ち、企業の成長性や永続性に貢献しています。昨日のニュースでも日本のアパレルメーカーが、「中国の新疆ウイグル地区で生産されている綿は使用しない」と宣言したことが流れていました。

  また最近やっと合意に達したCOP26においても、国家が脱炭素社会のリード役になることが期待され、企業も生産性の向上と同時に脱炭素化社会実現への貢献度を試されることになりました。

  こうした自由主義・資本主義がリードする大きな流れは専制主義国家である中国、ロシアのみならず、石油がすべてであった中東の国々も巻き込む世界的潮流となり、巻き戻しの利かないところにまで至りました。

  一方、コロナ禍の世界で早々とコロナを制圧した中国は、その制圧をもって専制主義が自由主義社会に勝利したかのような宣伝を行いました。そして今月開催された「6中全会」において、史上3回目の「歴史決議」を採択し、習近平の独裁をより強固なものにしています。

  その歴史決議の内容をちょっと長いですが、よくまとまっているNHKニュースから見てみます。

引用

中国共産党は11月11日まで開いた重要会議の「6中全会」でことし党の創立から100年の節目を迎えたことを踏まえ、これまでの成果と歴史を総括する「歴史決議」を採択し16日、全文を公表しました。
国営の新華社通信によりますと全文は3万6000字余りでそのうち半数以上の2万字近くが習近平国家主席のもとでの党の歴史に割かれています。習主席が党のトップに就任した2012年以降を「新時代」と表現し、業績などを詳細に記述しているのが特徴です。

そのうえで「習近平同志を核心とする党中央を中心として、一層緊密に団結し、中華民族の偉大な復興という中国の夢の実現に向けてたゆまず奮闘しなければならない」と呼びかけていて、来年秋の共産党大会で党トップとして異例の3期目入りを目指す習主席の権威をさらに高めるねらいがあるとみられます。

このほか決議では中国全土を混乱に陥れた文化大革命について「全く誤った判断」と指摘し、毛沢東の過ちだったとする従来の見解を維持しているほか民主化を求める学生らを軍が武力で鎮圧した1989年の天安門事件については「動乱」と記述しています。

また台湾をめぐっては「台湾独立をもくろむ分裂の行動や外部勢力からの干渉に断固反対し両岸関係の主導権を握った」としたうえで、台湾統一は「党の変わることのない歴史的任務だ」としています。

一方、習主席が汚職撲滅を名目にみずからのライバルを失脚させた政治キャンペーンにも言及し、元重慶市トップの薄煕来氏ら、かつての党幹部を名指しで批判しながら習主席の権力基盤の確立につながった汚職撲滅の取り組みを正当化しています。

中国共産党が16日に公表した「歴史決議」の全文は、毛沢東と鄧小平の時代に採択された過去2回の「歴史決議」よりも長くなりました。
最初の決議はおよそ2万8000字、2回目の決議はおよそ3万4000字だったのに対し、今回は3万6000字余りに及びました。これは、400字づめ原稿用紙で90枚以上になります。

今回の決議全文の中で歴代指導者の名前が登場する回数は、
▽習近平国家主席が22回出てくる一方、
▽建国の父、毛沢東は18回
▽鄧小平は6回
▽江沢民元国家主席と胡錦涛前国家主席が、それぞれ1回で、
習主席の登場回数は、ほかの指導者を大きく上回りました。

また、前回、鄧小平の時代の「歴史決議」に明記された「個人崇拝禁止」や「集団指導」の文言は、盛り込まれなかったほか、独裁を防ぐために明記された「指導者の事実上の終身制を撤廃する」との文言もなくなっています。

このほか、今回の決議には「党が習近平同志の党中央と全党の核心としての地位を確立することは新時代の党と国家の事業の発展と、中華民族の偉大な復興という歴史的プロセスを進める上で、決定的な意義を持つ」とも明記されていて、習主席の権威を高め、権力の集中を印象づけるねらいがあると見られます。

引用終わり

 

  自由で開かれた現在の世界でも専制主義が蔓延していて、専制主義国家の数が多くなりつつあります。しかし昨今言われている「世界では専制主義国家の方が多い」という議論は誤りです。しっかりとした統計資料を見てみましょう。最も優れた研究はアメリカにベースを置く国際的NGO、Freedom Houseですが、今年出された研究レポートを見てみます。そのレポートを要領よくまとめている第一生命経済研究所の報告を引用します。

