ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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トランプでアメリカは大丈夫か8 「炎と怒り」トランプ暴露本

2018年05月30日 | トランプでアメリカは大丈夫か?

   旅行から戻り、ブログに復帰します。今回は秋田県の大館市、十和田湖、奥入瀬渓流をめぐる東北地方の旅でした。東京にいると毎日トランプのたわごと、日大とモリカケ問題でうんざりですが、こうしたニュースから離れて大自然の中できれいな空気をたくさん吸ってすっかりデトックスし、リフレッシュすることができました。

   旅の様子は別の機会に譲り、今回は先週から続くトランプによる、「米朝会談はやめた」、「やっぱりやる」、という言葉に世界がほんろうされたことにコメントします。これは彼独特の「ディール」という言われる手法だと言われます。今回は北朝鮮がトランプに翻弄され、おおいに慌ててリカバリーショットを打ち、どうやら会談にはこぎつけそうです。こうしたトランプの行動を、彼について書かれた全米ベストセラー記録を塗り替えた本、「炎と怒り」による分析を交えて書いてみたいと思います。

   そもそも「炎と怒り」というタイトルですが、これは北朝鮮がミサイル発射や核実験を繰り返しているさなかに北朝鮮に向けてトランプの言った「世界が見たこともない炎と怒りに直面するだろう」という先制攻撃をにおわせる言葉から取ったものです。しかし私にはそれだけでなく、マスコミや批評家のトランプに対する批判に対する彼の「日常的炎と怒り」に満ち溢れた言動を表現したタイトルだと思えます。

   この本は500ページ近くあるため、ゴールデン・ウィーク中にかなりの時間を取って読んだのですが、実はアメリカの事情を相当程度知る人でないと、読んでも面白さを感じないのではないかと思いました。その理由の一つは我々日本人にとってなじみのない多くの人名や弁護士事務所名などが出てきて、その人物などの重要度をある程度知らないと面白みを感じることができないと思うためです。

  日本に例えれば、出てくる名前は例えばマスコミ界の大御所、読売のナベツネやフジテレビグループの鹿内ファミリー、浜田松本・森総合法律事務所と言っても、アメリカ人は誰も知らないし、それ誰?という程度でしょう。ちょうどその逆にアメリカ人の大御所やセレブの名前が連続しても、我々日本人にはピンときません。

   理由の二つ目は、内容がトランプ政権内の人事抗争問題がほとんどでそれに時事問題がからみますが、時間軸がすでに古くなってしまったため新鮮味が薄いのです。もちろん私が1月に出版された本を読んだのではなく、翻訳本を今頃読んでいるからかもしれません。かなりの割合がホワイトハウス内部、それも大統領府の一番奥深い部分に関する内部対立に関するもので、すでに首になった過去の人である首席戦略官であったバノンとトランプの娘夫婦クシュナー・イバンカとの確執などが話題の中心になっています。そして時期的にはバノンが首になった去年の8月までのことが書かれています。

   ただ、トランプが毎日何をしているとか、どんな考えを持ち行動をする人間かという部分などは、好奇心を大いにそそり、それを満たしてくれました。そこでせっかくですので今後のトランプを見る参考にしていただくために、そうした暴露部分を面白おかしく紹介させていただきます。まずは著者のことから。

  驚くのは著者のマイケル・ウォルフがホワイトハウスに出入りする許可を得て実際に出入りしていたジャーナリストであるということ。その理由はトランプにある程度気に入られていたからです。彼が過去にメディア王であるルパート・マードックの伝記を書き、人物像を好意的に書いていて、トランプも将来マードックのように書いてほしいと思い、出入りを許していたのかもしれません。これは私の推測です。そのため著者はトランプの側近たちへの接触も許され、特にあの曲者である首席戦略官バノンと通じていて、彼のオフィスにも出入りして情報を入れていたというのです。

