「いのちの交歓」 國學院大學博物館

國學院大學博物館
「いのちの交歓ー残酷なロマンティスム」 
2017/12/16~2018/2/25



「いのちとは何か」をテーマに、考古遺物から現代美術までを紹介する展覧会が、國學院大學博物館にて開催されています。


「火に焼かれた石ころたち」 縄文時代 川崎市高津区 風久保遺跡出土

いきなり現れたのが、縄文時代の火に焼かれた石ころでした。川崎市高津区の出土品で、やや大ぶりの石は、かつて食べ物の煮炊きに使ったのか、やや焦げて、赤らんでいるようにも見えなくありません。そして展示ケースを越えて、目に飛び込んで来たのが、岡本太郎の「雷人」でした。さらに「雷人」の前には、古墳時代の錆びついた刀や冑なども、どこか散乱するかのように置かれていました。その新旧の「交歓」は、まさしく独特で、何やら異様なまでの熱気を漂わせていたかもしれません。


岡本太郎「雷人」(未完成) 岡本太郎記念館

岡本太郎は1996年、著作「神秘日本」において、人間と人間以外のモノたちとの「食べる/食べられる」の関係性を、「いのちの交歓」と呼びました。また古事記によれば、いのちは、伊邪那美命と呼ばれる、女神の死にゆく亡骸から噴き上がる汚物から生まれました。そして展示では「雷人」を、黄泉の国の伊邪那美命に重ね合わせていました。


「人が食事に使った飯櫃を虫が喰う」 昭和中頃 國學院大学博物館

その古事記が展示のベースにありました。そこから古代、現代を問わず、様々な遺物や道具、装身具のほか、岡本太郎をはじめとする現代美術家らを参照、ないしはぶつかり合せることで、「生と死の生命観」を再び問い直そうと試みていました。


岡本太郎「豊穣の神話」 岡本太郎記念館
「土偶の頭・手・足・胴体」 縄文時代中期〜晩期 東日本各地 ほか


それにしても時代はない交ぜにされ、一筋縄では捉えられません。例えば、同じく岡本太郎の「豊穣の神話」の前には、縄文時代の土器の顔の破片や、土偶の身体の欠片などがありましたが、それらとともに、現代に採取された剥製、さらには米びつや木の糸巻きも並んでいました。縄文から近現代の間に、高い壁は一切ありません。


「獣の革靴たち」 現代
「牛の革靴」 イタリア 現代 個人蔵 ほか


まるで遺跡から出土したような獣の革靴は、おおよそ1950年から60年代に奈良県で作られたもので、その隣には、何と昨年、イタリアで作られた牛の最新の革靴が置かれていました。さらに剥製や毛皮、中には縄文人に食べられた鹿の角や骨も登場していました。今、自分が目にしているものが、果たしていつの時代のものかを判別するのは、にわかには困難でした。


田中望「モノおくり」 國學院大學博物館

現代美術で目立っていたのは、日本画の手法を用い、古代神話の世界を表現した田中望でした。「モノおくり」では、ウサギに置き換わった人々が、高い石柱らしき物体を前に、円を描って踊りながら、祈りを捧げる様子を描いていました。巨石などのモチーフもプリミティブで、なおかつ大きな大根が供されるなど、幻夢的な世界が広がっていると言えるかもしれません。細部の描写こそ緻密ながらも、スケールは大きく、岡本太郎に引けを取らないような力感もありました。


藤原彩人「磁釉陶」 作家蔵

人体をモチーフに彫刻を手がける、藤原彩人の「磁釉陶」も目を引くのではないでしょうか。壺のような下部より突き出たのは、手を上下に振った人の姿でした。さも瞑想するかのように目を伏していましたが、その仕草は、何らかの楽器を奏でているようでもありました。


「窪地中央に置かれた大石」 縄文時代後期〜晩期 千葉県流山市 三輪野山貝塚出土 流山市教育委員会

その前にあるのが、千葉県流山市の貝塚より発掘された、縄文時代後期から晩期の大石でした。やや楕円形をしていて、窪地の中央に置かれていたとされています。石は石に過ぎないかもしれませんが、実に存在感があり、まるで太古から土中のエネルギーを蓄えているかのようでした。


「丸石と鹿の骨」 丸石:縄文時代中期〜晩期 國學院大學博物館 骨:2010年1月没(群馬県多野郡上野村) 個人蔵

さらに弥生時代の溶岩で出来た石皿や、まるで供え物のように配された丸石や鹿の骨もあわせ並んでいます。1つ1つの資料なり文物が、生と死、つまりは生命に関わっていました。


「溶岩でつくられた石皿と磨り石」 弥生時代中期 國學院大学博物館

映像作家、井上亜美の作品も興味深いのではないでしょうか。いずれも狩猟をテーマとしていて、食べると食べられるの関係、まさしく「命の交歓」を考えさせるものがありました。


「いのちの交歓ー残酷なロマンティスム」会場風景

それにしても濃密極まりない空間です。またキャプションも力が入っていました。見せる上に、読ませる展覧会でもあります。


「いのちの交歓ー残酷なロマンティスム」会場風景

カタログに当たる小冊子が300円で販売されていました。これほど多岐に渡る内容のゆえ、私もどこまで踏み込めたのか自信がありませんが、少なくとも展示への理解の助けとなりそうです。


入場は無料です。2月25日まで開催されています。

「いのちの交歓ー残酷なロマンティスム」 國學院大學博物館@Kokugakuin_Muse
会期:2017年12月16日(土)~2018年2月25日(日)
休館:12月26日(火)~1月5日(金)、2月2日(金)。
時間:10:00~18:00
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:無料。
住所:渋谷区東4-10-28 國學院大學渋谷キャンパス 学術メディアセンター 地下1階
交通:JR線、東京メトロ銀座線・半蔵門線・副都心線、東急東横線・田園都市線渋谷駅より徒歩15分。渋谷駅東口バスターミナル54番乗り場より都営バス「学03日赤医療センター行き」で「国学院大学前」下車すぐ。JR線、東京メトロ日比谷線恵比寿駅西口ロータリー1番乗り場より都営バス「学06日赤医療センター行き」で「東四丁目」下車。徒歩5分。
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