「西大寺展」 三井記念美術館

三井記念美術館
「奈良 西大寺展 叡尊と一門の名宝」 
4/15~6/11



奈良・西大寺の寺宝を集めた展覧会が、三井記念美術館で行われています。

はじめの立体展示室からして充実していました。主に並ぶのは法具です。例えば「白銅密教法具」。西大寺で最も重要な法会の光明真言会で用いられます。三葉形の盤に鈴や3本の杵がのせられていました。盤の脚にも注目です。獣の形をしていました。


国宝「金銅透彫舎利容器」 鎌倉時代 奈良・西大寺

さらに「金銅透彫舎利容器」も美しい。厨子の中に舎利容器が納められています。透彫が絶品です。羽目板は極めて精緻。龍の姿も見えました。独立ケースでの展示です。よって360度の角度から鑑賞することも出来ます。ここは金色の輝きに見惚れました。

さて西大寺の名はよく知られていますが、ともすると寺の歴史までは詳しく知られていないかもしれません。

創建は765年です。当時の称徳天皇が恵美押勝の乱の平定を願って造営しました。乱は無事平定。創建時は僧の道鏡が絶大な権力をふるいます。いわゆる南都七大寺の1つとして大きな伽藍も有していました。しかし都が平安京に移されると衰退します。度重なる災害で多くの堂も失われました。状況は「深刻」(公式サイトより)でした。

西大寺を中興したのが僧の叡尊でした。鎌倉時代です。幼くして醍醐寺や高野山で修行。真言密教を学びます。30代で西大寺にやって来ました。叡尊は伝統的な律宗と自身の密教とを組み合わせた道場を築き上げます。そして貧者の救済にも奔走。当時は薬と認識されていた茶を施す大茶盛式を行います。そして先の光明真言会を創始します。僧や市民が集ったそうです。

さらに本尊の釈迦如来像をはじめとする多くの仏像の造立を発願しました。実際に今に残る仏像は叡尊時代の作が少なくありません。

この叡尊が展示の主人公です。「興正菩薩坐像」は叡尊80歳の寿像でした。背筋を伸ばし、しっかりと前を見据えながら泰然とした様子で座っています。眼差しは鋭い。解説に「理知的」とありました。鎌倉時代ならではの迫真の像です。両手には血管も浮き上がっています。


重要文化財「愛染明王坐像」 善円作 鎌倉時代・宝治元(1247)年 奈良・西大寺

「愛染明王坐像」も見応えがあるのではないでしょうか。現在の愛染堂の秘仏本尊です。叡尊が安置したと伝えられています。口を開いては忿怒の相をしていました。まだ彩色が残っています。しかも肩から脚のあたりの着衣には截金も確認出来ます。力強くも繊細でした。


重要文化財「文殊菩薩坐像」 鎌倉時代・正安4(1302)年 奈良・西大寺

叡尊の十三回忌に完成したのが「文殊菩薩坐像」でした。右に剣を持っています。身体、および着衣を象る曲線が目立ちます。顔立ちはどこか幼くも見えました。叡尊は文殊菩薩を深く信仰します。その教えに基づいて慈善事業を行いました。


重要文化財「聖徳太子立像(孝養像)」 善春作 鎌倉時代・文永5(1268)年 奈良・元興寺

文殊菩薩をはじめ、聖徳太子、はたまた伊勢の神など、多様な信仰を持つのも特徴です。一例が「聖徳太子立像(孝養像)」でした。16歳の太子の姿です。父の用明天皇の病気を快癒を祈っています。叡尊は、太子を救世観音、如意輪観音の化身として捉えています。よほど太子信仰が広まっていたのでしょうか。結縁者は計5000名にも及びました。

叡尊の教えは全国に広がります。うち東国では僧の忍性が活動。鎌倉の極楽寺に住みます。そうした真言律宗の一門の寺宝もあわせて展示されていました。


重要文化財「釈迦如来立像」 院保他作 鎌倉時代・徳治3(1308)年 神奈川・称名寺

称名寺の「釈迦如来立像」が個性的です。いわゆる清涼寺式の像。大きな顔です。そして木目を活かした衣紋が全身を覆います。また畿内では岩舟寺の「普賢菩薩騎象像」が目を引きました。とても華奢です。前であわせる両手もか細く見えます。力強さは皆無。むしろ流麗でした。目も細く、まるで涙を流しているかのようでした。


重要文化財「吉祥天立像」 鎌倉時代 京都・浄瑠璃寺

木津川の浄瑠璃寺の「吉祥天立像」が6日間限定(6/6〜6/11)で出陳されます。普段は本堂内の厨子の秘仏です。ほか一部作品に展示替えがあります。詳しくは出品リストをご覧下さい。

点数こそ少ないものの、叡尊以前、平安期の寺宝も充実しています。惹かれたのは「月輪牡丹蒔絵経箱」でした。側面は牡丹。蓋には月輪が描かれています。それに「十二天像」も見事です。1幅がかなり大きい。西大寺では12幅全て完存しています。うち本展では4幅、さらに各会期で2幅ずつ公開中です。(現会期では帝釈天、火天。)さすがに絵具の剥落も目立ちましたが、例えば帝釈天の乗る白象など、一部に往時の色彩も見ることが出来ました。

[奈良 西大寺展 巡回スケジュール]
大阪:あべのハルカス美術館 7月29日(土)~9月24日(日)
山口:山口県立美術館 10月20日(金)~12月10日(日)

西大寺の寺宝が東京でまとめて公開されるのは1990年以来のことです。その意味でも貴重な展覧会と言えそうです。


6月11日まで開催されています。

「奈良 西大寺展 叡尊と一門の名宝」 三井記念美術館
会期:4月15日(土)~6月11日(日)
休館:月曜日、但し5月1日(月)は開館。
時間:10:00~17:00  *入館は閉館の30分前まで。 
料金:一般1300(1100)円、大学・高校生800(700)円、中学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *70歳以上は1000円。
 *リピーター割引:会期中、一般券、学生券の半券を提示すると、2回目以降は団体料金を適用。
場所:中央区日本橋室町2-1-1 三井本館7階
交通:東京メトロ銀座線・半蔵門線三越前駅A7出口より徒歩1分。JR線新日本橋駅1番出口より徒歩5分。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )