都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「歌川国芳 奇と笑いの木版画」(前期) 府中市美術館
府中市美術館(府中市浅間町1-3)
「歌川国芳 奇と笑いの木版画」(前期展示)
3/20-5/9(前期:3/20-4/18、後期:4/20-5/9)
府中市美術館で開催中の「歌川国芳 奇と笑いの木版画」の前期展示へ行ってきました。
これまでも同美術館の江戸絵画展は他の追従を許さないものがありましたが、この国芳展に関しても同じことが言えるかもしれません。展示品の質はもとより、国芳を縦の軸(時系列)と横の軸(テーマ別)に解体し、さらにはその面白さを引き出す構成の妙味など、さすが府中と唸らされるほどの内容で満足出来ました。
展覧会の主旨は公式HPをあたっていただくとして、ここは簡単に、私が思う見どころを挙げてみました。
1.画風の変化 ~第一章「国芳画業の変遷」~
第一章では国芳の初期から晩年までの画風を一挙に展示しています。30代の国芳は水滸伝に由来する錦絵シリーズを制作し、そこで高い人気を得ることに成功しました。
意外にも国芳を時代別に見る機会が少なかったただけに、一つ美人画をとっても、年代毎に異なる描写には目を見張るものがあります。同一主題、忠臣蔵の作品を初期からずらっと並べたコーナーはまさに壮観の一言ではないでしょうか。
そしてもう一つ、重要なのが、体制の変革と国芳の関係です。天保の改革で遊女や役者絵が禁止されてしまいますが、そこでも国芳は手を替え品を替え、民衆の意を汲み取るような反骨精神に溢れた作品を手がけました。
2.肉筆画
点数こそ多くありませんが、珍しい肉筆が出ているのもこうした回顧展の醍醐味かもしれません。前期では「立美人図」をはじめ、5、6点ほどの肉筆が紹介されています。
ここで断然におすすめなのが、「水を呑む大蛇図」です。巨大な蛇がにらみをきかし、水をそれこそ布を引っ張るようにして力強く吸い上げています。その不気味な表現には背中がぞくっとするほどでした。
3.奇想の国芳 ~「奇と笑いの木版画」~
奇想の系譜にも登場する国芳ではありますが、その魅力はやはり実際の作品にあたるのが一番ではないでしょうか。だまし絵展にも登場した人を組み合わせた顔面画から、猫の当て字など、一見して楽しめるものがずらりと揃っていました。
4.見事な保存状態
人気の国芳ということで、半ば見慣れた作品も多く展示されていますが、ともかく特筆すべきは、その多くの発色が非常に鮮やかだということです。実はこれまで、今回の国芳作品は殆ど公開されたことがありません。
それにしてもこれらの作品が一人のコレクターによって集められたと聞いて驚きました。国内にはまだまだ良質の浮世絵作品が残っているに違いありません。
なお展示は前後期制、途中一度に全ての作品が入れ替わります。まずは前期からお見逃しなきようご注意下さい。
前期 3月20日(土曜日)から4月18日(日曜日)
後期 4月20日(火曜日)から5月9日(日曜日)
出品リストは美術館のHPからもダウンロード出来ます。
出品目録(PDF)
(ミュージアムショップ)
入口の絵草紙屋風の作品展示他、会場内の同じく絵草紙屋風のミュージアムショップ、それに大人も参加出来る「国芳探検隊」と名付けられたワークショップからオリジナルポストカード作成スタンプなど、来館者を楽しませる仕掛けも満載でした。ただでは終わりません。
→
(スタンプ台とオリジナルポストカード)
また細かいことですが、例えばガラスケースの上部にシートをまいて絶妙なライティングを施すなど、非常に作品へ集中しやすい展示環境が用意されているのにも感心しました。
会期中、国芳に関する講座が予定されています。(ともに無料。直接会場へ。)
「浮世絵師歌川国芳の魅力」
講師:内藤正人氏(慶應義塾大学准教授)
日時:3月28日(日曜日)午後2時
講座「歌川国芳とその時代」
講師:金子信久(当館学芸員)
日時:4月24日(土曜日)午後2時
来週には同館前の桜並木も満開となるのではないでしょうか。ちなみに本日、27日からは「さくらオープンテラス」と名付けられた木版画体験もはじまります。講師は何と今年のVOCAにも出品中の風間サチコさんです。費用はこれまた驚きの100円とのことでした。まさに至れり尽くせりのおもてなしです。
春休みスペシャル「さくらオープンテラス」
図録が制作の都合上、部数をあまり確保出来なかったそうです。おそらく会期途中で売り切れるのではないでしょうか。
前期展示は4月18日までの開催です。自信を持っておすすめします。
注)ロビー付近の写真の撮影と掲載については許可を得ています。
