ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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オリンピックを楽しもう

2021年07月28日 | オリンピック2020

  オリンピックが佳境に入りつつありますね。日本選手の活躍の目覚ましさは、目を見張るものがありますね。卓球のミックスダブルス、ソフトボールなど感動の連続でした。

  ではいったいメダル数の事前予想はどうだったのでしょうか。下の表は日経新聞とFTが連携し、イギリスのスポーツ・エンターテインメントの予想における世界大手のグレース・ノート社に、メダル獲得数を予想してもらったものだそうです。

 

予想獲得数

         金    銀    銅   合計

1.アメリカ   40     27       29       96

2.ロシア     21    26    21       68

3.中国      33    11      22       66

 4.日本         26        20      14       60

5.英国       14        23     15       52

これによれば日本は金メダル数も合計数も4位です。しかしきっとこの予想には13歳の楓ちゃんの金や、卓球ダブルスの金は入っていないでしょうから、予想を上回るメダル数が期待できそうですね。

 

  では本日28日朝までのメダル獲得数を見てみます。日本は金で最多数、驚きですね。これから水泳や陸上が始まると大きく変動するとおもいますが、ここまでは上出来以上ですね。

順位     国名     金メダル 銀メダル 銅メダル       合計

1     日本     10        3        5      18

2     米国      9         8        8      25

3     中国      9        5        7      21

4     ロシア   7       7        4      18

5     英国       4        5         4       13

 

  

  今回オリンピックが直接観戦できないのはとても残念です。私が住む世田谷区はアメリカチームのホストタウンです。といっても今回はコロナのために住民との交流などは一切なし。私が毎日のようにウォーキングしている近所の砧公園には大きな運動場があって、そこがアメリカ選手のトレーニング場に指定されています。一昨年、アメリカチームの受け入れも考え、全く新たに大きなスタンドを作って新装開店しました。

  400mトラックを始め、ほぼすべての陸上競技施設があります。その他にもプール、アーチェリー場、テニスコート、ゴルフ練習場もあり、施設はとても充実しています。ですが今回はすべてのエリアは柵で囲われていて、いつもの散歩道に立入りすることもできません。選手の出入りはハトバスが利用されています。それでも報道陣は選手をとらえようと、出入り口で張っていますが、空しい努力となりそうです。

  私は自分が中学校時代に64年のオリンピックがあって、学校からサッカーとグランドホッケーの試合を見に行きました。その時の感激は今でもおぼえています。そこで今回も一つくらい観戦したいと思い、沿道観戦できる可能性のある自転車競技をトライすることにして、自転車好きの友人ご夫婦に相談しました。彼らの別荘が富士山の中腹1,000m地点に合って、目の前の道路が競技ルートに入ったからです。彼らも是非一緒に観戦しようとなり、交通規制を考えて前日から泊りがけで見に行くことにしました。

  プロの自転車選手の速さはすごいものがありますが、幸いこの地点は傾斜のきつい上り坂のため、走行スピードが遅いのです。府中市を出発し山中湖経由で富士スピードウェイを走った後、御殿場から富士サファリパークを通過、そこから5合目までの直登ルートがはじまります。直線ルートの真ん中ほどのためかなり遠くから見えるし、通過後も目で追う事のできる場所です。

  選手はトータル230㎞を走りますが、ここはすでに半分ほど走った後で、しかもそれまでにも峠越えがあって、脱落し始める選手も多いものと思われます。今回のコースはオリンピック史上最高にシビアなコースと言われています。その理由は累積登坂高度が4,850mにもなるからです。つまり富士山の1.3倍もの高度を自転車で登る極端にきついコースです。

  その上世界の強豪選手たちは、その前週の週末まで世界一のレース、ツールドフランスで20日間に3,500kmを走りぬいて、そのまま時差をもって参加するのです。ツールの最終日が7月18日(日)、オリンピックの競技日は24日(土)です。

 

  当日の天気は晴れ時々曇り。出発時点は30度を超えていましたが、十里木の別荘地は25度くらいで絶好の観戦日和でした。ロードレースはテレビ中継一切なしでしたが、ネットでは全コースの中継があり、我々はそれを見ながら彼らの通過時間を予想していました。バイクカメラと上空から2台のヘリが空撮していました。

  我々の前をまず大きなカメラを屋根に乗せた前走車が通過し、すぐに先行組5人の選手が目の前を通過します。それから待つこと約10分。有力選手が揃うメイン集団百数十人が通過。10分というと数キロは離れてしまっているのですが、長距離のロードレースはいつもこのような賭けに出る先行組と落ち着いたペースで走るメイン集団に分かれ、先行組が離れてしまうことを全く気にかけません。自転車レースは空気抵抗との戦いのため、少ない人数で先頭交代をしながら走っても消耗は激しく、逃げ切りは厳しいものがあります。先行組5人も結局逃げきれませんでした。

  メイン集団の中の前方に、スロベニアのポガチャル選手を見つけました。彼は前週のツールで総合優勝を飾って乗り込んできた優勝候補ですが、最後は3位でした。日本人は二人出場。新城と増田ですが、残念ながら新城35位、増田84位に終わりました。優勝はやはりツールを走ったエクアドルのカラパスで、ツールでは3位でした。

  ということで今回のオリンピックもどうにか沿道のただ見席でゆっくりと観戦することができました。

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白鵬を何故処罰しないのか

2021年07月18日 | ニュース・コメント

  私は相撲の大ファンではないのですが、この何年か夕方時間があれば見るようになりました。日本の古くからの格闘技である相撲は、礼に始まり礼に終わる美しき日本の伝統美を見せくれます。

  しかしどうしても「異議あり」というより、「許せない」と思える相撲取りがいます。それは多くの方も多少は思っている横綱白鵬の土俵上の所作です。許せない点を並べると、

 

1.溺れた犬を棒で叩く

すでに土俵を割り込んで倒れ掛かっている相手にダメ押しをして土俵下に突き落とすこと。

ルール違反ではないが、お互いに体を張っているのがわかっていながら、怪我のおそれのある突き落としは許せない。礼節の「れ」の字もないひどい仕打ちだ。これまでの大横綱は、反対に相手が落ちそうになるのを引いて助けている。

2.立ち合いの張り手

特に横綱になってから、取り組みの半分くらいは、立ち合いの瞬間相手の横っ面に張り手をかます。相手が横綱には手を出せないことをいいことに、張りまくる。

3.横綱にあるまじき奇手

決してルール違反ではないと思うが、ひどすぎる。それが今場所14日目の大関正代戦にひどい形ででた。その一番を見たい方は、以下のサイトでご覧ください。立ち合いは下の写真です。

https://www3.nhk.or.jp/sports/special/sumomovies/clip/2UB6hEtMdTF9Ca.html

  この取り組みを相撲協会の横綱審議会がどう判断するか、見ものです。翌千秋楽の解説で舞の海がこんなことを言っていたので、そのまま記します。彼の解説は、いつも的確だと感心しています。

  「相撲の伝統的の様式美にもとる行為。横綱かくあるべしとはかけ離れている。これが不問に付されるようだと、横綱としての在り方や今後の相撲の立ち合いがおかしなものになる」という非常に厳しいコメントを述べました。まったくそのとおりだと私も思います。

  最終日の今一人の解説者は北の富士でしたが、彼は放映中にはさほど厳しい言い方は遠慮して言っていないのですが、彼のコラムには驚くほど厳しい物言いがありましたので、それを引用します。

 

