都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「国宝『随身庭騎絵巻』と男の美術」 大倉集古館 7/22
大倉集古館(港区虎ノ門2-10-3 ホテルオークラ本館正面玄関前)
「国宝『随身庭騎絵巻』と男の美術」
6/3-7/30
いつもさり気なくお宝を見せてくれる大倉集古館の展覧会ですが、今回もまたいくつかの見応えある作品が展示されていました。テーマは「男」(をとこ)。日本美術に登場する「男の中の男」をキーワードに、この美術館の所蔵する「随身庭騎絵巻」(鎌倉時代)や抱一の「五節句図」(1827)などが公開されています。
「貴族が外出する際に警護にあたった」(公式サイトより。)という随身(ずいじん)の描かれた「随身庭騎絵巻」。荒々しい馬に跨がる汗臭い男たちの描かれた作品です。ただし汗臭いと言っても、美男子と教養人が求められたこの官職の性質なのか、皆どこか気位の高さを思わせる雰囲気を漂わせています。ちなみにこの作品は一部分だけの公開ですが、会期末(29、30日)には全場面が展示されるそうです。実は私は、今ひとつこの作品の良さが分からなかったのですが、貴重な品ということなので、再度また全てに目を通して見たいとも思いました。
さて、この展覧会で一番惹かれたのは酒井抱一の「五節句図」です。こちらは、宮中におけるいわゆる節句の行事(宮廷節会)をモチーフとしたもので、正月から9月まである5つの節句の場面が、抱一らしい精緻なタッチで鮮やかに描かれています。展示されているのは、その5つの節句のうち、男が登場する4つの場面です。それぞれ、元日の「小朝拝」、3月の「曲水宴」、5月の「菖蒲臺」、9月の「重陽宴」(画像上左から)が並んでいました。この中では特に、盃を優雅に川へ流して歌を詠む「曲水宴」と、大きな花瓶に見事な菊が生けられた「重陽宴」が魅力的です。こちらの男たちは、先ほどの随身とは異なりむしろなよなよとしている。「重陽宴」にて扇子を広げている貴族は、実にのんびりとした様で座っていました。逞しい随身たちか、それともこの優雅な貴族たちの世界か。さてどちらをとりましょう。
「男」とどう関係があるのかは分かりませんが、思いがけない作品が一つ展示されていました。それがこの伊藤若冲の「乗腰舟」(1767)です。拓版画という独特の技術によって刷られたモノクロ版画による水辺風景。淀川を舟で下る様子が表現されています。黒く広がる淀川と、その川岸で点々と連なる家々や林。左手には大きな橋が架かっていました。(残念ながら作品の一部だけの公開です。)ただ、一見しただけでは若冲とは分かりません。また合作でもあるとのことです。それにしてもまさかこの展覧会で若冲に会えるとは思いませんでした。若冲の拓版画は他にもたくさん知られていますが、今、東京ですぐ見られるのはこの作品だけではないでしょうか。これはラッキーでした。
その威容にいつも驚かされる常設の「普賢菩薩騎象像」(平安時代)も、この男たちに囲まれるとまた改めて存在感が増してきます。次の日曜、30日までの開催です。
「国宝『随身庭騎絵巻』と男の美術」
6/3-7/30
いつもさり気なくお宝を見せてくれる大倉集古館の展覧会ですが、今回もまたいくつかの見応えある作品が展示されていました。テーマは「男」(をとこ)。日本美術に登場する「男の中の男」をキーワードに、この美術館の所蔵する「随身庭騎絵巻」(鎌倉時代)や抱一の「五節句図」(1827)などが公開されています。