引用

米Freedom Houseは1972年から毎年、各国の自由度を3つの区分(①Free(自由)、②Partly Free(一部自由)、③Not Free(自由ではない))に分類・評価している。1991年のソビエト連邦崩壊以降、国の数自体が増加し、Freeの国の数も増加傾向にあったが、2005年の89か国を頂点に2020年は82か国まで減少している。逆にNot Freeは同期間に45か国から54か国に増加している。

Freedom Houseの自由度3区分にGDPを掛け合わせると、その結果はより示唆に富むものとなる。1990年にはNot Freeは調査対象164か国中50か国も存在していたものの、GDPで見れば世界の僅か6.2%とその影響力を無視できるレベルであった。Not Free国は2020年時点では54か国と国の数としてはさほど増えていないものの、世界のGDPに占める割合は25.6%とその影響力は無視し得ない規模にまで拡大している。

2020年においてFree国の世界GDPに占める割合は63.7%となっており、民主主義国家の勢力は経済力で見れば当面、世界の主流派であり続けるであろう。

引用終わり

Freedom Houseのサイトはこちらです。インターネットの自由度などの調査もあります。興味のある方はどうぞご覧ください。 

https://freedomhouse.org/

 

  今回のシリーズ「ファンド資本主義は資本主義を救う」の趣旨は、「変貌しつつある自由主義・資本主義は、必ず専制国家に勝る」というものです。盤石な基盤を誇る習近平の中国にも弱点はあるということをこれから示していきたいと思います。

 

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COP26と省エネ運転

2021年11月04日 | ファンド資本主義への変貌

  COP26が開催され、これまで私がシリーズで話題にしてきたESGの話題の中でも最大の焦点であるCO2の削減目標が議題の中心になっています。しかしCOPという言葉、Conference of Parties=締約国会議の略で、気象変動とは何の関係もないことにいつも違和感を覚えます。もっと気象変動に合わせた言葉、略号を使えばいいのにと思います。

  それはともかく、今回のCOP開催中に日本は何度目かの不名誉な「化石賞」に選ばれました。化石燃料ばかり使い温暖化対策に消極的な国に贈られる「化石賞」に日本が前回に続き選ばれたのです。この賞は「気候行動ネットワーク」というNGOが勝手に選んでいるのですが、日本を選んだ理由は、「日本が引き続き化石燃料を使う見通しである」こと、そして岸田総理が「火力発電の廃止に言及しなかった」ことを挙げています。口だけ政府の実態がばらされていますので、グレタちゃん達に笑われています。

  その一方、このところ日本では毎年何度も「50年に一度」と言われる災害に見舞われています。世界も同じで大洪水、山火事、干ばつなどがひといのですが、なかでもアフリカ大陸の東側にあり、日本の1.6倍の国土と2,700万人の人が暮らす島国マダガスカルは深刻です。雨がほとんど降らないので作物が育たず、飢餓が拡がっています。私が好きなバオバブの木やワオキツネザルはどうなってしまうのでしょう、心配です。そしてエチオピアも同様で、ナイルの源流を巡ってエジプトと水争いをしています。内戦している場合ではないのにね。遠い将来の気象変動激化を食い止めるためのCOPではありますが、現在進行中の現象に対処するためにも議論ばかりではなく、早く合意した上で行動に移してほしいと思います。

 

  今回は以前の投稿で予告した私のやっている省エネについてです。電気をこまめに切るやLEDライトへの変更などはどなたも実行されていると思いますので、自動車の省エネ運転について書いてみます。

  私はゴルフに行く機会が多く、また家内の両親の世話で三浦半島の葉山やそばの介護老人ホームにしょっちゅう行くため車での移動が必然的に多く、月に1千キロ、年に12,000キロほど走ります。そこで実際にどのような運転でどれほどガソリンをセーブしているか具体的数字を披露させていただきます。

  私の車はホンダのハイブリッドで、1,500CCです。車を購入して以来5年半の平均燃費はリッター当たり約24㎞。それ以前は、スキーの時に使い勝手の良いドイツの大き目な4輪駆動車で、平均燃費は8㎞ほどでした。なんと約3分の1になっています。最近スキーは友人の車に同乗させてもらうため、自分の車を使うことはあまりありません。また旅行などで長距離のドライブはあまりせずせいぜい近隣100㎞以内の温泉や観光地にいくくらいです。日常では近所の買い物やゴルフの練習場通いで使います。短距離の場合、荷物がないと自転車か歩きです。