中日新聞より引用

【北の富士コラム】白鵬には愛想が尽きた…44回も優勝してもまだあのような汚い手段で優勝したいのか

結びの白鵬は率直に言わせてもらえば、とても正気の沙汰とは思えない相撲であった。ひと言で言えば、手段を選ばず勝てばいい気持ちが露骨に出た相撲といえる。
 解説の尾車さんも言っていたが、まるで「初っ切り」である。初っ切りならまだ笑いがあり楽しめるが、この相撲は背筋が寒くなるような、実に後味の悪い一番であった。
 かわいそうに正代は、強烈な張り手にぼうぜんとなり、反撃する気力を完全に失っている。もう一発ぐらい張られていたら倒れていたかもしれない。それでも白鵬の寄りをうっちゃってささやかな抵抗を見せたのが、せめてもの正代の意地だったのだろう。正代もとんだ災難に遭ったものだ。同情を禁じ得ない。
 白鵬は、こんな異常ともいえる作戦を思い付いたのはどうしてだろう。想像するに、正代のもろ差しを警戒するあまり思い付いたに違いないが、誰が見ても理解し難い相撲であった。
 私もこの世界に69年、いろいろな相撲を見てきたが、これほど度肝を抜かれたことはない。テレビ等でも見た人は多いと思うが、「いい相撲」だったと言う人は恐らく多くないと思われる。熱烈な白鵬ファンならあるいは「勝てばいい」と思う人もいるとは思うが、常識的な人なら好意的に見る人はいないだろう。
 私は、今までは白鵬の理解者と自負してきたが、この日を限りでやめることにした。人が何と批判しても、彼の相撲界に尽くした貢献度は、今まで3人いる一代年寄よりはるかに上と思ってきた。時には非常識な言動で問題を起こしても、文化の違いを理由に大目に見てきたが、この相撲ばかりは理解できないし、愛想が尽きた。
 44回も優勝してもまだあのような汚い手段で優勝したいのか。子供の相撲大会を10年も続け、そこから角界入りした子がたくさんいる。中には幕内になっている子もいる。すでに内弟子にも炎鵬、石浦、今場所幕下優勝した北青鵬の有望力士がいる。白鵬の弟子育成の手腕を買っていただけに、この相撲をこの子らにどう説明するつもりか。
 まあ今となっては、時既に遅しである。せいぜい千秋楽は全勝優勝をするが良い。しかし、まともにいっては照ノ富士には勝てないよ。まだ何かとんでもない秘策でもあるのか。たとえ白鵬が優勝しても、横審をはじめ昔から相撲を見ている人の反応は今から恐ろしい。バカなことをしてくれたものだ。
 千秋楽の一番、私は何の興味もない。頭に来ているので、もう飯食って寝ます。(元横綱)
 
 
正代(右)から離れて構える白鵬

  

北の富士に座布団1枚!

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ファンド資本主義が資本主義を救う その3.議決権行使アドバイザーとは①

2021年07月17日 | ファンド資本主義への変貌

  まもなくオリンピックですね。1964年のオリンピックの時、私は15歳でした。中学校は私学でしたが、同じ世田谷区内の駒沢公園のスタジアムで開催されたサッカーとグランドホッケーの試合を、学校からみんなで見に行ったのを思い出します。

  そしてもちろん毎日のようにテレビで観戦していました。今でも白黒映像として鮮明に記憶に残るゲームは、女子バレーの決勝戦。6度目の金メダルポイントでやっとロシアを破ったのですが、最後の瞬間はロシア選手の手がネットを超えたことによるオーバーネットの反則でした。でも私を含めほとんどの観戦者はそんなルールを知らないため、審判が何故日本の勝を宣言したのか、しばし理解できませんでした。

  そのほか男子体操で個人・団体の金メダル、重量挙げ三宅選手の金も食い入るように見ていました。そしてマラソン円谷選手の銅ですが、これは優勝したアベベに次いで競技場に戻ってきた円谷が、最後のバックストレッチでイギリスの選手に抜かれての銅メダルでした。円谷選手はマラソンの前に1万メートルにも出場して6位入賞でしたが、今ではこんな厳しい2種目に出場することなど考えられませんね。

  逆に負けたことで印象に残っているのは、男子の柔道。軽量級からはじまり全階級制覇が当然と思われたのですが、最後の無差別級でオランダのヘーシンクに負けて、銀に終わりました。

  57年も前になりますが、オリンピックの思い出は尽きません。はたしてコロナ禍での今回のオリンピック、思い出に残る試合がどれほどあるか、楽しみにしましょう。

 