「歌川国芳 奇と笑いの木版画」(前期展示)
3/20-5/9(前期:3/20-4/18、後期:4/20-5/9)
府中市美術館で開催中の「歌川国芳 奇と笑いの木版画」の前期展示へ行ってきました。
これまでも同美術館の江戸絵画展は他の追従を許さないものがありましたが、この国芳展に関しても同じことが言えるかもしれません。展示品の質はもとより、国芳を縦の軸(時系列)と横の軸(テーマ別)に解体し、さらにはその面白さを引き出す構成の妙味など、さすが府中と唸らされるほどの内容で満足出来ました。
展覧会の主旨は公式HPをあたっていただくとして、ここは簡単に、私が思う見どころを挙げてみました。
1.画風の変化 ~第一章「国芳画業の変遷」~
第一章では国芳の初期から晩年までの画風を一挙に展示しています。30代の国芳は水滸伝に由来する錦絵シリーズを制作し、そこで高い人気を得ることに成功しました。
意外にも国芳を時代別に見る機会が少なかったただけに、一つ美人画をとっても、年代毎に異なる描写には目を見張るものがあります。同一主題、忠臣蔵の作品を初期からずらっと並べたコーナーはまさに壮観の一言ではないでしょうか。
そしてもう一つ、重要なのが、体制の変革と国芳の関係です。天保の改革で遊女や役者絵が禁止されてしまいますが、そこでも国芳は手を替え品を替え、民衆の意を汲み取るような反骨精神に溢れた作品を手がけました。
2.肉筆画
点数こそ多くありませんが、珍しい肉筆が出ているのもこうした回顧展の醍醐味かもしれません。前期では「立美人図」をはじめ、5、6点ほどの肉筆が紹介されています。
ここで断然におすすめなのが、「水を呑む大蛇図」です。巨大な蛇がにらみをきかし、水をそれこそ布を引っ張るようにして力強く吸い上げています。その不気味な表現には背中がぞくっとするほどでした。
3.奇想の国芳 ~「奇と笑いの木版画」~
奇想の系譜にも登場する国芳ではありますが、その魅力はやはり実際の作品にあたるのが一番ではないでしょうか。だまし絵展にも登場した人を組み合わせた顔面画から、猫の当て字など、一見して楽しめるものがずらりと揃っていました。
4.見事な保存状態
人気の国芳ということで、半ば見慣れた作品も多く展示されていますが、ともかく特筆すべきは、その多くの発色が非常に鮮やかだということです。実はこれまで、今回の国芳作品は殆ど公開されたことがありません。
それにしてもこれらの作品が一人のコレクターによって集められたと聞いて驚きました。国内にはまだまだ良質の浮世絵作品が残っているに違いありません。
なお展示は前後期制、途中一度に全ての作品が入れ替わります。まずは前期からお見逃しなきようご注意下さい。
前期 3月20日(土曜日)から4月18日(日曜日)
後期 4月20日(火曜日)から5月9日(日曜日)
出品リストは美術館のHPからもダウンロード出来ます。
出品目録(PDF)
(ミュージアムショップ)
入口の絵草紙屋風の作品展示他、会場内の同じく絵草紙屋風のミュージアムショップ、それに大人も参加出来る「国芳探検隊」と名付けられたワークショップからオリジナルポストカード作成スタンプなど、来館者を楽しませる仕掛けも満載でした。ただでは終わりません。
→
(スタンプ台とオリジナルポストカード)
また細かいことですが、例えばガラスケースの上部にシートをまいて絶妙なライティングを施すなど、非常に作品へ集中しやすい展示環境が用意されているのにも感心しました。
会期中、国芳に関する講座が予定されています。(ともに無料。直接会場へ。)
「浮世絵師歌川国芳の魅力」
講師:内藤正人氏(慶應義塾大学准教授)
日時:3月28日(日曜日)午後2時
講座「歌川国芳とその時代」
講師:金子信久(当館学芸員)
日時:4月24日(土曜日)午後2時
来週には同館前の桜並木も満開となるのではないでしょうか。ちなみに本日、27日からは「さくらオープンテラス」と名付けられた木版画体験もはじまります。講師は何と今年のVOCAにも出品中の風間サチコさんです。費用はこれまた驚きの100円とのことでした。まさに至れり尽くせりのおもてなしです。
春休みスペシャル「さくらオープンテラス」
図録が制作の都合上、部数をあまり確保出来なかったそうです。おそらく会期途中で売り切れるのではないでしょうか。
前期展示は4月18日までの開催です。自信を持っておすすめします。
注)ロビー付近の写真の撮影と掲載については許可を得ています。
コメント ( 9 ) | Trackback ( 0 )
« 「照屋勇賢 ... | 「六本木アー... » |
ほんと状態のよいものばかりでしたね。
驚きました!