  ドライブ中は音楽を聴いたり会話を楽しむ以外にすることもないので、ガソリンをどこまでセーブできるかを楽しんでいます。ゴルフ場の往復で100㎞程度の距離を走ってこれまでの最高記録はリッター当たり40㎞です。これはもちろん下り坂が多い場合の記録です。御殿場から山中湖に向かう道沿いにある富士高原ゴルフコースからの帰り道で実験し達成しました。コースは高度がちょうど800mの地点にあり、400mの御殿場まで一般道、そこから東名高速で東京の家まで、360m下ります。東京の我家は高速を降りてすぐそばです。最近は高度計アプリで標高が測れるので便利ですね。

  私のホームコースも御殿場市内にありたびたびプレーするので、そこへの往復でも様々な実験をしています。行きは早朝ですのでスピードを出せるのですが、私はふだん3車線のうち一番左の車線でクルーズコントロールを使い時速80㎞にセットして走行しています。ガソリンをセーブしながら、他車の邪魔にならないスピードです。自宅は標高40mなので往路は360m登ります。リッター当たりの走行距離は27㎞。帰りは渋滞することが多いのですが、それでも下りなので33㎞、平均ではちょうど30㎞です。渋滞がない時も全く同じです。最近の車は燃費の計算を自動でしてくれるので、それを使っていろいろと楽しむことができます。

  同じところを時速90㎞にセットして走行するとたちまちリッター当たりの走行距離が平均で26㎞と4㎞、つまり一割強落ちます。時速100㎞での実験は無理です。東名は途中から山道に入るため、制限が80㎞になるからです。しかしそこに至る手前までで実験すると、速度100㎞で走ると平均は23㎞くらいに落ちます。やはり空気抵抗はかなり大きい要素ですね。

  では渋滞時はどうか、これが不思議です。日曜日の帰りの東名は大和トンネルを先頭に20㎞以上渋滞します。その間はストップアンドゴーを繰り返すのですが、リッター当たりの平均走行距離は実は変化がありません。つまり30㎞を超えて走ることができます。理由のひとつはゆっくり走るので空気抵抗がほとんどないこと。もう一つは運転の仕方にあります。私は前方に車が止まっていたりすると、すぐギヤをニュートラルに入れてガソリンをセーブします。例えば渋滞時、ゆっくりと100m進むとします。最初の20mほど静かにアクセルを踏んでスタートし、時速20㎞くらいでニュートラル(N)に入れると、平地ならあとの80mは惰性だけで走ることができます。ゆっくりでも渋滞中ですから、たとえ前の車から100m近くはなれても他の車に文句は言われません。車は1.5トンくらいあり慣性モーメントが大きいので、惰性でかなり走れるのです。

  実はこの走り方、ほとんどのトラックは実行しています。トラックは自重と積み荷でかなり重く、慣性モーメントは非常に大きいので少しアクセルを踏んであとはNにしてゆっくりと走ってもスピードはなかなか落ちません。スピードがスローになるとちょっとアクセルを踏むことを繰り返せばいいのです。ですので渋滞時もトラックの多い左車線を走り、私もトラック走りに徹するのです。どうせ急いでも到着時間にたいした変わりはありません。たとえ高速道路でもちょっと下り坂になるとギヤをNに入れたままにしてガソリンをセーブ。少しの下り坂でも慣性力が大きいので、スピードは十分に保てます。

  

  また例えば高速にはETC料金所がありますが、だいたいその2㎞手前に「2㎞先料金所」のサインが出てきます。時速80㎞で走っていてサインのところでニュートラルに入れると、平地なら惰性だけで2㎞は優に走ることができ、最後は30㎞近くに落ちるので、ブレーキを少し踏むか踏まないていどでETCを通過できます。ウソだと思ったらどうぞ実験してみてください。

  ただし料金所に近づくと他車とのスピード差が大きくなるので、必ず一番左に寄って邪魔にならないように走りましょう。多くの車は料金所手前数百メートルまでアクセルを踏み続け時速100㎞程度を保ち、最後は強くブレーキを踏みます。他の車がいかにバカバカしいガソリンの無駄遣いをしているかがわかります。

 