  ではシリーズの本題に戻ります。

  シリーズの1回目は、「モノ言う株主」という言葉は日本の後進性を自ら表すと批判しました。そして2回目の話題は世界の資本市場において、ファンドが巨大化していることを数値で示しました。世界最大のファンドのサイズはなんと1千兆円を超え、東証の全市場の時価総額750兆円を超えている。そして世界のファンド全体の額は19年末で1.1京円くらいに達していることを紹介しました。

  ここで一つ訂正です。ファンドの運用先はすべてが株式市場ではなく、当然債券や商品や不動産市場にも投資しますので、世界のファンド総額が株式市場のサイズを超えていても、不思議はありませんね。ちなみに債券の市場サイズは、株式市場の時価総額が巨大化していてもなお同じくらいのサイズがあります。その理由は、日本を含む世界の主要国政府が巨額の赤字を国債発行で賄っているからです。その数字を応用すると、世界のファンドは世界の株式の半分ほどを保有しているのではないかと推定できます。

  今回はそれほどまでに巨大化したファンドに大きな影響を及ぼす株主総会での議決権行使アドバイザーについてです。巨大化したファンドは1社で世界の数千社、あるいは万に及ぶ企業に投資をしているため、総会での議案の一つ一つに的確な判断ができなくなっています。そこで議案を精査したうえで賛否のアドバイスをする有力企業にゲタを預けるのですが、有力企業は世界でたった2社しかありません。2社で世界を独占しているのです。最大の会社はISSと略される、Institutional Shareholders Servicesで、もう一社はグラス・ルイスという会社です。ISSのほうが歴史も古く、サイズもグラス・ルイスの2倍ほどありますが、この2社で世界の主な機関投資家をカバーしているのです。

 

  みなさんは株主として議決権行使をされたことがありますか。経験ある方も多くいらっしゃると思いますが、日本では郵送されてくる総会資料の中に議決権行使書が入っていて、それにより賛否を示すか、あるいはネット経由での投票ですよね。では巨大になった機関投資家はどうしているのでしょう。例えば日本で最大の投資家である我々の年金資産の運用会社GPIFは、紙での議決権行使や通常のネット経由での行使はしていません。事務的に不可能に近いし、非効率だからです。運用資産は20年末で178兆円。世界最大のファンドであるブラックロックの5分の1にも満たないのですが、それでも運用先は世界の数百社に及んでいますので、その一社一社の議案に的確な判断を行うのは難しいと思われます。

 

  日本の有力機関投資家のほとんどは、議決権行使のプラットフォームであるProxy Edgeというシステムで行使作業を行います。しかし驚くなかれ、このシステムにはISSとグラス・ルイスの議決権行使システムもつながっていて、彼らにアドバイスをもらっている機関投資家の多くは2社のシステムを経由して、Proxy Edgeで行使を行うのです。その過程では当然2社のアドバイスをチェックできます。議案ごとに「賛成すべし、反対すべし」とあり、その理由も述べられているので、逆らうにはそれなりの理論武装が必要になります。

  機関投資家が真剣に検討する理由は議決権行使状況を開示する義務があるからです。他人のオカネを預かる身としてはしごく当然です。例えばシリーズの1回目に話題にした東芝の人事案件では、ISSが「反対すべし」というサインを出していました。前年の同社の総会ではそれが「賛成すべし」だったのですんなり通過したのですが、今回は「反対」推奨となっていたため多くの投資家が否決に回ったものと思われます。影響力は甚大です。

 

  その議案が人事案件くらいであれば自己判断は難しいものではないかもしれませんが、巨大な買収案件だと果たしてどうでしょう。たとえば武田薬品は18年に7兆円でアイルランドのシャイアーという製薬会社を買収しましたが、当時の武田薬品の売上高は約1.7兆円しかなく、営業利益は2千億円でした。この買収は創業家を巻き込み、大論争になりました。その資金調達を株式発行などで行うため臨時総会を開いたのです。この買収が将来の武田薬品の成長に役立つか否かとなると、プロの判断を参考にするのが無難でしょう。もちろん最終賛否はあくまで投資家の判断です。しかし機関投資家が賛否をあとで第三者から検証される場合、「あの議案への賛成はISSのアドバイスだったから」という言い訳ができるのがアドバイザーを入れることの一つのミソだと想像できます。