   大富豪好きなトランプはマードックを尊敬し陰のアドバイザーとしてホワイトハウスから毎晩のように何時間も電話してアドバイスをうけていたという事実には驚きました。彼は毎日のようにマックのハンバーガーを食べ、夜8時にはベッドルームに入り、自分で持ち込んだなんと3台ものテレビから自分に関する報道をチェックします。そして気に入らないと朝の4時くらいから「フェークニュースだ!」とツイッター攻撃を始めるのです。しかし寝る前にもうひとつやることは、ほんの少数の友人に毎晩2-3時間も電話をするのです。そのなかでももっとも頻繁に話すのがこのマードックです。

   すでに87歳のマードックはオーストラリアのメディア経営者からアメリカに進出し、ニューズ・コーポレーションを所有する世界有数のメディア王になった人間です。トランプのお気に入りであるフォックスニュースは彼の傘下にあり、トランプをあからさまに支持しています。彼の傘下にある主なメディアを上げますと、21世紀フォックス、ウォールストリートジャーナルを傘下に持つダウ・ジョーンズ社、英タイムズをはじめ数多くのイギリス、オーストラリアの新聞・雑誌などを所有しています。もっとも21世紀フォックスは16年にディズニーに6兆円弱で売却しています。それだけでも彼の富豪ぶりがわかりますし、トランプ同様4回も結婚していますので、とても気が合うのでしょう。結婚相手の一人はミック・ジャガーの元妻さんというセレブ好き。しかし政治信条は一貫せず、若い時は左翼系で今は保守系、それも極端なリバタリアンで、イスラエル支持者だと言われていますが、08年の大統領予備選ではヒラリーを支持しました。要は勝馬に乗ろうとする日和見だというのが彼に貼られたレッテルです。

   そして本のかなりの部分を占める内部暴露の極めつけは、バノンとクシュナー・イバンカ夫妻が激しく対立し、お互いを蹴落とそうと醜い人事抗争に明け暮れたという部分です。あんなかわいい顔したイバンカちゃん、意外な側面が暴露されました。誰かが親父の悪口を言ったとか、気に入らない首席補佐官をイバンカに向かってこき下ろしたということが、どんどん暴露されていました。

   大統領就任以来、数多くの側近とされる人材の首を切っていますが、ほとんどはその首切り以前にうわさ話が漏れていました。それは主要閣僚や娘夫婦までが内部抗争から意図的にリークすることがあったためです。例えば初代首席補佐官のプリーバスや首席戦略官のバノンが切られると言う噂はそのまま実現したし、トランプをバカだと国務長官ティラーソンが言ったという話はほぼすべて本当の話がリークしたのです。

  ついでに追加すれば、著者はトランプ自身が毎日2-3時間も話す内容が、実は相手によりリークしていたとのこと。「漏洩は絶対に許さん」とさんざん言っていたトランプ自身が漏洩元とは、いかにもかわいいおしゃべりトランプちゃんのやりそうなことです。

   もちろんそうした話が本によりすべて暴露されるなどということは、守秘義務の関係からありえないと言う前提に立って、漏洩者は著者に話したのですが、見事に裏切られました。

   そのためこの本は暴露本としてアメリカでは大ベストセラーとなりました。しかも暴露された内容の信ぴょう性はかわいいトランプちゃんが保証してしまったのです。

 何故か?

   トランプは出版日の寸前に出版・販売差し止め請求を行ったので、真実が書かれていると保証したも同然になったのです。

  なので私に、「かわいいトランプちゃんがまたやった」と揶揄されることになります。

 つづく

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たまちさんへの回答;流動性、そして中国債券への投資、金への投資

2018年05月18日 | ストレスフリーの資産運用

コメント欄に寄せられた、たまちさんのご質問とコメントに一問一答のかたちで回答いたします。

中国等々の台頭で、ドルの相対的な力は落ちています。

  中国経済は拡大を続けていますので、経済の規模が通貨の強さの源泉であれば、中国に比較すると相対的にアメリカの経済規模は小さくなっているのは事実ですね。アメリカの成長スピードは中国の半分ですから。しかし通貨の強さは経済規模だけではないと思います。スイスは極小国家ですが、通貨は強いですね、過去も現在もきっと将来も。