  私は普段一般道でも同じように惰性を多く使って走りますので、実は一般道でのリッター当たりの走行距離も、高速での30㎞とまではいきませんが、さほど変わりません。これも時々プレーする大宮のゴルフ場に行くときに実験しています。うちからほぼ真北にありますが、うちを出て環状八号線を北に行き、新大宮バイパスでさらに北上、45㎞ほどでゴルフ場に着きます。その間すべて一般道ですが、アクセルを踏んではすぐNにして走るため、アクセルを踏むのは時間で言うとたぶん5分の1程度です。

  時速60㎞くらいで走っていて遠方に赤信号になりそうな信号があれば、すぐNに入れます。それは遠くからでも歩行者用信号を見ていればわかります。歩行者信号の青が点滅を初めて赤信号に変わり、やがて車の信号も黄色から赤に変わるからで、見える範囲で一番遠くの信号まで視野に入れて無駄にアクセルを踏まないようにするのです。この走り方でリッター当たりの走行距離を一般道でも30㎞が簡単に実現できるのです。高速道路でないため空気抵抗はかなり少ないと思われます。燃費はリッター当たり30㎞なので、45㎞あるゴルフ場まで必要なガソリンは1.5リッター。リッター160円で考えてもわずか240円、往復480円で電車代の4分の1のため一人でも十分にペイするどころか、おつりがきます。もちろん後ろを走る車はイライラすることがありますので、70歳を超えた私の車には堂々と高齢者マークを付けています(笑)。いや、昔のもみじマークあるいは落ち葉マークと違い、最近のマークは緑色や黄色も入った「よつ葉マーク」で、「落ち葉」とは言わせません。この威力は結構あって、煽り運転をされることはほぼなくなりました。

 

  こうした運転をするようになるとすぐに気が付くのは、赤信号や一時停止に向かってアクセルを踏み続ける運転者が愚かに見えてくることです。何のためにアクセルを踏むかと言えば、ただただブレーキを思いっきり踏むためにアクセルを踏んでいるとしか思えません。

 

  ここで、ニュートラルを多用する運転法に危険性を感じる方もいらっしゃると思いますので、ちょっと追加しておきます。例えば箱根の山下りを考えます。国道1号線の最高地点は870mです。そこからの下り坂で湯本まで走る際、私はほとんどアクセルを踏まずに走ることができます。カーブが多いためスピードダウンする時にはエンジンブレーキを多用し、シフトダウンをしながら走ることでブレーキに負担をかけません。今の車はハンドルにシフトボタンが付いていて、指先で簡単にギヤを変えられます。さすがに1段目までは入りませんので、セカンド止まりです。これは街中の走行でも同じで、セカンドギヤまではブレーキを使いません。

  おかげで車の定期点検に行くといつもエンジニアの方に、「ブレーキパッドがぜんぜん減っていないのですが、林さんはレースをされていましたか?」と何度か聞かれました。車のレースではブレーキは多用せず、ほとんどがエンジンブレーキなのでそう思ったのでしょう。「いいえ、私は普段ブレーキングもシフトダウンで行っているので、ブレーキは最後の瞬間しか使わないんです」と答えると、感心されます。ちなみに今の車はすでに5年目の車検を通っていますが、いまだブレーキパッドを交換していません。

  もしたとえばシフトダウンが面倒であれば、ブレーキを踏めばよいだけです。今の車は昔と違ってブレーキが過熱して効かなくなることはほとんどありません。箱根の山も多くの方はブレーキだけで制動していると思われます。それはブレーキランプを見れば一目瞭然です。そしてハイブリッド車であれば、ブレーキングはバッテリーの充電になるため、省エネになります。ちなみにエンジンブレーキも充電につながります。

  あえて付け加えれば、ブレーキランプが点かないので後続車は注意が必要かもしれませんね。そんなときはちょっとだけブレーキを踏んでランプだけは付けてあげましょう。

 

  運転をされる方々へ。趣味と実益を兼ね是非私のような省エネ運転を真似してみてください。運転が楽しくなりますよ。日本中のドライバー、いや世界中のドライバーが私のように運転すれば、ガソリンの使用量を半分とは言いませんが、3分の1くらい簡単に減らすことができます。OPECやロシアなどにデカい顔をされることもなくなるでしょう(笑)。