 

  ではこうした議決権行使時におけるアドバイザー使用率はどの程度あるのでしょうか。2013年とちょっと古いのですが、参考までに以下の資料をお示しします。調査は日本生命ニューヨーク支店によるもので、タイトルは「存在感を増す米国の議決権行使アドバイザー」です。それによると12年時点での日本の機関投資家のアドバイザー利用率は63%とあります。08年は49%でしたので、現在は利用率がさらに高まっているものと思われます。

 

  では一体アドバイザーはどのような基本的考え方を持って議案の可否を判断しているのでしょうか。次回はそれを解説します。

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ファンド資本主義が資本主義を救う その2.超巨大化する世界のファンド

2021年07月09日 | ファンド資本主義への変貌

  また東京は緊急事態宣言発動ですね。感染者数が底を打ち増加を始めてから宣言を解除するは、誰が見ても無謀でしたが、わずか3週間で政府は降参しました。オリンピックが行われると感染爆発につながりかねないと思われていましたが、それ以前に開催地でオリンピックとは関係ない自前の爆発が起きつつあるのは嘆かわしいことです。無観客は残念なことですが、この状況下ではしかたないことでしょう。

 

  本題に入ります。前回は「モノ言う株主」という日常的に使われている言葉こそが、日本というガラパゴス列島の後進性を表しているということを申し上げました。そして私はモノ言う株主が日本企業のガバナンスの遅れを取り戻すきっかけ作りをしてくれていると思っています。それがシリーズのタイトルにある「ファンド資本主義が資本主義を救う」の意味の中身を表しています。

 

  でも資本主義と言うつかみどころのないほど巨大な仕組みが、何故たかがファンドにより救われるのでしょうか。それを明らかにするには、2つの要素をつかむ必要があります。

 

その1.現代のファンドが世界の資本市場を動かすほど巨大化していること

その2.ファンドを含む世界の株主に大きな影響を与えるアドバイザーがいて、アドバイザーは世界の将来を真剣に見通し、的確なアドバイスを行う能力を有し、ファンドがアドバイスに従っていること

 

  この2つがそろうことで、シリーズのタイトルが現実味を帯びます。ではまず巨大化しているファンドの巨大具合をしっかりと数字で見てみましょう。モノ言う株主とはいったい誰なのかが見えてきます。その答えは投資信託に代表される資産運用会社ですが、ここではさまざまな種類のある資産運用会社をまとめてファンドと呼びます。

 

  日本全体の株主構成比率を、東証のカテゴリーに従って投資家主体別に見てみます。現在一番大きな株主は3割を占める海外投資家で、そのほとんどが実はファンドです。ファンドの中にはいわゆる公募の投資信託もありますが、海外では公的年金資金や、富裕層の資金を運用するプライベートファンドなども非常に大きくなっています。

  海外投資家の次に大きな構成比を持つのは信託銀行で2割強ですが、その中身の多くは日本で組成されているいわゆる投資信託や公的資金で、信託銀行はそうした投資家の名義代理人として株主名簿に名を連ねサイズが大きくなっています。

  ということは、「ファンド」で代表される海外投資家と日本のファンドである投資信託ですでに5割の構成比を占めることになります。この両者はバブルの頂点であった90年の構成比では海外投資家5%程度、信託銀行は10%程度にすぎませんでした。その時に大きな保有者であったのは銀行・生損保の35%、事業法人の30%でしたが、両者はバブル崩壊とともに影が薄くなってしまいました。

  一方個人投資家ですが、70年代には7割もあった構成比が90年には20%に落ち、現在は17%程度とこの30年間は変化がないのです。

  こうしてみると、日本株の投資家の中身の半分は広い意味で内外のファンドが占めていて、特にアベノミクス以来約10年で存在感を増した海外投資家が大きな割合を占めていることがわかります。

 