  中国は元の国際化を標ぼうし、16年にIMFの特別引き出し権=SDRの構成通貨、ドル・ユーロ・円・ポンドに加え人民元が採用されたりしましたが、その後は鳴かず飛ばずです。国際的にも、元を本気で買い進む国家も投資家もほとんどいません。

   IMFは世界各国の保有準備通貨を通貨別にまとめた報告を出しています。17年末の主要通貨の構成比は、以下のとおりです。

 米ドル  62.7%

 ユーロ  20.1%

 日本円   4.9%

 英ポンド  4.5%

 人民元   1.2%

   相変わらずドルとユーロが大半を占め、人民元はほとんど存在しないに等しい規模で、国際通貨としての存在感はありません。


 >仮に米中貿易戦争が悪化して中国が外貨準備のドルを一気に手放せば、ドル円は一気に30円円高に傾くという説もありますし、

   米中貿易戦争が悪化したら何故ドルを売るのでしょうか。ドル安でアメリカは貿易上有利になりますよ。どなたが何を計算根拠に30円の円高と言っているのでしょうか。ドル売り→人民元買いの流れと、日本円レートはどう関係するのでしょうか。あまり根拠のない説ですね。

   各国とも外貨準備は遊ばせておいてももったいないので、通常最も安全な資産で運用します。中国の巨大なドルリザーブは米国債で運用されています。日本政府もそうしています。


>米国債一点張りでなく、中国債(どうやってと思いますが)にも資産を分散させるのはどうでしょうか??

賛成しません。流動性に問題があるからです。

  資産運用で一番大切なのは著書の冒頭で述べたように、対象とする資産に十分な流動性があるか否かです。中国の人民元は規制により流動性に問題がありますし、債券には流動性がほとんどありません。流動性の重要性はむしろ株式投資をされている方のほうが理解できるかもしれません。

  ジャスダックあたりの小ぶりの株式は売買量がすくなく、売ろうとしても買い手がなく値が付かないことがしばしばあります。売ろうとすると足元を見られて買いの手が引っ込み、ひたすら気配値だけが下がっていくのです。しかし流動性の高い大型株でそのようなことはほとんどありません。トヨタの株ならかなりの暴落局面でも取引が成立し、値が付きます。

   中国の債券はまともに大量保有する投資家がいません。つまり売買がほとんどないのです。中国経済の存在感が大きくなっても、投資対象として相手にされていないのが人民元建ての債券です。一番の理由は、当局の規制です。それも通貨や債券に対する規制が突然変更されたりしますので、世界の投資家は信用していません。売るに売れなくなる可能性があるからです。なので元を保有したり、ましてや中国債券を保有したりしないのです。世界各国の準備通貨も同じです。

  このことは中国以外の新興国通貨にも言えます。日本の証券会社は高金利通貨としていまだに南アランドやブラジルレアル、トルコリラ建ての投信を薦めていますが、リスクがありすぎて問題外です。

 

>各国中央銀行も米国債ばかりを買い込むのではなく、一部資産を再び金にシフトさせているともいいます(最近の週刊エコノミスト誌の受け売りです)。

  個人が金を保有するのは通貨当局が保有するのとはわけが違います。私は著書で金投資に関して長々と書いていますので、その部分をお読みください。

   一言で言えば、「金は金の卵を産まない」ので、売るときに価格が下がっていれば損するだけです。バフェット爺さんも同じ意味で以下のように言っています。

 1オンスの金は100年経っても1オンスだ」

以上、たまちさんへの回答でした。


   みなさんへ

 私は連休にキャットシッターで忙しかった家内に合わせて休みをとっていなかったので、明日から来週末まで国内旅行とゴルフに出ます。コメントへの書き込みはできますが、記事はしばらくお休みします。

あしからず

 