府中市美術館、「とてもがんばっています。」
後期もなんとか行きたいところです。
昨日行ってきたのですが、まだブログ書けていません。
もう感激して、いい絵ばかりでとり上げるのが大変です。
実は国芳を殆ど知らないものですから、見て一番のお気に入りは、
《水を飲む大蛇図》もう息を呑みました。
それと《相馬の古内裏》あれってほんとに綺麗ですね。
骸骨が綺麗っておかしいけど、つくづく見てしまいました。
従来も国芳については、浮世絵展などで作品のいくつかは観ておりましたが、今回のような展示でその画業の多様性と進展を理解し易く俯瞰できかつ保存状態も良い作品が多くまさに楽しむことができました
昨年の「山水に遊ぶ」の時も思いましたが、今回も優れた展示企画をされる同美術館に感心しました
後期も是非行ってみたいですね
特にどくろの迫力がすごいです!
これは絶対見に行こうと思います。
ありがとうございました^^
今回は東府中から歩こうと思ってます。
本は重かったですか?というても私が行けるのは4/10なので「もぉないです」だと泣きますけどね。
'70年代の集英社の美術シリーズでは国芳のことを「売れなかった不運な絵師」とか解説ありましてね、あの頃は今ほど浮世絵の研究も海外の状況報告も盛んではなかったんだろうな~と。
'90年代から爆発的に売れだして20年、この展覧会は近年の国芳展の中でも「!!」ものでしょうね♪
図録も軽くて助かりました。
後期にはもう一度行かねばなりません。
こんばんは。早速のコメントをありがとうございます。当日はニアミスだったようですね。
>府中市美術館、「とてもがんばっています。」
全く同感です。今年のベスト10に入れようかと思うくらいでした。
後期も楽しみです!
@すぴかさん
こんばんは。国芳ご堪能されたようですね。まさに奇想というべき「面白画」が満載の展覧会でした。
>見て一番のお気に入りは、《水を飲む大蛇図》もう息を呑みました。
あれは強烈でしたね。水を呑むというより地面を呑んでいます。
>《相馬の古内裏》あれってほんとに綺麗
こちらは刷りも極上でした。今まで見た中ではダントツです。
@こばさん
こんばんは。ご丁寧なコメントをありがとうございます。
保存状態については本当に驚くばかりでしたね。
これまでほぼ不出の作品であるというのにも納得させられました。色が違います。
>昨年の「山水に遊ぶ」の時も思いましたが、今回も優れた展示企画をされる同美術館に感心
同感です。
府中市美の江戸絵画にシリーズは常に大当たりですね。
大好きな美術館の一つです。
後期も出かけたいと思います。
@カナダさん
こんばんは。
>絶対に見に行こう
是非是非お出かけ下さい!実際の髑髏はもっと凄まじい迫力です!
@遊行さん
こんばんは。
行きは東府中からの徒歩、帰りはちゅうバスを利用しました。
図録についてですが、今回のものは比較的サイズが小さめです。重くありません。10日ならまだ残っているのではないでしょうか。(さすがにGW頃となると売切れそうですが。)
>集英社の美術シリーズでは国芳のことを「売れなかった不運な絵師」とか解説
時代も変わればということなのでしょうか。
浮世絵についてはまだまだこれからも再評価が進みそうです。また国芳は辻先生の力も大きいでしょうね。
>展覧会は近年の国芳展の中でも「!!」もの
断言出来ます。是非!
@とらさん
こんばんは。
>心憎い
仰る通りでしたね。
展示品総入れ替えとのことですので、後期も何としてでも出かけるつもりです。
ありがとうございます!