「ソフィ カル―最後のとき/最初のとき」  原美術館

原美術館
「ソフィ カル―最後のとき/最初のとき」
3/20-6/30



原美術館で開催中の「ソフィ カル―最後のとき/最初のとき」 のプレスプレビューに参加してきました。

写真と言葉によって様々な「物語」を紡ぐフランスの現代美術家、ソフィ・カル。最近ではテートやポンピドゥーでの個展、また2007年のヴェネツィアビエンナーレに参加するなどして注目を集めてきました。

そのソフィ・カルの個展が今、品川の原美術館で行われています。

作品はシンプルに写真と映像の二つ、「最後に見たもの」(2010)と「海を見る」(2011)です。

前者においてソフィは失明した人々の最後に見た景色を取材。後者においては初めて海を見た人たちを捉え、タイトルにもあるように「最後のとき」と「最初のとき」の記憶や物語を提示しました。

では展示の順に沿って「最初のとき」から。1階のギャラリー2で展開されるのが「海を見る」。全12面のスクリーンによる映像インスタレーションです。

ここでソフィは、トルコのイスタンブールでまだ一度も海を見たことがない人が、初めて海を見る様子を映像におさめています。


「海を見る」2011年、ヴィデオインスタレーション ADAGP, Paris 2013 Courtesy Galerie Perrotin, Hong Kong & Paris – Gallery Koyanagi, Tokyo

しかしながらイスタンブールといえば海に面する街。何故に海を見たことがない人がいるのか。そうした点もソフィの制作の動機の一つにあります。

きっかけは新聞です。ソフィはのイスタンブールに滞在した際、海に見たことがない人たちがいること、そしてその多くがトルコ内陸部出身で、いわゆる貧しい階層の人々だということを知ります。

元々、盲目の人の記憶を辿った連作「最後に見たもの」で『最後』を捉えていたソフィは、今度は対になる『最初』の瞬間をここに見出し、早速、現地のソーシャルワーカーに依頼。貧しい地区で海を見たことのない人を集め、彼らをテーマとした映像作品を作ることを決めました。

時間は僅か4分。海を前にした人の背中を淡々と捉え、最後にはこちらに振り返ってもらうという、実にシンプルな映像作品です。


「海を見る」2011年、ヴィデオインスタレーション ADAGP, Paris 2013 Courtesy Galerie Perrotin, Hong Kong & Paris – Gallery Koyanagi, Tokyo

この後ろから人を映すという手法、実は当初ソフィが考えていたものとはやや異なるのも興味深いところ。そもそも初めて海を見てもらうのに失敗、つまりは出演者に二度も三度も海を見せてしまうことは許されません。

実は初めは人と海の間にカメラを置きましたが、それでは常に見る人の顔の表情が映し出されてしまいます。それをソフィは出演者の親密な空間にカメラが入り過ぎたと考えました。

テレビの感動ドキュメンタリー番組のようになってはいけない。結局ソフィはあくまでも背中から捉え、最後にこちらへ振り返ってもらうことを思い付きます。そうすれば我々も彼ら彼女らと海を見ることが出来る、そして最後には海を見た眼差しも確認出来る。


「海を見る」2011年、ヴィデオインスタレーション ADAGP, Paris 2013 Courtesy Galerie Perrotin, Hong Kong & Paris – Gallery Koyanagi, Tokyo

ソフィは必ずしもモデルと親密な交流をせず、あくまでも観察者の視点から彼ら彼女らを見つめます。(そもそも出演者はクルド語のみしか話せず、通訳を介してもうまくコンタクト出来ないこともあったそうです。) そこに見る側、我々の感性なり解釈の入り込む余地があります。背中はかくも語り出すのか。実に簡潔なアプローチですが、作品は思いの他に雄弁でした。