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米朝会談は成功を収める その2.金正恩の変身理由

2018年05月11日 | ニュース・コメント

  トランプがまた一つオバマ氏のレガシーをぶち壊しましたね。イランとの核合意の破棄です。イランは厳しい査察を受け入れており、違反はないと国際社会は認めているのに、難癖をつけての破棄です。これはオバマ氏ノーベル賞の受賞理由、「核なき世界」の核心部分です。昨年1月に私がトランプの行動原理を、オバマ氏にパーティーの席上でおちょくられた個人的逆恨みから、彼のレガシーのすべてを否定することだ、と指摘しました。個人的恨みつらみで世界を混乱に陥れるとは、史上最悪の大統領です。オバマ氏のレガシーを念のため列挙しておきましょう。

オバマ氏の成果、レガシーとは、

・オバマケアー

・イラン非核化6か国合意=「核なき世界」でノーベル平和賞受賞

・TPP合意

・パリ協定合意

・キューバとの国交回復

  こうしたオバマの成し遂げた世界の繁栄に貢献する国際合意のほぼすべてを破壊し尽しました。その上エルサレムへの大使館移転など、世界中で放火して歩いているのがトランプです。


   さて、前回の金正恩豹変の理由その1.は、米国を中心とした国際社会の対北朝鮮制裁の奏功であるとしました。これは誰もが指摘する当たり前のポイントです。以下ではより重要なポイントを上げたいと思います。

 その2.豹変もシナリオどおり

   私はオリンピック参加表明以降の行動は、すべてがシナリオ通り。豹変もシナリオに入っていたという推論をしています。あれだけの短時間に成し遂げるのはシナリオ抜きではできません。4月にNHKのBSが金正恩を3回にわたって特集しました。その第1回が、とても秀逸でしたので紹介します。内容のポイントを列挙します。その中で特に元北朝鮮の高官のメモにあった事項を★印で特記します。

   北朝鮮の元高官の脱北者が17年の年初、つまりオリンピックの1年前に金正恩のことを以下のように手記に綴っていた。

★「金正恩は狂気とも思える風貌を表に出し、核やミサイルを開発し国際社会を脅迫しているが、ある日突然融和路線に舵を切ったら、国際社会は混乱し彼の深淵なる戦略の渦に巻き込まれてしまうだろう」。オリンピックの1年も前にこの元高官はそうした予測を立てていました。

   その可能性の裏付けとしてあげていたのは、彼の計算高さです。元高官は政権の内部にいただけあって、それを間近に見ていたのです。深淵なる戦略とは、

世界を脅すだけ脅しまくり、一触即発という瀬戸際に追い込んだ状態から突然融和路線に転換したら、国際社会は融和路線というエサに飛びつくに違いない。それが彼のしたたかな計算だと言うのです。

   どうやらそのシナリオに国際社会は見事にハマっているように思えます。私自身はオリンピック参加以降に見せたあまりにも素早い矢継ぎ早の政策対応について、これは相当程度計画されたシナリオを持っているに違いないとまでは考えていたのですが、そんな生易しいレベルではないようです。今は元の高官の言う一触即発からの大転換で国際社会を飛びつかせるというシナリオの方がより説得力を持っているし、国際社会は見事にそれにハメられたのだという印象を持ちました。

   トランプと金正恩、どちらがディール上手かを判断するのはまだ早いのですが、どうも金正恩が一枚上手だと思われます。何故なら怒髪天トランプも同様な強面による脅迫とスマイル作戦を取るのですが、しょせんかわいいトランプちゃんなので、彼の戦略はいつもミエミエなのです。名前がトランプなのに彼は決してポーカーでは勝てないでしょう。そんなトランプのミエミエ作戦は一度は通じても、2度目からは誰も乗らなくなります。

  たとえばトランプは現在北に対して「核の完全廃棄まで制裁の解除は一切しない」と突っ張っています。しかしそれもいつもの高めの直球だと見れば、どうせ直接会談では妥協する可能性がある、と見透かされているかもしれません。

