東京交響楽団 「ショスタコーヴィチ:交響曲第5番」他

ミューザ川崎シンフォニーホール&東京交響楽団 名曲全集第25回

ショスタコーヴィチ 劇場オーケストラのための組曲(旧名「ジャズ組曲第2番」)
ラフマニノフ パガニーニの主題による狂詩曲
ショスタコーヴィチ 交響曲第5番

指揮 高関健
ピアノ 小山実稚恵
演奏 東京交響楽団

2007/3/3 18:00 ミューザ川崎シンフォニーホール3階

別名、「聴かず嫌いのためのショスタコーヴィチ入門」と題された名曲プロです。高関健の率いる東響の演奏会を聴いてきました。



ショスタコーヴィチは「聴かず嫌い。」と言うよりも、むしろ実演に接してその不可解な音楽に距離を置いてしまうことが多いのではないかと思いますが、メロディアスで愉快な一曲目の「劇場オーケストラのための組曲」は、そんな距離を微塵も感じさせない優れた通俗名曲でした。伸びやかに歌うサクソフォンや、小気味良くフレーズを奏でるフルートやクラリネットは、時に哀愁を漂わせながらも楽し気な行進曲のリズムを刻んでいきます。この曲からは、少なくとも表面的に、あの苦虫を噛み潰したようなショスタコーヴィチの顔が全く浮かんできません。さながら軽めのポップスを聴くような気持ちで楽しめました。(ただし演奏には、もう一歩のハメを外すような遊び心があっても良かったと思います。)

休憩を挟まずに演奏されたのは、ピアノに小山実稚恵を迎えての「パガニーニの主題による狂詩曲」でした。これは、計24もの変奏曲がめまぐるしく展開していく色彩の豊かな音楽ですが、ここではやや冷めた感触の小山が比較的冴えていたと思います。強く響き渡る高音のトリルから、やや弱めでありながらも勢いのある中音域まで、もう一歩突き抜けた部分があればと感じたのも事実ですが、曲の面白さはしっかりと示していました。こちらこそ私にとってはやや「聴かず嫌い。」のラフマニノフでしたが、オーケストラの好サポートにも助けられて、緊張感を削がれることなく、じっくりと聴くことが出来たと思います。

メインは、ショスタコーヴィチの一連の交響曲の中で、殆ど唯一、いわゆるこの手の名曲プロに登場する交響曲第5番です。高関は指揮台に置かれた譜面をパタンと閉じて、全編暗譜にて次々と明快な指示を出していきます。彼のアプローチは、ともかく音楽の全体像を極めて堅牢な形で提示することです。真面目過ぎるという批判も聞こえてきそうなほど、実に律儀に、そして端正に音を揃えていきます。その縦の線へのこだわりは相当なものです。リズムの激しい第一楽章の主題よりクライマックスにかけても、ひたすら音の輪郭を鋭角的にまとめあげ、淡々と音の塊をホールへと投げつけていきます。第三楽章よりしばしの時間をおいて進んだ最終楽章は、東響の力強い表現が、高関のやや抑制された指揮と上手く調和していました。熱くなり過ぎず、かと言って冷め過ぎることもなく、バランス感に長けた、終始安定感のある演奏だったとも言えるかもしれません。また、各パートの響きを一つずつ丁寧に積み上げて全体を構築する様子は、何やらブルックナーの音楽をもイメージさせました。(静謐で透明感に満ちた第三楽章が、まるでブルックナーの緩徐楽章のように聴こえてきたのは初めてです。)奇を衒わないながらも、鋼のような芯が一本通った、密度の濃い演奏です。キタエンコで味わった凄みこそなけれども、楷書体の優れたショスタコーヴィチでした。

指揮の高関は、次の日曜日に群響のコンサートでも楽しむ予定です。(地方都市オーケストラフェスティバル)マーラーの中でも不思議とあまり演奏されない「夜の歌」を、どれだけまとめあげるかに注目したいと思います。
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