「貴族が外出する際に警護にあたった」(公式サイトより。)という随身(ずいじん)の描かれた「随身庭騎絵巻」。荒々しい馬に跨がる汗臭い男たちの描かれた作品です。ただし汗臭いと言っても、美男子と教養人が求められたこの官職の性質なのか、皆どこか気位の高さを思わせる雰囲気を漂わせています。ちなみにこの作品は一部分だけの公開ですが、会期末(29、30日)には全場面が展示されるそうです。実は私は、今ひとつこの作品の良さが分からなかったのですが、貴重な品ということなので、再度また全てに目を通して見たいとも思いました。
さて、この展覧会で一番惹かれたのは酒井抱一の「五節句図」です。こちらは、宮中におけるいわゆる節句の行事(宮廷節会)をモチーフとしたもので、正月から9月まである5つの節句の場面が、抱一らしい精緻なタッチで鮮やかに描かれています。展示されているのは、その5つの節句のうち、男が登場する4つの場面です。それぞれ、元日の「小朝拝」、3月の「曲水宴」、5月の「菖蒲臺」、9月の「重陽宴」(画像上左から)が並んでいました。この中では特に、盃を優雅に川へ流して歌を詠む「曲水宴」と、大きな花瓶に見事な菊が生けられた「重陽宴」が魅力的です。こちらの男たちは、先ほどの随身とは異なりむしろなよなよとしている。「重陽宴」にて扇子を広げている貴族は、実にのんびりとした様で座っていました。逞しい随身たちか、それともこの優雅な貴族たちの世界か。さてどちらをとりましょう。
「男」とどう関係があるのかは分かりませんが、思いがけない作品が一つ展示されていました。それがこの伊藤若冲の「乗腰舟」(1767)です。拓版画という独特の技術によって刷られたモノクロ版画による水辺風景。淀川を舟で下る様子が表現されています。黒く広がる淀川と、その川岸で点々と連なる家々や林。左手には大きな橋が架かっていました。(残念ながら作品の一部だけの公開です。)ただ、一見しただけでは若冲とは分かりません。また合作でもあるとのことです。それにしてもまさかこの展覧会で若冲に会えるとは思いませんでした。若冲の拓版画は他にもたくさん知られていますが、今、東京ですぐ見られるのはこの作品だけではないでしょうか。これはラッキーでした。
その威容にいつも驚かされる常設の「普賢菩薩騎象像」(平安時代)も、この男たちに囲まれるとまた改めて存在感が増してきます。次の日曜、30日までの開催です。
コメント ( 14 ) | Trackback ( 0 )
« ネットラジオ... | 東京メトロ一... » |
なかなか面白い展覧会でしたよね。
わたしはちょっと異なるメで眺めてしまいましたが。
若冲の淀川クルージングは、日本手ぬぐいに欲しいと強く思いました。そんなグッズがあれば嬉しいなぁ。
TBさせてもらいました♪
こんな素晴らしい展示が!
日曜迄なのですね…
う~ん、何とかして行きたいものです…。
抱一は今や私のロックオンターゲットなのですぅ
こんばんは。コメントとTBをありがとうございました。
>若冲の淀川クルージングは、日本手ぬぐいに欲しいと強く思いました。そんなグッズがあれば嬉しいなぁ。
いいですね!それ!
何故かグッズはハガキもなく、マグネットでした。(しかも500円!)
てぬぐい、商品化を希望します!
@るるさん
こんばんは。
>こんな素晴らしい展示が!
日曜迄なのですね…
若冲はおまけなのですが、
酒井抱一は素晴らしかったです!
それにその他の展示品も名品揃いで…。
ここの展示は本当に侮れません。
>抱一は今や私のロックオンターゲット
私も同じです。
若冲を見ているうちに、
やっぱり自分は抱一の方が好きかなあなんて…。
少し浮気状態にあります。
はろるどさんの情報で日曜までと知り、
あわてて出かけました。
若冲の乗興舟、「男」というテーマとの関連
わかりませんでした。
抱一も素敵でしたね。
この展覧会を見て一番分かったこと・・・
「男」より、やはり「女」の(絵)の方がいいってことですかなぁ。
お出かけなさいましたか!