 今一つ元高官が書いていた重要なことは、

表面的に独裁的暴君を演じているが、内面は現実主義者であり、非常に計算高い一面も併せ持っているという観察です。これまでのシナリオは、どうやら元高官の指摘する金正恩の別の一面だと思われます。

 その3.変身の真の理由・・・反対勢力の完全制圧と国民の組織化

   私は「金正恩の行動原理は自分自身の死の恐怖だ」と以前申し上げました。兄弟・親類縁者から最側近まで粛清しまくるのは、「ヤラレル前にヤレ」に違いないと思うのです。元高官も彼の粛清方法があまりにも苛烈を極めたということを以下のように述べています。

 ★例えば失敗をした人間の公開処刑は普通なら銃殺だが、彼はそれを対空高射砲で行い、木っ端微塵にする。それを一度でも見れば、彼に逆らうことなど考えなくなる、と書いています。こうして国内の反対勢力は完全に制圧された、つまり反乱の目をつぶした。ここからは私の推定です。

   国際社会の反対の声にも耳を貸さずに核開発をしてきたのも、リビアのカダフィや昔のチェコの独裁者チャウシェスクのようにハチの巣にされるのを恐れ、核を保有することで国際社会に対し大きな牽制になると信じ必死に開発を行ってきた。それが奏功し、どうやら死の恐怖から逃れることができた。

  今回の融和策が成功し身の安全が確保される、つまり金王朝体制が維持されそうなので、核を放棄してもよい、ということに繋がったのだと思うのです。それに加え金正恩の裏には習近平がいます。実は習近平はこの2-3年金正恩を持て余していたのですが、突然の北京会談で和平のニンジンを見せられて乗ってしまったようです。習近平もまんまと彼のシナリオに飛びつかされた口です。

 

  というように、彼の変身自体が元高官の言う「深淵なる戦略の渦」で、米中韓をはじめとする国際社会はその渦にまんまと飲み込まれている。それが現在の状況なのでしょう。

  NHKによれば残念ながらその元高官はメモを残しただけで、今年初めに病死したとのことです。

 

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米朝会談は成功を収める その1.それぞれのお家事情

2018年05月05日 | ニュース・コメント

  前回私はトランプと金正恩を指して放火犯に消防長官賞をあげてはいけない」と書きました。しかし一方で私は米朝会談はある程度の成功を収めるだろうと思っています。ある程度の成功とは、トランプは席を立ったりせず、非核化の合意はできる。もちろん完全非核化までの詳細なスケジュールとプロセスの完全合意は無理でしょうが、両者は合意したとの宣言をするところに立ち至ると思っています。その根拠はどこにあるか?

 

1. トランプも金正恩も、国民に対するコミット上後戻りできない

まずトランプは中間選挙が迫る中で、北朝鮮の非核化以上の成果を出せる機会は他にありません。オバマケアの撤廃・代替に失敗し、メキシコ国境に万里の長城を作りメキシコに払わすことなどできず、保護主義は全世界から非難されるだけでなく、国内の生産者団体からも総スカン食らっています。経済的には鈍化の兆しが出ていて、にもかかわらず石油の値上がりから物価は上昇しているため、FRBは今後も利上げせざるを得ず、株価もどうやら峠を越えました。

  一方の金正恩はすでに韓国との合意に至って、双方が雪解け後の準備を着々と進め、両国民はそのことで沸き立っていて、後戻りなどできない状況です。しかも北朝鮮は米朝の間に立って動いている中国に対しても、顔に泥を塗ることなどできません。中国は北朝鮮の死命を制することのできる国で、逆らえません。

 

2. トランプに得意の?自己リークが見られる

私がいつもかわいいトランプちゃんと揶揄するポイントに、自分だけが知っている秘密をついつい言いたくなっちゃうお茶目で幼稚なトランプちゃんがいます。すでに「金正恩はいいやつだ」とか、「会談は成功する」という発言をしていますので、国務長官に正式就任したポンペイオが金正恩と会った段階で非核化の基本合意は可能という線まで行ったのだと考えられます。