  ながながとお付き合いいただき、ありがとうございました。

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ファンド資本主義が資本主義を救う、7.気候変動の予測にノーベル賞

2021年10月08日 | ファンド資本主義への変貌

  今年のノーベル物理学賞の受賞者にプリンストン大学の日本人研究者、真鍋さんが選ばれましたね。とても嬉しい知らせです。受賞に関して世界の関係者やメディア報道で言われているのは、物理学賞が気候変動に関する研究者に授与されることの驚きでした。

  物理学賞の多くが理論物理学などの分野に与えられる中、まさかの選定だったと言われています。直接の関係は全くないのですが、私自身もこのブログで取り上げている資本主義の変貌の最大の関心事が気候変動であるため、タイミングのよさに驚きました。人類が気候変動の激しさに日々翻弄されているため、この問題がノーベル賞選定委員会でもトッププライオリティーになったのでしょう。

  しかし驚いたのは真鍋さんの気候変動モデルによる研究が60年代に始まり、その時代に学問的な証明がかなりの程度できていたという事実です。選定理由について発表された内容では、

地球の気候は人類にとって極めて重要ですが、「真鍋さんは大気中の二酸化炭素の濃度が上がると地表の温度上昇につながることを明らかにした」。また物理学には基本的なルールを使って複雑なプロセスや現象を説明する役割があるとして、真鍋さんは「力学を通じて地球の気候を研究し、初めて信頼性のある予測を出した。二酸化炭素が2倍になれば表面温度が2度上がると予測した」。     

 

  いまでこそ気候変動の予測はスパーコンピューターを使って効率よくモデルを導き、シミュレーションが可能になっていますが、ほぼ手計算に近い道具立てにもかかわらず成果を上げていました。そしてその気象予測手法は現在でも長期予報に使われているということにも驚かされました。我々は日々真鍋さんの研究成果の恩恵にあずかっているわけですね。

 

  さて本論に戻りますが、ここまで「ファンド資本主義が資本主義を変える」というシリーズで私は、モノ言う株主が議決権行使のアドバイザーの指針により、勝手気ままな経営を許さなくし、その指針の中心的課題が気候変動に多大な影響を与えるCO2の削減にあると説明してきました。

  一昨日の日経ニュースでは、金融庁が上場企業など約4000社を対象に、気候変動に伴う業績などへの影響を開示するよう義務付けることを検討するとのこと。

  開示すべき項目とは、(1)温暖化ガス排出量(2)気候変動に伴う事業・戦略・財務に及ぼす影響(3)リスクと機会に対する取締役会の監督体制(4)リスク管理のプロセスがある。金融庁は有識者を交えた作業部会を9月に設け、有報に気候変動リスクの記載を義務付ける検討を進めている、とのことです。企業にとりこの開示義務は事務的にもかなりの負担になりそうですし、開示だけでなく排出量の削減に本気でとりくまなくてはならなくなります。

 

  一方CO2削減の目標は、民主主義・自由主義陣営にとって最大の脅威となっている中国でも強権的に進められていて、それにより経済活動にブレーキがかかるほどになっています。中国国内ではCO2排出の本丸である石炭火力発電所の操業が停止させられ電力不足が深刻化し、製造業などに広範な影響が出ています。それは当然中国をサプライチェーンの一環として利用している自由主義陣営の企業にも出ていて、影響は世界に拡がりつつあります。

  そしてCO2を最も輩出している石炭火力発電の停止などは先進各国でも大きな広がりを見せ、11月に開催されるCOP26では中心的議題になると思われます。

  ネットで「COP26」を検索すると驚いたことに、最初に登場するのが民間企業である日立のホームページです。これまでの経緯を含め実によく説明されているので、それをそのまま引用し紹介します。

https://www.hitachi.co.jp/cop26/

 

引用

「世界がひとつになって取り組む気候変動対策」

英国グラスゴーで2021年11月 1~12日、「国連気候変動枠組条約第26回締約国会議」(COP26)が開催されます。

COP26では、「パリ協定」と「気候変動に関する国際連合枠組条約」の目標達成に向けた行動を加速させるため、締約国が一堂に会して議論します。COP26の開催地となる英国では、すべての国と協力し、企業や市民と力を合わせ、気候変動対策への取り組みを推進します。

「気候変動対策が必要な理由」

地球規模で平均気温が上昇し続けています。また、これまで経験したことのないような豪雨や嵐による災害、異常気象による農作物への被害が発生しています。いま行動しなければ、私たちはさらなる影響を受けることになるでしょう。