  ではいったい海外投資家の運用資産額がどれほどの大きさになっているかを見てみます。現在世界最大のファンドはアメリカのブラックロックという資産運用会社で、運用総額はなんと1,000兆円もあります。日本の上場株式全部の時価総額は現在750兆円くらいなので、このファンドはそれを丸のみするほどの大きさなのです。次いで大きなのはヴァンガードで、800兆円くらいあります。そうした巨大ファンドが名を連ねているのが、世界の株主の実態です。ちなみに日本のGDPは550兆円程度で、ブラックロックの半分程度しかありません。

  こうした世界のファンドの分析をしている会社、Willis Towers Watsonによりますと、世界のトップ500社の運用資産総額は19年末に104兆ドルと100兆ドルを超えたそうです。円貨で言うと聞き慣れない桁の1京円を超え1.15京円ということになります。その時から現在までに世界の株価は3割以上上昇していますので、500社の運用総額もきっと1.4京円にはなっているはずです。

 

  ところがこの数字には疑義があります。世界の株式時価総額を調べると、実は上記の総額とほぼ同じなので、どうも500社の運用総額の試算は怪しさが漂います。なにか重複があって、その調整をしていないのでしょう。そこでファンド名を見ていくと、その中に名義代理人として著名な世界的銀行が何行か含まれるため、私に見るところではそれがきっと重複の原因なのでしょう。

  しかし他に有力な調査報告がみあたらないため、500社の運用資産総額は京の単位になるほどの大きさであると見ておきましょう。

 

  次に彼らが誰の資金を預かって運用しているか調べます。するといわゆる従来の「機関投資家」の資金が多く、アメリカでは教職員組合の年金や政府系年金基金、大学の基金などが大口機関投資家ということになります。そしてもちろん保険会社や個人の投資家からも運用資金を集めています。

  私がソロモンブラザースに入社した90年当時のNY株式市場では、投資家が個人から機関投資家に大きく変わりつつあり、株式市場の「機関化現象」がキーワードでした。しかし株式投資が世界的に拡がりを見せ運用資金も巨大化すると、各機関投資家がアメリカや世界各国の企業を独自に分析するのは手に余るようになり、ファンドを運用する専門家に任せるようになりました。個人投資家も同様で、ファンドに運用を任せることで個人の負担を軽減しました。

  こうして投資の主体である投資家が個人から機関化し、その次にファンドに預けるようになったため、現代の資本主義をファンド資本主義と呼ぶようになったのです。

 

  次回はそうしたファンドが超巨大化してしまった結果、企業の業績予想まではできても、総会の議案の一つ一つまでは分析しきれなくなり、それを専門的に行い個別議案の賛否のアドバイスを専門とする企業が出てきて、大きな影響力を持ってしまっている実態を明らかにします。

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ファンド資本主義が資本主義を救う、その1.モノ言う株主

2021年07月01日 | ファンド資本主義への変貌

  中国共産党が100周年だそうですね。香港を完全制圧し、コロナにいち早く打ち勝ったことで、自由主義に対する専制主義の優位性を世界にアピールしています。そんなことはぜんぜんないことをこれから何回かに分けて述べていきます。

 

  先週6月25日、東証一部上場企業の東芝は、取締役会議長と監査委員会委員の再任人事案を株主総会で否決され、議長が辞任しました。しにせ大企業ではまれにみるお粗末な総会運営であり、経営陣です。

  その報道では「モノ言う株主」という言葉がたびたび使われました。かなり一般化している言葉ですが、この言葉の裏は「日本と言うガラパゴス列島ではふつう株主はモノを言わないのだ」(笑)ということを表しています。

  この言葉を使う新聞・TV・雑誌などの報道関係者の常識のなさを自ら体現してしまう言葉です。日本はガラパゴスだと笑われているのを誰も気づかずに使っているとは、お粗末と言うよりほかありません。

 

  私はイギリス系投資会社で企業買収を担当していた10年間、自分のいた会社より大きな上場会社を含め7社を買収しましたが、一貫して「モノ言う株主」でした。企業の所有者である株主が、使用人である取締役に対して発言してどこが悪いのか。私の実行した企業買収は売る目的ではなく、自社の業容拡大のための買収でした。そのような買収は、前の株主や当該企業の合意の基に行いますので、外資系でしたがハゲタカ扱いされたことは一度もありません。対象企業は業績悪化に苦しんでいるため、むしろ買収のプロの経営ノウハウ導入を歓迎してくれました。