   「オレ様は金正恩が言うことを聞かなかったら、すぐさま席を立つ」と繰り返し言っているのは、彼独特の「この交渉はそれほどに難しい交渉なんだ」という牽制球で、オレ様は大変な交渉を成功させたんだ、と言いたいがための前振りです。

 

3. 北朝鮮の限界と金正恩の豹変

それにしてもここにきての金正恩の豹変はいったいどうしてなんでしょうか。オリンピック以前は核実験やミサイル発射を繰り返し、怖い顔して世界を震撼させるばかりだったのに、突然オリンピックへの参加を表明し、その後は南北会談を実現、しかも会談中は満面の笑顔で通し、今度は不倶戴天の敵、怒髪天のトランプと会談するとは、変身ぶりは驚くばかりです。それに対する適切な解説も聞きません。

 

私の勝手な解説を試みます。豹変の理由、

 その1.対北朝鮮制裁の奏功

  昨年以来の国連合意による北朝鮮制裁の厳しさをNHKニュースのサマリーで見てみましょう。まずは昨年9月の制裁内容、そして12月の制裁強化がいかに苛烈かを分析しています。以下、引用

2017年9月、北朝鮮が6回目の核実験を強行したことを受けて採決にかけられ、決議案は全会一致で採択されました。

・北朝鮮へのガソリンや灯油などの石油精製品の輸出量の上限を、2018年以降、年間200万バレルとする新たな規制

・北朝鮮が繊維製品を輸出することを禁止

・各国が北朝鮮労働者に就労許可を与えることを禁止


それが12月の制裁ではさらに非常に強化されました。


2017年11月に北朝鮮が新型のICBM=大陸間弾道ミサイルの発射実験だとして、弾道ミサイルを発射したことを受けて、アメリカが提案した制裁決議について採決が行われ、12月22日に議長国日本をはじめ、中国やロシアを含むメンバー国15か国の全会一致で採択されました。

制裁決議の具体的な項目

灯油やガソリンなど石油精製品の北朝鮮への輸出を現在の年間およそ450万バレルから、来年1月以降、年間50万バレル以下と90%近く削減。前回9月の安保理決議による、石油精製品に対する制限を大幅に強化していて、来年1月1日から北朝鮮がほとんどの石油精製品を輸入できないようにすることを目指す。

北朝鮮からの食品、機械、電気機器、木材の輸入と北朝鮮への産業機械や運搬用車両の輸出を全面的に禁止。

北朝鮮が海外に派遣している労働者の収入を核やミサイル開発に充て続けていることを懸念するとしたうえで、決議が採択された日から2年以内に原則、すべての労働者を本国に送還。送還の期限をめぐっては、草案の段階では「1年以内」とされていた。しかし、北朝鮮の労働者を多く受け入れているロシアの要求を受け入れて「2年以内」に修正。

決議違反の疑いがある船舶について国連加盟国の港では拿捕(だほ)や臨検、差し押さえの義務があるとしたうえ、領海内でも拿捕することを認めると定める。

北朝鮮の人民武力省の1団体と銀行関係者19人を新たに資産凍結の対象に指定。

アメリカが中国に強く迫ってきた中国から北朝鮮への原油の供給停止には踏み込まず。決議では、原油の供給について、年間400万バレルもしくは52万5000トン以下に制限するとして初めて数量の上限が明記されたものの、これは中国からの年間供給量とほぼ同じ量であることから、前回9月の決議と同様、現状維持を認める内容に。

引用終わり

 一方で、北朝鮮が新たな核実験や弾道ミサイルの発射を行った場合、安保理は、北朝鮮への石油供給をさらに制限する措置を取るという表現を初めて明記。

  石油輸入を9割も削減され、外貨稼ぎの輸出も禁止、密輸船は拿捕となると文字通り立つ瀬がなくなっています。一方で北朝鮮の国内経済はかなりの改善が見られ、国民が豊かになりつつあるというのが一般的見方ですし、そうした表面上の発展を映像で核に印することもできます。