こうしたなか、世界中のリーダーたちが2015年、フランスのパリで気候変動対策に取り組むための歴史的な合意をしました。これが「パリ協定」です。合意された内容は、「世界的な平均気温上昇を産業革命以前に比べて2度より十分低く保つとともに、1.5度に抑える努力を追求する」ことです。

さらに、気候変動対策に必要な適応策や資金面での支援を強化することについても合意されました。パリ協定の実施と実現に向けて、世界が協力してこの重要な課題に取り組み、将来の世代のために環境を守ることを示していく必要があるのです。

引用終わり

 

  いまやCO2削減の話は日常的にどの分野でも話題になりニュースにも毎日取り上げられ、我々消費者もエコバッグだけでなく今後一段とエコに気を使う必要がでてきそうです。

 

  次回は「私のエコ実践講座」を書いてみます。

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ファンド資本主義が資本主義を救う、その6.住友商事の事例

2021年09月23日 | ファンド資本主義への変貌

  私の参加しているネット上のプライベートな「サイバーサロン」には主催者の方を初め、多くの住友商事OBの方がいらっしゃいます。そこで日本企業の例として今回は住商にかかわるESGの話題を提供することにしました。今年の6月の株主総会において気候変動に関する住商の考え方が試されました。

  環境NGOのマーケット・フォースから提出された気候変動問題のパリ協定に関する提案内容と、会社側の反対理由をまず会社のHPからそのまま引用します。

まずは株主提案の内容と提案理由についてです。

第5号議案
定款の一部変更の件(パリ協定の目標に沿った事業活動のための事業戦略を記載した計画の策定、及び開示)

提案の内容(議案の要領)

 「当会社が気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)に賛同していることに留意し、当会社は、石炭、石油、ガス事業関連資産の保有量、事業規模をパリ協定の目標に沿ったものにするための指標と短期、中期、長期の目標を含む事業戦略を記載した計画を決定し、年次報告書にて開示する。」という条項を、定款に規定する。

提案の理由

 本提案は、当会社がパリ協定の目標に沿った事業を行うための指標及び目標を含む事業戦略を記載した計画の決定・開示を通して、気候変動リスクの適切な管理及び株主資産の保全を目的としている。
 気候変動は、人間社会及び経済システムに深刻なリスクをもたらす。この危機を回避するための条約であるパリ協定は、世界の平均気温上昇を産業革命以前と比べて2度を十分に下回ること並びに1.5度に留めるよう努力することを目標にしている。
 他の商社が石炭関連資産(一般炭鉱及び発電所)を処分する中、当会社の石炭事業方針は現在でも、既存の炭鉱取得や発電所新設を許容している。当会社は、石油、ガス事業に関しても、パリ協定と整合するカーボンニュートラル化への道筋を示していない。当会社は、自らの不十分な方針とその実行により脱炭素経済への移行に伴う重大な経済リスクに晒される。本提案により株主は、当会社の当該リスク管理が適切か否かを知り得る。

 (注)TCFDについて日経新聞のサイトを引用します。

「気候関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)の略称。気候変動が金融市場に重大な影響をもたらすとの認識が主要国の間で広がったことを背景に、各国の中央銀行・金融当局や国際機関が参加する金融安定理事会(FSB)が2015年に設立した。投資家などに投融資の対象企業の財務が気候変動から受ける影響の考慮を求めたり、企業に情報開示を促したりする。」

  次に上記株主提案に対する住商側の反対意見です。

当社取締役会の意見

1.当社取締役会の意見とその理由

 当社は、持続可能な社会の実現に向けて、気候変動緩和を重要社会課題の一つとして捉えており、パリ協定で定められた目標の達成を含む気候変動緩和の各種課題解決を目指しています。
 この前提のもと、当社は後述の第2項の経営方針に基づいて、定款に定める多様な事業を手掛けるとともに、気候変動問題に関するリスクを適切に管理し、企業価値の毀損を防止しつつ、変化を機会と捉えて持続的成長と企業価値の拡大に努めることで、これからも株主の皆様の期待に応えてまいります。
また、当社は本株主提案に含まれる事業戦略を記載した計画の策定や開示に既に取り組んでおり、本株主提案が求める内容を新たに定款に記載する必要はございません。なお、定款は会社の組織等に関する基本的な事項を定めるものであり、また、必要に応じて機動的に方針や計画を変更し、それを速やかに実行していく観点から、個別具体的な方針等を定めることはせず、現行定款の内容を維持したいと考えています。 したがって、当社は本株主提案に反対いたします。

