伊藤若冲の「象鯨図屏風」が発見される

若冲が晩年になって描いたとされる水墨の大作「象鯨図屏風」が、このほど北陸の旧家より発見されました。

「白い象と黒い鯨、大胆に描く 伊藤若冲、晩年の屏風」(朝日新聞)
 *屏風の写真図版が拡大可能です。

「伊藤若冲の大作「象鯨図屏風」、北陸の旧家で見つかる」(読売新聞)
 *河野元昭氏のコメントが付いています。

「若冲、最晩年の大作屏風 北陸の旧家で『象鯨図』発見」(東京新聞)
 *辻惟雄氏による鑑定内容の概略が記載されています。





上の発見作を見て思い起こすのは、1928年、大阪美術倶楽部にて3100円という値を付けられて以来、長らく行方不明になっていたという同名の屏風(下図版)です。同作品については「異能の画家 伊藤若冲」(新潮社とんぼの本)の91頁、もしくは「週刊日本の美をめぐる - 脅威のまなざし 伊藤若冲」(小学館ウィークリーブック)の27頁などに記載がありましたが、Web上でもお馴染み、弐代目・青い日記帳の「ゾウとクジラが観たい」で丁寧に紹介されています。図像を見て、その奇抜な構図感に圧倒されたのは私だけではなかったのではないでしょうか。一目見たいと心から思うようなインパクトがありました。





しかしながら見比べると、行方不明作と発見作には細部においてかなりの相違点があります。例えば波(発見作の方が波頭が細かい。)、鯨(行方不明作の造形は抽象的。)、象(発見作には長い尾がついている。)、また丘の植物(行方不明作には植物がない。)などを挙げても、少なくとも同一作とするには無理があると言わざるを得ません。もちろんこの点については当然ながら発見に携わった研究者にも認識されており、上記引用の記事において辻氏は「前作(行方不明作)の評判が良かったのでもう一作描いた(発見作)のではないか。」と述べていました。とても鮮明とは言えない昔の図版と、今世に出て来た実物を比較するのは困難を極めそうですが、二者の関係云々についても今後さらなる研究が必要となりそうです。

 


(若冲の描いた象。左上から白象群獣図、白象図、下、樹花鳥獣図屏風の部分。)

ちなみに発見作は落款に「米斗翁八十二歳画」と記載されていることから、若冲の最晩年にあたる1795年前後に描かれたものであることが分かっています。その頃の若冲といえば、とうに「動植綵絵」を描き終え、また対決展にも出ていた「仙人掌群鶏図」の制作も完了し、京都深草の石峰寺に隠棲して、石造の「五百羅漢像」を手がけていた時期でした。晩年、近郊の山裾にて比較的侘しい生活を送っていたはずの若冲が、何故にこのような気宇壮大な大作屏風を手がけたのでしょうか。色々と謎めいた部分もまた多くあります。

「異能の画家 伊藤若冲/狩野博幸/新潮社」

公開は早くとも2009年秋以降になるそうです。まずは実際に見られる日を心待ちにしたいと思います。
コメント ( 7 ) | Trackback ( 0 )
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コメント
 
 
 
Unknown (ruru)
2008-12-21 05:55:37
凄い!!
確かに、今回のものは昔の図版とは違う様ですね。

一族の中に居た“数寄者”が収集した逸品を後者が解らず始末してしまう事が多い中、こういう物が出てくるのは喜ばしい事です。
公開が待たれますね
 
 
 
Unknown (はろるど)
2008-12-21 10:01:45
ruruさんこんにちは。

>今回のものは昔の図版とは違う様

てっきり同じ作品かと思ってしまいましたが、
やはり違うようですね。色々とまだまだ調べる点はありそうです。

>“数寄者”が収集した逸品を後者が解らず始末してしまう事が多い

同感です。
一体どういうお宅から出て来たのでしょうね。
倉庫(蔵?)に若冲が眠っているお家などうらやまし過ぎます。

>公開

本当ですね!早く拝見したいです!
 
 
 
Unknown (遊行七恵)
2008-12-21 16:58:30
こんばんは
ビックリの発見でしたね。
若冲は大人気!とダレソレ?状態の繰り返しが激しい画家ですが、今の世の人の若冲愛へのプレゼントのような気がします。
それにしてもゾウさんが可愛いです。
とても優しい目をしてますね。
思えば、江戸時代のどの流派の絵師もがゾウを描いてますが、若冲のゾウがいちばん可愛いです。
 
 
 
Unknown (トリエステ)
2008-12-21 19:49:52
しかし、日本全国の蔵を徹底調査したいですね。まだ眠っているのでは?
 
 
 
Unknown (はろるど)
2008-12-21 20:34:15
@遊行さん

こんばんは。コメントありがとうございます。

>今の世の人の若冲愛へのプレゼントのような気がします。

きっと若冲をこよなく愛されるTakさんの願いが通じたのでしょうね。本当に驚きました。

>江戸時代のどの流派の絵師もがゾウを描いてますが、若冲のゾウがいちばん可愛い

同感です。
上に挙げた三点の中で「白象群獣図」だけはまだ見たことがありませんが、
今度静岡の展示に出るようなので是非行くつもりでいます。楽しみです!


@トリエステさん

こんばんは。先日はご挨拶だけで失礼しました。奇遇でしたね。

>日本全国の蔵を徹底調査

まだまだありそうですね。
それにしてもまさか北陸で若冲とは思いませんでした。
意外と盲点だったのかもしれませんが…。
 
 
 
Unknown (Tak)
2008-12-22 13:13:54
こんにちは。

先日はご迷惑おかけしました。

暮れの大掃除の際に
「旧家」の方々には
いつもよりも念入りに!
まだまだ見つかりそうな予感します。
 
 
 
Unknown (はろるど)
2008-12-22 21:20:24
Takさんこんばんは。

>ご迷惑

いえいえとんでもありません。その後体調は如何でしょうか。

>大掃除の際に「旧家」の方々にはいつもよりも念入りに

まだまだあるでしょうね。
かつて知られていた作品も出てくると面白そうです。
 
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