しかしそれを否定的に見ている報道もあります。先週流された北朝鮮情報に詳しいアジアプレスによる北朝鮮在住者へのインタビューでは、以下のような窮状を訴える声がありました。アジアプレスは反北朝鮮寄りです。

・電気が豊富に供給されているなんて、ウソ。うちでは電球はピカリともしない。

・食料も満足に買えず、軍隊でさえ自給自足している。

・一部の特権階級以外の国民は面従腹背を決め込んでいる

  こうした状況に対して、金正恩は大きな危機感を抱き、オリンピック以降雪解けを急いだ。

   みなさんは北朝鮮共産党の39号室をご存知でしょうか。党の秘密外貨獲得機関と言われており、覚せい剤など麻薬密売、偽札作り、禁輸武器販売など違法行為を手掛け、歴代金王朝の外貨獲得の機関です。獲得した外貨は独裁者が忠誠を誓う部下たちに論功行賞を行うために使われるのですが、外貨獲得の有効手段を絶たれた金正恩は、身の危険を感じるほどの危機感をいだいているはずです。

つづく

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トランプにノーベル賞だって、ざけんなよ!

2018年05月01日 | ニュース・コメント

  「トランプにノーベル賞を」だって?

  といってもこれは韓国の文在寅大統領が言った言葉。かつてノーベル平和賞を受賞した金大中氏の夫人が文在寅大統領に「南北会談を実現したあなたこそノーベル賞にふさわしい」と言ったのだが、「いや、それはトランプ大統領の功績だからトランプ氏にノーベル賞を」と言ったのです。

  するとミシガン州の支持者集会でトランプは支持者に「金正恩と会談する。非核化を成功させる見込みがある」と言った時に、支持者から「ノーベル賞、ノーベル賞」という大合唱が起こり、彼もすっかりその気になって、親指を立てて見せました。

  一方、イギリスの予想屋さんたちもそれらに悪乗りしています。今年のノーベル平和賞のオッズのトップは金正恩と文在寅の二人による南北会談で、なんと1.7倍という低さ。そして2番目はトランプの10倍。ブックメーカーとは様々な事象に勝手な予想を立てて賭けさせ、当たった人たちに保証した倍率のカネを戻す商売で、倍率が低いという事は、実現の確率が高いと予想屋はみていることになります。

  私に言わせていただければ、トランプや金正恩にノーベル平和賞を与えるということは、「放火犯に消防長官賞をあげるようなもの」です。トランプはこれまで北朝鮮を破壊しつくすぞと脅し、シリアには2回の爆撃を実行し、彼がエルサレムにアメリカ大使館を移転すると言ったために、数十人ものパレスチナ人の若者が命を落としています。平和の破壊者であり、殺人犯です。

  その非人道的平和の破壊者に平和賞だって、ざけんなよ! 

なのです。

  金正恩にいたってはそれどころではない。最近の論調は「もし非核化が実現し朝鮮半島に平和がもたらされたら、金正恩は和平の貢献者だ」というような称賛に近いものがありますが、冗談じゃない。そもそも朝鮮半島の危機を作り出したのは金王朝であり、彼らファミリーの独裁と圧制のおかげで2,400万人が数十年も苦しみ、ひところは百万人単位の餓死者が出たほどの状況を作り出しました。

  もし彼らがいなくて核兵器を保有などしていなければ、初めから核問題などなかったので、和平会談など必要なかったのです。そして南北が一国として発展したらどうなっていたか。数字を見てみましょう。現在の韓国の一人当たりGDPは約3万ドル、北朝鮮は推定665ドルで約60分の1しかなく、世界最低水準です。この差はひとえに数人のファミリーの作り出した悲劇です。日本人の拉致もありえなかったでしょう。

  不幸は経済上の問題だけでなく、国民すべての人権を奪い、精神上の苦痛を与え、2,400万人が収容所に入れられたも同然、親類縁者まで殺害され何千人もが粛清されてきました。我々は決してそれを忘れてはいけないのです。

  ということで、「放火犯に消防長官賞をあげてはいけない」のです。

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