 上記の提案と会社説明は、以下の住商HPで見ることができます。

https://s.srdb.jp/8053/content-1-5.html

 

  この株主提案は6月の総会で提案され、約2割の株主から賛同を得ましたが反対多数で否決されました。議決権行使アドバイザーのISSのアドバイス内容は不明です。一株主からの提案を会社側がしっかりと受留め、会社の考え方を述べています。今やESGに関わる問題はすべての企業が避けて通ることのできない重要問題となっています。特に住商などの商社は世界で資源ビジネスを幅広く展開しているため、炭鉱開発や石炭火力発電に対する厳しい要求を突き付けられるケースが多く、株主から「ヤメロ」と言われるだけではなく、住商に資金を貸し付ける銀行側からも圧力を受けるようになっています。実はその銀行もまた株主から「CO2を排出する企業に貸し付けをするな」という追及を受けていて、単なる株主の提案などとして放置するわけにはいかないためです。

  同じことは多くの火力発電所を抱える電力会社、それを資金面で支えている銀行、そして電力債券を引き受ける証券会社にも及び、投資家もそうした企業の株や債券に投資しないということがすでに一般化されつつあるのです。

  一方日本では金融庁がこの問題の開示に関して積極的に乗り出しています。

企業の気候変動リスク、開示を義務付けへ 金融庁検討

2021年7月26日 日経ニュース

「金融庁は企業の気候変動リスクに関する開示を義務付ける検討に乗り出す。今夏にも検討会議を立ち上げ、上場企業や非上場企業の一部の約4000社が提出する有価証券報告書に記載を求める議論を始める。法的な拘束力を持つ有報で一定のルールに基づく開示を義務付け、企業の取り組みを加速させるとともに、国内外の投資家の判断材料として役立ててもらう。早ければ2022年3月期の有報から開示を義務付ける可能性がある。」

 

  もっとも金融機関までも巻き込んだ最近の企業包囲網は一部で行き過ぎであるという意見も出されています。現代の魔女狩りになるほどの拡がりを見せているためですが、こうした問題をしっかりと認識せずに個別企業に投資したりすると、手痛い目に遭う可能性があるので要注意です。

 

 

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ファンド資本主義が資本主義を救う その5.世界の資本市場のキーワード、ESG投資

2021年09月19日 | ファンド資本主義への変貌

  このシリーズは何度か中断してしまいましたので、簡単にその1から4までをレビューをしておきます。

 

その1 モノ言う株主

日本の報道では「モノ言う株主」という言葉がたびたび使われ一般化しているが、この言葉は「日本と言うガラパゴス列島ではふつう株主はモノを言わないのだ」ということを表している。しかし今やモノ言う株主こそ、資本主義を救う救世主になる。

 

その2 超巨大化する世界のファンド

現代の資本市場を席巻するファンドはとてつもなく巨大化していて、世界最大のファンドは1社で1,000兆円を運用し、日本の全株式市場の時価総額750兆円をはるかにしのいでいる。

 

その3 世界の機関投資家のアドバイザー ①

ファンドを含む世界の機関投資家に大きな影響を与えるアドバイザーがいて、アドバイザーは世界の将来を真剣に見通して的確なアドバイスを行う能力を有し、ファンドは議決権行使で彼らのアドバイスにおおむね従っている。

 

その4 世界の機関投資家のアドバイザー ②

世界で最も有力なアドバイザーはISSで、大きなシェアーを持っているため、甚大な影響力を有する。

 その5は世界の資本市場のキーワード、ESG投資です。

 

  現在、日本でも世界でも最も重要視されているのは異常気象への対処です。人類が利便性・効率性を追求した結果、人類だけでなくあらゆる動植物、美しい自然を破壊し尽し、いずれは死滅しかねません。どの国でも政府、自治体、企業、そして国連を始めとする国際機関も、歴史上初めて一つの目的に向かってベクトルを合わせています。

  それは個人にもおよび、だれもが参加しているプラスチックゴミの削減や、あらゆる企業がCO2削減を目標に掲げるところにまで至っています。カーボンニュートラルゼロ・エミッションも同じ意味を持っています。