さて続いては「最後のとき」へ。こちらも舞台はトルコ。現地の古い伝承で「盲目の街」と呼ばれるイスタンブールです。


「最後に見たもの」2010年、カラー写真 ADAGP, Paris 2013 Courtesy Galerie Perrotin, Hong Kong & Paris – Gallery Koyanagi, Tokyo

長年にわたり視覚や認識の問題を作品のテーマに据えてきたソフィは、イスタンブールにそのような言い伝えがあることを知り、写真とテキストによる連作、「最後に見たもの」を制作しました。


「最後に見たもの」2010年、カラー写真 ADAGP, Paris 2013 Courtesy Galerie Perrotin, Hong Kong & Paris – Gallery Koyanagi, Tokyo

この作品が大変に充実、そして洗練されています。と言うのも、まず盲目の人に目が見えなくなった経緯をインタビュー。最後に見た記憶はどのようなものであったのかを聞き、その場所をソフィが取材。写真におさめているのです。

最後のイメージは当然ながら多様。自宅でありパートナーであり、また街の時計台であり、さらには事故の現場であったりします。 また盲目になった経緯をあえて細かに写真と一緒に提示しないのもポイント。テキストはあくまでも出品リスト、ようは別に配布されるシートで追う形になっています。


「最後に見たもの」2010年、カラー写真 ADAGP, Paris 2013 Courtesy Galerie Perrotin, Hong Kong & Paris – Gallery Koyanagi, Tokyo

ちなみにこの作品が初めに発表されたイスタンブールではテキストを配ることもなかったとか。さらにはインタビューの時間は出演者毎に異なり、10数分から数時間、また時には一日中一緒にいてイスタンブールを案内してもらったこともあったそうです。

ソフィは「最後とは誰もが共有出来ない個別の瞬間、そしてそれは極めて詩的な時でもある。」と述べています。

なお会場では最初と最後を繋ぎあわせる試みとして「海」が。「盲目の人々」シリーズの一点には、ソフィの親しい友人でもある杉本博司の「海景」が組み合わされています。


「最後に見たもの」と作家ソフィ・カル

原美術館としては1999年の「限局性激痛」以来、14年のぶりの個展。また群馬県のハラミュージアムアークではアメリカのアーティスト、ミランダ・ジュライとの二人展も開催中。

「紡がれた言葉―ソフィ カルとミランダ ジュライ/原美術館コレクション」@ハラ ミュージアム アーク(3/16~6/26)

会期中には原美術館から群馬へ往復するバスツアーもあります。入館料込みのお得なプラン。リーズナブルです。

【バスツアー「ソフィ カルとハラ ミュージアム アーク」(予約制)】
開催日:4月20日(土)/5月18日(土)/6月15日(土) 計3回
*9:30原美術館出発 (原美術館展示鑑賞時間8:30~9:20) →19:00新宿解散(予定)
参加費:一般6500円、原美術館メンバーおよびご同伴者2名様まで5500円
*原美術館、ハラミュージアムアーク入館料、伊香保グリーン牧場入場料を含みます。
申込方法:Eメールにてお申し込みください。
*表題に[バスツアー申込]、本文にお名前、参加希望日、参加人数、ご連絡先電話番号を明記し、info@haramuseum.or.jpまでお送り下さい。追ってツアーの詳細をお知らせいたします。



最後と最後のときの物語。考えさせられるものも多く、また余韻の深く残る展覧会でした。

6月30日まで開催されています。

「ソフィ カル―最後のとき/最初のとき」  原美術館@haramuseum
会期:3月20日(水・祝)~6月30日(日)
休館:月曜日。(但し祝日にあたる4月29日、5月6日は開館。)4月30日、5月7日。
時間:11:00~17:00。*3月20日を除く水曜は20時まで。
料金: 一般1000円、大高生700円、小中生500円
 *原美術館メンバーは無料、学期中の土曜日は小中高生の入館無料。20名以上の団体は1人100円引。
住所:品川区北品川4-7-25
交通:JR線品川駅高輪口より徒歩15分。都営バス反96系統御殿山下車徒歩3分。

注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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