>若冲の乗興舟、「男」というテーマとの関連
わかりませんでした。
分からないですよねえ…。やはりプライスや三の丸に合わせたのでしょうか。
>「男」より、やはり「女」の(絵)の方がいい
同感です。
酒井抱一の五節句図も、あと一点は女性が描かれているのですが、
そちらも拝見したかったですね。
若冲の乗興舟ですが、京博で8/2-9/3展示あるので見てきます。
なんだかんだと関西では若冲出没率高いです。
抱一の別バージョンの五節句図も見てきます♪
随身庭騎絵巻が出ていますか。放送大学の「中世日本の物語と絵画」で知って以来、この絵はいつか見てみたいと思っていました。絵巻とありますが、上記テキストでは随身庭騎図巻となっています。特定の人物を描いた絵画を「似絵(にせえ)」と呼ぶそうですが、要するに似顔絵のようなものですよね。文字絵の似顔絵制作の参考になるかもと思いました。29、30日に全場面が展示されるのは、またとない機会かもしれません。製作年は1254ではないでしょうか。
ところで、文字絵研究所が29日午後10時からのテレビ埼玉の「ビジネスウォッチ」という番組で紹介されることになりました。もし視聴可能であれば、ご覧いただけましたら幸いです。トラックバックを送らせていただきます。[いや~、我ながらべらぼうに硬い文章を書いてますね(^^;)]
こんばんは。
>若冲の乗興舟ですが、京博で8/2-9/3展示
良いですね!何たって大倉ではほんのちょっとの展示でしたので…。
>関西では若冲出没率高い
そのようですね。もっと美術に関心があれば見ていたのでしょうが…。
@こもへじさん
こんばんは。お久しぶりです。コメントありがとうございます。
>特定の人物を描いた絵画を「似絵(にせえ)」と呼ぶそうですが、要するに似顔絵のようなものですよね。
そのようです。
今週末はファンでにぎわうかもしれませんね。
>製作年は1254
ありがとうございます。思いっきり間違えておりました。
大倉集古館の解説にのっとり、
鎌倉時代としておきます。大変失礼しました。
>文字絵研究所が29日午後10時からのテレビ埼玉の「ビジネスウォッチ」という番組で紹介
おお!!ついにテレビ出演ですか!
おめでとうございます!
我が家はケーブルを入れているので、
確か埼玉テレビもうつるかと思います。調べてみます!
随身庭騎絵巻の全巻展示はご覧になられましたか?
どうやら同一人物が描いたものではないようで、最後の2名の描写はちょっと異質でした。
しかし、描かれた人物が特定できるなんて鎌倉時代がより身近に感じることができます。
(例えがおかしいのですが、歴史小説や大河ドラマのようなフィクションではなく実際に存在していた、という事実がより身近に感じさせるのだと思います。)
こんばんは。
テレビ埼玉、我が家では映りませんでした…。残念です。
次回また何かメディアに御登場なさることと思いますので、
その時もどうぞ宜しくお願い致します!
@ak96さん
こんばんは。コメント有難う御座います。
>「五節句図」
4枚だけ出ていたというのがまた何とも面白いところですが、
是非5枚全てを拝見したいと思いました。
それにしても大倉は良いものをたくさん持っているのですね。
全く目が離せません!
@アイレさん
こんばんは。コメントとTBをどうもありがとうございます。
>全巻展示はご覧になられましたか
結局、行きそびれてしまって見ることができませんでした。
まとめてみれば興味深い点があったかもしれません。
ちょっと私にはまだその魅力が分からなかったもので…。
>描かれた人物が特定できるなんて鎌倉時代がより身近に感じる
同感です。
年代が特定できるのは凄いですよね。
「男の友情」っていいな~
>感謝感謝です。
いえいえこちらこそありがとうございます。
それよりもTAkさん、
次回の大倉はGoldです!金です。ピカピカの!
これは是非お二人のご感想を拝見したいです!