  その目標に向かうにあたって、重要なキーワードがあります。それがESGで、三つの言葉の筆頭にEが掲げられています。これは投資の世界でも同じで、ESGというキーワードが投資のあり方を変えるほどのインパクトを持つに至りました。

「ESG」EとはEnvironment環境SとはSocial (responsibility)社会的責任GとはGovernance企業統治です。ESGというキーワードが今や世界の一大潮流になりつつあります。

 

  企業が持続的に成長するためにはESGへの取り組みが重要との認識が急速に広まっていて、その取り組みの甘い企業への投資は行わないという事になりつつあり、それに逆らう企業は今後投資対象から外され、淘汰される可能性すらあると思われます。今回はESG投資とは何かを深堀します。

 

  ESG投資を一言で言えば、「環境・社会・企業統治に十分な配慮をし、責任を持つ企業を選別して行なう投資」のことです。何故そうした企業を投資対象として取り上げるのか。その理由はESG評価の高い企業は事業の社会的意義、成長の持続性など優れた特性を持つ企業だからで、今後の成長余力が高いと見られています。社員の採用面で注目され、商売相手として選ばれ、融資も受けやすく、それゆえ投資対象として選ばれるのです。

 ではそのESG投資の規模感をつかんでおきましょう。朝日新聞ニュースの7月19日版を引用します。

引用

日米欧などの普及団体でつくる「世界持続可能投資連合」(GSIA)が7月19日発表した2020年のESG投資額は35兆3千億ドル(約3880兆円)で、18年の前回調査から15%増えた。

 GSIAの調査は2年に1度、年金基金や資産運用会社などを対象にESG投資額を調べるもので、今回が5回目。特に米国は年金基金などが積極的に投資を増やし、前回から42%増の17兆810億ドル(約1880兆円)となった。

引用終わり

  世界の株式市場の時価総額が現在約1京円ですので、この投資額が株式メインとすれば全体の約4割になります。株式投資を語る上でESGは避けて通れないし、世界の主な機関投資家はESGをしっかりと意識していない企業には投資を行わないようになりつつあります。

  では何故それほどまでESGを意識するようになったのか。先ほども指摘しましたが、最大の理由は地球温暖化に対する危機感です。災害列島日本に暮らす我々も、年を追うごとにひどくなる気温上昇やそれが原因で激甚化する台風や大雨・洪水に悩まされています。アメリカや欧州ではそれらに加えて山火事の大規模化があり、アフリカや中央アジアでは降雨量の減少による砂漠化、南の島々では水面上昇による国土全体の水没が迫っています。

  このため政治の世界でも日本の菅政権は「2050年までにカーボンニュートラルを実現」するという宣言を出し、世界の潮流もカーボンニュートラルゼロ・エミッションに向かった政策を打ち出さないと国民の支持を得られなくなっています。特にかなり以前からみどりの党のあるドイツや、環境問題に関心の高いフランスなどは国民の意識も非常に高く、自動車メーカーも100%の電動化を急ぐようになっています。

  実際EUはガソリンエンジンばかりでなく、ガソリンと電動の両方を有するハイブリッドすら許さない方向に動き出しました。

時事通信の7月16日版を引用します。

欧州連合(EU)欧州委員会が14日、2035年に域内でのガソリン車など内燃エンジン乗用車の新車販売を実質的に禁じる方針を打ち出した。50年の温室効果ガス排出「実質ゼロ」実現に向け、電気自動車(EV)シフトを加速させる。ハイブリッド車(HV)も禁止対象となり、HVを得意とする日本メーカーは欧州戦略の見直しを迫られそうだ。

引用終わり

 

  こうなると当然投資家もその政策に沿った方向を目指す企業へ投資せざるを得ず、これまでのように企業価値を利益や成長力だけで計ることが許されなくなっているのです。

  では日本の国内投資家の投資行動はどうなっているか見てみましょう。日本株の投資をリードする海外投資家はESG重視ですから、当然同じ方向に向かわざるを得ません。それを目に見える形にしているのは、ESG投資を標榜する投資信託の存在です。国内のESGを標榜するファンドは現在すでに168本、約3兆円に達しています。それでも全体への貢献度はまだまだ低く、世界の趨勢には大きく後れを取っています。

 

 

コメント (3)
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