「東洋絵画の精華 珠玉の日本絵画コレクション」 静嘉堂文庫美術館

静嘉堂文庫美術館
「受け継がれる東洋の至宝 Part1 東洋絵画の精華 - 名品でたどる美の軌跡 珠玉の日本絵画コレクション」
4/14-5/20



静嘉堂文庫美術館で開催中の「受け継がれる東洋の至宝 Part1 東洋絵画の精華 - 名品でたどる美の軌跡」へ行ってきました。

古くは三菱第二代社長、岩崎弥之助が明治時代に設立し、現在に至るまで約20万冊の古典籍、及び約6500点の東洋美術品を所蔵する静嘉堂文庫美術館。

武蔵野の面影を残す世田谷の小高い丘の上に建つ美術館ですが、創設120周年を記念して、そのお宝の一部を順に公開する展覧会が行われています。

と言ってもご存知の通り静嘉堂文庫には広い展示スペースがありません。よって年度の会期を5つに分けています。

「静嘉堂文庫創設120周年・美術館開館20周年記念:受け継がれる東洋の至宝」

Part1.「東洋絵画の精華:名品でたどる美の軌跡」
【前期】珠玉の日本絵画コレクション 4月14日(土)~5月20日(日)
【後期】至高の中国絵画コレクション 5月23日(水)~6月24日(日)

Part2.「岩崎弥之助のまなざし:古典籍と明治の美術」9月22日(土)~11月25日(日)

Part3.「曜変・油滴天目:茶道具名品展」2013年1月22日(火)~3月24日(日)

現会期はpart1.の前期、つまり日本絵画です。鎌倉・南北朝期の仏画にはじまり、室町水墨画、そして琳派を中心とする江戸絵画、さらには今、東博のボストン美術館展でも話題の「平治物語絵巻」から別巻の「信西巻」など、約30点ほどの作品が展示されていました。


「平治物語絵巻 信西巻」(部分)鎌倉時代 重要文化財

さて冒頭でお出迎えしてくれるのは、その「平治物語絵巻」から「信西巻」です。スペースの都合もあるか、途中2回の巻替えを挟んでの場面展示となっています。

第1期(4/14~4/26):信西追捕の詮議と信西自害の場面
第2期(4/27~5/8):信西自害から首実検までの場面
第3期(5/9~5/20):都大路の武者行列と西獄門の場面

私が出向いた際は第2期、つまりは第2段と第3段における信西の自害からの場面でしたが、この絵巻ならではの軽快な筆と臨場感に溢れる表現を見ることが出来るのではないでしょうか。

とりわけ生々しいのが、自害して果て、埋められた信西を追っ手が掘り出し、首を切り落とす光景です。既に首は半分切り落されたのか、ぶらぶらと垂れています。


「平治物語絵巻 信西巻」(部分)鎌倉時代 重要文化財

同絵巻ではボストン本の「三条殿夜討巻」も刀を振りかざして争う人々、また傷口から噴き出す鮮血などの描写に強い迫真性を感じましたが、それは「信西巻」も同様でした。


「住吉物語絵巻」(部分)鎌倉時代 重要文化財

また絵巻ではもう一点、「住吉物語絵巻」も忘れられません。(途中一度、5/7に巻替えあり。)姫君たちの十二単の色鮮やかな描写には目を奪われるのではないでしょうか。朱と緑青の彩色の状態は驚くほどに良好でした。

さて出品作のいずれもが重文、もしくは重要美術品指定を受けている仏画にお宝続出です。中でも最も惹かれたのが「弁財天像」でした。


「弁財天像」南北朝時代 重要文化財

左に迫る滝、そして右奥へ抜ける海、そして前景で下から力強くせり上がる岩の三次元的な構図の妙味はもとより、肉眼では確認しえないほど細密な筆によって描かれた弁財天の流麗さには言葉を失いました。