  今年も日本の上場企業のかなりが相変わらず「株主総会集中日」である6月29日に総会を開催しています。理由はもちろん株主に物を言わせないためです。特に大きな株主であればあるほど他の多くの企業に投資しているため、総会当日は力が分散し、発言がしづらいことになります。

  企業側の名誉のために言っておけば、1996年の集中度96%に比べると今年は27%で、ずいぶん進歩しています。しかし今年は実は二山あって、東芝が総会を開いた前週の25日金曜日も25%でしたので、それを合わせると実は半数以上がまだ集中していると言えます。

 

  東芝の総会のことはさんざん報道されていますので深入りは避けますが、この企業は何年もの粉飾決算から始まり、今回の疑惑である「経産省と語らってモノ言う株主の議決権行使を邪魔しようとしていた」疑惑のあるとんでもない企業です。モノを言われて当たり前。経営の交代こそが東芝を救う最後の一手と言ってもよいかもしれません。

 

  私が従来からみなさんに向かって何度も言っていた言葉を再度申し上げます。外資による買収をハゲタカ来襲などと言わずに、「三顧の礼をもって迎えよ!」なのです。

  90年代の終わり、大量の不良債権を抱えた長銀を日本勢は誰も手を挙げることすらできず見放していましたが、その火中の栗を敢えて拾ったのでが、米系の企業再生ファンド、リップルウッドでした。その後の日債銀、いまのあおぞら銀行もしかり。

 

  私がメンバーであるゴルフ場も「貧すれば鈍する」を地で行くゴルフ場でした。私が買ったときの正会員権がたった5万円、名義書き換え料15万円の計20万円。10回もプレーすれば元は取れて、あとはおつりが来ると計算して買ったのですが、そこが最近米系のPGMという巨大ゴルフ場運営会社に買収されてグループ入りしました。手続き完了後従来の会員は1銭も払っていないのに、クラブハウスやコースが目に見えて改善され、友人たちを連れて行けるゴルフ場に変身しています。日本のゴルフ場ではともに外資系であるこのPGMとアコーディアがそれぞれ百数十コースを所有し、効率的な経営のもと価値を向上させてくれています。感謝!

 

  両社は長銀が破綻した時期である90年代後半から二束三文となったゴルフ場を買いまくりました。当初はハゲタカとさげすまれていましたが、今メンバーで文句をいう人は一人もいません。

 

  そもそも外資が企業買収をする一番の動機は何でしょう。もちろん儲けることです。買収したあと売って儲けるとしら、買収した企業をメチャクチャにするでしょうか。ダメな企業であれば安く買えるので、磨き上げて高く売るというのが普通のやり方です。せっかく長く働いていた社員も大事にして協力してもらうのです。私も買収した企業の社員の方々への最初のメッセージは、「人切りはしません、利益を増やして給料が上がるように我々が協力しますので、一緒に頑張りましょう」でした。しごく当然のことです。

 

  幕末の黒船襲来と同じような勘違いがいまだにはびこり、それが「モノ言う株主」という言葉に表れています。株主が会社や経営者にモノを言ってどこが悪いのでしょう。私に言わせれば黒船だって日本を救った救世主です。

 

  もちろんすべての買収者が良心に基づく買収を行っているわけではありません。買収後その企業に借金をさせ、その金で配当を増やし株価を吊り上げて売却するというファンドもあることはありますが、そうした悪意を持った買収者は非常に少数だし、長続きしません。なぜなら一度でもそうした悪評をもらってしまったファンドは、2度と同じことはできないからです。

 

  冒頭で中国が専制主義の優位性を誇っていると申し上げました。一方、資本主義+自由主義の劣化が言われる今日ですが、資本主義はすでにファンド資本主義へと大きな変貌を遂げ、次の発展を目指しています。それを今後じっくりと説明していきます。

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