なおこの作品しかり、仏画の細部を楽しむには単眼鏡があった方が良いかもしれません。持参されることをおすすめします。


伝周文「四季山水図屏風」(右隻) 室町時代 重要文化財

さて室町水墨画では、六曲一双の大空間の中に雄大な自然の広がる伝周文の「四季山水図屏風」に注目が集まるのではないでしょうか。

縦に伸びる岩山と木が横へ伸びる空間と交わります。下方の水辺から山々を超え、上部の空へと広がる余白には大気を感じました。

さて江戸絵画でまず嬉しいのは板橋の回顧展が未だ忘れられない英一蝶から優品、「朝とん曳馬図」が展示されていたことです。


英一蝶「朝とん暾曵馬図」 江戸時代

夕日を瀬に、橋の上を童が馬をひく様子が示されていますが、水面にはその写しが影絵のように描かれているではありませんか。一蝶ならではの軽妙な筆致の醸し出す叙情的な味わいには見惚れました。

さて今回、GW期間中に静嘉堂文庫へ出かけたのは訳があります。

それは紛れもなく我らの酒井抱一の「波図屏風」が5/6で展示を終えてしまうからです。

六曲一双に得意とする銀地へ力強い波を描いた本作、とかく優美や繊細で語られる機会の多い抱一画では異色の作品と言えるのではないでしょうか。基準作とも言われるメトロポリタンの光琳作との類似点は殆どありません。


酒井抱一「波図屏風」(右隻) 江戸時代 *展示期間:4/14~5/6

また波は墨のみで描かれているように見えますが、実は波頭には白が、また波間には仄かな藍が混じっている点も重要です。月明かりの元、まさに巨大な触手のような波が荒れ狂っていました。

そして抱一ではもう一点、「絵手鏡」も見逃せません。こちらは全72図ということで、やはり会期中に場面替えが行われますが、それでも16面も一挙に展示されています。


酒井抱一「絵手鏡 朝顔」江戸時代

本作を見るとともかく抱一が多様な画風、それこそ大和絵から狩野派、また若冲画から光琳を踏まえた琳派をいかによく吸収していたのが分かるのではないでしょうか。

また嬉しいのが、展示された以外の面の図版を作品横のデジタル端末で紹介していたことです。そちらを追うことで絵手鏡の全面を楽しむことが出来ました。

また江戸絵画では渡辺華山の二点も超名作と言えるかもしれません。


渡辺崋山「芸妓図」江戸時代 重要文化財

透けた扇子を口元によせ、手をついてふと横を見やる「芸妓図」の斜めの構図を見ると、不思議と安井曾太郎の「金蓉」を思い出しました。華山画にはどこか近代絵画を予兆させるようなリアリティーと斬新さがありますが、それは本作でより強く感じられるかもしれません。

国貞、豊国の錦絵も驚くべく発色です。また特別出品の国宝「倭漢朗詠妙 太田切」の唐紙、特に金泥の草花や鳥の紋様の美しさには思わず息をのんでしまいました。

受付でチケットを購入すると、出品作の大多数の図版を網羅したリーフレットをいただけました。何かと重宝しそうです。

また後期、5/23からのPart2では中国絵画のコレクションが出品されます。

一度に見られる数は少ないのは事実ですが、これほど粒の揃った名品揃いの展覧会も滅多にありません。今年度は何とかPart2、Part3と追いかけて、静嘉堂文庫の「至宝」シリーズをコンプリートしたいと思います。



「受け継がれる東洋の至宝 Part1 東洋絵画の精華 - 名品でたどる美の軌跡」、前期の「珠玉の日本絵画コレクション」は5月20日まで開催されています。

「受け継がれる東洋の至宝 Part1 東洋絵画の精華 - 名品でたどる美の軌跡 珠玉の日本絵画コレクション」 静嘉堂文庫美術館
会期:4月14日(土)~5月20日(日)
休館:月曜日。但し4月30日は開館。5月1日。
時間:9:30~16:30(入館は閉館の30分前まで)
住所:世田谷区岡本2-23-1
交通:東急田園都市線二子玉川駅より東急コーチバス「玉31・32系統」で「静嘉堂文庫」下車(乗車時間約10分。)。バス停より徒歩5分。
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